旧統一教会の過激分派「サンクチュアリ教会」指導者が語る、ライフル銃崇拝の理由
Rolling Stone Japan / 2022年10月19日 6時45分
自ら「鉄の杖」と呼ぶ金色のAR-15を構える文亨進氏。2018年4月、米国ペンシルベニア州マタモラスの自宅にて撮影。(Photo by BRYAN ANSELM/REDUX/"THE WASHINGTON POST"/GETTY IMAGE)
旧統一教会の創設者・文鮮明氏の息子(7男)が、アメリカで設立した「サンクチュアリ教会」。彼はアサルトライフル銃「AR-15」は神の意志を実行するための神聖な道具であり、神はトランプ氏の味方であるという見解を表明している。
【写真を見る】礼拝中に銃を握りしめる信者の男性
2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件の数日後、文亨進(ムン・”ショーン”・ヒョンジュン)氏は、SNSに扇動的な動画を投稿した(亨進氏は、もう少しで催涙ガスを浴びるほど暴動の中心から近い場所にいたそうだ)。動画の中で亨進氏は、いまではすっかりトレードマークとなっている薬莢(やっきょう)を束ねた王冠を被り、金色に輝くアサルトライフル銃「AR-15」を抱えてカメラの前で1月6日の暴動を「第2次アメリカ独立革命におけるボストン茶会事件」と言い放った。
暴動を非難するどころか、亨進氏は「サタンの玉座(つまり議事堂)を制圧」し、「世界有数の権力者たちを恐怖に陥れ、巣穴に逃げ込もうとするネズミのように狼狽させた」暴徒たちを称賛したのだ。
「あの日、神は勝利した」と、亨進氏は語気を強めて続ける。「罪人どもは、決してあの日の光景を忘れないだろう。『まずい。あれがまた起きたら、今度こそ警官は警備態勢を解いてしまうかもしれない』ということに彼らはようやく気づいたのだから」。亨進氏のいう「罪人」とは、トランプ氏のクーデターの支援を拒んだアメリカの議員たちのことだ。
亨進氏は、「Rod of Iron Ministries(銃の杖ミニストリー)」の名前で活動している旧統一教会の分派「サンクチュアリ教会」の指導者。42歳(現在は43歳)の亨進氏は、旧統一教会の教祖・文鮮明(ムン・ソンミョン)氏の7男だ。鮮明氏を「再臨のキリスト」と崇める信者たちは、ここアメリカでは「ムーニー」と呼ばれている。教祖の息子である亨進氏が率いるサンクチュアリ教会は、神の正義を実行するための道具として聖書に記された「鉄の杖」とAR-15を同一視し、銃崇拝によって注目を集めてきた。
ペンシルベニア州スクラントン郊外のニューファンドランドに本拠地を置くサンクチュアリ教会は、信者たちが礼拝に武器を持ってくることから、危険な教団と目されている。亨進氏が説くのは、世俗的な政治を織り交ぜた終末論。アメリカで武器メーカーを経営している兄の国進(クッチン)氏とともに亨進氏は、「MAGA(アメリカを再び偉大に)」に傾倒する共和党員たちのあいだで政治的な影響力を拡大しようと心血を注いできた。トランプ氏の息子たちとのコネを作ったり、毎年恒例のサンクチュアリ教会のイベント・Rod of Iron Freedom Festivalを開催したり(トランプ氏の元側近のスティーブ・バノン氏がスピーカーとして登壇)、2020年のペンシルベニア州の選挙人団の名前を刻んだ偽の名簿の最上位に自分の名前を掲載してくれた全米ライフル協会(NRA)の役員と関係を築いたりと、その活動は多岐にわたる。さらに亨進氏は、ペンシルベニア州議会のダグ・マストリアーノ議員の肝入りで同州の副知事に立候補したテディ・ダニエルズ氏を「我々の偉大な友人であり、共にキリストを信じる兄弟」と呼ぶ。ダニエルズ氏は、1月6日の暴動の参加者のひとりだ。
外界から隔絶されて育った幼少期
亨進氏は、危険な革命家というよりはおどけた狂信者として描写されることが多かった。だが、薬莢の王冠を被ったこの牧師を変人と笑って受け流せる時代は、もはや過去のものとなりつつある。ますます多くの共和党員たちが選挙に負けたことへの反応として暴力を容認する、あるいは暴力を必要な手段とみなすなか、神の意志によって政権の転覆を図るという亨進氏の教えは、暴力を奨励する共和党員たちの格好のカモフラージュになっているのだ。
