吉田拓郎の音楽人生の締めくくり方、60代以降の楽曲とともに歩みを探る
Rolling Stone Japan / 2022年9月17日 7時0分
日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2022年8月の特集は「吉田拓郎」。今年でアーティスト活動に終止符を打つと表明した吉田拓郎の軌跡をたどる5週間。パート5では、拓郎の60代以降の楽曲とともに彼の軌跡を辿っていく。
こんばんは。 FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人・田家秀樹です。今流れているのは、吉田拓郎さんの「アウトロ」。6月に発売になったアルバム『ah-面白かった』の中の曲です。今月の前テーマはこの曲ですね。この曲を聞いていて、1ヶ所だけ謎がありまして。「言葉なんかに 変えてみても 伝わる何かあるじゃない」って歌っているんですね。このニュアンスは何だろう。伝わるものもあると思っているようにも聞ける。でも、こういう話を教えてくれないだろうなと思いながら、この謎が吉田拓郎なんだと思いますね。
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今月2022年8月の特集は吉田拓郎。今週は最終章。60代以降の曲ですね。いつの時代も、その年齢なりの一番自分らしい納得できる姿を求めてきた人。でも、変わっていないこともずっとありまして、何が変わってないかっていうと、歌に対して本当に正直な人。その都度その都度、その時思ってることを歌い切ってる感じがしますね。ですから、ずっとこうやって 聴いてると、それこそ言葉にする必要がないくらいに拓郎さんの気持ちが作品になってるように思えます。60代を迎えたとき、世の中を斜めに見ていた、斜に構えていた70年代の吉田拓郎はもういません。若者文化の騎手がどういう還暦を迎えたのか。今日の1曲目です。先週の1曲目「誕生日」という曲を思い出しながら聞いてください。
いくつになっても happy birthday / 吉田拓郎
先週の1曲目だった「誕生日」、どんな歌詞だったか覚えてらっしゃいますか? 誕生日など「祝ってくれるなよ」と歌っていたわけですが、この「いくつになっても happy birthday」は「人生の主役は君」「元気でいて下さいネ」って歌っている。自分のことというより、みんなのことを思ったりしながら歌ってる。そして、歳をとっていくことを、とても肯定的に捉えている。これは大きい変化だと思いますね。2001年3月発売、21世紀最初のアルバム『こんにちわ』から「いくつになっても happy birthday」お聴きいただきました。
前例のない音楽人生というのは、音楽活動だけではなくて、1人の人間としての波風、波乱に揉まれながら時を重ねてきてるわけですね。2003年、50代の終わりに肺がんが見つかりました。予想だにしなかった病気が襲ってきた。半年間の闘病を経てツアーに復帰します。そのツアーが2003年のツアー。TAKURO & his BIG GROUP with SEO、瀬尾一三さんと一緒に行ったツアーですね。2006年には、75年のつま恋、85年のつま恋に続いて、3回目のつま恋のイベント「吉田拓郎 & かぐや姫 Concert in つま恋 2006」が行われました。このときのファンが3万5000人かな。平均年齢は49歳だったんですよ。今は若者みたいなもんでしょう(笑)。当時49歳というのは大人。前例のない大人のフェスって言われたんですね。そういう意味では、年齢という部分でも、ずっと最前線にいたのが吉田拓郎というアーティストだったと言い切ってしまっていいと思います。還暦を迎えて最初のアルバムからお聴きいただきます。
2009年のアルバム『午前中に・・・』の中の「ガンバラナイけどいいでしょう」、「真夜中のタクシー」をお聴きいただきました。「ガンバラナイけどいいでしょう」は、当時の心境でしょうね。がんを克服して還暦を迎えてからの心境。世の中には頑張れない人がいるんだと、頑張らなくてもいいじゃないかというメッセージですね。「真夜中のタクシー」は、音楽の遊び。こんなに自由に曲を作って、こんなに自由に歌っている。この曲は傑作だと思ってるんですが、あまり評価されなかったみたいですね。
