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スネイル・メイル×J・マスキス(ダイナソーJr) フジロックで実現した夢のオルタナ対談

Rolling Stone Japan / 2022年8月26日 12時0分

左からリンジー・ジョーダン、J・マスシス(Photo by Kazma Kobayashi)

スネイル・メイル(Snail Mail)とJ・マスキス(Dinosaur Jr.)、フジロック2日目に登場した二人による夢のオルタナ対談が実現。熱狂のパフォーマンスを見せた両者が、苗場での初顔合わせで大いに語り合った。

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「ダイナソーJrのJ・マスキスと、スネイル・メイルの対談企画があるんですけど……」と編集部から声をかけてもらった時、それ対談になるんでしょうか?と心配の方が大きかった。30年以上にわたりオルタナ・ギター・ゴッドの名をほしいままにするJは超絶シャイ(過去何度か取材立ち合い経験あり)。そのJとは30歳以上年齢差のあるスネイル・メイルことリンジー・ジョーダン。現在23歳のリンジーは10代半ばから音楽活動をスタート、16歳で発表したEP『Habit』がニューヨーク・タイムズなどのメディアで称賛され、2018年、名門インディのマタドールからデビュー作『Lush』をリリース。エレキギターを片手に、10代の心情をストレートに歌う姿は世代を超えた共感を勝ち取った。2021年発表の2nd『Valentine』では、同性愛者であることをカミングアウトしている彼女が体験した大失恋を主題に赤裸々な歌を聴かせている。

そんなふたりによる対談、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが大好きなリンジーにとっては、ケヴィン・シールズが敬愛してやまないJとの初対面ということにもなるわけで、もちろん共通で話せる話題は多々あろうが、短い時間でどこまでいけるのか……という不安を抱えたままその日はやってきた。しかも両者のスケジュールの都合で取材時間は二転三転。それでも、最初に現場に現れたリンジーの天真爛漫な笑顔を見て「このノリで行けばJも気持ちよく話ができるんじゃないか」と思ったのだが……やはりスタートしてしばらくは、筆者含めそこにいたすべての人が手さぐり状態。そんな緊張感と、次第にふたりの口が滑らかになっていく安堵感も味わって頂きたく(苦笑)、ほぼノー・カットでお届けする。Jとリンジーが語る、LGBTQ、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、ギター・ゴッド、フェンダー、ライブMC克服法……お楽しみください。


Photo by Kazma Kobayashi


Photo by Kazma Kobayashi

―今日は基本的に対談という形なんですけれど、まずリンジーからJに、この機会に聞きたいと思っていたことはありますか?

リンジー(以下L):それは難しい質問だなあ……。

―おふたりは初対面ですよね?

リンジー&J・マスキス:そう。

―リンジーは、いつ頃からダイナソーJr.を聴いていたんですか?

リンジー:15歳くらいだと思う。

―ダイナソーで好きな曲は何ですか?

リンジー:「Start Choppin」かな。いつも頭の中で響いている。ダイナソーの曲で、初めて聴いた曲かもしれない。だから一番印象に残っているのかも。



―Jは、スネイル・メイルの音楽を聴いたことはありますか?

J:あるよ。

―どう思いました?

J:………(本人を前に言いづらいよ風な笑顔)

全員:ハハハ!

―難しい質問でしたね(笑)。でも若い女の子がギターを弾いて歌うというのは、同じギタリストの先輩として嬉しいんじゃないですか?

J:そうだね。最高だよ。とても機敏(nimble)だと思った。

リンジー:機敏??(爆笑)

J:そう思ったね。ジミー(・ファロン)の番組か何かでキミの演奏を観たときに、キミの指が「ヒュルヒュルヒュル〜♪」って素早く動いていたから、「この人は機敏だな」と思ったんだ。かっこいいと思ったよ。

リンジー:機敏かぁ!!(笑)。(訳者註:nimbleという言葉自体が少し古くさい、かわいらしい言葉なのでそれにウケているのだと思われる)



ライオットガールとLGBTQについて

―リンジーはミュージシャンを志すにあたってメアリー(・ティモニー)の指導を受けたそうですね。

リンジー:そうだよ。1年間くらいメアリーに習ってた。

―メアリーとJはもしかして面識があるのではないかと思いまして。

J:いや。

―彼女もボストン出身ですよね?

