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サマーソニック総括 「失われた時間」からの復活、新しい時代へのメッセージ

Rolling Stone Japan / 2022年8月27日 10時0分

The 1975(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

8月20~21日にかけて開催され、多くの反響を呼んだサマーソニック。音楽ライター・ノイ村が東京公演2日間の模様を振り返る。

【写真を見る 全143点】サマーソニック ライブ写真まとめ(記事未掲載カット多数)

今年の2月15日、サマーソニックの第1弾アーティストの発表と併せて掲載されたクリエイティブマン代表の清水直樹氏のコメントには、次のような言葉があった。

「失われた時間は戻って来ませんが、この夏その埋め合わせをするチャンスを下さい」

失われた時間とは、言わずもがなだが、前回のサマソニが開催された2019年から現在に至るまでの約3年間を指す。その詳細についてはスマッシュ×クリエイティブマンの対談記事に詳しいが、正解の見えない状況において、何とか「来日公演の復活」を目指そうとしたプロモーターの方々の尽力が無ければ、連日のように新たな来日公演がアナウンスされ、フジロックとサマソニに追加される海外アーティストを楽しみに待つという今年の状況を迎えることは無かった。

2020年の開催延期、そして中止を経て、昨年開催されたスーパーソニックは、ZEDDやスティーヴ・アオキといった著名な海外DJ/プロデューサーをヘッドライナーに迎えた久しぶりの洋楽フェスティバルであり、復活の狼煙でもあった。そして、The 1975とポスト・マローンを筆頭に、「失われたフェスティバル」となってしまった2020年のスーパーソニックのラインナップを踏襲して帰ってきた今年のサマーソニックは、もはや単なる「埋め合わせ」ではなく、フジロックの洋楽ラインナップの復活と併せて、この国における洋楽文化の復興を示す祝祭のように感じられた。

そして、遂に訪れた当日。約3年ぶりに訪れたサマソニは楽しく、そして美しい瞬間に満ちたものであると同時に、「この時間の中で、私たちは何を失っていたのか」を思い出す時間でもあった。



1日目・8月20日(土)

東京会場に到着してまず最初に実感したのは、その客層とスタイルの幅広さだ。老若男女・国内外を問わないのは大前提とした上で、バンドTシャツとタオルを身に纏った、いわゆる「フェスファッション」のような身軽で動きやすい服装の人々もいれば、街中を歩く時と同様と思わしきファッションでカジュアルに過ごしている人々もいる。ステージに出演するセレブリティと負けず劣らずのハイファッションで見事に決めている人々だって珍しくはない。邦ロックの熱狂に身を投じようとする人もいれば、憧れの海外アーティストに会うために全力で自らをドレスアップしてきた人もいるし、落ち着いた音楽を聞きながらリラックスして過ごそうという人もいる。そのどれもが「サマソニの楽しみ方」であり、アクセスの容易さと過ごしやすさ、世界屈指とも言えるラインナップの幅広さを兼ね備えたサマソニだからこそ実現出来るであろうこの景色に、実際にライブを見る前から「サマソニが帰ってきた」という感情が湧き上がってくる。

国内外の様々なポップ・カルチャーと、それを愛する様々な人々が一つの場所に合流する交差点。それこそがサマーソニックであり、感慨に浸るとともに、長い間、私たちは互いに交わることの無い日々を過ごしていたのかもしれないと思ってしまう。


