フジロックを震撼させたモンゴルの雄、The HUが語るチンギス・ハンとメタリカへの敬意
Rolling Stone Japan / 2022年9月2日 17時30分
モンゴルから世界へ。The HUは2019年のデビュー以来、驀進を続けてきた。ヘヴィなロックとモンゴルの伝統的な音楽をクロスオーバーさせた”フンヌ・ロック”でアメリカ・ヨーロッパに侵攻。2020年3月に予定された初来日公演は新型コロナウィルスの影響で中止になったものの2022年7月、フジロックで遂に日本来襲が実現した。最大のGREEN STAGEで繰り広げられたステージは大きな反響を呼んだが、その勢いに乗って9月2日(金)にリリースされるのが2ndアルバム『Rumble Of Thunder』だ。
ファイヴ・フィンガー・デス・パンチ、メガデスとの北米ツアーも決定。フンヌ・ロックの可能性を押し広げ、さらにパワーアップした新作について、Gala(モリンホール、ホーミー)とOno(パーカッション、トゥムルホール)が語った。
左から3番目がOno、その右がGala
–2020年3月の来日公演が中止になってから、どんな活動をしてきましたか?
Gala:コロナ禍でモンゴルの社会も打撃を受けて、バンド活動を思うように出来なかったけど、気持ちをポジティブに持って、ニュー・アルバムの制作に集中した。たくさんの曲を書いて、時間をかけてそれらを磨いて、さらに良いアルバムになったよ。ずっとツアーは出来なかったけど、仕事を失った人々のために単発でチャリティ・ショーをやったりもした(2020年6月)。
– 前作『The Gereg』(2020年)をフンヌ・ロックと定義していましたが、『Rumble Of Thunder』でもその路線を受け継いでいますか? フジロックでThe HUの音楽に初めて触れた音楽ファンに、アルバムの音楽性を説明して下さい。
Ono:俺たちがフンヌ・ロックを追求する姿勢は変わることがない。モダンなロックとモンゴルの伝統的な音楽を融合させるスタイルはThe HUが確立させたものだし、『Rumble Of Thunder』でさらに発展させて、新しいフェイズに進めることが出来たと考えているよ。アルバムにはより良い曲が収録されているし、演奏やアレンジも進化した。
Gala:新しい試みも幾つもやっているし、アルバムを聴いた人はきっと驚くだろう。早く日本のロック・ファンに『Rumble Of Thunder』を聴いてもらいたいね。
フジロックフェスティバル 22にて撮影(Photo by Taio Konishi)
–The HUはコーチェラなど、ヘヴィなバンドが主でないフェスにも出演してきましたが、そのことでアルバムの音楽に新たなインスピレーションはありましたか?
Gala:世界各地をツアーして、さまざまな人々の前でライブをやって、数々のアーティストの生の演奏に触れたことで、新しい経験と新しいフィーリングを得ることが出来た。ただ『Rumble Of Thunder』の曲はコーチェラなどに出演する前に書き上がっていたし、音楽面での影響はない。今回のフジロック出演からのインスピレーションも含めて、次のアルバムに反映出来ると思うよ。それと同時に、俺たちのフンヌ・ロックを世界中の音楽ファンに聴かせて、彼らにインスピレーションを与えることが出来たら最高だね。
–「This Is Mongol」「Upright Destined Mongol」「Black Thunder (Har Ayanga)」など、モンゴルをテーマにした曲が多く収録されていますが、アルバムを貫くテーマやコンセプトはありますか?
Gala:前作『The Gereg』から新作まで、ひとつのテーマで繋がれているんだ。モンゴルの文化や歴史、そして先祖への敬意を描いている。ただ、いわゆるコンセプト・アルバムではないし、ストーリーはないけどね。曲ごとに異なった視点から歌っているよ。
–「This Is Mongol」ではチンギス・ハンが”蒼き狼”として歌詞に登場します。彼は日本、そして世界でよく知られた歴史上の人物ですが、この曲を通じてどのようなステートメントをしようと考えていますか?
Ono:チンギス・ハンというと国外では野蛮人の戦国武将というイメージを抱かれがちだけど、彼は統治者として国に平安と繁栄をもたらしたことも事実で、それを広く知って欲しいんだ。
Gala:チンギス・ハンは世界で最もよく知られているモンゴル人だし、俺たちも彼のことを聞きながら育っている。世界の人々と共有出来る歴史上の人物なんだ。
–音楽面で新しい試みはありますか?新しい楽器や唱法は取り入れていますか?
