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ラウヴが告げる新章の始まり 比類なきソングライターが明かす葛藤と再生の物語

Rolling Stone Japan / 2022年8月5日 20時0分

ラウヴ(Photo by Kate Biel)

ラウヴ(Lauv)が8月5日に2ndアルバム『All 4 Nothing』をリリースした。2020年3月に発表された1stアルバム『~how im feeling~』から2年5カ月ぶり。レーベルをVirgin Music Label & Artist Servicesに移籍しての第1弾アルバムとなる。

その新作の内容も重要だが、レーベルを移籍して心機一転、「再スタートという気持ちは間違いある」とラウヴ自身も話していることだし、「このタイミングで改めて彼の人物像に迫る原稿を」というのがレーベルからの依頼でもあるので、ここで改めてラウヴとはどのようなアーティストなのか、まずはベーシックなところから書いておきたい。

ラウヴは1994年8月、カリフォルニア州サンフランシスコ生まれのシンガー・ソングライター/プロデューサー。すぐに対岸の港湾都市オークランドに移って4歳まで住み、成長期はジョージア州アトランタで暮らし、次にペンシルベニア州のフィラデルフィア近郊に移住。それからニューヨーク大学(ミュージック・テクノロジーを専攻)に通うためニューヨークに移り、その頃作った自信作「The Other」をネットにアップしたことで注目されるようになってミュージシャンのキャリアを本格的にスタート。そしてLAに移り住み、現在もLAのスタジオを兼ねた自宅で音楽制作の日々を送っている。振り返って、ラウヴは言う。

「子供の頃から引っ越しが多くて、それぞれの土地からいろんな影響を受けてきたけど、特に重要だったのはフィラデルフィア近郊に住んでいたときかな。子供の頃からヴィオラとピアノを習っていたけど、引っ越しと転校が一段落したのでギターも始めて、本格的に曲を作り始めた。それまでスケボーをやっていたんだけど、それで上を目指すのが怖くなった時期でもあったね。12歳の頃のことだよ。そこから完全に音楽にのめり込んだ。とはいえ僕はひとつのサウンドだけにのめり込んだことが一度もなくて、ロックにヒップホップにR&Bにポップにといろいろ聴いてきた。思うにそれは子供の頃に否応なくいろんな土地で過ごして、新しい環境に慣れることを繰り返してきたことが関係しているかもしれない。土地土地でいろんな音楽と出会って、それに馴染んで、若い頃はいろんなバンドでプレイもした。それが今の自分の多様な音楽性に繋がっているところはあると思う」



本名、アリ・レフ。ラウヴと名乗るようになったのは初めの一歩となった「The Other」を制作した頃だった。

「母方が(バルト三国の)ラトビア出身で、LAUVはラトビア語でライオンの意味なんだ。それに僕は獅子座だから。ライオン繋がりってことで」



ラウヴの名前は、2017年のシングル「I Like Me Better」が(当時だけで)2億回再生を超える大ヒットになったことで広く知られるようになった。また、チャーリーXCXの「Boys」やチート・コーズの「No Promises (feat.Demi Lavato)」といった提供曲のヒットでも確かな才能が証明された。心の琴線に触れるグッドメロディと、モダンなサウンド。何しろラウヴは「いい曲」を書くソングライターでありコンポーザーでありプロデューサーなのだが、それは高校の頃の努力が実った結果であると彼は言う。

「16~18歳の頃、とにかくヒット曲の構造についてひたすら研究し、勉強したんだよ。ケイティ・ペリーのヒット曲は特に参考になったね。曲の構造が見事なんだ。その構造を分析し、いろいろ試行錯誤して、ようやく印象に残るフレーズや曲が書けるようになった」




2019年、ラウヴはプレイリストとして公開した曲をひとつにまとめた『I met you when I was18.』を発表(日本でのみ2枚組CDとして発売された)。そして2020年に正式な意味でのデビューアルバム『~how im feeling~』をリリース。BTS、トロイ・シヴァン、アン・マリーら6組のアーティストとのコラボレーションも話題になった。が、その1stアルバムに関しては「ちょっと複雑な思いがある」と言う。

「実はあのアルバムの制作前に診断未確定の強迫性障害を患っていたんだ。不安に苛まれ、自分の人生と音楽キャリアにきちんと向き合うことができずにいた。加えて、リリース直後にアメリカでロックダウンが始まって、十分なプロモーションもツアーも出来なくなった。まあ、とはいえ、ネガティブな要素も含めて自分のなかにあるいろんな感情をあのアルバムで表現できたのはよかったと思っているけどね。あれがあったから、今は前向きになれた。今回のアルバムはありのままの自分を見せているけど、前作ほどがむしゃらじゃなく、もっと素の自分を見せているんだ」

『All 4 Nothing』26歳の再スタート

新作『All 4 Nothing』は、「自分が26歳になって考えたことや、問い直したことを歌っている」という「26」で幕を開ける。それは「いくつか曲を作り、大ヒットして、やりたいことは何でもできると思い込んだ。でもそのせいで心に穴が空いてしまった」と歌われる、告白のポップソングだ。

「僕は恵まれた生き方をしているように傍からは見えるかもしれない。ラウヴとしてヒットも出せたし、いいキャリアを重ねているとも言えるだろう。でも、アリの気持ちはどうなんだ?って話でね。アリ・レフというひとりの人間の気持ちを大事にすることも忘れちゃダメだと思ったんだよ」




リード曲「All 4 Nothing (Im So In Love)」のように昂揚感のあるロマンティックなメロディの曲もある。そこでは新しくできた恋人への気持ちをストレートに歌っている。が、明るい曲ばかりではない。ポップに聴こえる曲でも、不安や憂鬱や罪悪感が滲んでいたりする。「Stranger」では「暗闇が怖い」と歌われ、「Stay Together」では「君と僕は 一生一緒にいる運命じゃないから」と歌われ、「Better Than This」では「僕は不完全な人間だから」と歌われ、「I (Dont) Have A Problem」では「なぜこんなにも孤独なんだろう」と歌われる。さらに「Hey Ari」では「取り繕った表情もバレてるよ。なあ、アリ、お前は幸せなのか?」と自問している。どこまでも自分に対して正直であろうとしているのだ。

「陰と陽との比率は50/50といったところだね。かなりダークな曲もあるけど、明るい曲もあるし、どの曲もエネルギッシュではあるんじゃないかな。歌詞がもの悲しい曲に、カラダを動かしたくなるメロディをつけたりもしている。陰鬱な作品にはしたくなかったからね。とにかく僕は、どんな考え、どんな感情も受け入れる気持ちを持とうと思いながら、このアルバムを作っていたんだ」


Photo by Kate Biel

1stアルバム以上に曲調は多彩で、ドラマチックに進んでいく。山あり谷ありだ。が、本編最後に収録された「First Grade」で救われた気持ちになる。シンプルだが、ラウヴのヴォーカルが実にエモーショナルで感動的なのだ。このようにメロディのよさとヴォーカル表現だけで勝負した曲は、これまでなかっただろう。

「そうだね。自分にとって特別な曲になったと思うよ。相手に対するメッセージとして書いたんだけど、同じくらい、自分自身に向けてのメッセージになった気がしている。歌も心からうたえた。誇りに思えるヴォーカル・パフォーマンスができたと自負しているよ」

ラウヴの新章がスタートした。





ラウヴ
『All 4 Nothing』
発売中
日本盤ボーナストラック収録
再生・購入:https://virginmusic.lnk.to/Lauv_kabs

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