マネスキン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


マネスキン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

そんな多種多様なオーディエンスの注目を一身に集めたのは、何と言っても初登場にして最大規模ステージであるMARINE STAGEへの出演となったイタリア発の若手ロックバンド、マネスキンだろう。昨年、ロックバンドとして異例中の異例とも呼べるほどの世界的大ブレイクを果たしたその勢いは、この日本にもしっかりと届いており、開演前からその客席は見事に埋まっていた。その期待に応えるかのように、バンド側も1曲目から代表曲の「ZITTI E BUONI」を惜しげもなく投下。会場中に響き渡る爆音のギターリフが、一瞬で観客の期待を凄まじい熱狂へと変えてしまう。マネスキンの音楽の魅力と言えば、ロックの持つダンス・ミュージックとしての快楽性や旨味を追求し、そのハイライトだけを詰め込んでしまったかのような貪欲で本能的な音楽性だが、そんな楽曲の数々が凄まじい音量で、荒々しく、それでいて快楽のポイントは的確に抑えた上で連発されるのだから、会場はみるみるうちに熱狂の渦へと雪崩込んでいく。途中、機材トラブルに見舞われる場面もあったものの、そのグルーヴは途絶えることなく会場中を支配し続け、大ヒット曲である「I WANNA BE YOUR SLAVE」によって、この狂乱のパーティーは見事な大団円を迎えた。

【関連記事】マネスキン、サマソニの伝説的ライブで体現した「新世代のロック」と「平等意識」


ビーバドゥービー(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ビーバドゥービー(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

一方、自然体のままで、リラックスしながらMARINE STAGEを魅了したのは、フィリピン出身、ロンドン育ちのシンガーソングライター、ビーバドゥービーだ。自身が多大な影響を受けたという90年代のオルタナティブ・ロック由来のヒリヒリとしたバンド演奏と、音楽制作のルーツでもあるベッドルーム・ポップを織り交ぜながら、その透明感に満ちた美しい歌声をスタジアム全体に響かせていく。特に「Last Day on Earth」ではストーン・ローゼズを彷彿とさせるサイケデリック・ポップな音像の中で、可愛らしいアライグマのぬいぐるみを背負いながら伸び伸びとしたパフォーマンスを披露し、会場全体のムードをより自由で緩やかなものへと導いてくれた。


ケイシー・マスグレイヴス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ケイシー・マスグレイヴス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

シンガーソングライターと言えば、この日は現代のメインストリームを代表する存在となったケイシー・マスグレイヴスもSONIC STAGEに登場。そのソングライティングの素晴らしさによって、カントリー・ミュージックという枠を超えて愛されている彼女だが、この日は誕生日前日ということもあってステージ全体がお祝いムード。ポジティブな雰囲気で満ちた空間の中で、ゆったりとした余裕から生まれる包容力と共に、「Golden Hour」などの至高のポップ・ソング群をじっくりと聴かせてくれた。

The 1975とリナ・サワヤマが提示したもの

この日、筆者が最も楽しみにしていたのは、これが初来日公演となる、新潟生まれ、イギリス育ちのリナ・サワヤマのステージだ。開演前からMARINE STAGEの客席は並々ならぬ熱量に満ちていたが、美しく真っ赤に輝く衣装を身に纏ったリナの圧倒的な存在感、そして「Dynasty」の壮絶な歌声と圧巻のサウンドスケープを前に、スタジアム全体が一瞬にして彼女の世界へと変貌する。その後も、激しいハードコア・サウンドと共にマイクロアグレッションや(特に日本人女性に対する西洋男性からの)ステレオタイプの押し付けに対する怒りを爆発させる「STFU!」、マイノリティ(より具体的にはLGBTQ+コミュニティ)にとってのこの世、すなわち地獄で踊るためのダンス・チューンである「This Hell」など、メッセージとエネルギーが渾然一体となったハイブリッド・ポップの数々が、音源を遥かに超える熱量とともに次々と炸裂していく。


リナ・サワヤマ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

冒頭のMCにおける「他の人をジャッジしないで下さい。This is a safe zone.」という言葉に象徴される通り、リナはこの場に集まった一人ひとりを、圧倒的なパフォーマンスによって祝福していた。だが、彼女には、現代を代表するポップ・アイコンとして、この日本でパフォーマンスする上で言わなければならないことがあった。
 