J:メアリーは知らない。

―ヘリウムというバンドのメンバーです。

J:バンドは知っているけど、出身までは知らないよ(笑)。ロードアイランドかもしれないし。知らんけど。

リンジー:あー、ロードアイランドっぽい。



―彼女(メアリー)たちが90年代にライオット・ガールの一派として活動していたのをJは見てきているわけですよね?

J:うん。

―そして今、ガールというだけでなく、よりジェンダーフリーな環境でみんなが自由になり始めました。

J:そうだね! ライオット(暴動)を始めたよ!!

―若い世代は、LBGT……LGBTQを含め、おおらかに表現の自由も主張しています。

リンジー:その通り!

―すみません、ついLGBTQの言い方を間違えてしまいました(苦笑)。

J:アルファベットの文字が増えたからね。

リンジー:すっごくいっぱいあるよ。

J:数字もあるし文字もある。

リンジー:数字もあるの? とにかく、そう言ってくれてありがとう!


Photo by Kazma Kobayashi

―90年代当時に比べたら今の方が自由な空気があることは、実感しますか?

J:俺には全く分からないよ。俺には発言の自由が元からあったからね。

リンジー:確かに、自分がティーンエイジャーだった時にライオット・ガールを聴き始めてから、EPを3枚作るくらいまでの間に変化があった。最初は、(恋人について歌うときに)「She/Her」を使って、自分がゲイであることを曲の中でオープンに歌うのに対して違和感があったけど、今では音楽をやっているゲイの人がいっぱいいて、特にタブーだとはされていない。自分も特に壁を乗り越えないといけないとは感じない。ゲイのコミュニティの中で、のんびりやっている感じ。自分はそもそも声を高らかにあげるタイプじゃないんだ。シンプルに音楽をやっているゲイの一人としてやれているから、ある程度楽になったと思う。それはすごくいいことだと思うよ! ヘイトクライムに巻き込まれる不安とかもない。


Photo by Kazma Kobayashi

J:(通訳が筆者に同時通訳しているのを見て)通訳は、司会の人に実際どういうことを伝えているんだろうね。

リンジー:ハハハ、そうだね!

J:ヒッヒッヒ!

通訳:97%くらいは伝えてますよ!

リンジー:そうだろうね。

全員:ハッハッハ!

理想のギタリスト像を語り合う

―ギターの魅力は、どんなところだと思いますか? 自分がギターを弾いているのはなぜだと思いますか?

リンジー:自分は5歳からギターを弾き始めて、最初はクラシック・ギターを習っていたんだ。自分はチームスポーツに向いてなかったから、ギターは趣味みたいなものでやっていた。ひとりでもやれる何かがよかったんだ。しかも常に何かをやっていないと気が済まなくて、練習に関しては強迫神経症(OCD)みたいな感じだったから、練習の鬼だった。音楽は昔から大好きで、ギターに魅力を感じたんと思う。ドラマーだったらひとりでは限界があると思うし。別に「ソングライターになりたい!」と思って始めたわけじゃなくて、常にギターを手にしていたから、自然に曲を書くようになったんだよね。

―Jはどうですか? なぜ、ギターを弾き続けているのですか?

J:俺は作曲するためにギターを始めた。俺の地元の街にいるギタリストたちは、俺が聴きたいような音楽を誰もやっていなかった。最初はドラムをやっていたんだけど、ドラムは他の人に教えて、演奏してもらえると思った。でも、自分が求めているようなサウンドを出してくれるギタリストは見つからなかったんだ。ジャズっぽ過ぎたり、俺の背景や嗜好を理解してくれなかったから、自分でギターをやることにしたんだ。新しい曲を書いて、新しいバンドを始めることにした。俺はハードコアのバンドでドラムをやっていたんだけど、ハードコアの時代はもう終わったような気がしたから、何か新しいことを始めよう、違うことをやろうと思ったのさ。

―今ではオルタナ界のギター・ゴッドになっていますけれど……リンジーもそう思いません?

リンジー:もちろん!

J:まあ、そうだね。

全員:(Jの複雑な表情がおかしくて)ハハハ!!!!

―実際のところ、大勢の人があなたをギター・ゴッドのように見ていることに対しては、どう思いますか?

J:そんなことは考えたことがないよ。

―違和感はありますか?

J:あるね。

リンジー:キャハハー!!

J:ハハハ。自分では、そんなこと思わないし、たとえ思っていたとしても、あまりそういうことは考えないよ。

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―ギタリストとしての自分はこうありたい、という理想はありますか? 

J:ギターの音だけを聴いて、それが誰のギターか分かるのはクールだよね。

―そのために必要なことは何ですか?

