Ryohuが語る、ヒップホップとの出会いと創作哲学
Rolling Stone Japan / 2022年10月13日 17時0分
音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。ヒップホップシーンにとどまらず、様々なジャンルのアーティストとコラボを経てきたラッパーのRyohu。約2年ぶりの2ndアルバム『Circus』には総勢13組のゲストが集結。これまでの歩みを凝縮したかのような多彩な作品に仕上がった。その背景にある創作哲学とは?
Coffee & Cigarettes 40 | Ryohu
東京を拠点に活動するヒップホップクルーKANDYTOWN のメンバーとしても活動するかたわら、ソロ名義ではあいみょんやBase Ball Bear、ペトロールズそして朋友TENDREこと河原太朗など、多岐にわたるジャンルのアーティストとコラボレーションをしてきたラッパーのRyohu。10代からOKAMOTOSのメンバーらと組んだバンド、ズットズレテルズで名を馳せていた彼が、音楽に目覚めたのは小学6年生の頃。キングギドラの『最終兵器』を友人に聴かせてもらったのがきっかけだった。
「その前からレンタルCDショップで国内チャートの上位から順にアルバムを借りて、それをMDに入れて聴くなどしていました。でも、そういう行為自体が楽しかっただけで、音楽そのものにはそれほど興味なかったのだと思いますね。もちろんKICK THE CAN CREWやケツメイシのようなヒップホップのグループにも触れてはいたんですけど、『最終兵器』を聴いた時の衝撃は凄かったですね。今までと全く違う感覚というか、当時子供ながらにちょっと悪ぶりたい気持ちにもハマったのだと思います。そこからは、自分が好きな音楽を自発的に聴くようになっていきました」
Photo = Mitsuru Nishimura
国内のヒップホップはもちろん、当時日本でも大人気だったエミネムを入り口に、ジェイ・Zやスヌープ・ドッグなど海外のアーティストも掘り下げるようになる。しばらくはヒップホップ一筋だったRyohuだが、サンプリングソースを調べるなどしているうち、自然とブラックミュージックも聴くようになったという。
「友人がバンドをやっていたので、そこからロックにも興味を持つようになりました。とはいえ一番好きなのは相変わらずヒップホップで、のちにKANDYTOWNのメンバーとなるBSCやYUSHIとも音楽を通じて仲良くなりましたね。一緒にヒップホップのライブに行ったり、暇さえあればフリースタイルの真似事をしたりして。最初のうちは『恥ずかしくて(ラップなんて)無理』と思ってたんですけど、二人が延々とやっているから超ヒマなんですよ」
そんなRyohuに、最初の「挫折」が訪れる。ある日、ライブハウスで開催されているヒップホップのオープンマイク(飛び入り歓迎のイベント)を観に行った彼は、突然目の前にマイクを突きつけられる。その瞬間頭の中が真っ白になり、何一つ言葉が出てこなかったという。
「まさに映画『8マイル』の、最初のエミネム状態。あまりにも長い間黙りこくっていたら、そばにいたずっと年上のお兄さんが僕をフォローするようなラップをし始めたんです。もちろんそれは優しさからだったと思うんですけど。めちゃくちゃ悔しかったんですよね。そこからは本気でラップをやるようになっていきました」
Photo = Mitsuru Nishimura
ラップが上達してくると、今度はトラックメイキングにも興味が湧いてくる。DJプレミア(ギャングスター)が作ったインストトラックをMTR(マルチテープレコーダー)に流し込み、その上にラップを乗せるなど最初は見よう見まねで作っていたRyohu。しかし中学を卒業する頃には、現在の音楽性の基盤がすでに出来上がっていたという。
「高校に入ると部活が忙しくなってしまって。僕は小中高とバスケをやっていたので、その腕を認められて強豪校へ入学することができたんです。毎日練習に明け暮れていたので、あまり音楽に力を入れられなくなってしまったんですよね。もちろん毎日音楽は聴いていたし、続けてはいたのですが。本格的にやるようになったのは高校を卒業してから。親父に『音楽がやりたいので大学は行かない』と伝えたところ、『好きなことをやった方がいい』って。それでバイトしてようやくMPCとターンテーブルを購入し、本格的に曲作りを開始したんです」
そのうち、他のミュージシャンとも積極的にコラボをするように。トラックに生楽器を混ぜてみたり、MPCではなくパソコンで作ってみたりと表現の幅もどんどん広がっていく。
「父親の後押しもあり、大学へは行かずに音楽に専念していたけど、プロになろうという気持ちは当時全くなかったんですよね。楽しいからやっているだけ。友だちと遊びの延長で曲作りをする一方、バスケもやっていた。でも高校生くらいで『バスケはもういいかな……』と思って。音楽への熱は相変わらず冷めてなかったからこそ、続いていたというのもある。何か将来に対して明確なビジョンがあるわけでもないし、『今、音楽をやりたい』というただそれだけの気持ちだったと思いますね」
