コード・オレンジが語る、2018年の秘蔵インタビュー「ポジティブな感情を歌にすることで、ヘヴィさが増した」
Rolling Stone Japan / 2022年8月12日 18時30分
2022年8月14日、幕張メッセで開催される「DOWNLOAD JAPAN 2022」に出演するコード・オレンジ。 米ペンシルヴァニア州ピッツバーグ出身のバンドは、2020年の『UNDERNEATH』で唯一無二のカオティックなサウンドを作り上げ、さらなる進化と変貌を遂げた。今回は米ローリングストーン誌の2018年のアーカイブを掲載しつつ、シーンの次を担う彼らのビジョンを探る。
【動画を見る】コード・オレンジのライブ映像
グラミー賞受賞式の2週間前、コード・オレンジのドラマー/ボーカリスト、ジャミー・モーガンはレッドカーペットを歩く時に着るオーダーメイドの黒のファーコートを見て感心していた。彼自身、こんな服を手に入れるなどとは夢にも思っていなかった。ましてや、オーダーメイドの服を着てレッドカーペットを歩くことなんて。
「ノミネートが発表されると、Twitterにメッセージが一通きた」とモーガン。彼は今、ピッツバーグにある寝室3部屋のバンドの家で暮らしている。ここは、メンバー全員が育った地元から1マイル程度離れた場所だ。例のコートの写真をスマホで見せながら、「このボニー・レジンスキという女性は衣装デザイナーで、グラミーで着たい服を何でも作ってあげるって言ってくれたんだ。ほんと、赤いペンキとか投げつけられないことを祈るだけさ」と続ける。
3rdアルバム『Forever』の表題曲がグラミーの「最優秀メタルパフォーマンス賞」にノミネートされた。ちなみに、このアルバムはアグロ・ハードコア、不気味なアルトロック、滑らかなインダストリア的テクスチャーが絶妙にブレンドされた作品である。メタル界の新人王であるコード・オレンジは、並み居るベテラン・バンド勢、サザン・プログメタルのマストドン、アイス・Tがフロントを務めるボディ・カウント、スウェーデンのヘヴィヒッターのメシュガーととこの賞を競うことになる(メシュガーの西海岸ツアーではコード・オレンジがオープニングを務めた)。このカテゴリーは、長年に渡ってレジェンド級のバンドであるメタリカやスレイヤーが独占してきたため、コード・オレンジのような新人がノミネートされることは非常に珍しい。そして、珍しいと言えば、ギタリスト/ボーカリストのリーバ・メイヤーズは、このメタルカテゴリーにノミネートされた3人目の女性である。音楽業界で女性アーティスト受難の時期にあって、メイヤーズのノミネートは女性の士気を揺らす小さな刺激となるはずだ。
「他のバンドへの最大限のリスペクトを表しながら、俺たちは勝者のような佇まいで会場に入っていかなきゃならない」と、24歳のモーガンが言う。
グラミー賞のノミネートは、コード・オレンジがバンドとして大きく前進した一歩にすぎない。最初の大きな一歩は、メジャーレーベル、ロードランナー・レコードと契約したこと。次がタイムズスクエアの看板に登場したこと。3歩目はWWEのNXTテイクオーバー・ブルックリンで演奏した最初のバンドとなったこと。そして、影響力のあるバンドのゴジラ、デフトーンズ、システム・オブ・ア・ドーンのオープニングを務め、その流れでマスコアの伝説バンド、デリンジャー・エスケイプ・プランのラストツアーにまで参加した。このような進化を遂げながら、楽曲「Forever」の歌詞である”The freaks will finally have their say/There is nothing you can do to take it”(変人たちがやっと言いたいことを言い出した/それを理解する方法なんて一つもない)がマントラのように拡散している。
「俺は自分が説明できないことを、あたかも偉そうに喋るのは嫌なのさ」
「メンバー全員がビジュアライズによって自己実現できるようになった」と、革製のリクライナーにもたれながらモーガンが話し始める。「自分が行きたい場所、なりたい自分の姿をビジュアライズすると、それが実現する。これが前のアルバム『I Am King』のテーマだった。『Forever』は、その新たな力、そのプロセスの中で自分自身や他者を知ることについてを表現した作品だ。バンドという集合体でその力を手に入れて、レガシーを作るんだよ」
