ヴァンパイア・ウィークエンドが語るフジロック出演の真意、細野晴臣とダニエル・ハイムのこと
Rolling Stone Japan / 2022年6月29日 18時0分
GREEN STAGEのヘッドライナーとして、ヴァンパイア・ウィークエンド(Vampire Weekend)が4年ぶりにフジロックに戻ってくる。しばらく活動を休止していたようにも思える彼らが今回の出演を決めた背景には、フジロックへの特別な思い入れがあったという。現在次回作のレコーディング中だというフロントマンのエズラ・クーニグが、日本とも関わりの深い目下の最新アルバム『Father of the Bride』に秘められたエピソードや、気になるバンドの近況について、ロサンゼルスの自宅からZoomでインタビューに応じてくれた。
インタビューが始まる前に、自宅の壁に飾ってあった一枚の写真を見せてくれたエズラ。そこに写っていたのは、彼のパートナーである女優ラシダ・ジョーンズの母親で、アルバム『Father of theBride』の発売から1週間後に亡くなった女優でミュージシャンのペギー・リプトンが、自宅で水色のピアノを弾く姿だった。ラシダの家にあったこのピアノで、エズラはアルバムに収録された曲の多くを書いたという。
「雑誌の『LIFE』に載ったこの写真を見つけて、額装したんだ。息子がこれを見て、自分のお婆ちゃんだってわかるようにね」。前回のフジロック出演後に父親になったエズラに、改めてこの4年間を振り返ってもらった。
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フジロックは「Crunchy」
―まず、ヴァンパイア・ウィークエンドの活動が実質ストップしていたなか、今年のヘッドライナーを務めると聞いて驚きました。今回のフジロック出演にまつわる経緯と、バンドの状況について聞かせてください。
エズラ:最近はもっぱらレコーディングを行なっていた。君の言う通り、バンドの活動を一時的にストップしていたと取られてもしかたない。でも、最近少しずつライブもやるようになった。当然、ここ2年は、みんなと同じようにたくさんのライブをキャンセルせざるを得なかった。今年に入って、いくつかアメリカのフェスから出演依頼をもらって、出演することになった。フジロックからオファーをもらった時は、まず自分たちが一番好きな音楽フェスでもあるから、いつだって声を掛けられたら出たいと思っていたのもあるんだけど、それと同時にちょうど上手く、ぐるっと一巡するなと思ったんだ。というのも、2018年に活動を再開した時、最初にやったライブのひとつがフジロックだったんだけど、みんなで話していて、そういえばあの時は『Father of the Bride』の曲を一曲も演ってなかったことに気づいたんだ。だからまた出て、今度はアルバムの曲を演るというのが、すごく腑に落ちたのさ。
―前回出演した時点で、『Father Of The Bride』 の曲作りはほぼ終わっていたのではないかと思うのですが、実際、当時はどのような進捗状況だったのでしょう?
エズラ:その通りで、2017年には曲作りはほぼ終わっていた。アルバムがリリースされたのは2019年だけどね。今も、新作の仕上げ作業を時間を掛けながらやっているんだけど、ほとんどの曲を2020、2021年に書いている。アルバムがいつ出るかはまだわからないけど。それが昔からのこのバンドの哲学なんだ。曲を信じて、時間を掛けて機が熟すまで待つ、という。時には、世の中で起きた出来事のせいで、曲を違う文脈で捉えられたりしてしまうという不安もあるけど、それでも構わないと思っている。
―フジロックには2010、2013、2018年に続いて今年で4回目の出演となります。特別な思い入れや、印象に残っていることはありますか?
エズラ:まず立地が好き。緑に囲まれて、空気が新鮮なのと、ステージから見える景色が大好きだ。観客もいつもスーパー・クールだし。だからこそ、今回また出て、あのステージで『Father of the Bride』の曲を演りたかったんだ。僕にとってあのアルバムはフジロックを彷彿とさせるから。アウトドアな感じがするところがね。少しヒッピーで自然に囲まれた感じを表すのに、僕はいつも「Crunchy」という表現を使うんだけど(訳註:政治的にリベラルで環境への意識が高いことを指すスラングでも使われる)、そんな感じ。
面白い話があって、2018年に友達がフジロックでグレイトフル・デッドのタイダイのバックパックを買ってくれたんだけど、今でも愛用しているんだ。フジロックは雰囲気がとにかく最高だ。
2018年、フジロックのGREEN STAGEにて撮影 (Photo by Shuya Nakano)
―『Father of the Bride』がリリースされて3年が経ちましたが、改めて自分やバンドにとってどんな意味を持つ作品になったと思いますか?
