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aespa衝撃の初来日、斬新すぎるK-POP4人組が提示した「新たなオルタナティブ」

Rolling Stone Japan / 2022年9月7日 11時0分

aespa、「K-Culture Festival 2021 World K-pop Concert」にて。(Photo by Han Myung-Gu/Getty Images)

aespa(エスパ)の初来日イベント「aespa JAPAN PREMIUM SHOWCASE 2022 〜SYNK〜」が8月6日(土)と7日(日)、神奈川・横浜の「ぴあアリーナMM」で開催された。先週末開催のSMTOWNにも出演した彼女たちの、鮮烈すぎたショーケースライブを改めて振り返る。文筆家・ライターのつやちゃんがレポート。

へそ出しルックに、ミニスカートあるいはルーズサイズのボトムス、そして厚底サンダル。平均年齢は恐らく10代後半だろう。会場には、Y2Kファッションに身を包んだユース層があふれている。当時の2000年前後と異なる点は、青やピンクといったヘアカラーのカラフルさと、メタルやサイバーパンクにルーツを見るおどろおどろしく近未来なデザインモチーフ。TLCのファンとマイ・ケミカル・ロマンスのファンが20年の時空を超えてミックスされたようなファッション、とでも言えばよいだろうか。KARINAファンと思しき人たちが(ファンの間で似ていると人気の)サンリオのクロミグッズを持っている姿も多く目につく。それら摩訶不思議な空気は、他の(K-POP)アイドルのライブに集うファンと比較してもどこかダークかつクールで、ストリート色の強い印象を受ける。

もちろんそのスタイルは、エスパの魔術的サイバー空間とも言うべきクリエイティブを反映しているに違いない。作り込まれたファンタジックな世界観は、今回<aespa JAPAN PREMIUM SHOWCASE 2022 ~SYNK~>と題された初来日ライブにも表現されていた。ステージ上部に掲げられたメタリックな”aespa”のロゴ、スクリーンに映し出された人工的な草木の描写。オープニングにショートムービーが放映され、作り込まれたCGとともにエスパのコンセプトが伝えられる。「自分のもう一人の自我であるアバターに出会う」「それらが”SYNK”を通じてリンクされる」というグループの主要メッセージ。いよいよビートが刻まれ、ポップアップがせりあがりメンバーが登場する。

1曲目は”aenergy”。本当にアイドルのライブなのだろうか?と疑いたくなるようなヘヴィな重低音が響き、音源を大きく超える硬質な鳴りが身体を調教する。ぴあアリーナMMの、驚くべきクラブライクな充実した音響。このグループのインダストリアルなサウンド側面がいきなり強調され面食らうが、当然ながらそこではたとえばスロッビング・グリッスルにあったアンチ・メロディックな側面は葬り去られ、現代のK-POPの手法である歌とラップを交互に繰り出し高揚感を構築していく技術が配合されている。それらを叶えているのは、NINGNINGを筆頭にしたメンバーの類いまれなる歌唱力と発声スキルだ。音割れ寸前までボルテージを高めた歌が耳をつんざき、痛めつける。

aespaは手をゆるめない。次の曲「Black Mamba」では、昨年話題をさらったしゃがんだ低姿勢での大蛇を模したようなダンスを完璧に披露。一瞬の隙もない身体のキレは、完璧な自分が投影されたアバターを本人たちが演じているような、不思議な感覚を受ける。しかし、それらは決められた型を難なく演じるという予定調和ではなく、ある種の〈違和感〉に貫かれているようなパフォーマンスに感じた。そう、aespaの素晴らしい点は、どう考えてもおかしいくらいの突き抜けた違和感の生成にあるのだ。一見「ナシ」に見えるような不思議な振り付けや効果音を、きびきびとしたユニゾンで披露しパッチ―ワークしていく違和感の完遂。その行き過ぎの表現は時に頓痴気とも形容され称賛されているが、実際にステージを観ることで、ユーモアをクールなものに転換させていく狂気がありありと感じられた。

狂気的な違和感が生む素晴らしさは、終始挟まれたMCのゆるいムードによっても際立っていた。たどたどしい日本語を喋りながらコミュニケーションをとっていたメンバーの様子はどこまでも自然体で、ファンは親密さを感じたに違いない。まとめ役のKARINAと、流暢な日本語で対話を引っ張っていたGISELLE、時に韓国語もまじえながらフランクに日本語を話そうとするWINTERとNINGNINGというバランスには、aespaというグループのメンバーシップが成せる一体感とラフさを感じられた。だからこそ、それらMCが終わり、歌が始まった瞬間の落差に驚く。

