Diosの根幹を探る たなかが明かす再生までの物語、3人が共有する美学とビジョン
Rolling Stone Japan / 2022年7月12日 19時0分
かつて「ぼくのりりっくのぼうよみ」として活動していたボーカリスト&作詞家のたなか、マシン・ガン・ケリーやホールジーなど世界的トップアーティストたちの楽曲でギターをプレイしながらバンド「ichikoro」でも活動するギタリストのIchika Nito、テレビアニメのテーマをいくつも手掛け、楽曲提供でも引っ張りだこのシンガーソングライター/トラックメイカーのササノマリイ。そんな3人が2019年末頃に始動させたのがDiosだ。
なぜ彼らはバンドを組むことを選んだのか? 6月29日にリリースされた1stアルバム『CASTLE』を聴けば、このインタビューで語ってくれた彼らの意志がはっきりと伝わると思う。芸術的な価値観を共有する3人が創作意欲を爆発させるために集まった場、それがギリシア神話に登場する「酩酊の神」を冠したDiosだ。時を超えても人々の心に触れる神々しさの宿る音楽を、Diosのアルバムでは堪能することができる。そしてライブに行けば、3人ともが音楽を心底楽しんでいる自由で美しい姿を見ることができる。
たなかの単独インタビューと、3人のインタビュー、2本立てでDiosの根幹を探ることにした。
【写真ギャラリー】Dios撮り下ろし(記事未掲載カットあり)
1. たなか単独インタビュー
「前職ぼくりり」再生までの物語
Photo by Masato Moriyama
―まず、なぜ2019年1月に「ぼくのりりっくのぼうよみ」を辞職したのかを、今のたなかさんの言葉で話してもらえますか?
たなか:当時から今に至るまで、あんまり感想は変わってないかもですね。役割としては、2つのレイヤーがあって。アート的な表現方法のひとつとして「終わらせる」という形を意図的にやるのが面白かったかな、ということと、個人的な負債の返済の作業という意図があったかもしれないですね。
―負債の返済?
たなか:というのは……それはぼくりり以前から、自分が人間として生きてきた上で漠然と背負っていた負い目みたいなもの。それを解消する行為でした。そういう2つの軸で、ぼくりりの終わりを自分の中では処理している感じですね。あとは単純に、軌道修正の意図が大きかったです。
―私も何度もぼくりりを取材し特集記事を作らせてもらっていましたが、当時の記事を読み返すと、あのときの私の切り口やぼくりりの紹介の仕方はこれでよかったんだろうか、って反省するんですよね。
たなか:本当ですか? でもそれはさすがにしょうがないというか。一緒に作っていたチームの人とかは反省する要素があると思いますけど、外部の人は「そりゃそういうふうに書くでしょう」というか。取り上げてもらってありがとうございます、っていう感じでしかないですね。
―でも、その人生で背負ってきた負い目、というのは?
たなか:常に申し訳なさみたいなものがずっとあった、というか。
―それは、誰に対して?
