サメ映画ブームを超えるのはゴリラ映画ブームだ
Rolling Stone Japan / 2022年9月22日 11時55分
山﨑智之の軽気球夢譚(Tomoyuki Yamazaki presents The Balloon Hoax)」連載第4回……ということになると思う。サメ映画ブームを超えるゴリラ映画ブームへの予兆を検証する。
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2022年、世界的なサメ映画ブームが訪れている。このジャンルの金字塔である『ジョーズ』(1975)を頂点に幾多の作品が作られてきたが、現在のブームは『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』(2009)『ダブルヘッド・ジョーズ』(2012)『シャークネード』(2013)とそのシリーズに代表される、志の低さとまぎらわしさでおなじみ”アサイラム”社による低予算映画を軸としたもの。ダメダメさを鼻で笑いながら見る風潮は、ガチなサメ映画ファンからすると痛し痒しだろう。とはいえ、本家の続編『ジョーズ2』(1978)『ジョーズ3』(1983)『ジョーズ87復讐編』(1987)からして正編の名を汚しかねない出来映えだったし、便乗公開された『シャーク・トレジャー』(1975)、サメをクマに置き換えた『グリズリー』(1976)、タコに置き換えた『テンタクルズ』(1977)、シャチに置き換えた『オルカ』(1977)など、決して作品に恵まれたムーヴメントでなかったことも事実だ。
もちろんサメ映画だからといってダメな内容とは限らない。『ディープ・ブルー』(1999)や『海底47m』(2017)、『MEGザ・モンスター』(2018)、『マンイーター』(2022)などは真っ正面から評価されるべき作品だろう。ただ、どうしても色眼鏡で見られてしまう傾向があり、『海上48hours 悪夢のバカンス』(2022)などは”ちゃんとした”サメ映画であるにも拘わらず斜め目線を誇張した宣伝をされたりしていた。
そんな不遇な扱いを受けてきたサメ映画に対して、コンスタントに名作を生んできたのがゴリラ映画である。
その嚆矢であり頂点といえる『キング・コング』(1933)は巨大猿が美女に恋に落ち、死へと至るという普遍的なドラマ性、当時の最高峰の視覚効果、フル・オーケストラで映像とシンクロした史上初の本格”映画音楽”などにより映画史に残る名作として、公開から90年近く経つ今日でも愛され続ける作品だ。その影響は強く、1976年・2005年にリメイクされているのに加えて、正編と同じ1933年には続編『コングの復讐』が公開されているし、姉妹作『猿人ジョー・ヤング』(1949)も作られるなど、”コング系”がひとつの潮流として確立された。1976年版の続編『キングコング2』(1986)はかなり批判の多い作品ではあるものの、好き者のマニアからは人気が高く、『ビッグ・ヒット』(1998)でネタに使われたりもしている。
『猿人ジョー・ヤング』
実は”コング系”大国なのが日本だったりする。オリジナル『キング・コング』公開から間もなく『和製キング・コング』(1933)『江戸に現れたキングコング』(1938)が作られているし、東宝の『キングコング対ゴジラ』(1962)『キングコングの逆襲』(1967)、”ウッホ、ウホウホ、ウッホッホ♪”という主題歌がカラオケで歌い継がれる日米合作TVアニメ・シリーズ『キングコング』(1967)などがある。手塚治虫の漫画『キングコング』(1950)は現在封印状態だが、TVシリーズ『ウルトラQ』(1966)のゴローなども含め、その影響の大きさを窺わせる。
イギリスの『巨大猿怪獣(コンガ)』(1961)『クイーンコング』(1976)、イタリアのマリオ・バーヴァ監督による『ベビーコング』(1976/未完成)などは伝説的作品となっているし、女ターザン・サマンサが登場する香港の『北京原人の逆襲』(1977)、韓流+キングコング+サメ、とコストパフォーマンスが高く、巨大ゴリラがヘリコプターをぶち壊して中指を突きつけるシーンが有名な韓国製の『A*P*E』(1976)、秘境の原住民が歌って踊るバングラデシュの『バングラ・キングコング』(2010)など、”コング系”映画はグローバルな現象となっているのだ。
さらにもうひとつの大きなフランチャイズとなったのが『猿の惑星』である。ピエール・ブールの小説を原作とした映画は1968年・2001年・2011年に映画化、SFに社会風刺を盛り込んで人気シリーズとなり、1974年にはTVシリーズ化もされた。日本では似たような設定のTVシリーズ『猿の軍団』(1974)も作られており、この番組の主題歌で”何するものぞ”というフレーズを覚えたちびっ子も多かったのではなかろうか。
ゴリラ映画が魅力的な理由
ゴリラ映画が我々のハートを捉えるのは、以下のような理由が考えられる:
(1)サル(特に類人猿)の表情や思考パターン、手足の動作は人間に近いため、感情移入をしやすい。
(2)海中に住むサメと違ってサルは地上に住むため、建物やセットを破壊するスペクタクルを演出しやすい。
(3)天才的な視覚効果の職人に恵まれてきた。『キング・コング』(1933)のウィリス・H・オブライエン、『猿人ジョー・ヤング』(1949)のレイ・ハリーハウゼン、『キングコング対ゴジラ』(1962)の円谷英二、『猿の惑星』(1968)のディック・スミス、『キングコング』(1976)のリック・ベイカーなど映画史に冠たる偉大なスタッフが生命を吹き込んできた。
