Alex G 孤高のソングライターが語る人生と宗教観、曲作りのミステリー
Rolling Stone Japan / 2022年10月11日 17時30分
「Miracles」を含む『God Save the Animals』収録曲のレコーディングで使用された、フィラデルフィアのHeadroom Studiosにて(Photo by Sacha Lecca for Rolling Stone)
インディーロック愛好家からフランク・オーシャンまで、幅広い層から支持される孤高のソングライター。アレックス・G(Alex G)が通算9枚目の最新アルバム『God Save the Animals』について語る。
昨年、アレックス・ジアンナスコーリは変化を欲していた。アレックス・Gの名で知られる謎めいたシンガーソングライターは、長年フィラデルフィア周辺でノマド生活を続けていたが、ようやく腰を落ち着ける場所を求めるようになり、長年交際を続けているバイオリニストのモリー・ガーマーと共に家を購入した。「古い一軒家で、何カ月かかけて壁紙を貼り替えたり、屋根を補修したりしたんだ」。現在29歳のジアンナスコーリはそう話す。「今はかなりいい感じだよ」
ティーンエイジャーだった10年以上前にBandcampで初のデモ音源をリリースして以来、アレックス・Gはリリースを重ねるごとにファンベースを拡大し、ツアーの規模も並行して大きくなっていった。同世代でもあるフランク・オーシャンは彼のファンであることを公言しており、2016年発表の『Blonde』とそれに伴うコンサートに彼をゲストとして招いている。どこか不可解でありながら聴き手の感情を揺さぶる歌詞、誠実さが滲み出た楽曲、露出が少なく謎めいた存在という点はオーシャンと共通しており、ファンの間ではカルトヒーローとして崇められている。
最新作となる『God Save the Animals』では、人生や宗教、アートといった大きなテーマと正面から向き合いながらも、その素顔は巧みにぼかされている。記憶に残るコーラスとダイナミックなバイブスが魅力の本作への反響は大きく、ニューヨークのWebster Hallで行われる一連のヘッドラインショーは既に全公演が完売している。ごく一部の例外はあるものの、テンプル大学の3年生だった2014年に発表された出世作『DSU』で彼が確立したフォーミュラは本作でも健在だ。曲は全て1人で書き上げ、ディティールに徹底的にこだわりながら全パートを自身で演奏し、感情を正確に表現するために歌詞を繰り返し修正する。必要だと感じた場合には、バンドのメンバーを招集してドラムやベース、あるいはギターを弾いてもらう。
「明確な起点なんてないんだ」とジアンナスコーリは話す。「好きなようにやってきて、気づいたら今の場所にいた。そういう感じ」。自分を偽ることなく成功を収めたことについて、彼は少し考えた上でこう語った。「ジンクスは好きじゃないんだ」
『God Save the Animals』では、Sam Acchione(リードギター)、John Heywood(ベース)、 Tom Kelly(ドラム)という3人の友人が4曲に参加しているほか、モリー・ガーマーが数曲のストリングスパートのアレンジと演奏を担当している。それ以外、つまりアルバムの大半はアレックスが独力で手がけている。だがライナーノーツを読まない限り、そういった違いには気づかないだろう。例えば、トム・ペティを思わせるエモーショナルなロック「Runner」では、ドラムとアコースティック&エレキギター、ベース、ピアノ、シンセサイザーの全パートを彼が担当している。その一方で、ニューメタル/ウィスパーロック/室内楽を融合させたかのような不思議な魅力のある「Blessing」は、いかにも彼ががらんどうの部屋で真夜中に1人で書き上げたように思えるが、実際にはバンドのメンバーが全面的に参加している。
「僕はそれなりにギターを弾けるけど、Samは完全に別格だからね」。軽いタッチのバラード「Early Morning Waiting」について尋ねたところ、彼はそう語った。「彼に曲のデータを送って『ギターを被せてくれ』って頼んだところ、見事に料理してくれたんだよ」。彼にとって、それはごく当たり前のことのようだ。メロディであれ歌詞であれ、彼の使い慣れたテクニックやアプローチは少しも錆び付いてはいない。「僕は決して優れた詩人というわけじゃない」と彼は話す。「何を口にすべきかを心得てるだけだよ。それは実話かもしれないし空想かもしれないし、あるいは何の意味もないかもしれない」