「私はバイセクシュアルで、それを誇りに思っています。でも、日本で同性婚をしようとしたら、出来ないのです。何故かというと、日本では同性婚が禁止されているからです。G7の中でも唯一、一つだけ、一国だけ、そのprotection(保護)が無い国です。LGBTの差別を禁止する法律が無い国です。私は日本人であることを誇りに思っています。だけど、これはすごく恥ずかしいことです。私と私の友達、Chosen familyを受け入れて、平等な権利を持つべきだと思う人たちは、皆さん、私たちと、私たちのために戦ってください。LGBTの人たちは人間です。LGBTの人たちは日本人です。愛は愛。家族は家族です。一緒に戦ってください。よろしくお願いします」(筆者書き起こし、一部調整)


リナ・サワヤマ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


リナ・サワヤマ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

そう語り、”Hey girl, you are what Ive been looking for,”(ねぇ、貴女をずっと探していたんだ)」と歌う「LUCID」、そして原曲以上にアンセミックな高揚感に溢れたレディー・ガガ「Free Woman (Rina Sawayama & Clarence Clarity Remix)」へと繋いで迎えた大団円は、間違いなくこの日最大のハイライトだろう。また、ライブ直後には幕張メッセ内でサイン会が実施され、貴重なコミュニケーションの機会を手にした多くのファンが、サインを貰う僅かな時間の中で懸命に本人への想いを伝えていた。絶え間なく激しい分断と争いが続く2022年の今、愛に満ちたそのパフォーマンスを実際にこの目で観れたこと、そして実際に会い、言葉を交わせたこと。その意味は果てしなく大きい。


The 1975(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

この日を締めくくるのは、来る新作『Being Funny In A Foreign Language』(邦題:外国語での言葉遊び、10月14日発売予定)のリリースを控え、新たな季節を迎えつつあるThe 1975だ。2013年にSONIC STAGEの(オープニングアクトを除いて)1番手として出演してから9年が経ち、今や本国のイギリスどころか世界を代表するロックバンドへと成長した彼らが、5度目の出演にして遂にヘッドライナーとしてサマソニの舞台に立つ。その時点で感慨深いものがあるのだが、実はこの日はバンドにとって約2年半ぶりとなるパフォーマンスでもあった。スタジアムを埋め尽くした観客の多さに驚き、感謝の気持ちを示しながら(フロントマンのマティいわく「今までのバンドの歩みの中でも一番クレイジーな出来事」。どうやら今回のステージを前に相当ナーバスになっていたようだ)、たっぷり90分に渡ってこれまでのキャリアを横断するグレイテスト・ヒッツが惜しげもなく披露されていく。


The 1975(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


The 1975(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

(筆者個人として)The 1975については、そのビジュアルやアルバムのタイトル、そしてまるで一人の登場人物の人生における風景をそのまま切り取ったかのような楽曲の数々から、どこかフィクショナルな、ある種の映画的な存在感を持っているように感じていたのだが、今回のステージにおける徹底的に白黒にこだわった演出や、まるでとあるバーで演奏しているかのようなバンドの佇まい、そしてどこか過剰にも思える、まるで「カメラに撮られていることを前提としている」かのようなマティの表情は、その印象をより強固なものへと変えた。今回のパフォーマンスは、もはや自分自身もその映画の一部分となったかと感じさせるほどの体験であり、その中心で(日本酒を飲みながら)危うさを感じさせるほど赤裸々に自らの感情を垂れ流していくマティの姿を見ていると、楽曲の中で語られる人物の風景を実際にこの目で見ているのではないかと錯覚してしまう。だが、形式こそキャッチーなポップ・ソングでありながら、限界まで鋭利に鳴らすそのバンド・サウンドに神経を刺激されていく内に、やがてその中にある感情と共に、空間全体のエネルギーが膨張していくことを実感していく。

終盤の「Love It If We Made It」「People」「I Always Wanna Die (Sometimes)」という流れは、まさにそのエネルギーがピークへと到達した瞬間であり、映写機そのものが爆発して壮絶な光を放ったかのような圧倒的な感覚がスタジアムを覆い尽くす。キャッチーで可愛らしい新曲「Im in Love With You」の初披露といったサプライズもあったものの、何よりもそのパフォーマンスの成熟ぶりに驚かされる、まさに圧巻のヘッドライナー公演だった。

2日目・8月21日(日)

