大江千里が振り返る、昭和から平成へ移り変わる時期の楽曲への想い
Rolling Stone Japan / 2022年10月9日 7時30分
日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2022年9月の特集は「大江千里」。1982年、関西学院大学2回生の時にCBS・ソニーオーディションの最優秀賞を受賞し、1983年にピアノを弾いて歌う男性シンガー・ソングライターの新星としてデビューした大江千里。80年代キャンパスカルチャーのシンボルとしてキャリアをスタートさせたその後もソングライターとして数々のヒット曲を残してきた。そんな彼をゲストに招き、「今だから語りたいマイ・ソング」をテーマに自薦した楽曲の制作秘話や思い出のエピソードを赤裸々に語っていく。パート2ではパーソナリティの田家秀樹とともに初のシングルコレクションから楽曲を振り返る。
田家:「FM COCOLO J-POP LEGEND FORUM」案内人・田家秀樹です。今流れているのは大江千里さんの最新アルバム『Letter to N.Y.』から「The Kindness of Strangers」。今月の前テーマはこのアルバムの中から毎週違う曲を選んでお送りしております。こんばんは。
関連記事:大江千里が今だから語りたいマイ・ソング、デビューから87年までを本人と振り返る
大江:どうも。
田家:新ためて『Letter to N.Y.』について触れておきたいんですが、7枚目のジャズアルバムで、アルバムの手応えみたいなものがかなりあるんでしょう?
大江:そうですね。コロナの時期にステイホームしていた際に、カシオのキーボードをアップルコンピューターに繋いで自分の家の好きな場所に移動して全部作ったんです。ベースを弾いているときも至福で自分は今ジャコ・パストリアスだと思ったり、マイルスなんだとかって音色に酔いながら、それっぽいことをやって詰め込みました。1人究極ジャズっていうか(笑)。
田家:(笑)。「The Kindness of Strangers」はどのようにできた曲ですか。
大江:僕がニューヨークに初めて行った頃、クワイエット・ストームってタイプの音楽がすごく流行っていて、渋い声のDJが「Oh~!City of the Lights」ってやってて。そういう世界観をやってみました。
田家:ニューヨークに初めて行ったのが89年の年末だった。
大江:そうです。横浜体育館でクリスマスコンサートをやったのが24日で、25日の朝の便でニューヨークに行ったので、ちょうど25日に着いたのかな。クリスマスなので、きっと5番街はきらびやかなんだろうなと思って。アメリカのクリスマスのことを全然知らなかったんですけど、25日は一番静かな日なんですよ。
田家:聖なる日ですもんね(笑)。
大江:5番街はほとんど明かりが落ちていて。僕はシェラトンに泊まったんですけど、寂しくて寂しくて、泣きそうになるぐらい孤独なクリスマスを過ごしました。
田家:そのときに曲を作ってらっしゃるんでしょう? 90年の「APOLLO」の原型はそのときにお作りになったっていう話がありましたよね。
大江:レコード会社が気を利かせてくれ、危ないからっていうんで、困ったときはってつけてくれたコーディネーターが、「明日からロンドン行っちゃうから、私のダウンタウンのアパートの鍵を渡すから勝手に住んでいいよ」って言ってくれて、そこに移ったんですよ。そしたらピアノがあって。雪が降ってきて、大きい窓をぐわあって開けて、雪が舞い込んでくる中作ったのが「APOLLO」って曲なんです。
田家:今日はその頃の話です。DISC2の中から「今だから語りたいマイ・ソング」と題して千里さんが選んだ曲をお聞きいただきます。88年6月発売のシングル「GLORY DAYS」。
田家:千里さんが選ばれた今日の1曲目、88年7月発売、7枚目のアルバム『1234』の1曲目「GLORY DAYS」です。
大江:これはよく覚えていますね。本当につらすぎて。詞を書くのに悩んで、2ヶ月半できなくて。だからやっと出来た喜びと、もうこのアルバムが最後でいい、もうこんな苦しいことしたくないって思ったんですね。
田家:『1234』は一番支持が高いアルバムでもあるでしょう?