(4)映画というものが生まれる前からジョナサン・スウィフト『ガリバー旅行記』(1726)やエドガー・A・ポー『モルグ街の殺人』(1841)のように”人間のようで人間でない”類人猿の恐怖が植え付けられてきた。
近年も『キングコング 髑髏島の巨神』(2017)『ランペイジ巨獣大乱闘』(2018)『ゴジラVSコング』(2021)など”コング系”のクラシックスが生まれてきたし、『レディ・プレイヤー1』(2018)や『スペース・プレイヤーズ』(2021)にはキング・コング”本人”がゲスト出演している。
それ以外にも『縮みゆく女』(1981)『グレイストーク〜類人猿の王者〜ターザンの伝説』(1984)『ハリーとヘンダスン一家』(1987)、『愛は霧のかなたに』(1988)『コンゴ』(1995)、『猿人ジョー・ヤング』のリメイク『マイティ・ジョー』(1998)など傑作が多い。まさにサル(特にゴリラ)映画に駄作なし!なのである。
だが、そんな命題に真っ向から挑戦してくるのが輸入盤DVDボックスセット『Sons Of Kong』だ。米”アルファ・ホーム・エンタテインメント”から発売された本作(発売年が記されていないがたぶん2005年頃)は3枚のDVDに10本のゴリラ映画が収録されている。
その内訳は:
- 『The Ape』(1940/日本未公開)
- 『ジャングルの騒動 Bela Lugosi Meets A Brooklyn Gorilla』(1952/日本TV放映)
- 『ゴリラの脅迫状 The Gorilla』(1939/日本TV放映)
- 『ベラ・ルゴシの猿の怪人 The Ape Man』(1943/日本未公開)
- 『Bride Of The Gorilla』(1951/日本未公開)
- 『The Savage Girl』(1932/日本未公開)
- 『The White Gorilla』(1945/日本未公開)
- 『Law Of The Jungle』(1942/日本未公開)
- 『White Pongo』(1945/日本未公開)
- 『ゴリラ姫ナボンガ』(1944/日本映画祭公開)
というものだ。
いずれも巨大ゴリラではなく、着ぐるみの等身大ゴリラあるいはサル人間。都市部やジャングル(=スタジオ近所の森林)でゴリラが暴れて女性がキャーと悲鳴を上げる単純明快なストーリーは、複雑で面倒臭いストーリーに慣れた若い映画ファンには新鮮に映るだろう。
ドラキュラ伯爵のベラ・ルゴシが化学実験でサル人間になる『ベラ・ルゴシの猿の怪人』、フランケンシュタインの怪物のボリス・カーロフが住む田舎町をゴリラが襲う『The Ape』、オオカミ男のロン・チャニーJrと『怪獣王ゴジラ』(1956)で知られるレイモンド・バーが夢の共演を果たす『Bride Of The Gorilla』、フラッシュ・ゴードンのバスター・クラブが出演、ストーリー的にもけっこう気合いが入っている『ゴリラ姫ナボンガ』などホラー/SF/怪獣映画ファンならご存じの俳優が総出演するのも嬉しい。まあ、いずれも決して素晴らしく面白いものではないが、だいたい70分未満の長さのため、飽きて眠りに落ちる前に終わってしまうというメリットもある。
『The Ape』
14時間以上しみじみと低予算ゴリラ映画を見ることは写経に通じる修行ともいえるものの、全10作を見終わったときの達成感は何にも代え難い。
ちなみにこの『Sons Of Kong』、DVDパッケージが”飛び出す絵本”仕様で、立ちはだかる巨大ゴリラと逃げまどう美女が3-D化されているのもちょっとだけ嬉しい。
アサイラムの面目躍如
これほどの隆盛を誇るサル(特にゴリラ)映画ゆえ、志の低さとまぎらわしさでおなじみ”アサイラム”社が飛びつかないわけがない。
『キング・オブ・ロストワールド』(2005)は2005年版『キング・コング』に便乗して作られた作品だ。どこかのジャングルに墜落した飛行機の乗客がいろんなモンスターに襲われて、大トリとして巨大ゴリラが登場する。全般にCGがショボイのと巨大ゴリラがラスト10分ぐらいしか出てこないのが残念ではあるが、”アサイラム”にしてはかなり頑張っている。
さらに2021年には『ゴジラVSコング』にぶつける形で『ロード・オブ・モンスターズ 地上最大の決戦』を制作。原題が『Ape vs Monster』というあたりからも志の低さが伝わってくるが、CGが『キング・オブ・ロストワールド』から16年まったく進歩がなかったり、偽コングがぶち抜く”最先端研究施設”の壁に小学校の教室みたいな元素周期表が貼られていたり、偽ゴジラと偽コングが戦うのが最後の3分というのは、さすが”アサイラム”の面目躍如と言って良いのだろうか。
『ロード・オブ・モンスターズ 地上最大の決戦』
2024年には『キングコング 髑髏島の巨神』『ゴジラVSコング』に続く”モンスターバース”最新作として、キングコングとゴジラがタッグを組んで未知のモンスターを迎え撃つ作品が公開されると噂されている。そして”アサイラム”も志の低い便乗作品で我々を楽しませてくれるだろう。これからもゴリラ映画は新たなブームを巻き起こし続ける。
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