話がちょっと前後するんですけど、2006年のつま恋のときに一番思い出すことがありまして。最後に何の曲を歌うか、周りのスタッフも含めて、やっぱり「人間なんて」でしょうという声があったんです。でも拓郎さんはそれだけはしないと、ずっと言い続けたんですね。なぜかというと、お客さんが「人間なんて」を聴きたいと思ったら俺の負けだ、若い頃の再現じゃないんだこれは、若い頃の追体験ではないんだ、若い頃の俺をどこまで超えられるか。俺は今、「人間なんて」と戦ってるんだという話に感動した覚えがあります。大人のラブソングとは何か、その答えのような曲を聞いていただこうと思います。2012年8月発売、66歳のときのアルバム『午後の天気』から「慕情 」「清流 (父へ)」お聴きいただきます。
慕情 / 吉田拓郎
2012年8月に発売になったアルバム『午後の天気』から「慕情 」「清流 (父へ)」。2曲とも、あなたに向けて歌ってる曲。見えない敵と戦ってるという感じはありませんね。「慕情」は今を一緒に生きている人で、「清流 (父へ)」は元々94年の映像のために作られたんですね。『名前のない川~安曇野の四季~』という綺麗な安曇野の風景が収められた映像のために書かれた曲で、その時は「清流」というタイトルだけで、 (父へ) というサブタイトルはついてなかったんですね。『午後の天気』に入ったときに、この (父へ) というサブタイトルがついて、そういう歌だったんだって改めて思ったという曲ですね。
72年、大ヒットしたシングル『旅の宿』のB面に「おやじの唄」という歌があるんです。これは当時20代前半の歌ですから、「死んで初めて僕の胸を熱くさせてくれましたよ」という、ちょっと反抗的な気分が残りながら親父が亡くなってしまった、複雑な気分を歌ってる歌だった。言ってみれば生意気な若者にとっての父親の歌だったんですね。「清流 (父へ)」は、最初で最後でしょうね。父上に許しを請う歌ですね。これは (父へ) というサブタイトルがついたことで聞こえ方がかなり変わりました。そういう意味では、いつの時代でも、そのときに最初で最後の曲を書き続けてきたのが拓郎さんだったんではないかと思ったりもします。68歳のときのアルバム『AGAIN』からお聞きいただきます。
2014年に発売になったアルバム『AGAIN』の中の新曲「アゲイン(未完)」でした。セルフカバーのアルバムだったんですが、この曲だけ新曲だったんですね。このアルバムの後にツアーがあったんです。「吉田拓郎 LIVE 2014」。ここで「アゲイン(完)」という曲が披露されました。つまり、今お聴きいただいた曲にはなかった2番の歌詞が付け加えられておりまして、そこには「僕らの夢は 想いのままに 歩き続けて 行っただろうか」「欲しかったものたちに 届いたでしょうか 走り抜ける風を つかめたでしょうか」という歌詞があって、一番最後に「僕らは今も自由のままだ」という歌詞が付け加えられてたんですね。この「僕らは今も自由なままだ」っていう言葉にライブを聞きながら感動した覚えがあります。
2014年、当時は公になってなかったんですが、喉に異物が発見されて、2ヶ月間抗がん剤治療をしていた時期があったと後になって明かされるんですね。2014年のツアーの「流星」で彼は涙ぐんで歌えなくなってしまうんですけど、そういうこともあってそうなったのかと後でわかった。なかなかそういう話をしない人でもありますね。
2016年、2019年とツアーを経て、今年の6月に発売になったオリジナルアルバムが『ah-面白かった』。初回盤にDVD が付いてまして、インタビューが載ってるんですね。そこのインタビューの中で、「このアルバムが最後ですか?」と聞かれて、 拓郎さんは「うん」と答えております。このアルバムを一緒に作ったのが、音楽人生の最期を共にしている武部聡志さんと鳥山雄司さん。2人がプロデュースアレンジ。そしてKinKi Kidsの2人、篠原ともえさん、小田和正さんという人たちが、いろんな形で参加しております。KinKi Kidsの堂本剛さんがアレンジとギターを担当した「ひとりgo to」、そして小田和正さんが一緒にコーラスをしている「雪さよなら」、2曲続けてお聴きいただきます。