たなか:誰なんですかね? 世界全体に? 常に「自分がここにいていいのだろうか」みたいな感じがすごくあるというか。そういうのを自分の中で晴らせた気がするんですけど。誰かに否定されたくない、みたいなことが強かったですね。誰かからネガティブな反応をもらうことを極限まで避けたくなってしまっていた。それはインターネットに部分適応しすぎた、みたいな感じなんですかね。つまり「Twitterでディスられないためには」みたいなところに特化して、でもそれって本質的ではないじゃないですか。3個ディスられても5万人に聴かれた方が絶対にいいはずなんですけど、そうじゃなくて、とにかくマイナスをゼロにすることにフォーカスしていっちゃって。それは自分の持っていた性質、負い目、つまり「誰からも否定されたくない」みたいなところが強かったから。Diosはそういうことなくやろうという感じですかね。いい意味で、遊びみたいな感覚でやっているかもしれないです。
―アルバム『CASTLE』の最後に収録されている「劇場」はDios自身のことを歌っているようにも捉えられますけど、”虚構でも構わないよ”というラインがあって。ぼくりりのときは虚構や偶像として見られることに抵抗感を持っていたわけじゃないですか。
たなか:たしかに、そうですね。でも、そうでしょう、みたいな。覚悟さえしていれば何だってよくて。覚悟が伴わないのがよくなかった。自分的にはそういう総括ですかね。「劇場」は「ミニチュアのDiosを書いた」みたいな感じがありますね。自分たちがどう思っているかは置いておいて、客観的にDiosとはこうあるべき、みたいな感じかなと。”賞味期限付きの愛”は、エンタメとして提示する上で飽きられることはどうしてもあるから、それを受け入れた上で、骨でできたステージの上に立って、いつかは自分たちもその骨のひとつになっていく気持ちでやってるよ、と。そういう曲ですね。
―またポップミュージックの舞台に立つことに拒否感はなかったんですか? こうやってアミューズという大きな事務所と一緒に商業音楽をやっていくことを選んだのはなぜなのか、という。
たなか:単純に、最初は結構売れたかったですね。今別に売れたくないわけじゃないですけど。(ぼくのりりっくのぼうよみの)当時は「行けそうで行けなかった」みたいな感じだったので、もうちょっと「行くところまで行ききる」ということをやろうかなと思っていたんです。でも、やっているとどんどん方向も変わってくるというか。
―「行ききる」って、たなかさんの中でどういうことを指すんですか? そこの定義も曖昧で難しくなってきていますよね。
たなか:いや、そうなんですよ。一回山を登ってみたらやっとそこでわかることもいっぱいあるだろうけど、難しいですよね。僕はそれが、コロナのときに全部どうでもよくなったところがあって。フェスも中止になったりして、おっしゃる通り、「山って何?」ってなって。なので今Diosの目的としては、もちろんセールスとしても売りたいとは思いつつ、結局、最終的に自分たちが「すごく楽しかったね」と言えるようなものをヘルシーな状態で作っていこうっていう。持続可能性。やっぱり時代はSDGsですよね。
―(笑)。
たなか:(笑)。そんなバンドです、気持ちとしては。
―今、冗談半分でSDGsって言ってくれたけど、アーティストに限らず、どんな職業・立場の人も「幸せ」や「成功」って何?って考え直さざるを得なくなって、持続可能な心のヘルシーさや生き方をみんなが模索しているような状態だから、たなかさんやメンバーの生き方が滲み出ているDiosの音楽は今の時代に大切なメッセージや指針として届くだろうなと思います。
たなか:高度経済成長みたいな、みんなが共通で背負っている物語もなくなっちゃったから、「何のために」も「10年後のために何をするのか」もほとんどないですよね。今24歳なので、50年後とかも全然あるわけじゃないですか。え、何すればいいの?みたいな(笑)。そういう意味で、刹那的になったというか。1日を健康に生ききる、明日もそれをやる、みたいなところに尽きちゃうのかなという気はしていますね。
Diosで追求する「骨太」の表現
―また音楽をやりたい、という気持ちはいつからあったんですか?
たなか:ぼくりりの最後の頃も、むしろ「音楽的には成長してきたな」みたいな感じがあったので。
―本当にそうだと思います。
たなか:だからやった方がいいなとは思っていて。何か新しいものが欲しいなと思いながら漫然と過ごしていたら、なんだかんだIchikaとかと出会って、という感じですね。
Photo by Masato Moriyama
―ぼくりりの頃の曲の作り方と、Diosの曲の作り方と、たなかさんの意識は具体的にどう変わっていますか?
たなか:根本的な軸はそんなに変わってないような気はしていて。色々ブラッシュアップされたり、時期によって好みが変わったりするし、Diosをやっている中でもどんどん変わっていってる感じですかね。最近は「自分は単なるカメラである」みたいな感覚が強くなっていて、それを肯定できるようになりました。つまり、前までは言葉に体重が乗っていないと嫌というか、そういうものを是としてきたところがあって。ラッパーのB.I.G.JOEが好きなんですけど、刑務所の中から電話で音声を録音してアルバムを作っている人の方が「重くね?」みたいな。言葉に乗っているバックボーンやリアリティでいうと、勝てるわけがないじゃないですか。だから表現をする上で、恵まれていることへのコンプレックスがあったんですよね。なぜかそこらへんの感覚だけヒップホップ的なマインドがあって。ぼくりりを終わらせることも、その影響が強かったというか。「バックボーンがないから後天的に獲得してしまおう」みたいな話ですかね。自分から不幸になりにいくことによって、そういうカードを得るみたいな、アンヘルシーな発想だったんですけど、それも今ではどうでもよくなってきて。やっと氷解してきました。最近は自分というカメラで「美しいな」と思う光景を撮って、お客さまに見ていただく、という感じかな。
―それはアルバムの表現に直結する話だと思うんですけど、たなかさんは、どういう人間の姿を「美しい」と感じますか?
