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海外からラブコール殺到、カメレオン・ライム・ウーピーパイの圧倒的個性が求められる理由

Rolling Stone Japan / 2022年7月14日 19時0分

カメレオン・ライム・ウーピーパイ

「ある日、いつも通りSpotifyを聴いていたら、カメレオン・ライム・ウーピーパイの曲が流れてきた。その曲が本当に素晴らしかったので、すぐに勢いでDMを送って、いつか一緒に何かできたらいいねって伝えたんだ」

そう語るのは、フジロックでの怪演などを通じて日本でも愛されてきたLAのハードコア・バンド、FEVER 333のギタリストであるスティーヴン・ハリソン。Instagramのメッセージをきっかけに始まった両者のコラボは、「キャッチーだけどヘヴィで、とても楽しいサウンドが詰まっていて、誰もが気に入る要素がある」とスティーヴンも太鼓判を押す、カメレオン・ライム・ウーピーパイとの共作曲「Whoopie is a Punkrocker feat. Stephen Harrison」に結実した。




左からChi-(カメレオン・ライム・ウーピーパイ)、スティーヴン・ハリソン(FEVER 333)

カメレオン・ライム・ウーピーパイは、オレンジ色の髪をなびかせるChi-(チー)のソロユニット。2021年にSpotifyの新人サポートプログラム「RADAR:Early Noise」に選出され、この夏にはサマーソニック出演を控えており、次世代型アーティストとして日本のみならず世界中から注目を集めている。

海外勢との初コラボは、デヴィッド・ゲッタと接点をもち、エド・シーランやハイムのリミックスも手がけている英マンチェスター出身のDJ/プロデューサー、TCTSとタッグを組んだ「Rich Girl」(昨年11月リリース)。彼はSpotifyのプレイリスト「New Music Friday Japan」でカメレオン・ライム・ウーピーパイを発見すると、インパクトのある名前と楽曲に惹きつけられ、やはりDMをきっかけに共作まで発展していった。



前述の「Whoopie is a Punkrocker feat. Stephen Harrison」は海外コラボ第2弾となるわけだが、Chi-が語るところによると、すでに世界中からラブコールが絶えない状況だという。

「最近もフィンランド人のDJの方に誘われて、曲の制作を進めているところです。他にも何組か連絡が来ているんですけど、全部インスタのDMですね。たぶんSpotifyで聴いてくれて、『いい曲だね、コラボしようよ!』と軽いノリでバンバンDMがきます(笑)」

まだ海外公演を行っていない新進気鋭のアーティストが、ノンプロモーションで異例の事態を巻き起こしている。なぜここまで求められるのか、その魅力を紐解いていこう。

「奇跡すぎる」結成までのストーリー

カメレオン・ライム・ウーピーパイの物語は2016年に始まった。ひとりで音楽活動をスタートさせたChi-は、自身2度目のライブで「最強の仲間」と語る、Whoopies(ウーピーズ)1号・2号との出会いを果たす。

「私はそもそも暗くてネガティブで、『死ぬ前に好きなことをやろう』みたいな理由で音楽を始めたんです(笑)。ひとりだった頃に作った曲も暗いものばかりで……。自分としても、ポップな曲を作れる人と組むことができたら、ネガティブとのチグハグさで面白いことになりそうだと思っていたんですよね。だから、キャッチーな曲を作れるWhoopiesと出会えたのは奇跡すぎて(笑)。今はもう何をやってもいい曲ができる、そこは自信あります」


Whoopies1号・2号

覆面を被るWhoopies1号・2号は、自分たちが追い求める音楽性にマッチしそうな「暗いマインド」を持つ声をずっと探していた。インターネットを通じてChi-の歌を聴き、「絶対にこの人しかいない」と確信した2人は、まだ音楽活動を初めて2カ月足らずだったChi-のライブへと赴く。その場で「一緒にやろう」と声をかけ、彼女が歌うことを想定して作った曲を聴かせると、Chi-もそのサウンドに衝撃を受け、すぐさま一緒に活動することを決心した。