金曜夜のソニックマニアから参加していたということもあり、ここまでの時点で凄まじい情報量(と移動による疲労)に圧倒されてしまっているのだが、せっかくのサマソニなのだから休むわけにはいかない(とはいえ、初日深夜のミッドナイトソニックは断念してしまったのだが……)。東京2日目も見どころは満載で、結果として初日よりも会場中を走り回ることになった。


セイレム・イリース(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


セイレム・イリース(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

昼間のSONIC STAGEに登場したセイレム・イリースは、某巨大企業に対する皮肉と上手くいかない恋愛模様を重ね合わせた「Mad at Disney」がTikTokで絶大なバイナル・ヒットとなった、今注目のカリフォルニア生まれのシンガーソングライターだ。今回はバンドを率いての出演だったのだが、嬉しいサプライズだったのは、そのバンドがゴリッゴリの激しいロック・サウンドを鳴らしていたこと。特に、NFTや仮想通貨の動向ばかりを気にする男子を皮肉った「crypto ₿oy」におけるオルタナティブ・ロックの爆発力は抜群で、チャーミングな歌声やパフォーマンスと相まって、ポップで痛快で自由なステージを繰り広げてくれた。

また、ライブの後半で披露した「PS5」では、なんと楽曲で共演しているTOMORROW X TOGETHERからヨンジュンとテヒョンが登場。この数時間後にメッセ側の最大規模ステージであるMOUNTAIN STAGEで一部入場規制となるほどの圧倒的なパフォーマンスを披露した彼らだが、ここでは仲の良いセイレムと一緒ということで、どこかリラックスしたムードだ。3人で仲良くステージを歩きながら、美しい歌声と可愛らしいダンスで観客を魅了していた。

セイレムに限らず、今のメインストリームの音楽シーンを見ていて感じるのは、もはや「ジャンル」というのはトレンドに左右されるものではなく、表現する上での単なる選択肢に過ぎず、受け手側もそれだけで何かをジャッジすることは無いということ。それは昼間のメッセを駆け回りながら観た、Se So Neon(セソニョン)とイージー・ライフのステージでも強く実感出来るものだった。


Se So Neon(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


Se So Neon(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

2017年にデビューした韓国のSe So Neonは、3ピースという最小限の編成ながら、ブルージーなロックからニュー・ウェーブ、さらにはシューゲイザーまで幅広いバンド・サウンドを自由自在に披露し、ギターを弾くことの喜びを全身で表現しているかのようなギター・ボーカルのファン・ソユンの快活なパフォーマンスと、常に一定の心地よい温度感を保ち続けるリズム隊が織り成す絶妙なグルーヴで、(急遽の出演であったにも関わらず)見事に観客をその世界へと引き込んでいく。


イージー・ライフ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


イージー・ライフ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

同じく2017年デビュー組でUK出身のイージー・ライフは、バンド編成でありながらもヒップホップやR&B、レゲエなど幅広いジャンルの音楽の影響をそのまま溶かし込んだかのような、すべてを自らのバイブスに身を委ねるかのような楽曲とパフォーマンスで、まるで自宅で見る白昼夢のような音像が巨大なMOUNTAIN STAGEを丸ごと飲み込んでしまう。どちらのバンドも、今までにありそうでなかった、今の時代だからこそ味わえるであろう、ユニークで、自由で、何より楽しさに満ちた瞬間に溢れていた。


ヤングブラッド(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ヤングブラッド(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

この日、そんな自由なムードを誰よりも体現していたのが、今回が初来日公演となるUK出身のヤングブラッドだろう。近年のポップ・パンク・リバイバルの系譜に位置するその音楽性は、爽快でエモーショナルでキャッチーなものであり、真っ昼間のMARINE STAGEと相性が悪いわけがない。だが、彼の本質は、自らを特定の型にはめず、あらゆる垣根を破壊したクレイジーなショーをすることにある。というわけで、冒頭の「Strawberry Lipstick」の時点でリミッターは解除。巨大なステージを縦横無尽に駆け巡り、幾度となく絶叫を繰り返し、間奏では感情の赴くままにギタリストにキスをし、時にはチャーミングな表情やセクシーな動きを披露し、一方で疲れている観客の姿を見つけるとすぐに手を差し伸べるという優しさを見せながら、徹底的にあらゆる方向から観客の感情を昂ぶらせていく。以降もその勢いは全く止まることなく、「Parents」や「The Funeral」といった代表曲の数々を披露していく内に、やがてスタジアムにはカオスで一体感が生まれていった。