たなか:マイナスなものに惹かれますね。正解がわかっているのに動けないことが、自分にとっての美しさの根幹のひとつにあります。デッドロックみたいな状態になっちゃいながらも生きている様子に美しさを感じる。村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』が好きで。3つくらいの時間軸がクロスオーバーする作品で、戦争でどこか遠い国に行く人が出てくるんですけど、色々あって、敵と戦っていたら深い井戸に閉じ込められちゃうシーンが出てくるんですね。井戸なので上が開いていて、一瞬だけ太陽が通るわけじゃないですか。その瞬間を、毎回異様に覚えている、という話があって。そういう瞬間は誰の人生にも訪れるんだけれども、そのときにその光を掴める人と掴めない人がいる、というエピソードが出てきて、それが面白いなと思って。結局、井戸に閉じ込められた人は、ずっとその空間に居続けちゃう。物理的には日本に戻って暮らしているんだけれども、彼の精神はその光を掴めなかった最も決定的な瞬間に吸い寄せられたまま止まってしまっている。そういうのがいいなと思ったりします。それは「残像」で書いたことですね。そういうのが好きなんですよね。
―では、「紙飛行機」はどういう考えがベースにありますか?
たなか:「残像」にちょっと近いのかな。一瞬の体験がトラウマのように焼き付いてしまっている人が、それでも今日もまたトライする、みたいな話ですね。この人にとっては、子どもの頃に紙飛行機が飛ばずに落ちちゃったことだという話なんですけど。他の人から見たら大したことないんだけど、あまりにビビッドな一瞬が自分の中に残っちゃっていることってあるなと思って。
―ありますね。
たなか:「紙飛行機」の途中で急にジュークボックスみたいな音が流れるのは、過去を回想しているという意味を込めています。
―拡大解釈をすると、コロナ禍ってみんなにとって、「紙飛行機」のストーリーのように計画していたものが墜落しまくる2年間だったじゃないですか。しかも、フェスで大声を出していた風景とか、大勢で飲み会をしていた風景とか、当たり前にあった景色が宙に浮いてるような状態にある。そういう時代性と重ね合わせたところもあったりしますか?
たなか:正直、今回の制作においてコロナのことはあんまり関係ないかもですね。どちらかというと、コロナとクリエイターを結びつける話をメディアで見すぎて「もうよくね?」みたいな感じが個人的にはあります。別に誰かがそういうことをやっている分には全然かまわないですけど、自分はテーマにしないかなと。コロナと関係なく普遍的な小説を書いているというイメージですかね。
―コロナ云々よりも、それこそ村上春樹の作品が時を超えて読まれ続けるのと一緒で、普遍的な人間のことを書いていると。
たなか:そういうのを書きたいなという気はしますね。
―だからこそ10年後、もしくは30年後も、「生きるとは何か」「人間とは何か」を伝えられる音楽になるかもしれないし。
たなか:そうなったらすごく嬉しいですね。めっちゃ嬉しいな、それ。
Photo by Masato Moriyama
―ぼくりりのときもそれは考えてました?
たなか:いやあ、もう「リリースだ!」「とりあえず頑張って出そう!」みたいな。
―(笑)。ぼくりりとして活動していた頃よりもますますコンテンツ過多社会になっていますけど、そんな時代だからこそ、どういう音楽を自分は作りたいと考えますか?