そこから最初の3年間は、修行のごとくChi-がストリートライブに明け暮れながら、自分たちのスタイルを磨き上げることに専念。そして、2019年の終わりに満を持してデビューシングル「Dear Idiot」を配信リリースすると、Spotifyで多くの公式プレイリストに選ばれ、快進撃の起爆剤となった。その後は量産体制に入り、これまでシングル11曲、2021年の『PLAY WITH ME』、今年5月の『MAD DOCTOR』という2作のEPをリリースしてきたほか、コラボ曲やカバーなども発表している。



結成までのストーリーに加えて、もうひとつのミラクルは「やりたいことが似すぎている」と認めるほど、3人が価値観を分かち合えたこと。当初はWhoopies主導で楽曲制作をする形を想定していたそうだが、「アイデアの宝庫」だというChi-の才能に感服し、早い段階で3人対等の制作スタイルへと移行。さらに、楽曲制作やライブ活動だけでなく、アートワーク、MVの撮影・編集など、あらゆるクリエイティブを完全DIYで手がけるようになる。

「最初は単純にお金がなくて、自分たちでやるしかないからiPhoneで撮ったりしてたんです。でもその後、MVの撮影をプロの方にお願いしたこともありましたが、ニュアンスを伝えるのが難しかったし、感覚が合わないと厳しいものがあるなと思って」



カメレオン・ライム・ウーピーパイの表現が、絶妙なバランスで成り立っているのは間違いない。その突き抜けたセンスを、Chi-はこのように説明している。

「カッコイイだけじゃない、ダサくて遊び心があるのが大事だと思うんですよね。『これどうなってんだ?』みたいな、未完成でヘッポコな感じのほうが好き。映像については素人なので、MVも雑な合成とかになったりするんですけど、私としてはそれがよくて。アイデア勝負というか、上手くなくても全然いい」

ビースティ・ボーイズの無敵感をルーツに挙げているように、3人の音楽は自由そのもの。ここ1年弱のリリースでも、メロディアスな歌心が光る「Amefuri no Bambina」、パンキッシュで破天荒な「Love You!!!!!!」、『odelay』期のベックも想起させるファンクナンバー「Mole Dancer」まで、ジャンルに縛られない変幻自在ぶりを見せている。そのカラフルな佇まいは、Chi-が標榜するカメレオンの生き様そのものだ。





ここ10年のJ-POPでは、シティポップや渋谷系の再評価、ブラックミュージックの影響などもあり、洗練された音作りがトレンドだった。かたやカメレオン・ライム・ウーピーパイの音楽は、サウンドも情感もごちゃ混ぜで、言ってしまえばカオスそのものだが、それゆえフレッシュに感じるのは筆者だけではないはず。彼女たちの台頭は、いずれ音楽シーンの風向きすら変えてしまうかもしれない。

「『ジャンルを壊す』というのはずっと意識しています。流行ってる音楽のなかにこういう奴がいてもいいんじゃないかと思うし、自分たちの音楽が日本のスタンダードに加わることを目標にやってきたので。あと、私は昔から人とズレてるところがあって、自分の考えなんて受け入れてもらえないと思いながら生きてきたんですよね。だからこそ、流行とか周囲の評価を気にせず、『これが好きなんだ』という音楽を作っている。そもそも『消えたい』と思っていた頃に音楽を始めて、そこで覚悟が決まっちゃってるから、誰から何を言われても今さらブレたりしない。そこが自分の強みなのかなって思います」

90年代譲りのミクスチャー、日本語詞で生み出すグルーヴ

音楽的ルーツをさらに掘り下げると、3人共通のお気に入りは90年代のポップミュージック。制作スペースとなっているWhoopies1号の部屋には、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン『Orange』、チボ・マット『Viva! La Woman』といったLPから、ビースティ・ボーイズ「Root Down」、ケミカル・ブラザーズ「Block Rockin Beats」などのシングル盤まで、当時のレコードが(そのときの気分で)飾られている。

