「燃え尽き症候群」は個人だけの問題じゃない、周囲の人と考えるメンタルヘルスケア
Rolling Stone Japan / 2022年7月6日 11時30分
音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている 〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」。第44回は、「燃え尽き症候群」の環境や組織の問題について産業カウンセラーの視点から伝える。
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先日、サカナクションの山口一郎さんが体調不良のため一定期間の休養をとられることが報じられました。公式HPでの発表によれば、5月から極度の倦怠感・疲労状態などの不調が続いていて、医師から休養が必要との診断を受けたとのことです。また、所属事務所契約のカウンセラーとも相談を重ねてきていたことも明かされています。自身のツイッターでは「コロナ禍で頑張りすぎたのか燃え尽き症候群だったみたい」と綴っています。最近では他に、BTSの活動休止に伴ってRMさんが「K-POPアイドルというシステム自体が人を成熟させない」「少し僕らが立ち止まり、休む」と話し、アイドル、アーティストたちが置かれている過剰な労働環境に関する問題も注目されたばかりです。
この「燃え尽き症候群」ですが、世界保健機構(WHO)が、つい最近の2019に策定され、今年2022年に発効されたばかりの国際疾病分類(ICD-11)に新たに項目として追加し、定義が規定されました。燃え尽き症候群は「健康状態に影響を与える要因」に分類される「雇用や失業に関連する問題」の1つとして記載されており、「適切に管理されていない慢性的な職場ストレスから生じるもの」と定義されています。その特徴として「①エネルギーが枯渇するかまたは消耗したという感覚」「②仕事への忌避感の増加、または仕事に関する否定的ないし冷笑的な感情」「③能率の低下」になります。
注目すべきは、ICD-11では燃え尽き症候群は疾病ではなく「職場の問題」とされている点です。つまり、個人の問題というよりも組織や環境の問題と言えるのです。以前この連載でも取り上げたことがある「感情労働」で絶えず自身の感情をすり減らしてしまっているような職業(医療・介護・教育関連や、その他対面のサービス業、そして音楽・エンターテイメント産業など)に従事している人や、「真面目で責任感が強く、頑張り屋」というタイプの人は、本人が無自覚のうちに、環境に過剰に適応しようとして許容量を超えてしまい、この症候群に陥る危険性が高くなりますので注意が必要です。回復するためにはまず取り巻く環境の改善を行い、仕事量を減らす、休職も選択肢に入れて十分な休養をとる、症状によっては必要に応じて精神科医による薬物療法も行います。
厚生労働省が出している「労働者の心の健康の保持増進に関する指針」(職場のメンタルヘルス指針)というものがあります。この指針では、労働者自身がストレスに気づき、対処することの必要性を認識することが大切である、とするのと同時に、労働者自身だけでは対処できないことがあるので、事業者側が積極的にメンタルヘルスケアを推進していくことが重要である、ということを強調しています。指針ではメンタルヘルスケアを「4つのケア」に分類しています。
1つ目は「セルフケア」。これは労働者・従業員自身がストレスに気づき、対処し、時には自発的に相談する、というものです。
2つ目は「ラインによるケア」です。これは管理監督者が行うもので、職場環境の改善、労働者との相談対応、研修会などによるケアの知識や技術を高める機会を提供すること、などになります。
3つ目は「事業内産業保健スタッフ等によるケア」です。これは、産業医・保健師などが行う、職場環境改善や、相談対応・治療および職場復帰の指導、そして事業場外資源とのネットワーク形成・維持などです。
4つ目は「事業場外資源によるケア」です。これは事業場内の産業保健スタッフが窓口となって、外部のさまざまな機関と連携し支援していくことです。
そして、この指針では、これらの「4つのケア」とともに「4つの活動」が重要だとしています。それは「①メンタルヘルス対策を推進するための教育研修・情報提供」「②職場環境等の把握と改善」「③メンタルヘルス不調への気づきと対応」「④職場復帰における支援」です。
2021年にはソニー・ミュージックエンタテイメントが、エンタテインメント業界で活躍するアーティストやクリエイターを心と身体の両面からサポートするプロジェクト「B-side」を始動させました。これはソニー・ミュージックグループ各社の専属マネジメント契約のあるアーティスト、俳優、タレント、作家、キャラクタービジネスのクリエイター、およびこれらのクリエイターと直接仕事をするスタッフを対象に、無償で、心や身体に関する不安についての24時間・365日匿名で相談できるオンライン医療相談サービス、希望者に対しての心と身体の定期チェックアップ、臨床心理士・公認心理師等の専門家によるメンタルカウンセリング、メンタルヘルスやセルフケアなどについてのワークショップの定期開催、などを提供するというものです。このように音楽業界でも目に見える形で動きが出てきました。こうした動きや考え方がより広まって、音楽・エンタメ産業がより健全な方向に向かうことを期待します。
<書籍情報>
手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』
発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029
本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。
手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。
Official HP:https://teshimamasahiko.com/
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