彼らはコード・オレンジ・キッズとして知られており(コード・オレンジとは9.11後のパニックを象徴する、ピッツバーグ・クリエイティヴ&パフォーミング・アーツ・スクール在学中に活動をスタートした。
現在のメンバーは、モーガンがドラム、メイヤーズとドミニク・ランドリーナがギター、ジョー・ゴールドマンがベース、エリック・”シェイド”・バルデローズがシンセ&ギターだ。モーガン曰く、「これがコアメンバーだ。これまでで最強のラインナップだよ」
2000年代後期、ピッツバーグという斜陽化した工業地帯のDIYパンク&ハードコアシーンで他のバンドと交流を深め、地元のアナーコパンクの重鎮アンタイ・フラッグと共演したことすらあった。しかし、彼らのスタイルはコード・オレンジならではのもので、端から地元シーンに馴染むことはなかったのである。笑いながらモーガンが言う。「ロック・アゲインスト・ブッシュ的なものもやってみたけど、俺たちらしくなかった。俺は自分が説明できないことを、あたかも偉そうに喋るのは嫌なのさ」
メンバーのなかには、人気のサイドプロジェクト、アドヴェンチャーズで、束の間エモ系の音楽を取り入れたことがあった。コード・オレンジの音楽性とは格段の差があるアドヴェンチャーズは、ナップサックやヘリウムといった90年代のインディ・ロックをヒントにしていた。「まだギターの弾き方を覚えている最中だったよ」とメイヤーズ。彼女はクラシック音楽を学んだフルート奏者でもある。「アドヴェンチャーズで作った曲は全部違うバンドの曲みたいだったけど、自分たちがやりたいと思っていたバンドとも違っていたんだよね」と説明する。
何年も実験を続けるうちに技術も向上し、彼らはもっと激しいサウンドの深みへとはまっていった。バンドでほとんどの歌詞を作っているモーガンが冷笑気味に言う。「最初の頃のレコードは、めちゃくちゃに落ち込んだ俺の感情とか、そういった感情と向き合う自分の心情を表現しているんだよ。でも、それを音楽で表現しても気分が優れることがなかったし、成長の糧にもならなかった。だから、自分やグループに対するポジティブな感情を歌にすることにしたんだ。そしたら、曲のヘヴィさが増した」(ちなみに、出来上がった歌詞の文法をチェックするのはメイヤーズで、彼女は1行ごとにきっちり添削する)
メンバー全員が表現者
その後、ハードコア・レーベル「Deathwish Inc.」の創設者でありコンヴァージのフロントマンとして活動するジェイコブ・バノンに気に入られたことで、2011年にコード・オレンジは同レーベルと契約。コンヴァージのギタリストのカート・バロウがエンジニア兼共同プロデューサーとなった。アドヴェンチャーズのプロデューサーであるウィル・イップと共に、バロウも『Forever』の制作を手助けしている。「自分があいつらの年齢の頃に作っていた音楽は本当にひどいものだったという自覚がある。だから、あいつらのようなむき出しの才能とポテンシャルを孕んだ有能なソングライターたちを見ていると、本当に感動するんだよ」と、バロウがローリングストーン誌に語ってくれた。
『Forever』にはKORN、スリップノット、マリリン・マンソンのような、90年代メタルの要素もある。コード・オレンジが前世代のバンドからマッチョな演劇風の要素を吸収したとしても、メイヤーズの比類なき唸り声がそれを帳消しにする。彼女の声はモーガンとバルデローズのデス声の壁を突き抜けて聞こえるのだ。
「ヘヴィミュージック・シーンで活動している唯一の女性という事実が、自分の内部である種のプレッシャーを形成していた」とメイヤーズが説明する。「でもそういうハードルをモチベーションに転換して、期待へのプレッシャーを克服した。そんなふうにならなきゃよかったけど、そうなっちゃったから、それを逆に利用したの」と。
一方、ジョン・カーペンターとトレント・レズナーのスピリットを持つバルデローズは、モーガンの示唆に富んだ報復と孤独の物語に、身も凍るようなアンビエントの波動を加えている。
「俺はライブパフォーマンスを想定して全部デザインしている。モーガンが楽曲ごとに形容詞を一つくれるから、俺は考えるんだよ、『そうか、ここでみんなが一息ついて、ここでリスナーが飛び上がるくらい驚かせたいんだな』って感じにね」とバルデローズ。
地元・ピッツバーグ
ピッツバーグ出身で初めてグラミー賞にノミネートされたロックバンドは、高校時代の些細なことで口論になるのだが、始まりは大抵、口論を引き起こすバンド・バトルの一件。モーガンは「生徒は勝負するために誰かに投票しなくちゃいけなかった。あの年は俺たちに投票するやつが一人もいなかったけど、そういう連中も今じゃ問題ない。俺らの町はずっとサポートしてくれているんだ」と言う。