そんな彼のパフォーマンスを見ていると、(彼自身も大きな影響を受けたと語る)マイ・ケミカル・ロマンスのジェラルド・ウェイの姿が重なって見えた。ジェラルドがそれまでのマッチョイズム的なロック・シーンの常識を打ち砕き、多くの社会に馴染むことが出来ずにいる人々を救済したように、ヤングブラッドは(それ以上に多くの壁を破壊しながら)一人でも多くの人々が「ここにいてもいいんだ」と思える空間を作り上げていく。ポップ・パンクリバイバルのムーブメントにおける、単なるノスタルジーや音楽性の模倣ではない、その時代から受け継がれた意思そのものの継承を強く感じられる、クレイジーでありながらも感動的な光景がそこにはあった。

CL、ZICO、メーガン、ポスティの存在感

前述のSe So NeonやTOMORROW X TOGETHERに象徴される通り、今年のサマソニのラインナップは例年以上にアジアの音楽シーンを見せることに力を入れたものとなっている。その中でも目玉はやはり、2000年代から韓国の音楽シーンを支え続け、世界へと発信していったCL、そしてZICOというレジェンドの出演だろう。


CL(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


CL(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

DJがプレイする硬質なクラブ・サウンドとラグジュアリーな衣装によって完全に戦闘モードと化しながら、ダンサーと共に「Doctor Pepper」や「HELLO BITCHES」等のアンセム群を惜しみなく投下したCLのステージと、バックバンドを率いて(抜群のキレは保ちながら)自然体なパフォーマンスを披露し、時には観客と親密なコミュニケーションを取りながら、時にはスペシャルゲストとして登場したSKY-HI、Novel Core、BE:FIRST、Aile The Shotaと楽しみを分かち合いながら会場全体を盛り上げていったZICOのステージは、対称的な光景でありながらも、両者ともにキャリアに裏打ちされた圧巻のパフォーマンスを披露してくれた。


ZICO(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ZICO(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

初日のリナ・サワヤマと並んで、個人的に今回のサマソニにおける最大の目玉と考えていたのが、アメリカ出身で、今や世界を代表するフィメール・ラッパーとして知られるメーガン・ジー・スタリオンだ。大のアニメ好きとして知られ、日本に到着してからも某アニメの記念展を楽しむ姿をSNSにアップしていたメーガンだが、その想いが初来日公演となる今回のパフォーマンスに反映されないはずもなく、なんと某美少女戦士を彷彿とさせるセーラー服姿でMARINE STAGEに降臨。衣装には自身の得意技でもあるトゥワークをしっかりと見せられるように大胆なアレンジも施されており、この時点で観客の心をガッチリと掴んでいた。


メーガン・ジー・スタリオン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

前週に最新アルバム『Traumazine』をリリースした直後という最高のタイミングで迎えた今回のステージだが、そのセットリストはこれまでの作品群からバランス良く楽曲をピックアップした、まさにグレイテスト・ヒッツと呼ぶに相応しいもの。元々、トラップからクラシックなビートまで幅広いジャンルのトラックを縦横無尽に乗りこなすことが出来る圧倒的なラップ・スキルによってキャリアの土台を築き上げてきたメーガンだが、ライブでもその魅力を遺憾なく発揮し、キレのあるフロウによって軽々とスタジアムを掌握していく。「Body」や「WAP」といった大ヒット曲による盛り上がりは勿論のこと、ハウス調の「Her」やオールドスクールな質感の「Plan B」といった新曲群も絶妙なアクセントとなっており、勢いだけではない、一つの完成されたショーを見事に創り上げていた。勿論、ここぞというタイミングで披露され、その度に観客が熱狂するトゥワークを筆頭に、ダンサーと共に魅せるメーガン自身の身体性の高さもまた、ショーを構成する極めて重要な要素だ。