議事堂襲撃事件後に亨進氏が表明した政権交代への野望は、いまも揺らがない。8月末に連邦捜査局(FBI)がフロリダ州にあるトランプ氏の別邸「マーアーラゴ」の家宅捜索を行ったときも、亨進氏はまたもやSNS上で司法省のトップらを「ぺてんを撒き散らす忌々しい反社会的人間」と罵り、「アメリカよ、悪魔に抵抗せよ。神は我らと共にあられる」と訴えた。
亨進氏の幼少期は、控えめにいっても平凡とはかけ離れたものだった。
亨進氏は、ニューヨーク市郊外ウェストチェスター郡にある、約7万6890平方メートルの面積を誇る旧統一教会の敷地内で、外界から隔絶されて育った。2018年の著書の中で亨進氏は、「近所を自由に歩き回ったり、友達と一緒に出かけたり、屋外で自転車に乗ることは禁止されていた」と綴っている。「刑務所のような」自宅で孤独な日々を送っていた亨進氏のはけ口になったのが護身術の訓練だった。ブラジリアン柔術もそのひとつで(いまは黒帯所持者)、やがてそこに銃への愛着が加わった。
亨進氏の父である文鮮明氏は、韓国で設立され、いまや世界中に信者を擁する保守的な宗教団体・旧統一教会の教祖だ。鮮明氏は自らを「再臨のキリスト」と名乗り、かの有名な「合同結婚式」を執り行ってきた。信者たちは、こうした儀式によって罪の赦しを受けることができると信じていたようだ。鮮明氏は同性愛を重大な罪ととらえてこれを非難し、同性愛者の男性を「汚い犬」と糾弾した。
鮮明氏はアメリカでの服役を経て(過去に脱税罪で18カ月間の実刑判決を受け、服役したことがある)保守系新聞社のワシントン・タイムズを創設。これを首都ワシントンでの権力拡大に利用した。このほかにも、ブッシュ家とも近しい関係にあった。2004年に上院のダークセン・ビルで行われた奇妙な戴冠式では、数十人の議員の前で自らを「神の権化」と呼んだ。
2012年に鮮明氏が他界すると、旧統一教会の資産や事業をめぐって後継者争いが勃発。「人類の真の母」と崇められる鮮明氏の妻の韓鶴子(ハン・ハクチャ)氏がトップの座に就くと、韓氏は息子の亨進氏を旧統一教会から追い出した。ハーバード大学神学大学院で学んだ亨進氏は、父が自らの意志で選んだ後継者は自分だと主張している。
裏切られたと感じた亨進氏は母親を「大淫婦バビロン」になぞらえて恨み、2013年にアメリカで別の教団を立ち上げた。やがてこの教団はアサルトライフル銃を崇める教団へと変化し、2017年には名称をRod of Iron Ministriesに変えてリブランディングを行った。教団が世間に知られるようになったのは2018年のこと。このとき亨進氏は、フロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で銃乱射事件が起きたわずか数日後だというのに、信者が武器持参で教団の儀式に参加することを呼びかけたのだ。
教団の信者が金ピカの薬莢を束ねて作った王冠を戴く亨進氏は、AR-15こそが聖書に記された「鉄の杖」、すなわち神の意志を実行するための道具であると説く。このなんとも不可解な聖書の解釈は、「あなたは鉄の杖で彼らを打ち砕き、陶器のように粉々にする」という旧約聖書の『詩篇』や「主は鉄の杖で彼らを支配する」という新約聖書の『ヨハネによる黙示録』などに由来する。
「自分は神の代理人」
終末論を説く亨進氏は、天の王国が地上に建設される日は近いと予言する。新たな王国が建設されたあかつきには、武装した信者たちがこの国の統治を支援すると主張しているのだ。「イエス・キリストに仕える者たちは、自ら鉄の杖を使って家族や近隣の人々、国を守る責任を負っている」と、亨進氏は自著『Rod of Iron Kingdom(鉄の杖の王国)』の中で述べている。
亨進氏は、未来の王国の国王は自分(および子孫たち)であると考える。その国の名前は「United States of Cheon Il Guk(天一国合衆国)」、通称CIG。さらに亨進氏は、CIGの憲法なるものまで用意しており、「いまは存在しないものの、CIGは実在の主権国家である。CIGは、待ち望まれた『終わりのとき』の完成形を示す」と定義している。CIGの憲法はアメリカ合衆国憲法とよく似ているが、人工妊娠中絶と同性同士の結婚を禁止し、亨進氏を国王に定めている点は大きく異なる。