名声というものに、彼は常に若干の居心地の悪さを感じている。彼は時々、目の前の数千人のオーディエンスがどこの誰なのだろうかと考えてしまう。「会場の規模が大きくなるにつれて、『何これ?』みたいな反応の客も増える」と彼は話す。「簡単に説明できるようなことじゃないんだろうね。いずれにせよ、今の状況には感謝してるよ」
謎めいた存在感、宗教に対する考え方
現在のアレックス・Gのキャリアがあるのは、彼のファンがその音楽に深い意味を見出しているからに他ならない。2012年発表の悲しみをたたえた「Change」を彼がステージ上で歌う時、オーディエンスは口を閉ざしてじっくりと聴き入っているが、彼がインタールードで思いがけずシャウトすると、皆大きな歓声を上げる。彼がソーシャルメディアをほとんど使用せず、多くのインディーロックのアーティストのようなセレブレティらしさが皆無であるという事実は、その謎めいた存在感に拍車をかけ、ファンを強く惹きつけている。
「僕自身がそういうリスナーだったんだ」と彼は話す。「子供の頃はモデスト・マウスやエリオット・スミス、レディオヘッドなんかが好きで、特定のアーティストの作品を徹底的に聴き込んでた。他のことは全部どうでもいいってくらい夢中になって、そのアーティストが自分の親友であるかのように感じてた。僕の音楽のそういう中毒的な部分を、リスナーも感じ取ってくれているんだと思う」
Photo by Sacha Lecca for Rolling Stone
過去の作品には見られなかった『God Save the Animals』における最大の特徴は、宗教観が一貫したテーマとなっている点だろう。アルバムの冒頭の緩やかに下降していくメロディをバックに、彼はこう歌い始める。”誰もがやって来ては去っていく/そういうものなんだろう、でも神様だけはずっと僕のそばにいてくれた”。アルバム前半の別の曲では、偉大な存在を大胆に加工されたボーカルでこう表現する。”神は僕の創造主/ジーザスは僕の弁護士”
これらのモチーフは、必ずしも彼の信仰に対する考え方が大きく変化したことを示唆しているわけではなく(「そもそも一貫した考えを持っていないんだ」)、身近で起きた出来事に対する見解に過ぎないという。「友人のあるカップルが、突然信心深くなったんだ」と彼は話す。「信じる力はこれほどに人を変えてしまうのかって、心底驚かされたよ」。彼は最近、作家のジョイ・ウィリアムズが2016年に発表した短編小説集『99 Stories of God』を読んだという。「それが彼女の意図したことかどうかは分からないけど、僕はあれを読んだことで、たとえ自分が明確な考えを持っていなくても、そういうテーマについて議論してみたいと思うようになった」
アルバムのハイライトというべき「Miracles」は、大人としての責任と向き合おうとする若者の視点が描かれている。”いつかは子供が欲しいねって君は言う/でもベイビー、今の僕は自分のことで精一杯なんだ”。モリー・ガーマーが奏でるスウィートなカントリー調のメロディーに合わせてそう歌う彼は、続くヴァースで漠然とした疑問を投げかけている。”一体あと何曲書けばいいのだろう/全ての電源を落として眠りにつく前に”
来年2月に30歳の誕生日を迎えるジアンナスコーリは同曲について、「一時的に頭をよぎったこと」を形にしただけに過ぎず、特に深い意味はないと話す。「腰を据えて曲を書こうとするけれど、何のアイデアも浮かばなくて、結局ただダラダラしてることも多いよ」と彼は話す。「正直、歳をとるにつれて湧いてくるアイデアの数も頻度も少なくなってる。このレコードを作るのにとりわけ時間をかけたつもりはないけど、キャリアを重ねるごとに、アルバムをリリースするペースは落ちていくだろうね」
彼は肩をすくめてこう言った。「何かを制御しようとする行動は必ず裏目に出る。流れに身を任せるしかないんだよ」
From Rolling Stone US.
アレックス・G
『God Save the Animals』
発売中
国内盤CD:解説・歌詞対訳、ボーナストラック収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12871
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