エズラ:まあ、ご想像の通り、今は5作目となる次回作のことで頭がいっぱいだ。次のアルバムを出すことで、『Father of the Bride』がどう文脈化されるかを考えるのは楽しい。すごく誇りに思っている作品だし、僕たちが作るべき4作目のあるべき姿だったと思う。今5作目を作りながら、バンドとしてずっと面白くあり続けることがどれだけ大変かをヒシヒシと感じている。当然どんなアーティストだって人を惹きつける存在であり続けたいと思っているし、毎回違う味わいの作品を作ることで、それをやり遂げたい。僕のゴールとしては、最終的に10枚のアルバムを作りたいと思っている。そう、10枚くらいがちょうどいい。そして振り返った時に、どのアルバムも違う印象、違う味わい、違うムードであってほしい。その中で『Father of the Bride』も、ある特定の瞬間にしか出せなかった雰囲気や味わい、ムードを醸し出している作品として、独自の立ち位置を持ち続ける。これからバンドとして新境地を開拓して、新しいアイデアをいろいろ試していくわけだけど、あのアルバムは二度と繰り返すことのない瞬間として存在するだろうと確信している。
―『Father of the Bride』には、小坂剛正さんと髙山浩也さんという、ソニー・ミュージックスタジオ所属の日本人エンジニア2人が参加しています。日本で録音やミックスしたパートがあったのでしょうか?
エズラ:前回のフジロックの前の週末にオーストラリアのスプレンダー・イン・グラスというフェスに出て、その足で日本に行ったから、まるまる1週間オフがあったんだ。まだアルバムの作業が残っていたからソニーのスタジオに行って、そこのスタッフに手伝ってもらった。作業としては、いろいろな箇所のちょっとした修正や微調整だ。ちょうどアルバムの仕上げ作業の真っ只中だったから、できるだけ勢いを途切れさせたくなかった。日本で作業の続きができて本当に良かった。
細野晴臣のサンプリングを振り返る
―『Father of the Bride』の「2021」という曲では、細野晴臣さんの「Talking」をサンプリングしています。昨年この2曲をカップリングしたスプリット・シングルもリリースされましたが、改めてサンプリングした経緯について聞かせてください。
エズラ:僕も類に漏れず、あの曲を最初に耳にしたのはYouTubeだった。というのも、作品としてアメリカでリリースされてなかったと思うんだ。アメリカではYouTubeであの曲を知った人がほとんどだと思う。実際「2021」を出した時、いろんな人から「あのサンプリングの曲知ってるよ!」と言われた。細野さんの作品を知ってなさそうな人からも言われた。「YouTubeで聴いた曲だ」って。僕もそうだった。曲がすごく好きだってのはもちろんなんだけど、そもそも彼があの曲を無印良品の店内用のBGMとして作曲したってことが面白いと思って、あれを軸に曲を書いたんだ。
幸い彼がサンプリングを許諾してくれたのもそうだし、あの曲のことを「新鮮だ」と言って褒めてくれたのには心打たれたし、光栄だった。さらに、スプリット・シングルを出せたのも凄くクールだった。サンプリングを申請する時というのは、許諾が降りるかどうかわからないし、ただいい加減にOKを出す人もいれば、深く関わりを持とうとしてくれる人もいる。そういう意味でもすごく嬉しかった。
それで思い出したんだけど、2018年にフジロックに出た時、出演前に1週間日本に滞在した際、アルバムの作業をするためにプロデューサーのアリエル・レヒトシェイドを連れてったんだ。彼は日本に行ったことがなかったから、「だったら僕たちと一緒に日本に来ればいい」と言ってね。で、彼と東京の街を歩いていた時に、無印良品の店にたまたま入ったら、「Talking」がかかっていたんだ。僕たちはずっとアルバムの仕上げ作業をしてたもんだから、思わず混乱してしまった。彼が無印良品のために作曲したという背景は知っていたけど、80年代の話だと思っていたから、まさか今も店内でかかっているとは思わなかった。それが、たまたま入った小さい無印良品の店でかかっていて、「おいおい、これはどこから聴こえてくるんだ?」ってなって、直ぐに店内でかかっているのがわかった。その時のことを今でもよく覚えている。
―細野さんのロサンゼルス公演の際に足を運んだりしましたか?
エズラ:自分がLAにいなかったから行けなかった。細野さんに会ったことは一度もないんだけど、日本には今年たくさん行く予定だから、いつか会えたらいいな。ラシダがドラマの撮影で日本に行く予定なんだ。だから僕も一緒にしばらく滞在する予定。Apple TVのドラマで『Sunny』という作品だよ。
―好きな細野さんの作品はありますか?