たなか:一部を切り取って「いいですね」って言われたり、TikTokで使われてバズることもいいとは思うんですけど、そろそろ揺り戻しがくるだろうなと思っていて。反動で、骨太のものを求めているだろうなって。アルバムはそっちに賭けているかなと思います。
―たなかさんがいう「骨太」とは?
たなか:歯ごたえ。噛まないとわからない、みたいな。それでいうと、サカナクションとかはすごいなって今改めて思いますね。シンプルな言葉を連呼するんだけど、そこに留めないで、「奥に引き摺り込むぜ」みたいなことが山口一郎さんの目から見える。でも、自分が美しいなと思うものをナチュラルに作るとそっちにあんまり行かないので、ただ「面白いな」と思いながら見ていますね。
―たなかさんが感じている美しさは、短いパンチラインで表現できるものじゃないですもんね。
たなか:作家としてはしなきゃいけないんですけどね。
―でも、今は心もヘルシーだというのが何よりです。
たなか:ヘルシーでございます。まじでヘルシーですね。売れても売れなくても……いや、もちろん売りたいし売るんですけど、売れなくても死なないしいっか、みたいな。僕の中では、生きていればいける。だからヘルシーに生き続けるのが大事だなと思っています。
2. Dios全員インタビュー
この3人だからこそ生まれた化学反応
Dios、左からIchika Nito、たなか、ササノマリイ(Photo by Masato Moriyama)
―なぜ1stアルバムのテーマを「CASTLE=城」にしたのでしょうか?
たなか:大きなコンセプトがあった方がいいよね、と思いながら、でもこういうときに僕の中で実はわりと何でもよくて。たとえば「水」でも「テーブル」でも、何かがあるとそこから自分で意味を引き出すようになっていくので。近所を歩いているときに「アパートキャッスル」というのがあって、「これでいいや」と思って、『CASTLE』にしたという流れですね(笑)。「キャッスルね〜」と思っているだけで、メンバーの音もなんとなくキャッスルみが増していくっていう。
―キャッスルみが(笑)。
たなか:そこから僕がこじつけたことでいうと、森の奥に城があって、それは音楽を聴いたときにだけ立ち現れる幻の城で。音楽の強いところってそこだなと思っていて。場所を選ばずに、存在しないものを存在させられる。イントロだけで景色をビビッドに蘇らせることができるじゃないですか。一音で、一瞬で、そこに行けるのがすごくいいなと思っていて。そういうお城をみんなで作りました。
―Diosとして曲作りはどういうふうに進めているんですか?
たなか:基本はササノ(マリイ)が始めるか、Ichikaが始めるか、という2パターンで。「断面」「残像」「試作機」「天国」「逃避行」「鬼」はIchikaスタートで、「Virtual Castle」「紙飛行機」「劇場」「ダークルーム」はササノスタート。「Misery」はIchikaが発表していた曲にササノが鍵盤を足して僕が歌を乗っけたという。「Bloom」だけ成り立ちが異質で、みんなでスタジオに入って作りましたね。「断面」「残像」とかは、「森の奥みたいな曲」とか拾ってきた雑な画像を、ざっくり投げた気がします。
Photo by Masato Moriyama
―今言ってくれた楽曲のそれぞれに、Ichikaさんらしさ、ササノさんらしさがはっきりと出ていますよね。
Ichika:バンドって、他の人で代替できる場合があるじゃないですか。ギターも別の人が同じものを使って弾けば同じ音を出せるだろうとか、歌も同じような声の人が歌ってエディットすれば何とかなるだろうとか、そういうのがあると思うんですけど。結構、唯一無二ですよね。シグニチャーサウンドが3人ともしっかりある。歌詞も、声も、ササマリの作る音も。
たなか:ギターは言わずもがなで。3人ともそれがあるのはすごくいいことですよね。
ササノ:たなかの歌も、ダイナミクスとか、本来合わせるであろう縦とか音程をずらしているところも含めて、すべてが表現方法になってしまっている。これはもう、よほどの人じゃないと模倣できないところにきてしまっていると思う。綺麗に歌うだけじゃ完成できないんですよ。僕は言葉を書く側の人間でもあるので尚更思うんですけど、たなかは表現の仕方がものすごくウィットに富んでいるんですよね。よくこう書いて、しかもメロディに乗せて歌えるなあと。
―Ichikaさんが、ギタリストとして十分に活躍している中でこのバンドをやるモチベーションって何ですか?