吉田拓郎さんのアルバム『ah-面白かった』からKinKi Kidsの堂本剛さんがアレンジとギターで参加した「ひとりgo to」、そして小田和正さんがコーラスで加わっている「雪さよなら 」。KinKi Kidsと小田さんですよ。KinKi Kidsとの出会いは拓郎さんの人生を変えたということでしょうね。LOVE LOVE ALL STARSで会って、若い世代の代表と初めて心を開いて会話ができた。心を許しあえた、信頼し合えた。そういう2人だったんでしょうね。堂本光一さんは、今回のアルバムの題字を書いています。そういう意味では最新の人間関係、それが KinKi Kidsの2人、そして篠原ともえさんだった。
小田さんは一番古い同じ時代を生きてきた友人。「雪さよなら」は1970年のアルバム『青春の詩』に入ってて、その後に猫がカバーしてヒットした曲ですね。小田さんがオフコースでデビューしたのも1970年なわけで、同じ時代をずっと生きてきて、お互いまだ認め合っていて、どこかで意識し合ってるようにも思える、そんな2人ですね。初回版の映像、ドキュメンタリーがついておりまして、小田さんがこの「雪さよなら」を拓郎さんと一緒にコーラスをやろうよって申し出ているシーンが入っておりました。小田さんが思い出作りだよ、という話をしてました。思い出作りのアルバムですね。最後に、最後なのかな、そのアルバムのタイトル曲をお聴きいただきます。
今回のアルバムのライナーノーツには、全曲についてのエピソードが書かれてるんですが、この「ah-面白かった」には、拓郎さんの奥様と、ご自分の母親に対しての思いが綴られておりました。「ケ・セ・ラ・セ・ラ」、そして「ah-面白かった」というのは、そういうお2人の会話の中で出てきた言葉だった。そんな話もありました。自分も、こういう「ah-面白かった」と音楽人生を終わりたい。そういうアウトロになりました。
FM COCOLO J-POP LEGEND FORUM、アーティスト活動に終止符を打つと表明した吉田拓郎さんの軌跡をたどる5週間、今週は最終章をお送りしました。流れてるのはこの番組のテーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。
自分の人生、アーティストにとって音楽人生をどう締めくくるか。ファンの人たちも含めて、そういうことを考えざるを得ない年齢に差し掛かっている中で、拓郎さんが一足先にこういう形を見せてくれたわけですね。今までも、いつの時代もずっと僕らの先を歩いていた。拓郎みたいに生きたいと思った方がたくさんいらっしゃったわけですが、そういう存在としてまだあり続ける、そんなアルバムなのかもしれませんね。
最後のアルバム。これはもう年齢的にどうなるかわかりませんからね。歌いたくても歌えないときもいつか来るんでしょうし、DVDのインタビューの中で言ってた、シャウトできるときに終わりたい。シャウトできなくなったら吉田拓郎じゃないんだということが、最後という決断をさせてる理由ではあるんだと思うんですね。今までも、このアルバムで終わってもいいという音楽人生を過ごしてきたんではないかなと思っておりまして、何度か最後という言葉を口にしたこともありました。でももし体力的な問題がなければ、この先もあるんではないかなと思ったりもしてるんですね。「ah-面白かった」と思ったんだけども、もっと面白いことがありそうだと思えたら、最後にならないんではないか。もちろん体力的なことがあるんで、やれなくなることがありますが、アーティスト活動という縛りがなくなると、自由な1人のミュージシャンということですからね。責任も軽くなるし、フットワークも自由になるし、もっと音楽を楽しめる。こんなに音楽の好きな人とは思われてないかもしれないですね。
拓郎さんは史上最も傑出していた人であり、同時に最も誤解されてる人なんじゃないかと思ったりもするんですね。そういう僕らも、ちゃんと吉田拓郎という人を受け止めてこれたんだろうか、理解できているんだろうかということには、まだ答えが出ませんが。ひょっとしてこの先まだ自由な活動というのが見られるかもしれないなと思いながら、最後のアルバムを聞いてみてはどうでしょうか? それまで僕らも元気でいましょう。
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
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