大江:そうですね。うちの親父はポップ時代の僕に全く関心がなかったんですけど、僕がジャズを始めた頃ぐらいに実家に帰ったとき、親父の部屋に『1234』だけあってびっくりして。親父に「『1234』なんか聞いてんだ?」って言ったら、喉の器官をとっていて声がでなかったんですけど、「あのアルバムが一番いいな」って言うんですよ(笑)。他にもあるよって言ったんだけど、「あのアルバムがいい、クオリティが高い」って。
田家:お父様が声を振り絞って伝えた。
大江:言ってくれたんですよね。
田家:88年7月発売、7枚目のアルバム『1234』の中の「Rain」。これは89年のベストアルバム『Sloppy Joe』にも入っていたんですがシングルカットされていなかった。でも今年5月、34年ぶりにシングルになって。それで、このシングルコレクションに入ったんですよね。
大江:そうです。当時の松浦善博さんと箱根の温泉に行って、マランツのカセットに僕が作った曲を入れていって。最初の「Rain」の「言葉にできず」って始まったときにまっちゃんが泣き出して、「これは千ちゃん、ええ曲やで」って。それをすごく覚えていて。でもアルバムが出来上がったときに。やっぱりシングルは「GLORY DAYS」だろうってことになって。「それはわかるねんけど『Rain』がシングルになる時代が来たら音楽は変わる!」ってまっちゃんが力説しまして。
田家:情景の描き方がやっぱり千里さん上手いなっていう1曲でもあって。この曲は槇原敬之さんが2回カバーしている。槇原さん、こういう曲がやりたかったんだろうなって曲ですよ。
大江:ダリル・ホール&ジョン・オーツの「Wait For Me」のようなサビをやりたいなと思って。ホール&オーツにはとてもかなわないんだけど、「ずぶ濡れでも」とか「土砂降りでも」って鼻濁音がたくさん入っている。土砂降りのピチピチっていう音が聞こえてきそうな言葉を並べて、うまくサビを作ったんです。あとは2人が過去と現在を入り乱れながら、男が悔しさとか後悔とかも込めながらちょっと捨てゼリフを吐くって歌なんですけど。
田家:「泣きだしそうな空」と「肩が乾いたシャツ」と、ちゃんと時間の経過も織り込まれている。
大江:でも女性は、そういうの嫌いみたい。こういうことを言う男はいかがなもんか?って最近結構言われることがあります。
これから / 大江千里
田家:88年のシングル「これから」。いい曲ですね。
大江:ありがとうございます。僕も好きすぎて、思いのほかロックオペラみたいになっちゃって。これ西本明さんが編曲でタイミングが合えば彼とアルバムを作りたかったんだけど、このあと僕は『red monkey yellow fish』で清水信之さんとはっちゃけた方向に行くので。
田家:90年9月のアルバム『APOLLO』に入った。
大江:淡々とバラードを作ったんですけど、最初「夕暮れのニュータウン」っていう歌詞は「夕暮れの新宿」だったんですね。だけど、それをニュータウンって言葉に変えたら、故郷の町にぐっと入っていって。それぞれ日本にいっぱいある町で聞いてくれるといいのかなと思ったときに、僕が通っていた大阪の富田林高校の南大阪線、近鉄の単線のところにりんどうが咲いていたなと思って。
田家:「りんどうが看板にゆれる」という歌詞ですね。
大江:思い出して、じわじわあっちに飛んだりこっちに飛んだり、日本の原風景を手繰り寄せながら、東京やその街で夢を簡単になくしそうになっている自分を踏ん張れ踏ん張れって言いながら、ゆっくり流される孤独感を書いてますよね。
田家:「暗号が解けないスパイのように」っていうこれはどんなイメージだったんですか。
大江:もう自分は何者でもない点のような存在だと思って。これを音楽で形に残さないと自分は藻屑のように消えていってしまうっていう、そういう匿名性というか、へのへのもへじ感をスパイのようだって。それは『1234』の「サヴォタージュ」なんかにも繋がる世界観ですけどね。スパイだったり地下活動だったり。一歩間違えるとっていう存在にも思えてくる。そんな妄想を行ったり来たりしながら書けるところまで書いて。シアトリカルな舞台なんですよ。詞で書いたところは音にはしないし、音でやるところは詞にはしないっていうような。