彼らはピッツバーグを離れる気はないし、自分たちで築き上げた居場所を捨てる気なんてさらさらない。結局、このバンドは何年も自分たちだけですべてを実行してきた。中には小学校から一緒に過ごしているメンバーもいる。子供の頃の成績表や通知表に書かれた行儀の悪さで競い合い、バルデローズが休憩時間を取り上げられたことを今でもはっきりと覚えている。「学校のやつらは俺が好戦的なやつだと言っていた。俺はフェンスに泥を投げただけなのにさ」と、茶色の長髪に隠れた顔でクスクス笑いながらバルドローズが言う。ちなみに、彼の茶髪はグラミー授賞式当日はショッキングなエイリアンブルーに染められていた。
バルデローズはショックな出来事から立ち直りつつある。先週、タンパで、パスポートとコンピュータ、バックアップ・ファイル入りのハードドライブまで含む、いくつかの電子機器を詰めたバルデローズのバックパックが忽然と消えた。FYAフェストへの出演を終えた直後のことだった。これは、つまり2ndアルバム『I Am King』以降のオリジナル素材がすべて消えたということであり、西海岸ツアーが始まるまでの1週間で、バルデローズはすべての素材を作り直さなくてはいけないということだ。
バルデローズは次のように言う。「俺にとって、あれはレコードを作り直している作業とほぼ同じだった。『Forever』用の補助サウンドを新品のコンピュータのメモリに再構築して、リミックスするわけで、それにはボイス・サンプルもあるし、ドラム・サウンドもあるし、それ以外のさまざまなサウンドがある。この経験で精神が崩壊する直前まで行ったけど、今の俺のセットアップとワークフローは前よりも良くなっているよ」
バルデローズがその工程を説明し始めたとき、モーガンが割って入ってきて、それとは無関係のバンド・ビジネスに関する話、つまりモーガンがバルデローズの助けを借りてデザインしたバンドグッズの色について話し始めた。「どのレコードにも特有の色がある。今のグッズの色はライムグリーンなんだけど、本当ならハンター(hunter)じゃなきゃダメなんだ」とモーガンが説明する。そして、ロードランナーを退職したアート・ディレクター、リンダ・カスネッツからもらったパントンスワッチ(色見本)を取り出した。扇子を開くようにこれを開いた彼は自分がほしい色を指し示す。「この色に名前を付けてほしいよ。でなきゃ、正しい色を指定できないんだよ」とモーガン。
労働組合の主催者の息子であるモーガンは、子供の頃に父親と一緒にプラカードを作り、デモ行進に参加していた。その時の経験がベースとなり、彼は冷酷なスタイルのリーダーシップを発揮しているのだろう。「管理人や保障組合の人たちとよく活動していて、俺はいつでも活動場所に連れて行かれた。ほんと、天気が悪くてもお構いなしで。だから、今では人が悪態をつくと、ある種の感情を抱くようになっているんだ」
「馬鹿なことをして、自分自身や自分の生活を制御できなくなるのが怖い」
「私たちのことが好きな人たちも、私たちのことを知っている人たちも、ロードランナーとの契約は好ましい前進だと思っているよ。このレーベルのサポート態勢はすごいけど、私たちは自分たちのやり方でやらなきゃダメだってことも理解してくれている。だって、10年間、自分たちで音楽を作り、アートワークやグッズのデザインをし、プロモーションもやってきた。だから、これを会社の事務所でやるつもりはない。だってツアー中にこのバンドに夢中なファンをリアルタイムで見られるんだから。この仕事って本当にいろんな仕事がたくさん組み合わさってできているんだよ」と、メイヤーズが説明を加える。
モーガンはコミットメントと繰り返しを好むが、一番好きなのがコントロールだ。彼とゴールドマンが3年前に柔術を習い始めた理由もこれだ(バルデローズも習っていたが、始めて2〜3カ月で片腕が関節から外れてしまった)。ツアーに出ていないと、彼らは町の反対側にある小さなジムに週6日通う。「正直な話、俺はそういう枠組みがないとダメになっちまう」とモーガン。ほぼ毎日のジム通いに加えて、彼とゴールドマンは(そしてメイヤーズも)薬物のないライフスタイルを選んでいる。このおかげで何カ月間も続くツアーに耐えられるスタミナがつくと彼らは言うのだ。