Gala:ロックのギター、ベース、ドラムスとモリンホール(馬頭琴)、トゥムルホール(口金)などを融合させるスタイルは不変だし、新しい楽器などは取り入れていないけど、俺たちの演奏テクニックははるかに向上しているし、ロックとモンゴル伝統音楽のクロスオーバーもより洗練されたものになった。
Ono:演奏のスキルアップ、そしてより豊かなアイディアを取り入れることは大きなチャレンジだったね。
–「Black Thunder」は2019年頃からライブ演奏してきた曲で、新作からリーダー・トラックとして先行発表、ミュージック・ビデオを制作して、ツアー名も”Black Thunderツアー”と名付けるなど、バンドにとって重要な曲だということが窺えますが、どんなところが重要なのですか?
Gala:「Black Thunder」は我々が先祖から受け継いだものをさらに次世代に繋げていくことを歌っている。The HUというバンドのアイデンティティを表す曲だよ。 この曲はゲーム『スター・ウォーズ ジェダイ:フォールン・オーダー』サウンドトラックに「Sugaan Essena」というタイトルで、宇宙語バージョンを収録したんだ。そちらのバージョンでThe HUのことを初めて知る人もいるだろうし、そういう面でも重要だ。
–ゲーム『スター・ウォーズ ジェダイ:フォールン・オーダー』の5年後を舞台にしたTVシリーズ『オビ=ワン・ケノービ』はもう見ましたか?
Gala:アルバムのことで忙しくて、まだ見ていないんだよ。俺たちはみんなガキの頃から『スター・ウォーズ』の大ファンだし、時間を見つけて見るつもりだ。
フンヌ・ロックの可能性、メタリカへの敬意
–「Triangle」「Bii Biyelgee」はメロディやフックなど、The HUの最もコマーシャルな曲かも知れません。これはチャレンジでしたか?
Gala:それらの曲がコマーシャルかどうか俺には判らない。ただ良いと思う曲を書いて、プレイするだけだからね。ただ、このアルバムではフンヌ・ロックの可能性の幅を広げることが出来たと思う。フンヌ・ロックはヘヴィだったりメロディックだったり、さまざまなスタイルと適応出来るんだ。もちろんそれは決して楽な作業ではないけど、いろいろな試行錯誤を経てきたよ。「Triangle」は高揚感のある曲だ。この曲を聴いた人がみんなハッピーになってくれたら嬉しいね。
–プロデューサーDashkaの役割はどんなものですか?前作とはどう異なるでしょうか?
Gala:彼の役割は”すべて”だよ。楽曲や歌詞の共作やアレンジ、ミックスまで、あらゆる面で関わっている。俺たちのプレイについてもアドバイスしてくれるし、頼りにしている”軍師”だな。
Photo by Enkhbat Nyamkhishig
–モンゴルの人々はメタルの情報をどのように知るのですか? 中心となる雑誌やウェブメディア、レコード店、クラブなどはありますか?
Gala:市内にCDショップやクラブが幾つもあるし、ロックやメタルが載る雑誌もあるよ。インターネットで情報を得ることも出来るしね。まだフンヌ・ロックを専門に扱う雑誌はないけど、もっとバンドが増えたらあり得るかもよ(笑)!
–The HUのインターナショナルな成功に続くフンヌ・ロックのバンドは出てきましたか?
Ono:フンヌ・ロックはまだ新しいスタイルだし、アルバムをリリースしているのはThe HUぐらいだ。でも影響を受けて伝統的な楽器を取り入れているバンドが増えていることは事実だし、これからフンヌ・ロックのシーンが拡がってくるだろう。この流れが世界的なものになることを期待しているんだ。
Gala:モンゴルは広い国だし、内モンゴルと外モンゴルでも異なった文化・異なった伝統音楽がある。地方ごとに異なったスタイルのフンヌ・ロックが生まれたらすごくエキサイティングだね。
–メタリカの「Sad but True」と「Through The Never」をカバーしていますが、彼らにはどんな思い入れがありますか? ライブを見たことはありますか?
Gala:メタリカは長年のファンだし、特別の存在なんだ。去年アメリカのフェスティバルで同じステージでプレイしたよ(ケンタッキー州ルイヴィル”ラウダー・ザン・ライフ”フェスティバル)。自分たちの出番が終わって、ステージ脇から彼らのライブを見ることが出来た。最高だったし、地平線までお客さんで埋まっていて、人生最高レベルの喜びだったね。
–今後の予定は?
Gala:フジロックの後はオーストラリアと北米ツアー、そして久しぶりにヨーロッパを回るんだ。ヨーロッパではまだ行ったことのない国や都市でもライブをやるし、すごく楽しみにしているよ。その後はぜひ日本で単独ツアーもやって、世界にフンヌ・ロックの輪を拡げていきたい。それまで『Rumble Of Thunder』を聴き込んで準備して欲しいね!
The HU
『Rumble Of Thunder』
発売中
再生・購入:https://thehu.ffm.to/rumbleofthunder
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