田家:なるほどね。もうここには80年代のキャンパスヒーローはいませんもんね。
大江:あはははは。僕は2回大学を出ましたけど、ジャズのニュースクールを出たあと、周りは卒業のとき23歳とかじゃないですか。僕だけ52、3歳で。みんなで飲みに行ったりすると、「俺たちあっという間に30になるよな」「いやあ、どうするよ」って会話になって。「本当だよな」って相槌を打っているけど、俺だけプラス30かみたいな(笑)。その感覚でしたよね。あまりに早くいろんなものが変わりすぎていって、社会の中で自分がその一員としてやれなくて、アップアップでやれているふりをしていた。心だけが置き去りにされていて、それを何とか自分で取り戻すために歌を書いてたっていう。
田家:「これから」が昭和最後のシングルでありまして、次にお聞きいただくのは平成最初のシングルです。89年7月発売、「おねがい天国」。
おねがい天国 / 大江千里
田家:89年7月に発売になったシングル「おねがい天国」。
大江:来てますねこれね。
田家:あははは。さっきの「これから」が昭和最後で、これが平成最初です。
大江:もうキャラが変わりすぎ(笑)。フジテレビの大多(亮)さんが「これから」が出て千里音楽にぐっと入って、次に来た新曲が「おねがい天国」で「千里さん本当にこれでいいの?」って言われました。
田家:あははは。
大江:僕は『ベルリン・天使の詩』のフェアリー、天使なんですよって。だから、うまくいってないカップルに「働き過ぎだよ」「気遣いすぎだよ」って。たまに離れた方が愛を育てるんだみたいなことを言って。少しコメディチックでいいと思いますって言ったら、「いやあ、そうかあ?」って。ロマンティックで最高だと思って作ってるんだけど、いろんな聴き方をされるんだなと思って。でも確かに「これから」のあとに来たからみんなびっくりしたのかな。
田家:まあ、でも時代が変わったっていうのがよくわかりますもんね。
大江:平成はこういう気分で過ごすんだみたいな。昭和天皇崩御の日に多摩に行って「MAN ON THE EARTH」っていう『Bed Time Stories』と一緒に出した12インチの曲をバンドのメンバーで録ったんですよ。ツアーをやって、レコーディングをやって、音が仕上がってきて、ツアーでまた噛み砕いて、また新たな世界観が加味されてっていう不思議な時代で。それが平成の始まりとともに全部リンクして。僕自身は音的にもっとツアーのことも歌いたいし、気持ちが日本の外へ向かってもいいし、底抜けに楽しいものを作りたいって思いがあったんだと思いますね。
田家:男性のシンガー・ソングライターが「ゴミ出しをする」っていうのはきっとこれ初めてですよ。
大江:「月・金、燃えないゴミを出すのさ」っていう歌詞がありますからね。今回宿泊させてもらってる友達の家で今朝ゴミ出ししてきました。
田家:あははは。
大江:何時まで出して、網はちゃんとかけといてねって言われて必死になってゴミ出してきましたけど、やっぱりゴミを出すっていう生々しさはポップミュージックの中でいいのかなと思って歌詞に入れてみたんですけど。
田家:槇原さんが「東京DAYS」でゴミ出しの話を書いてるんですけど、それが94年ですから。5年前です。
大江:おーーー。
ラジオが呼んでいる / 大江千里
田家:89年9月に発売になりました「ラジオが呼んでいる」。アルバムは89年10月に出た『red monkey yellowfish』。これは最後のアナログシングルですね。
大江:そうですね。もう時代がガラッと変わる。
田家:これはブックレットの解説で知ったんですが、シングルチャートで初めてTOP10入りしたんですね。意外でした。
大江:僕の歌は、音もポンポン飛んで歌うのも難しいし、あまりシングルとして売れてる感じじゃなくて。裏声を使って、どうやってカラオケで歌うんだって歌がタイミング的に初のトップテン入りをさせてもらって。この曲には、僕のラジオに対する気持ちもそうだけど、自分で作ったものがラジオで流れて、人の人生に関われちゃったりしてっていう自分の夢と欲望と願望が全部「ラジオのほうが恋を覚えている」っていうフレーズにギュッと凝縮されてて。
田家:でも、さっきの「GLORY DAYS」のときに、やっぱりシングルはこうじゃなきゃいけないみたいなことが選択の基準だったわけでしょ?