2010年には、Base Ball Bearの楽曲「クチビル・ディテクティヴ」(『DETECTIVE BOYS』収録)にてコラボ。ミュージックビデオにも出演するなど着実にスキルを身につけていた。この頃すでにソロデビューの話もあったのだが、結局は断ってしまう。
「周りに恵まれていたのもあって、ベボベ(Base Ball Bear)のツアーに帯同したり、武道館や音楽フェスに出させてもらったりしたのですが、自分がどうなりたいのかイメージできなかったんですよね。別に、音楽だけで飯が食えていたわけでもないのですが、それなりに充実していたんですよ。当時と今では環境もかなり違いますが、『楽しいからやってる』という気持ちは全然変わっていないかもしれないです」
そんなRyohuが、30歳を迎える節目の年に満を持してリリースしたのが1stソロアルバム『DEBUT』だ。
「昔はフットワークの軽さだけが取り柄というか。いつでもどこでも遊べたし、眠くもなかったし、お金はなくても時間は有り余っていたんですよ。でも大人になってみんな家族もできて、昔のようにはいかなくなってきて。このタイミングで何か、記録に残るようなアルバムを作りたいという思いが芽生えてきて。自分史を振り返るような、これまでの集大成的なアルバムを作ろうと思ったのが『DEBUT』だったんです」
Photo = Mitsuru Nishimura
そう言いながら、タバコに火をつけたRyohu。彼がタバコを吸い始めたきっかけは、映画だったという。
「映画の中の喫煙シーンって名場面が多いですよね。もともと好きでよく観ているのですが、例えばウェス・アンダーソン作品の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』では、グウィネス・パルトロウがタバコを2本くわえて火をつけ、そのうちの1本を手渡すシーンとかすごくよくて。あるいは若松孝二監督作『餌食』では、内田裕也さんがタバコのカートンを小脇に抱えているなど、タバコにまつわるかっこいいシーンが映画にはたくさんあるんです。というか、僕が好きな映画って全体的にタバコや葉巻を吸うシーンが多いのかも。ちなみにYONCE(Suchmos)とのコラボ曲『One Way』のMVは、僕らの喫煙シーンがたくさん出てくるので是非観てほしいです」
その「One Way」が収録された待望の2ndアルバム『Circus』がリリースされる。YONCEをはじめ、IO(KANDYTOWN)や佐藤千亜妃、Jeter、TENDRE、AAAMYYYそしてオカモトショウ(OKAMOTOS)など豪華ゲストが参加した、タイトル通りサーカスのように賑やかな作品だ。
「『DEBUT』はたった一人で気の向くまま自由に制作したアルバムだけど、人と一緒だとそうはいかないじゃないですか。リリックを書くときも、あまりパーソナル過ぎると相手が乗せづらいと思うし、より普遍的な言葉や共通のテーマを選ぶようになったりもして。逆に言えば、人がそこにいてくれるだけで自分の許容範囲も広がるというか。自分ひとりだと許せなかったことが、相手がいることで許せるようになったりするんです。やりながら試したいこともどんどん出てきたので、おそらく今後の曲作りにも活かせる気がしていますね。人とやること、その重みを噛み締めたアルバム制作になりました」
「他者」がいることで自分の可能性が広がっていく。それは、家族との関わりにも通じるものがあるのではないだろうか。
「確かに、それはあるかもしれないですね。妻や子供、犬や猫と接するときの自分はそれぞれ違いますし。そう、今は妻と子供だけじゃなく犬と猫も一緒に暮らしているんですよ。毎日が本当に賑やかで、家では音楽を聴く暇もなかなかないのですが、家で子供たちと遊んだり犬を散歩に連れ出したり、家族は『人間らしさ』を取り戻す場所なのだと思いますね」
『Circus』
Ryohu
Victor/
SPEEDSTAR RECORDS
発売中
完全生産限定盤:CD+7” ANG
11/2リリース
Ryohu ”Live Circus”
9月24日(土)栃木・宇都宮POWER 8
10月9日(日)岡山・VESTI
10月21日(金)大阪・GHOST
10月22日(土)兵庫・神戸NICE GROOVE
10月29日(土)福岡・VOODOO LOUNGE
10月30日(日)長崎・ホンダ楽器(DAY)
11月13日(日) 京都・KITSUNE KYOTO
12月2日(金)東京・恵比寿LIQUIDROOM
Rolling Stone Japan vol.20掲載
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