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追悼クーリオ 90年代を彩った「slippity-slide(しなやかに世間を渡る)」の美学

Rolling Stone Japan / 2022年10月5日 12時0分

1996年1月、アムステルダムのParadisoにて(Photo by FRANS SCHELLEKENS/REDFERNS/GETTY IMAGES)

さらば、偉大なるクーリオ。先日59歳でこの世を去ったラッパーの軌跡。90年代を代表するヒットメーカーにして、米西海岸のヒップホップ・シーンでもっとも愛された存在。1994年夏、クーリオは時代の流れを大きく変えた伝説のヒット曲「Fantastic Voyage」を携えて華々しく登場し、底抜けのユーモア、奇抜なドレッドヘア、遊び心あふれるビートで時代の代名詞となった。

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「slide-slide-slippity-slide」という歌詞のごとく、クーリオはあらゆる人々をプラス思考へと誘導した。彼の「Fantastic Voyage」や「1,2,3,4(Sumpin New)」といったヒット曲と比べると、当時のラジオから流れてくるネガティブな連中の曲はどれもうさん臭く聴こえた。



「Fantastic Voyage」はどのポップミュージックとも一線を画していた。当時はラップ系からロック系まで、どのラジオ局も負のスパイラルに陥っていた(この曲がリリースされたのはカート・コバーンの死からわずか数週間後だった)。クーリオは「Fantastic Voyage」の元ネタとして、中西部のR&Bバンド、レイクサイドによる1980年の快楽主義的なダンスフロアの名曲をひっぱってきた。秀逸なデビューアルバム『It Takes a Thief』に収録されたこの曲は、クーリオの出世作となった。本人も言うように、「ヒップがなければホップもない」。「俺は『It Takes a Thief』のおかげで仲間たちから気に入られた」と、2017年のローリングストーン誌の取材でも語っている。「それから『Gangstas Paradise』――あの曲で白人からも気に入られた」

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クーリオの「slippity-slide(しなやかに世間を渡る)」美学は当時新鮮だったが、今もしっかり根付いている。90年代ポップカルチャーで彼が開拓した独自路線は、1995年のティーンムービーの決定版『クルーレス』で見事に表現されている。映画の中で、アリシア・シルヴァーストーンとステイシー・ダッシュら女子軍団はクーリオの「Rollin With My Homie」に合わせてパーティに興じる。とくに印象的な場面のひとつでは、ブリタニー・マーフィ演じる周りから浮いたスケーター少女が、別れた恋人との思い出の曲だった「Rollin With My Homie」をバックに別離を嘆いて泣きじゃくる。

クーリオは決して歩みを止めることなく、突き進み続けた。ここ数年は家族と出演したリアリティ番組『Coolios Rules』や、WEB動画シリーズ『Cookin With Coolio』といったプロジェクトにも手を広げ、同名の料理本には本人が考案した「ゲットー・グルメ」料理のレシピが満載だ。「厨房のポン引き王」を自称する彼のレシピには、「ブロゲッティ・パスタ」や「チキンレタスロール」などがある。2017年には「俺は料理できるんだぜ。料理だったらラップと同じぐらい上手くやれる――ラップにも劣らない腕前だ」と語っていた。





「Gangstas Paradise」誕生秘話

もっとも有名なヒット曲といえば、1995年の「Gangstas Paradise」だ。スティーヴィー・ワンダーの「楽園の彼方へ」にのせてゲットー生活の苦難をラップしたこの曲は、ちょうど46年前のクーリオの命日の前日にリリースされた。ミシェエル・ファイファーの映画『デンジャラス・マインド』のサントラからの1曲で、ゴスペルシンガーL.V.が力強いボーカルを添えている。「Gangstas Paradise」はビルボード・シングルチャートで1位に輝き、その年の最多セールス・シングルとなった。彼がこの曲を書いたのは、プロデューサーがスティーヴィー・ワンダーの曲を演奏するのを耳に挟んだのがきっかけだった。2015年にローリングストーン誌とのインタビューで語っているように、「腰を落ち着けて曲を書き始めていた時だった。ベースライン、コーラスライン、フックが聞こえてきて、パッとひらめいた。『死の谷の影を歩きながら/人生をあらためて振り返ると、そこには何も残っていなかった』――こんな風にフリースタイルでのせていった。天上から降りてきたのを書き留めたのさ」