大江:そうですね。まっちゃん(松浦善博)の影響もあって、小坂さんがしゃあないな、やんちゃな奴らがいてってふうになってて。信ちゃん(清水信之)と千ちゃんととまっちゃん。まっちゃんはスティールギターで西海岸サウンド命で。信ちゃんもそういうのが大好きで総合音楽監督みたいな感じで音にしていった。僕はアイデアをバンバン出していって声を重ねていくっていう感じだった。もう24時間、お互いの部屋で音楽の話して。それ終わったらプールで泳いで、スタジオ行って音聞いてっていうね。ちょっとやんちゃし始めた3人を小坂さんがコントロールできなくなっちゃって、あいつらもしゃあないなあ!って受け止めてもらってた時期ですね、これはね。
田家:曲の入った『red monkey yellowfish』はCD チャートが1位で総合チャートが2位だった。総合チャート1位になるのが次のアルバムわけですよね。
大江:そうです。『APOLLO』ですね。
田家:ついに『APOLLO』が来ました。
大江:いろんな思いが詰まっています、これは。
田家:90年9月発売9枚目のアルバムのタイトル曲「APOLLO」。千里さんが選んだ今日の6曲目です。
田家:1990年9月発売9枚目のアルバム『APOLLO』のタイトルソングですね。アルバムは全曲ニューヨークで作って。
大江:そうです。ニューヨークに行って、もう大ショック。なんてエネルギーのある街なんだと思って。この街で物を作りたいと思って『APOLLO』を向こうでやったんですけど、本当にコテンパンにやられたら1ヶ月半とか2ヶ月間でしたね。
田家:コテンパンにやられた?
大江:まず言葉ですよね。通訳を通すと、細かいニュアンスがナチュラルじゃなくなって、全部ニュアンスが違ってきて。僕は割と自分でグルーヴを作っていくタイプなので、1個止まっちゃうとゼロに全部戻ってリセットされてしまう。それを仕上げていくってことが難しくて。そのときにもうNYが大好きで、この街で戦いたい、生きていくって思ったけど、やっぱりここでやるには捨てるものが大きすぎるなと思って。キラキラしたものをどうやって作ろうかって。「dear」の「渋滞のスクランブル」ってあれ渋谷ですよ。
田家:そうなんだ(笑)。
大江:だけど、ワインマンがワインをガチャンと割ってぶっかけてくるような状況の景色を見ながら渋谷の景色を書くってことを初めてやって。だから洗礼を受けましたよね。本当にネズミがゴミを食べてるのを見ながら、キラキラした夕日に沈んでいく情熱を書くみたいな。毎日自分が狂いそうになりながら詞を書いて、できたら歌ってっていう。なかなかこれもシュールな世界でしたよね。
田家:「APOLLO」の中の、1960s、1970s、1980s、1990sって年号は、使おうっていう意識でお書きになったんですか。
大江:なんとなく世紀末に向かっていく感じは自分の中で始まってて。「APOLLO」でなんとなくこのアルバムが結果を出すだろう、残っていくだろうと思うと同時に、それは終わりの始まりって言うか、そういう覚悟を決めながら作っていた。今まで自分が音楽を聞いてキラキラした気持ちを原動力にプロになって、現実にバーン突き当たって、それを乗り越えてきた60s、70s、80s、90s、この先もしかしたらあるのかなっていう、その問いかけですよね。
田家:30代にもなるし。
大江:「APOLLO」で”月に降りた夢の景色は僕にはこの先見えることがあるのか?”って。このときはもう無我夢中でこのフレーズを歌って書いてましたね。
田家:今月は6月に発売になった初のシングルコレクションのそれぞれのDISCから7曲ずつ千里さんに選んでいただいてるんですが、それぞれの週の最後はこの曲で終わりたいみたいなものがあって今週はこれなんでしょうね。
大江:そうなんですよね。アルバムの中では1曲目なんだけど、SPARKS GO GOとか、オフコースの松尾さんとか、まっちゃんがスライドギターを弾いていて本当に夢のようなレコーディングでしたよ。