J:自分のスタイルやヴォイスを持っていることじゃないかな。自分のヴィジョンとか。

リンジー:今のJの答えはよかったね。自分は思い付かなかったけど、いい答えだと思った。自分はまだあんまり多くの音楽をリリースしていないけど、長いキャリアがあったとしたら、自分が誇りに思える音楽がたくさんあって、クールだと思える音楽があることが一番だと思う。現時点ではあまり想像できないけれど、キャリアをずっと続けていけるだけの作曲ができるということかな。答えになってる? でも、音を聴いただけで演奏者を認識することができるサウンドを持つという(Jの)考えはすごく気に入ったよ! すごくクールだな。

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―リンジーから見てJのギターは、どこがかっこいいと思いますか?

リンジー:Jみたいなギターを弾く人は他に誰もいない。すごく独創的で、かなりエモい。それが好き(笑)。メロディにフォーカスされていて、馬鹿みたいにシュレッドしまくる感じじゃなくて、すごくセンスあるシュレッドだと思う。革新的なシュレッドのやり方だと思う。自分もシュレッドに興味があるんだけど、センスがよくて、革新的なもので、自分の興味をそそるものじゃないとイヤなんだ。スティーヴィー・レイ・ヴォーンみたいのはイヤ。あ、それは撤回する。どのバンドの悪口も言ってないよ!

J:俺は(悪口を)言えるよ。俺はスティーヴィー・レイ・ヴォーンのライブを観たことがあるんだ。

リンジー:よかった?

J:まあまあかな。彼の帽子がよかった。

リンジー:ハハ、どんな帽子?

J:カウボーイ・ハットみたいなやつ。アンプがたくさんあったのがよかった。でもアンプの前にプレキシガラスが置いてあって、その意図が掴めなかった。最後の2〜3曲くらいで、彼はプレキシガラスを蹴飛ばしていたんだけど、なんでライブの最初からそうしなかったんだろうと思ったね。そのコンセプトが意味不明だった。



リンジー:アンプの前にプレキシガラスが置いてあるのは見たことないな。

J:俺はあるよ。ブルースのアーティストは、時々やってる。バンドにサウンドマンがついている場合は、サウンドマンの言うことなら何でもやるのさ。「こうした方が音が良くなる」とかなんとか言われて。知らんけど。スティーヴィー・レイ・ヴォーンのライブは、まあまあだったよ。単調で全部同じに聞こえたけど。バンドも結構つまらなかった。

リンジー:想像つくわ。

J:別に悪くなかったけど、今まで観たライブの中で最高だったとかそういうのではなかったね。パンクのお客さんがたくさんいたよ。当時の彼のスタイルに魅力を感じていたんだろう。

リンジー:マジで? なんで??

J:スティーヴィー・レイ・ヴォーンの服装がかっこいいからクールだと思われていたんじゃないかな。よく分からないけど、パンク・ロックの人たちに人気だった。

リンジー:それは意外。

J:カウボーイ・ハットをかぶって、おしゃれな感じだったよ。パンク・ロックの女の子に人気だった。

リンジー:全然そういうイメージじゃなかった。

―スタイルが自分とは全然違っても、魅了されるギタリストはいますか?

J:もちろんいる。今、考えてみたけど思い付かなかった。(しばらく考えている)誰とは今、答えられないけれど、そういう人は確かにいるよ。そもそも、スタイルは人それぞれだからね。

―それも含めて、最近、魅了されたギタリストはいますか?

J:今は思い付かないな。

―リンジーは? 最近のお気に入りを教えてください。

リンジー:アレックス・Gはすごく好き。あと最近の人じゃないしギタリストでもないけれどビル・フェイの音楽も好き。

フェンダー談義、ライブMCの苦労話

―Jからリンジーに聞きたいことはありますか?

J:なんで(フェンダーの)ジャガーを弾き始めたの?

リンジー:フェンダーがあそこまで主流になる前から、自分はフェンダーを弾いていたんだ。両親の家の庭の芝を刈るバイトをしたり、メリウェザー・ポスト・パビリオン(メリーランド州にある屋外円形劇場)でバイトしたりして、ずっとジャガーを買うために貯金していたんだ。高校2年生くらいでやっと買うことができたよ。以前から音がかっこいいと思ってた。ジャガーのスイッチに関して、自分はまだまだ理解が足りないんだけど、昔から魅了されていた。シューゲイズも大好きだし。それにジャガーの見た目もかっこいい。

J:かっこいいよね。俺がギターを買った時も、見た目ではジャガーの方が良かったけど、演奏はジャズマスターの方が良かったからジャズマスターにした。

リンジー:ジャズマスターもやばいよね。自分はジャズマスターの世界に関してはまだビギナーなんだけど、大好きだよ。


Photo by Kazma Kobayashi

J:ピックアップが3つある、変な新しいモデルを知っているかい?