彼はその場でまるまる1曲を作り上げた。「俺は神様からの力添えだったと信じたいね」と、彼はローリングストーン誌に語った。「『Gangstas Paradise』がこの世に生まれたがっていたんだ。息を吹き込んでもらおうと、俺を媒介に選んだんだ」(この曲はのちにアル・ヤンコビック90年代最大のヒット曲「Amish Paradise」となった)。ライム部分の卑猥な文言にスティーヴィー・ワンダーが難色をを示すと、クーリオはオリジナルからそれらを削除した。ビルボード・ミュージック・アワード授賞式では、クーリオとL.V.にワンダーもステージに加わって、聖歌隊を交えながら両方のバージョンを見事に披露した。



アルバム『Gangstas Paradise』からは数々のヒット曲が生まれた。クール&ザ・ギャングのディスコビートに乗せて、TLCの「Waterfalls」のように安全なセックスを呼びかける「Too Hot」(「最初は計画したつもりでも、結局は筋書き通り」)。ダンスフロアへと誘う「1,2,3,4(Sumpin New)」――信じられないかもしれないが、当時この曲をリリースすることは、「Gangstas Paradise」以上に商業的に危険を伴っていた。微妙なバランスが要求されたが、クーリオは上手くやってのけた――ラップの評判を傷つけ得ることなく、軽快なパーティ・ポップジャムもこなし、「Kinda High Kinda Drunk」といった曲の直後に黒人女性への讃歌を並べてみせた(「For My Sistas」)。アルバムの最後は「The Revolution」と「Get Up, Get Down」の1・2パンチでシメ。クーリオほど様々な心境を難なく組み合わせることができるアーティストはそうそういない。『サブリナ』のような子どもTVドラマに出演したかと思えば、ニコロデオンのコメディ番組『キーナン&ケル』に主題歌「Aw Here It Goes」も提供した。


「金を稼げ。稼げるうちにね」

クーリオはヒット曲を送り出し続け、1997年にはパッヘルベルのカノンのループにのせて、亡くなった同郷の仲間を偲んでラップした「C U When U Get There」をリリースした。またカントリーの伝説的存在ケニー・ロジャースとタッグを組んで、現代版「ザ・ギャンブラー」とも言うべき「The Hustler」をデュエット。この曲はいかにも2001年らしいタイトルのアルバム『Coolio.Com』に収録され、ミュージックビデオでも共演した。2006年に『The Return of the Gangsta』で活動を再開した際には、「Gangsta Walk」でスヌープ・ドッグとも共演した。

クーリオは90年代をテーマにした番組やフェスティバルでも常に主役を張り、ライブの腕が落ちていないことを証明した。2017年の「I Love the Nineties」ツアーで、コネチカット州ブリッジポートのアリーナの楽屋で彼と話をする機会があった。期待にたがわず、クーリオはこれ以上ないほど気さくな男だった。彼はちょうど宝石を埋め込んだお気に入りのカスタムマイクの修理に忙しくしていた。「ライトセーバーならぬマイクセーバーさ」と説明してくれた。彼はまた細部にとことんこだわる男だった。「スヌープなんか、自前のマイクに6000ドルも払ってるんだぜ」。だが彼はローディー任せにはしない。電動ドリルとハンマー片手に自分で修理にいそしんでいた。「知らなかった? 俺は黒人マグガイバーなんだ」

クーリオはラップシーンについて、長い年月での変わりようについてあれこれ語った。だが他の同世代のラッパーとは違い、新世代のスターについて苦々しい思いは少しも抱いていなかった。「昔はクラックの時代だった」と彼は言った。「今はポスト・クラック時代――メタンフェミンの時代だ。マンブルラップの連中は、クラック時代の親から生まれた。多少常軌を逸しておかしなことをしたとしても、あいつらのせいじゃない。あいつらはバカもたくさんやるが、才能の煌めきもある」。彼らにアドバイスするとしたら? 「金を稼げ。稼げるうちにね」

マイクを修理し終わると、彼はエクスカリバーのように誇らしく掲げた。「マイクカリバーだ」と言ってマイクを振り回し、ロックスターのような仰々しいポーズをとった。サックス奏者のJarezが言う。「俺たちは彼を黒人ヴァン・ヘイレンって呼んでる。いわば、ゲットーのピーター・パンさ」

「バング・ヘイレンって呼んでくれよ」とクーリオ。「ギャング・バング・ヘイレンだ」 バング・ヘイレンよ、安らかに眠り給え。さらばクーリオ――偉大なるアーティスト。Slide-slide-slippity-slideよ、永遠なれ。

From Rolling Stone US


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