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正しく吃音について理解する、個を尊重した対応をするために

Rolling Stone Japan / 2022年8月12日 11時30分

Source of photo:Pixabay

音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている 〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」。第45回は、吃音の基礎知識について産業カウンセラーの視点から伝える。

関連記事:Emerald・中野陽介と手島将彦が語る、音楽家として追求する「心豊かでいるための音楽」

7月6日の「水曜日のダウンタウン」の放送内容について、NPO法人「日本吃音協会」が「吃音者に対する差別偏見を助長するもの」として抗議文を送ったことが話題となりました。この抗議に関して、吃音当事者からも含めて様々な意見と賛否の声が上がっていますが、ここではそれについてではなく、そもそも吃音に関する情報が社会一般に共有されていない現状があると思いますので、これを機会に基礎的な知識を紹介したいと思います。



吃音は、「ここここ、こんにちは」のように言葉のはじめの音を繰り返す「連発」、「こーーんにちは」と音を引き伸ばす「伸発」、言葉が出にくく間が空く「難発」などがあって、滑らかに話せない症状のことです。2〜5歳で発症することが多く、幼児期では8%前後の発症率で、成人期で100人に1人は存在します。ある程度の年齢では常に吃音が生じるわけではなく、普段の会話がスムーズでも、自己紹介や発表など、なんらかの状況の時にすぐ声が出なかったり、声が小さくなってしまったりする、ということもあります。

吃音は大きく「発達性吃音」と「獲得性吃音」の二種類があります。9割が前者で、本人の体質的要因、発達的要因、環境要因が原因ですが、その仕組みについて完全にはわかっていません。しかし、吃音が生じるのは、育て方の問題や本人の努力や性格とは無関係です。急激な言語発達の副産物で、頭の中で急激に増えていく言葉に口がついてこられないことも一因と考えられていて、つまりむしろ言語能力が高いから、とも言えます。後者の「獲得性吃音」は、脳や神経の病気や怪我によるものや、強いトラウマやストレスによって生じたものを指します。

子どもの吃音に対し、良かれと思って話し方のアドバイスを大人がしてしまうことは逆効果になってしまいます。例えば「ゆっくり話してごらん」「落ち着いて話そう」などや、話そうとしていることを先取りして代わりに大人が言ってしまったり、「もう一回(正しく)言ってごらん」と話し直しをさせたりすることです。これらは「あなたの話し方はダメです」と言っているのと同じことになり、本人の「話をしたい」という気持ちに対しマイナスに作用してしまいます。こうしたことや、周囲のからかいなどの心無い否定的な反応によって嫌な体験が積み重なってしまうと、吃音症状が増してしまうことにもつながってしまいます。さらに、人前で話すことや会話することに対して不安感や恐怖心が強くなっていくと、社交不安障害と診断されるような状態にもなりかねません。



大事なことは、本人も含めて世の中の人が正しく吃音について理解し、特に当事者の周囲の人間が「その話し方で良い」と思い、個を尊重した対応をすることです。また、吃音症(小児期発症流暢症/小児期発症流暢障害)は発達障害のひとつとされていて、発達障害支援法の対象に含まれていることもあまり周知されていないようです。昨今情報が広まりつつある自閉スペクトラム症やADHD、限局性学習症(SLD)などと同様に、国や自治体、そして社会が積極的に理解と支援、合理的配慮を行うべきものでもあるのです。

音楽家では、「スキャットマン」が全世界で大ヒットしたスキャットマン・ジョンは吃音者ですが、彼は吃音者を支援するために「スキャットマン基金」を設立しました。エド・シーランは2015年にアメリカ吃音協会のパーティで自らの吃音について話し、「子どもに対して、吃音について注意を与える必要はなく、自分らしくいるということを強く教えてあげてほしい」とスピーチしています。また、世界的な現代音楽の作曲家である武満徹は、エッセイ『音、沈黙と測りあえるほどに』(新潮社)の「吃音宣言」という章で、「ベートーヴェンの第五が感動的なのは、運命が扉をたたくあの主題が、素晴らしく吃っているからなのだ。ダ・ダ・ダ・ダーン・・・ダ・ダ・ダ・ダーン・・・」「どもりはあともどりではない。前進だ。どもりは、医学的には一種の機能障害に属そうが、ぼくの形而上学では、それは革命の歌だ」「吃音者は絶えず言葉と意味とのくいちがいを確かめようとしている。それを曖昧にやりすごさずに肉体的な行為にたかめている。それは現在を正確に行うものだ。芸術作品は地層のように過去から現在を重層する形のものでなければならない。どもりはあともどりではない」と語っています。

参照
・国立障害者リハビリテーションセンター研究所「吃音について」
http://www.rehab.go.jp/ri/departj/kankaku/466/2/
・『吃音のことがよくわかる本』(九州大学病院耳鼻咽喉科医学博士・菊池良和監修・講談社)


<書籍情報>



手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP:https://teshimamasahiko.com/

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