リンジー:ノヴェンタでしょ? 自分もよく分からなかったんだけど、弾いてみたら大ファンになった。

J:そりゃいいね。

リンジー:すごくかっこいいよ。音もすごくいい。できることなら、ずっとそれを弾いていたいくらい。自分はチューニングに時間がかかるから、ギターのテクニックをもっと向上させたい。ステージに立っているときも観客に何を話せばいいのか分からなくて。

J:俺だってそうだよ。

リンジー:だよねー!!

J:ステージに立つとすごく緊張して、すらすら喋れなくなる。だから、何かしらのノイズを出した方がいいと思って、ギターのチューニングをするんだ。

リンジー:ペダルをONにしたままでやるの?

J:ああ、ライブ中にノイズがしている状態をキープするためにやってるんだ。音が出ない状態でチューニングをやるのは怖いよ。

リンジー:自分はそうやって(音を出さずに)チューニングしてた。だからチューニングにすごく時間がかかって、それでも音を出すと外れていたりして。気が短いのか、お客さんが待っているのに、悠長にチューニングしている余裕がないんだよね。それにステージに立っているときは、自分から何か言わないと、「金返せー!」とか言われそうな気がして。

J:まったくだよ。クックックッ。

リンジー:だから何か言わないといけないと思って考えるんだけど、何も思いつかない。

J:俺は昔、ライブ中に「サンキュー」っていうサンプルを作ってループさせて、ペダルから出していたことがあったよ。曲と曲の間にペダルを踏んで「サンキュー、サンキュー」って音をずっと出してた。

リンジー:アハハハ!!!

J:お客さんは後半、頭がおかしくなりそうになっていたけど、楽しんでくれたと思う。

リンジー:それはいいね。マイクを通してやるの?

J:ギターを通してだよ。アンプに入れて。マイクに向かって「サンキュー」と言ってサンプルにしてから、ギターを弾いたときにアンプからそのサンプルが出るようにした。

リンジー:この前スペインでライブをやったときに、お客さんには全く意味が通じないことを言っちゃったんだ。でもステージ上から何か言わないといけないと思って。地元の友達たちには絶対ウケるやつなんだけど、スペインのお客さんには何のことだか全く分からなかったみたいで完璧にシラけた。「髪の毛や身体の毛を全部剃って、ステージ上で生の七面鳥みたいなポーズになったら、生の七面鳥に見えるんだよ」って言って、地面にそうやって寝転んだんだ。

J:クックックッ。

リンジー:足を身体の中にしまい込んで、羽を突き出して、「ターキー・タイム(七面鳥の時間)だよ!」って言った。でも観客は全くのノー・リアクションだった。

J:アンディ・カウフマン風だね。

―おふたりともMCには、結構苦労しているんですね(笑)。(筆者註:この後リンジーはWHITE STAGEで簡易版ターキー・タイムを披露するも撃沈した)では、最後に日本のファンに何か言いたいことはありますか?

リンジー:音楽を聴いてくれてありがとうってことかな。日本に来ることができて嬉しい。フジロックに出演できるバンドはあまり多くないと思っているから。少なくとも、自分の周りでは、来日できるバンドや友達ってそんなにいないんだよね。だから今回日本に来ることができたのは驚きだったし、嬉しかった。日本は最高だし。

―Jが、そんなに緊張しているとは思わなかったので、ちょっと驚きです。

J:そうなんだよ。

―今日は「フジロ〜ック!」と叫んでいただければ……。

J:うーん。それなら、今から酒を飲み始めた方がいいだろうな。

全員:アッハッハ!!!

この後、屋外での撮影となり席を立った。ふたりは歩きながらMC苦手話の続きをし、それが終わるとアンプやらケーブルやら機材についての話を撮影中もずっとしていた。にこやかに、楽しそうに。


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Photo by Kazma Kobayashi



スネイル・メイル
『Valentine』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12100



ダイナソーJR.
『Sweep It Into Space』
発売中
詳細:http://bignothing.net/dinosaurjr.html

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