ドラッグとアルコールをやらないとはいえ、彼らにも彼らなりに嗜好する悪癖がある。モーガンはカフェに寄って内なるコーヒースノッブを満たし、ゴールドマンと私は向かいのスーパーでお菓子の詰め合わせを物色している。帰宅途中の車でモーガンが「俺は生まれてからこの方、ずっとストレートエッジだ。危ないものに手を出したことが一度もない。でも、自分は中毒気質だってことに気づいている。とにかく、馬鹿なことをして、自分自身や自分の生活を制御できなくなるのが怖いんだ」と言う。
ここでゴールドマンが「悪いんだけどさ、お前らのどちらかが今すぐこのクッキー袋を開けなきゃ、俺、まじでキレちゃうぞ」と割り込む。
物語は始まったばかり
夜行便でニューヨークからロサンゼルスへ到着した彼らのグラミー賞の朝は、映画『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』のように始まる。グラミー授賞式への招待など滅多にないこととを知っているため、彼らはメシュガーとのツアーを抜け出して授賞式へとやってきたのである。マンハッタン・ホテルに待機している美容師とスタイリストの精鋭チームが挨拶に来たが、自分たちの服の選択がどんな結果になるかを知るのは後のことだ。授賞式後、「持ってきた服を着て、互いを見て、初めてアホな格好だって気づいたよ」とバルデローズが白状する。
Photo by Getty Images
結局、コード・オレンジは最優秀メタル・パフォーマンス賞の金色のトロフィーを持って立ち去ることは叶わなかった。受賞したのはマストドンである。しかし、彼らは学びのときとばかりに、授賞式がTVで放送されている間はそこにいることにした。ケンドリック・ラマーの過激なパフォーマンスに驚嘆し、それ以外の時間は睡魔と戦い続けた。
「授賞式に参加したのは、私たちの存在をアピールするためだし、私たちの音楽に注目を集めるためだった。ほんと、世界は本物のヘヴィー・ミュージックを見逃しているって思う。私たちは受賞しなかったけど、人々に知ってもらえたはずだよ」とメイヤーズ。
レッドカーペットの上で、いつものようにメイヤーズは若い女性ミュージシャンとしての成功を手短に説明した。「私がグラミーにいることがすべてを物語っているよ」と、メイヤーズは授賞式でローリングストーン誌に語った。そして、「でも、私には誰にでも同じ機会を与えてくれるコミュニティがあった。若い女性にはサポートが必要だし、若い頃には同世代からの励ましが必要なんだ。あと、若い男性には両親が示す良いロールモデルが重要だね。私の場合、同世代の人たちは持って生まれた才能の公平性を疑わなったし、私も疑わなかった」と続けた。
今、コード・オレンジはピッツバーグの自宅に戻っている。そして、彼らは角をこれまで以上に鋭く研いでいる。ツアー終了後の小休止中の今、モーガンはこれから2カ月間を新曲づくりに費やす計画だ。柔術の紫帯を取得するために頑張るし、次のグラミーに向けてのプロットを練ることも忘れない。「今回が俺たちの最高点にはさせない。これまでより大きな世界へ踏み出す最初の一歩だと思っているからね」と言って、モーガンはこう続けた。
「今、俺たちの物語を話す必要なんてあるかい? 10年後ならもっとクレイジーな内容になっているはずだ。この物語はまだ始まったばかりなんだよ」
【関連記事】「DOWNLOAD JAPAN 2022」タイムテーブルとステージマップ公開
from Rolling Stone US
<INFORMATION>
「DOWNLOAD JAPAN 2022」
2022年8月14日(日)千葉・幕張メッセ
時間:OPEN 9:30 / START 10:30
料金
VIP:35000円(入場チケット+VIP特典)
スタンディング:18000円(別途1ドリンク代)
【タイムテーブル】
OPEN 9:30
9:45-10:15:BAND-MAID(Opening Act)
10:30-11:20:The Halo Effect
11:50-12:40 :Code Orange
13:10-14:00:At The Gates
14:30-15:20:Soulfly
15:50-16:40 :Steel Panther
17:10-18:00:Mastodon
18:30-19:30 :Bullet For My Valentine
20:00-21:50:Dream Theater
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