Ichika:単純に、日本で精力的に活動している仲間たちと一緒にやるのが楽しいですね。一人のギタリストとして自分に向き合うって、ある意味、瞑想とか修行みたいなものなんですよ。それとは切り離された日常パートを楽しんでいる感じです。ただただ楽しいですね。みんなと曲を作ったり、ライブをしたり、色々話したり。あとは、他の人との組み合わせで、自分一人じゃできない音楽の先へリーチできると思っていて。刹那的な集まりのセッションで生まれたものとかではなくて、長い時間をかけて理解し合った相手とできたものはすごく尊いものだと感じていたので、その仲間を作りたいという想いがありました。
―アルバムを作り終えた今、この3人がいるからこそできる表現とはどういうものだという手応えを感じていますか?
ササノ:何でもできるからこそ自信持って出せるものが増えそうだなって。あれやってみよう、これやってみよう、って前向きな方向に進めていると思う。
たなか:まさにそう。
Ichika:これは他とは違うなと思っているところがあるんですけど。他の多くのバンドは、スタジオに集まってみんなでアレンジを進めたり、スタジオで作曲が始まって骨組みを作ってアレンジをして、その後レコーディング、という感じでやっていくと思うんです。そういうやり方って、もちろんその瞬間瞬間のアイデアが出ていいところもあるんですけど、それではできないことがあるんですよね。メンバー一人ひとりが持っているこだわりとか、時間をかけて取り組みたいことがないがしろにされたり、その場その場で凌いでる感じもあったりする。そのときに出たアイデアが「いいね」と言われても、それは偶然のものであって自分の力じゃないし。自分もそういった現場にいて悔しさとかがあって。「もっとこうできたのにな」みたいな。Diosの曲は、みんな各々持ち帰って練ることができたし、僕自身ギターとベースを録るのにしても、フレーズやアレンジを考えて、それを時間をかけて練習して、その後に録って、というやり方をしたので納得いくものができました。
Photo by Masato Moriyama
―なるほど、それがDiosの緻密なサウンドが生まれる所以なんですね。
Ichika:曲ができる工程として、今回のほとんどの曲は歌をレコーディングした後にギターとベースを録っているんですね。大抵ボーカルを最後に乗せるから、エンジニアさんがボーカルエディットでリズムとかを調整して曲のグルーヴが整えられるんですけど、そうなると、エンジニアさんのグルーヴになっちゃうんです。メンバーの一人が最後にギターもベースも録ると、より独特なグルーヴができる。しかもそれを家で細かいところまで詰められるから、納得できる理想の音像が組み込める。それが他のバンドとは違うところかなと思います。
ササノ:俺が感性で作り続ける人間で、Ichikaがそれを精査してくれる、みたいな感じですね。
Ichika:ササマリの作ったパラデータをもらって聴いていると、かなり変で。音源に聴こえないような、いろんな音が無数に重ねられているんですよ。謎のサンプルが薄っすら流れていたり。全員のデータを見直して、こういうことをやってたんだ、こういう意図があったんだとかを確認できるようになって、より曲に神経が通っていくことを実感しました。
たなか:それをやりだしてから、音がすごくよくなったし面白くなったなって思う。
ササノ:うん、思う。ありがたかったなあ、まじで。
Ichika:初めの頃は、お互いが尊敬し合っているアーティストなので、各々が作ったものに対して「これにはきっとこういう意図があるのだろう、だから残しておこう」みたい気持ちがあったんですけど、メンバー間の遠慮もだんだんなくなってきましたね。
たなか:3人でのやり方もかなりブラッシュアップされて、今すごくいいよね。
ササノ:理想的な作り方ができていると思う。
たなか:そういえば、Ichikaがすげえ怖いことを言い出して。最後の曲のレコーディングが終わった後に、「アルバムもう1回全部作り直したいね!」ってすっごいピュアな目で言ってきたんですよ。普通にちょっと震えた(笑)。
3人が共有するDiosの美学とビジョン
―さきほどたなかさんに「自分が美しいと感じるもの」について話してもらったのですが、3人に共通する美学とはどういうものだと思いますか?