メーガン・ジー・スタリオン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


メーガン・ジー・スタリオン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

リナ・サワヤマ(そして多くの他の出演者)と同様に、メーガンもまた、その時代、そしてそこに生きる人々と向き合い、楽曲やパフォーマンスを通してメッセージを発信し続けてきたポップ・アイコンの一人だ。今回のステージでは自らを”Hot Girl Coach”と位置付け、MCでは会場に集まった”Hot Girl”へ向けて声をかけ続けており、ヘイターへと中指を立てる「Whats New」の前には、次のような言葉が語られた。

「愚かな男たちに呼びかけるために、少しだけ時間を使う。私たちの体についてどうするべきか言ってくる奴ら。私たちはそんなの好きじゃない。言われっぱなしになんかさせない。女性たちよ、私たちは私たちのために立ち上がるべき。ここにいる全ての女性たち、私の東京 hottiesたちよ、もし誰もあなたのことを美しいと言わなかったとしても、あなたは美しい。あなたはうまくやれてる。滅茶苦茶イケてる。あなたは強い。私はあなたに感謝するよ。だから、今からヘイターたちにメッセージを送ってやろう」(筆者訳)

この言葉に熱狂し、中指を立てながら楽曲に合わせて踊る観客の姿。この瞬間もまた、間違いなく今年のサマソニにおける最大のハイライトの一つだった。ラストは自身にとって大ブレイクのきっかけとなった「Savage」のビヨンセを交えたリミックス・バージョンを披露し、改めて彼女が世界を代表するポップ・アイコンであることを証明し、圧巻のパフォーマンスは幕を閉じた。


ポスト・マローン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

「失われた時間を埋め合わせる」という今年のサマソニにおいて、ポスト・マローンほどヘッドライナーに相応しい人物はいないかもしれない。2020年の『スーパーソニック』のラインナップが発表された時、筆者を含む多くの音楽ファンは、当時のメインストリームを完全に支配していた彼の大ヒット曲の数々を大会場で楽しめることを心待ちにしていたのだから。

そんな彼のステージは、前日のThe 1975の映像・照明などの凝りに凝ったステージと比較するとシンプルそのもの。カメラはパフォーマンス中の本人と、盛り上がる観客席を同じくらい映すという、あくまでフェスティバルを中継する役割として機能しており、照明も鮮やかではあるものの、特に凝った仕掛けが用意されているわけではない(時折、パイロが噴き上がる場面はあったが)。何より、ステージに立っているのは片手にビール入りのプラカップを持った、Tシャツ&短パンというカジュアルな出で立ちのポスト・マローンただ一人である。セットリストについても、ほぼ1曲ごとにMCを挟む(そしてビールを飲む)という構成となっており、言ってしまえば、決して一つのショーとして作り込まれたものではない。1曲目を飾った「Wow」では頭の上にコップを乗せておどけてみせ、その後のMCで自己紹介と共に「これからクソみたいな曲をやって滅茶苦茶になるぞ」と言ってしまうほどだ。だが、我々に必要だったのは、この、まるで親しい友達の家に遊びに行った時のような親密な空間だった。


ポスト・マローン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

トラップ・ビートなどのトレンドのサウンドに合わせて、シンプルな楽曲構成と徹底的に自らの声の魅力を最大限に発揮するポスト・マローンの音楽性は、この時代における最もキャッチーな音楽であり、たとえ意識していなくとも、その生活を彩る身近な存在となっていた。だからこそ、この親密な距離感こそが、彼の音楽を味わう上でのベストな環境なのだ。だが、それすらもこの約3年の間は手にすることが出来なかった。曲を作った時の思い出話や、久しぶりにこうした場を楽しむことが出来ることへの感慨深さを語りながら、「Better Now」や「Circles」といった大ヒット曲を惜しみなく披露していく彼のステージは、まさに「かつてあったはずのハウス・パーティー」であるかのように感じられたのだ。