田家:アレンジがTHE TRAVELLIN BANDっていうバンド名のアレンジになってますね。
大江:普通アレンジャーの人はこういう曲がオープニングに1曲入ると、何すりゃいいんだよってなるんだけど、それを一緒に楽しんでくれた清水信之さん。「向こうみずな瞳」とか『red monkey yellowfish』の中には本当にアイデアが詰まりまくってて。ジャズだったりモータウンだったりアメリカンのルーツの音楽をブリティッシュのシンガー・ソングライターとかポップアーティストが噛み砕いて、艶やかなサウンドにしていく。スウィング・アウト・シスターとか。僕はそういうのを聞いて、二重にエッセンスを吸収していた。80sの夢中で作ってきた音楽の中でキーワードとしてブリティッシュっていうのがあるんだってことに今気付きながら、こういう曲を演奏してるんですけど。これはロックですけど『red monkey yellowfish』の中に入ってる数多くの色鮮やかな曲たちっていうのは、今もう1回やってみて感じますね。
田家:後半に大村雅朗さんの曲が4曲入っている。そういう終わり方になってますね。
大江:大村さんと清水さんは一緒に会ったことはなかったかな。全くタイプが違うんですけど2人とも繊細で、とってもアイデアマンで優しい人ですね。
田家:特に大村さんとはニューヨーク繋がりになったりしてるわけで。
大江:ニューヨークで大村さんがアパートを借りて住まれているときに、僕も向こうでアパートを借り始めて。かぶさる時期があって、インド料理を食べに連れてってくれたときに、とっても楽しかったですね、
田家:そういう話は来週も繋がりそうですね。
大江:この番組にお邪魔し今週で2週目ですけど、もう過去と現在を何回も行ったり来たりしていて、皆さん聞きづらくてごめんねって(笑)。
田家:来週も一緒に過去の旅90年代の旅をしていきましょう。
大江:行きましょう。田家さんよろしくお願いします。
田家:「FM COCOLO J-POP LEGEND FORUM」、デビュー40周年、大江千里さんの日本での活動をたどる4週間、「今だから語りたいマイ・ソング」と題してお送りしております。今週はパート2、6月に発売になった初めてのシングルコレクション『Senri Oe Singles ~Special Limited Edition~』のご紹介です。今週はDISC2からお送りしました。流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。
こういうベスト盤的なアルバムを紹介するときに、本人に曲を選んでいただくことはあまりやってこなかったんですね。なんでかというとベスト盤は出たものをまとめたものだから、そんなに本人の思い入れが介在しないケースがあるので、今回もそうしようかと思ったんです。でもジャズのアルバムが素晴らしかったので、今だからあの頃のことを語っておきたいということがあるんではないかなと思って、恐る恐るお願いしたら、曲順もCDになっているものとは違う自分なりの当時の記憶に沿った選曲になっておりました。
今週もそういう流れだったんですが、改めて「Rain」と「これから」が、こんなにいい曲だったんだって思ったりもしたんですね。シングルヒットというのはいろんな事情が絡んでたり、タイアップがあったり、レコード会社のそのときの狙いがあったりして、必ずしも本人の本当にやりたいものとは違う曲が選ばれたりすることがあるんですけど、そういうことも含めて、このシングルスは誰もが持っている大江千里、千里ちゃん、千里くんっていうのとは違う発見があるんではないかと思ったりしながら来週もお送りします。
シングルコレクション『Senri Oe Singles〜Special Limited Edition〜』ジャケット写真
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
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