「次は少し雰囲気の違う曲を」という投げかけで披露された「Lifes Too Short(ENG ver.)」と「Lucid Dream」でaespaの多面性はさらに強調される。Y2K前後のフィールが詰め込まれた祝祭感あふれる曲によって会場の空気はジョイフルなムードに包まれたが、ここでもリズム隊は蛇のように地をはいつくばっており、柔らかい印象のポップソングも一筋縄ではいかないところがこのグループの面白さだ。

過剰性とクレイジーな違和感

観客の度肝を抜いたのは、インターバルで放映されたムービーである。SNSによる誹謗中傷とハックされていくプライベートをホラータッチで描いていくさまは非常にサスペンスフルで、aespaというグループが不安や恐怖といったネガティブな面から目をそらさず向き合っていくスタンスが主張される。ただ闇雲に理想論を掲げた空元気な世界を描いていくわけではなく、あくまでリアルと向き合い闇/病みとも対峙するのがaespaなのだ。夢に向かっていくにあたり、どれだけ現実の醜さを暴き描写するか――そのギャップを超えていくためのパワーを、彼女たちはアバターとのLINKを果たしながら獲得していく。

だからこそ、続く曲は「Next Level」でなくてはならない。会場を切り裂くようなレーザーの中、4人が衣装を変え再び姿を現す。どう考えても繋がるはずのないバラバラなパートを「Ooh ooh wee」という陽気なかけ声で強引に接続させてしまう馬力こそがまさに彼女たちの〈Next Level〉なわけだが、軽快なダンスミュージックに聴こえる(がただ軽快なわけではない)次の「YEPPI YEPPI」も複雑なリズムに身体を絡めとられることなく歌いきる。

「終わりが近づいてきて悲しいです」とのMCを経て、「Illusion」と「Savage」へ。このあたりのノイジーで歪んだ音――ピンと張ったスネアを金属で叩き割っていくかのような硬質な響き――に歌いあげるエモーショナルな歌唱とパワフルなラップが乗っていく構成は、もはやタガが外れているとしか思えない過剰性をまとっている。その点、aespaの表現というのは、昨今あらゆるカルチャー領域で起こっているマキシマリズム(過剰主義)の流れにあると言ってよいだろう。しかし、過剰の美学に溺れてしまうことで大仰な世界観に埋没してしまうケースも多い中、このグループは統一感あるダンスと卓越した発声スキルで、常に軸をぶらさず一貫したパフォーマンスを完遂する。特に「Savage」で感じたのは、ラップの抑揚における〈揚〉の部分を常に繋いでいくような特異な発声技術。明らかにトラディショナルなラッパーのそれとは違う鞭打つような力強い発声が、広い会場では音源よりもダイレクトに感じられて痺れる。思い出したのは90年代のビッグビートに見られたようなサウンドフォームで、それらロック×ダンスミュージックにも近い音作りとストロングなボーカルスタイルは確かなリファレンスの一つに感じられた。

素晴らしいステージの最後を飾ったのは「Girls」。「いつだって私たちはTogether」という旨のリリックが歌われるナンバーで、ファンをエンパワーメントしつつ完璧な舞台は幕を閉じた。最後の別れを惜しむべく、4人は繰り返しファンへの感謝を口にし幾度となくギャルピースのサービスも。これもまたY2Kカルチャーの断片だ。日本生まれのギャルピースがリバイバルしK-POPアイドルの中でも流行している昨今、2000年前後の文化に漂っていた空気が生まれ変わり、多少のノスタルジーをまとったままユース層を中心に国境を越えて伝播している状況は非常に興味深い。aespaは、今のY2Kリバイバルの中心にいることを確信させられた瞬間だった。

余談だが、ライブを終え横浜ぴあアリーナMMを出ると、aespaの世界観と類似した近未来の建造物やオブジェが多く目につき不思議な気持ちになった。そう、横浜・桜木町近辺は90年代のポストバブル期に一気に開発が進んだ地域で、当時のSF的世界観を彷彿とさせる建造物が乱立している。実際、SNSにも建造物を映したうえで「aespaみたい!」と書かれた投稿がいくつか見られた。あの頃から20年、Y2Kは新たな解釈を加え現代によみがえっている。恐らくaespaは、過去を元にリメイクしながら未来へと進むそれら編集行為を、最も面白く斬新な方法で行っている。過剰性から成るクレイジーな違和感を次々に喚起しながら、ポップミュージックの新たなオルタナティブを作ること――。妖艶で怪奇な表現こそがaespaの魅力であると改めて感じられた、不思議なライブだった。

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