Ichika:音楽はすごく美しい、ということ。音楽には心を動かす力があって、身体を支える力にもなるし、気づかないうちに人の心の奥底に忍び込めるものだと思っているんですけど。だから極端な話、人の心と身体を自由に支配できるくらいの力を持っているもので。人の心に訴えかけることができる力を、僕は今、音楽しか持ってないし。まだそれも途中で、これからもどんどん技術なり表現力なりを身につけていくんですけど、その過程がすごく素晴らしいし、そういう力を持った音楽という存在そのものの在り様がとても美しいと思う。それを3人で作っている途中だと感じています。
ササノ:音楽は芸術であるという、ものの捉え方が3人とも同じ方向だから一緒にできているのかなと思います。あとはもう単純に、楽しいっていう。一回、自分自身がそこそこにダメになってしまって、全然曲が作れない時期があって。この3人でやったら自分自身もそこから抜けられる気がすると思って始めたら、まじで抜けられたので。
たなか:本当、まじで顔色がよくなった。
Ichika:よくなったね。
たなか:健康に生き延びて、クオリティを担保しながら音楽をやり続けることが実は一番大事。
Ichika:それはまじで思う。YouTubeでそれがわかった、本当に。結局バズって伸びた時期があっても、その先もあるので。いかにペースを保っていくかが大事だと思います。
ササノ:結局理論も何もかもすべてのことは、誰かが継続してきた蓄積の情報でしかないもんね。
―3人が楽しみながら芸術としての音楽を突き詰められているという、創作活動としてめちゃくちゃいい状況ですね。
たなか:いやあ、ラッキーです。
ササノ:本当に。
Photo by Masato Moriyama
―Ichikaさん、ササノさんは、『CASTLE』という作品がどんなふうに世の中に届いたらいい、もしくは存在できたらいいなと思いますか?
Ichika:今、アルバムはシングルの寄せ集めみたいなものが主流になっていると思うんですけど、『CASTLE』もそれに近くありつつも、ちゃんと大きなテーマを内包してできあがったもので。それと同時に、3人のわかりやすい軌跡にもなっているんですよね。最後にできた「天国」は2年前に土台ができていたんですけど、『CASTLE』を作っていく過程で3人が見つけたことを活かした手法で作れました。歌を録るときもたなかが一人で録るんじゃなくて、ササマリと僕もディレクションしているので、歌の新しい使い方がわかったり、得意な表現や合う表現を見つけ出したりできる。そういったアプローチの変化が、曲を作った順に見えるので、Diosの歩んできたものが聴いてもらった人にも多少なりとも伝わると嬉しいですね。
ササノ:「Diosとはこういうものですよ」という名詞代わりとして、ものすごく胸を張れる12曲になったと感じています。「城」というテーマはありつつも、ひとつのバンドが作ったにしてはものすごく曲調に幅があると思うんですよね。だから、いろんな人が楽しめると思うんです。刺さるものが必ずあると思える。どこからでもいいから興味を持ってもらえたら嬉しいなと思いますね。「音楽はこうするべきだ」「こうしなければいけない」とか、「商業作品として出すにはこういう感じでやった方がいいですよね」というようなものを、だいぶ取っ払った気持ちでいて。自分の中では取っ払ったとしても、どうしてもポップスな方向性になりがちということを第三者からの反応で感じてはいるんですけれども(笑)。
Photo by Masato Moriyama
―たなかさんの単独インタビューでも会話しましたが、「幸せ」や「成功」の絶対的な価値観や未来への安心感が揺らいでいる今の時代に、「自由」や「ヘルシーな心」はある意味生き延びていくための指針としてすごく大事で、それが音楽の中でも表現されているし、3人が生き方としても体現しているものなのだなと感じました。
Ichika:そうですね。自由さというのが大事な要素ではある。3人ともそんな気がする、生き方も。
たなか:逃走しましょう、っていう。
―「逃避行」もそうですし、今作の中で「逃げる」とか、閉鎖された場所から外に行く行かないとか、そういう描写が多いのはなぜでしょう?