最後に披露された「Congratulations」では、昔から抱いていた夢を遂に実現させ、成功を手にした喜びを歌うリリックとシンクロするかのように、巨大な花火が次々と会場の上空に打ち上げられていく。それはまさに、約3年ぶりに復活したサマーソニック、そしてそれを再び楽しむことが出来た私たちに対する祝福以外の何物でもなかった。これ以上に完璧な幕切れが果たしてあるだろうか。「Yeah, we made it.」。そう、私たちはやってのけたのだ。


ポスト・マローン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

興味深いのは、ヘッドライナーを務めたThe 1975とポスト・マローンがそれぞれ、MCの中で「実はこの日のステージを不安に感じていた」と話し、スタジアムを埋め尽くした観客に向けて深い感謝の想いを伝えていたことである。思えば、今の状況はアーティスト側にとっても「失われた時間を埋め合わせる」ものなのだろう。約3年という時間を経て、音楽シーンも、人々の生活も、それぞれが大きな変化を経験して、それでも再びあの頃と同じように楽しむことが出来るのか。そんな不安を、アーティスト側も観客側も抱えながら会場に集まり、徐々に感覚を掴んでいきながら、お互いに分かり合っていったのだ。

だが、そんな久しぶりの再会を喜んでいる間も、時代の変化が止まることはない。いかなるジャンルであろうと音楽は時代を映す鏡であり、そこから逃げることはできない。むしろ、時代と、その中で生きる人々と向き合った上で、どのようなメッセージを発するのか。その選択はこれまで以上に大衆の注目を集め、アーティストの持つ魅力や表現の強度へと直結していく。それは、本文中で引用したリナ・サワヤマやメーガン・ジー・スタリオンのように、明確なスピーチとしての形を取るとも限らない(余談だが、これらの言葉についても、なるべく正確に受け取られるべきであるため、可能であれば実際に映像を観ていただきたい。今後、サマソニが放送されるタイミングでこのシーンが放映されることを願っている)。

例えば、セイレム・イリースが披露した「crypto ₿oy」には「NFTの動向ばかりをチェックするよりも、ロー対ウェイド事件のように他に議論するべきことがある」というメッセージが込められており、実際にNFTを制作し、その売上がThe Center for Reproductive Rights(生殖権と人権のために戦う非営利団体)に贈られるという背景を持った楽曲だ。また、ヤングブラッドはかねてよりパンセクシュアルを公言しており、ライブの冒頭で見せた男性ギタリストへのキスは、それがたとえLGBTQ+に関わる話題や情報を制限する法律を成立させた国であろうと構わず(むしろ敢えて)披露されるという、自身のスタンスを表明するためのパフォーマンスである。そして、マネスキンも「我々は家父長制の奴隷だ」と言い放つ「STATO DI NATURA」という楽曲を筆頭に、現代社会を「らしさ」で縛る規範に中指を立てながら活動を続けており、そのスタンスはステージ上で見せるファッション等にも反映されていた。

何より、今回のサマソニの出演ラインナップ自体が、The 1975の「ジェンダーバランスが適正なフェスティバルにのみ出演する」という要望の元に決められていったものである。これらはあくまでほんの一例であり、直接耳にした言葉だけではなく、この2日間で目にしたあらゆる光景に、様々なメッセージが含まれている。

冒頭で書いた通り、サマーソニックは国内外の様々なポップ・カルチャーと、それを愛する様々な人々が一つの場所に合流する交差点だ。だからこそ、この場所から発信されるメッセージは、フィルターバブルのような障壁を超えて、様々な人々へと広く波及していく。自ら築いた壁を超えて届く様々なメッセージと、それを目にした時に抱く様々な感情。それもまた、この約3年の間に失ってしまっていたものなのだろう。そしてこれからは、その感情を元に、私たち自身が新たな行動を起こしていく時間となる。

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