90年代はいろんなものを混ぜながら、メチャクチャなことをやってやろうという時代だった。ジョン・スペンサーも以前、『Orange』を振り返りながら「俺たちはジェームス・ブラウンなどの古いソウルと並行して、たくさんのヒップホップも聴いていた。そこからルーツ・ミュージックの要素を独自の方法で抽出して、それを新たに組み替えた音楽を作ってきたんだ」と語っている






そういったミクスチャー感覚は、つい最近まで時代遅れとされてきたが、『Orange』よりも後に生まれて「いろんな音楽が混ざったものが好き」と語るChi-にとっては、一周回って刺激的なサウンドだったようだ。

「Whoopiesとは好みがバッチリ合うから、三人で一緒にライブ映像とかを観て、カッコイイと思えたのが90年代のものばかりで。みんな好きなようにやっていて、熱量もあるし遊び心も感じられる。今の自分がやりたいのはこれなんだなと」

もちろん、単なる懐古主義にあらず。”ダサい方がくらっちゃう/トレンドも全部突き抜けろ”とChi-が歌う「Crush Style」では、ファットボーイ・スリムに象徴されるビッグ・ビートを「今やったらこうなるんじゃないか」と再構築することがテーマとなっており、サンプリングを駆使したブレイクビーツ、ビンテージな質感をもつベースラインは90年代的だが、そこにトラップ以降のリズム感覚も織り込まれている。




Chi-の歌声も「今っぽさ」をもたらす重要な要素だ。セルフプロデュース力と豊富なアイデアを備えた気怠いボーカルには、はぐれ者の斜め上をいく価値観が滲み出ている。さらに驚かされるのは、歌とラップが入り混じった独特のグルーヴを、日本語主体のリリックで生み出していること。Whoopiesがメロディを用意したあと、Chi-が歌詞を乗せていく過程で、曲のグルーヴはまったく想定外のものに変わっていくという。



幼い頃から忌野清志郎とともにジェームス・ブラウンの音楽と親しんできたChi-は、「踊れる」ことが何よりも大切だと語っている。最近の洋楽だと、チルなUKバンドのイージー・ライフ、「ラップだけでノレてしまう桁違いのリズム感」をもつ米アトランタのアースギャング、国際色の豊かなサウンドを操るフランス出身のジェインといった面々を挙げており、どれも頷けるし、その3組と並んでも遜色ないグルーヴを奏でていると思う。




海外アーティストとの共同作業で学んだこと

Chi-とWhoopiesはこのように個性を磨きながら、海外アーティストとのコラボを通じて多くのことを学んできた。スティーヴン・ハリソンを迎えた「Whoopie is a Punkrocker feat. Stephen Harrison」での共同作業は、サプライズの連続だったという。

「『ギターが必要になったら手伝うから連絡して』とDMが届いて。ちょうどパンクな曲を作ろうと思っていたので、音源を送ったらメチャクチャ気に入ってくださったみたいで。でもそのあと、『曲のデータを一式送ってほしい』と言われて、戻ってきたものを聴いたらギターが入っただけでなく、ベースやドラムも手が加えられ、曲の構成まで変わっていたんです。途中のサビを最後にもってきたりして、送る前より曲が短くなったという(笑)。ほかにも私のボーカルが引っ込んでいたり、エレクトロっぽい音を入れていたのがほぼカットされたり、全然違う曲になっていて。こんなに変えてくるのかと衝撃を受けました」



日本人どうしのコラボでは考えがたい大胆さだが、それはスティーヴンが真剣に向き合った証拠でもあり、3人も自分たちでは絶対作れないサウンドを爆笑しながら聴いたという。こういうときに戸惑うのではなく、”もっと大胆にいこう”とイージーゴーイングに歌ってしまえる逞しさも、カメレオン・ライム・ウーピーパイが求められる理由かもしれない。