たなか:うん、多いですね。これは僕の人生が基本的に逃げることでできているからかなと思います。それは「忘れる」という単語にもつながってくるんですけど。自分がやったことややらなかったことから逃げるって、忘れることの言い換えとしても使えるというか。つまり、時間をたくさん通り越していくことによって、ようやく忘れられるみたいな。あるいは忘れたくない人もいるし。”たったひとつを抱きしめて逃げる”というのは、自分にとって命であることを要約したものですね。
―1曲目「ダークルーム」は、どういう思想をもとに書いたストーリーだと言えますか?
たなか:「ダークルームプロブレム」という、精神的な障害を抱えている方が自分で自分の様子をモニタリングすることで疾患のメカニズムとかに向き合っていく、という研究の分野があって。『<責任>の生成ー中動態と当事者研究』(國分功一郎、熊谷晋一郎・著)という本が面白くて、その本に出てくるんですけど。要するに、外に出ると不幸なことが起きるから、刺激を受けない部屋にいた方がよくない?と。でも人はそれに耐えきれない。それはなぜか?ということに、自分的に答えを出した曲ですね。結局、最初は刺激を受けないことが目的で部屋に入っていたけれど、どうしても主従が逆転して、部屋に居続けることが目的になってしまう。そうなると、どんどん部屋が澱んでいくし、その澱みに人は耐えられない。だからこそ最終的に澱みが一切ない空間、つまりまったくの無に飛び込むしかなくて、それは死ぬことだよね、みたいな。どうしても澱みのない外の空間に憧れが向いていくから、部屋に閉じこもってもしょうがないよね、と僕は言っています。
Photo by Masato Moriyama
―最後に、今3人が考えているDiosとして目指すビジョンを聞かせていただけますか。
たなか:ヘルシーに続けていく、ということがありつつ。自分は文化において子どもであるという意識がすごく強くて。どういう意味かというと、いろんなものの影響を受けてものを作っているにすぎない。本当の意味でのオリジナルという概念は存在し得なくて、世の中にいっぱいあるものの寄せ集めでしかない。だからこそ、自分たちの作ったものが子どもを産むと、それはすごく美しいなって。文化という塔の中に組み込まれたい気持ちがすごく強くあって。それこそ、ぼくりりの子どもみたいなものは結構出てきているように感じていて、それがDiosでもいっぱい出てきて、それが大きくなっていくと、すごく楽しいなという気がしています。子どもが欲しいですね(笑)。
ササノ:まずは健康に。あとはいい意味で、方向性を固めないこと。何をやっても出ちゃうものが一番大事だよな、ということを最近感じ始めていて。自分の音楽人生としては、これからDiosでいろんなものをぶつけていけばいいんじゃないかなと思っています。やっていれば間違いない気はしているし。
Ichika:僕も、まずは健康に(笑)。「Dios」というくらいだし、「神々しい」という表現がふさわしい音楽を作りたいんですよね。そこに向かっていきたい。それが真骨頂であると。あとは、あまり先のことばかり見据えていても続くものも続かないので、Diosとして大切にしていきたいことは、わずかな成長や少しの変化にも喜びを見出していくこと。ちょっとでも前に一歩進んだことに対して喜びを感じられると、それは大きな心の栄養や原動力になると思うんです。他の人からしたら大したことないような少しの一歩でも喜びを感じて、それを忘れないようにしたいですね。そういうのが一番大切だったりするから。
たなか:そうだね、神は細部に宿りますからね。
Photo by Masato Moriyama
Dios
『CASTLE』
発売中
初回限定盤:https://Dios.lnk.to/CASTLE_CD-ltd
通常盤:https://Dios.lnk.to/CASTLE_CD-nor
『Dios 1st Tour 「CASTLE」』
2022年7月20日(水)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
2022年7月21日(木)愛知・名古屋 CLUE QUATTRO
2022年7月23日(土)北海道・札幌ペニーレーン24
2022年8月6日(土)福岡・DRUM Be-1
2022年8月12日(金)豊洲PIT
オフィシャルサイト:https://dios-web.com/
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