エズラ:まあ、もちろん「Talking」はサンプリングしたくらいだから大好きだ。おそらく一番よく聴いて、人にも聴かせるのは1stアルバムの『Hosono House』だね。なぜなら、70年代は僕にとって一番好きな音楽の時代だから。70年代の音楽のサウンドが大好きなんだ。だから彼の1stは僕にとっては最高の70年代のロック・アルバム。一枚選ぶのは難しいけど、あのアルバムはとにかくたくさん聴いた。例えばグレイトフル・デッドやポール・サイモンやスティーリー・ダンとかが好きな、70年代ロック好きの友達とかにはいい入門編だ。アメリカでも知っている人が増えてきたけど、あのアルバムを友達に聴かせるとだいたい盛り上がる。「へえ、日本でも同じ時代にこんな音楽があったんだ!」てね。
ダニエル・ハイムと謎めいた写真
―『Father of the Bride』のレコードジャケットの内側(CDブックレットの裏表紙)に載っているのは、渋谷のセルリアンタワー東急ホテル付近から撮影した、センター街の写真のように見えます。手前に写っているのは、前回のフジロックにも帯同していたハイムのダニエル・ハイムでしょうか?
エズラ:そう、ダニエルだよ。ご存知の通り、彼女はアルバムにたくさん参加してくれている。シンガー、そして声のテクスチャーとしてね。あの写真には面白い経緯があって。2018年の夏、東京での1週間の滞在中、スタジオに行ったり、フジロックに出たり、レーベルの人たちに会ったりと多忙だった。そんな中、フォト・セッションもやったんだ。で、ダニエルも一緒に来てたから撮影についてきた。当然バンドの写真をたくさん撮ったわけだけど、カメラマンがホテルの部屋でいつの間にか彼女の写真も撮っていた。後日、上がってきた写真を見た時、例の写真があって、ピントが合ってなくて彼女の姿がけっこうボケてたのもあって、何か謎めいた雰囲気を醸し出していた。アルバムのジャケットにしようかとさえ考えた。僕たちは昔から一風変わった、白みがかったアーシーな写真をジャケットに使ってきたから、今回もいい写真があればそれを継承しようかとも考えていて、それにこの写真がいいんじゃないかと思ったんだ。
でもまあ、ダニエルはアルバムにたくさん参加してくれているとはいえ、違うバンドのメンバーをいきなりアルバムのジャケットに起用するのは、さすがに変だろうと思ってやめた。ただ、あの写真自体はすごく気に入っていた。彼女だってすぐにわかる人があまりいなくて、いったい誰なのか謎めいたものがある。しかも背景が東京の街で、そこがどこか誰もがわかるというわけじゃない。そんなミステリアスなところに惹かれた。だから”アース・デイ”のロゴのような『Father of the Bride』のジャケットが嫌いな人もきっといるだろうから、アナログ盤の見開きを開けた時に綺麗な写真があったら、喜んでもらえるんじゃないかと思ったんだ。
上から『Father of the Bride』CDブックレットの裏表紙、日本盤ジャケット
―今回の来日メンバーはどのようになりそうですか?
エズラ:前回と同じ『Father of the Bride』のバンドになる。僕たちの中では、今度の日本と韓国でのライブは『Father of the Bride』時代の締めくくりを飾るライブになる。それでさっきも言った、ちょうどぐるっと一巡した感じだ。それが終わったら、本格的に次のアルバムの仕上げ作業をする。だから次にまたライブをやるとすれば、次のアルバムのフェーズに入った時になる。
―今回のフジロックでは、あなたたちと同日に出演するドーズとは交流もあるのではないかと思いますし、3日目に出演するスーパーオーガニズムは以前ラジオで紹介したこともありましたよね。特に楽しみにしている出演者は?
エズラ:恥ずかしい話、いつも現地に着くまでラインナップを見ないんだ。自分がいつ現地に着くか、その時になってみないとわからないからね。他に誰が出るの?
―今年は日本のバンドが多いですね。あとはボノボとか、出演日は違いますけど、ジャック・ホワイトとかフォールズとか。
エズラ:フォールズ! 大好きなバンドだ。昔よくフェスで一緒になった。ボーカルのヤニスには久しく会っていないけど、凄くクールな奴だよね。
―今日はありがとうございました。
エズラ:こちらこそ、どうもありがとう。日本に行くのを楽しみにしているよ。
『Father of the Bride』収録曲「This Life」、2019年のグラストンベリー・フェスにて
FUJI ROCK FESTIVAL 22
2022年7月29日(金)〜31日(日)
新潟県 苗場スキー場
※ヴァンパイア・ウィークエンドは7月29日(金)出演
公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/
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