3人がもともと思い描いていたのは、彼らが好きなラモーンズ(曲名の元ネタはもちろん「Sheena Is a Punk Rocker」)やクラッシュに通じる、ポップなパンクソング。「狂気的なキャッチーさにしたい」というChi-の提案から「パッパッパパー」という陽気なコーラスが添えられ、当初はトラック自体もラモーンズっぽいノリだったという。そこにスティーヴンの解釈が施されることで、メタルやミクスチャーロックに片足を踏み入れたラウドな曲調へと大転換したわけだが、最終的にはポップさを再度ミックスすることで、両者のカラーとパンク精神が共鳴し合う一曲となった。

この投稿をInstagramで見る カメレオン・ライム・ウーピーパイ(@chameleon.lime.whoopiepie)がシェアした投稿
以前、TCTSと組んだ「Rich Girl」でのハウスサウンドも一大チャレンジだったそうだが、そのときはサウンド面とは別に、こんな興味深いリクエストがあったという。

「日本語を半分入れてほしいとお願いされて。それも、寿司とか富士山みたいな海外にウケそうな言葉ではなく、リアルなものにしてほしいとのことだったので、私が普段から考えていたことを歌詞に込めることにしました。今は日本語が求められているんだなと思ったし、本人も日本のカルチャーが好きだと話していたので、わざとらしいのは嫌だったのかもしれないです」



ある時期までは洋楽に憧れたり、海外志向を打ち出したりするアーティストやバンドの多くが英語で歌い、そうしなければ世界で通用しないという風潮があった。しかし近年は、K-POPやラテンポップが母国語で歌いながら世界中のチャートを席巻しているように、非英語圏のポップミュージックを世界中の人々が楽しむようになり、自分たちのアイデンティティと向き合い、母国語で歌うほうがユニークだと受け止められるようになってきている。

また、最近の海外シーンでは、ハリー・スタイルズロザリアからインディーの音楽家に至るまで、日本語や日本のカルチャーに言及した作品が目立つ。そのことも踏まえると、「日本語が求められている」というのは、あながち気のせいや勘違いでもないのかもしれない。



それはさておき、海外での好評価について「日本に住んでいるので、自然にやれば日本っぽい要素が入ってくる。そこを面白がってもらえているならありがたいです」とChi-は語っているが、実際のところは本人たちもピンと来ないようだ。

真相は知る由もないが、もし何らかの理由を見出すとすれば、我が道を行くことを恐れぬ勇気こそが、狭い日本を飛び出すための突破口なのかもしれない。そして、その勇気は、カメレオン・ライム・ウーピーパイの圧倒的に突き抜けた個性ともつながっている。

「海外の方と接しながら思ったのは、私たちの人気があろうがなかろうが関係なくて、純粋に曲のよさを認めてくださっている感じがするんですよね。みんな周りの評価ではなく、自分がカッコイイと思うかどうかで判断している。自分たちもそうありたいし、今はすごく可能性を感じています」



Chi-は海外でライブすることが近い将来の目標だと語っていた。そんな3人にとって、洋楽フェスであるサマーソニック出演は大きな財産となるだろう。最後に意気込みを聞いた。

「実は3年前、『出れんの!? スパソニ!?』に応募したんですよね。3人で一度行ったことがあって、そのときも自分がステージに立っている光景がリアルに想像できたので、メチャクチャ楽しみだし気合が入ってます。(出演者だと)イージー・ライフはやっぱり気になるし、マネスキンのライブも近くで見てみたい。あとはいずれ、SXSWにも出てみたいですね。こないだスティーヴンさんとZoomで顔合わせしたときも、『タイミングが合えば一緒に出るよ、1曲だけでも行く』と言ってもらえたので、そのときが来たらぜひ共演したいなって思います」



カメレオン・ライム・ウーピーパイ
「Whoopie is a Punkrocker feat. Stephen Harrison」
配信リンク:https://CLWPRecords.lnk.to/WhoopieisaPunkrockerPR

SUMMER SONIC 2022
2022年8月20日(土)〜21日(日)
東京:ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
大阪:舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
※カメレオン・ライム・ウーピーパイは8月20日(土)東京会場、21日(日)大阪会場に出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/

カメレオン・ライム・ウーピーパイ公式サイト:https://lit.link/clwp

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