2021年10月に開催された第3回Rod of Iron Freedom Festivalにてスピーチを行う亨進氏。(Photo by ZACH D ROBERTS/NURPHOTO/AP)
説教を行なっているときの亨進氏は、烈火のごとく激しくて攻撃的だ。AR-15を神の道具とみなす教団の指導者のイメージにいかにもふさわしい。
その一方で、会話をするときの亨進氏はもう少し穏やかだ。2021年にテネシー州郊外に建設された教団の保養所からビデオ会議アプリを介して本誌のインタビューに応じた亨進氏は、父親が再来のキリストであったのに対し、自分自身は神ではないと語る。むしろ、「世間でいうところのローマ教皇のような、神の代理人です」と明かした。亨進氏によると、サンクチュアリ教会の信者数は世界中でおよそ1万5000世帯にのぼるそうだ。
亨進氏は、サンクチュアリ教会をカルト教団とみなす人々には無関心だ。「まったく気になりませんし、それによって身動きがとれなくなるようなこともありません」と話しながら、何十年にもわたって旧統一教会がカルト教団と呼ばれてきたことを強調した。「私たちは、過去50年間このように呼ばれてきました」と亨進氏は続ける。「この手の迫害には、もう慣れているのです」
亨進氏は、CIGは「独裁国家ではなく、自由と責任に重きを置く王国」になるだろうと強調しつつ、教団の教義をいくつか引き合いに出した。「私たちは、同性愛は獣姦に等しい罪であると考えています」と語る一方で、「婚前のデートや性交渉も重大な罪です」と解説した。
CIGを建設するには、定義上は現在のアメリカ合衆国を転覆させなければならない。亨進氏は、それは武力ではなく「神の霊に導かれた人々の自己決意によって自然と建設されるでしょう」と話す。
だが、うわべだけは穏健な主張の背後には、教団が掲げる恐ろしいメッセージが込められている。具体的な説明を求められた亨進氏は、「鉄の杖」ないしAR-15は、「政治家たちを常に監視するための道具となるでしょう」と明かしたのだ。
かいつまんで言うと、亨進氏は終末論を信奉し、銃を崇拝し、過激な思想を掲げる武装教団の指導者なのだ。アメリカの非営利団体である南部貧困法律センターは、この教団を「アンチLGBTQカルト」と警戒している。
政治的な過激主義によって懐を潤してきた者は少なくない。文一族もそのひとつだ。亨進氏の教団では、銃は神聖なものとして崇められている。だが、兄のジャスティンこと国進氏にとってはビジネスでもある。
共和党員やトランプ氏との接点
キリスト教終末論と憲法修正第2条(訳注:武器保有権が規定されている)の原理主義的な解釈をペンシルベニア州というスイングステート(訳注:民主・共和両党の支持基盤が盤石とはいえず、大統領選挙などで激戦が繰り広げられることが多い州)で融合させることで、サンクチュアリ教会は筋金入りの共和党支持者と交流したいMAGA共和党員たちを惹きつけてやまない。
ペンシルベニア州ニューファンドランドにある亨進氏の教団は、国進氏の銃ビジネスと切っても切れない関係にある。国進氏が経営するカーアームズが同州のグリーリー(どちらもスクラントン郊外の街)に本社を構えているのも、決して偶然ではないのだ。
カーアームズは、トンプソン短機関銃などを製造している武器メーカーだ。このほかにも、「トミーガン」と呼ばれる小型機関銃やAR-15も製造している。同社はNRAから「当協会の重要な仲間」と称賛される一方で、それよりも強硬派の米国銃所有者協会(GOA)とも積極的なパートナーシップを結び、GOAの「妥協なきアライアンス」の一員として銃規制の強化に反対している。
亨進氏は兄を「教団の信者」と呼び、「すべての信者がそうであるように、兄は自らの意志で(中略)教団に貢献しています」と語った。教団名をRod of Iron Ministriesに変えたことは、兄のビジネスの拡大と関係があるのかと質問すると、亨進氏は「ノー」と否定し、「あるわけがないでしょう」と言い放った。
MAGA運動の指導者であるトランプ氏を称えるにあたり、国進氏の武器メーカーはトランプ氏のモチーフやスローガンをあしらった武器のコレクションを発表した。 (©Rolling Stone)
父親の鮮明氏がそうしたように、文兄弟はアメリカの右翼権力者たちと確固たる結びつきを形成しようと奮闘してきた。ふたりにとって現代の共和党は、多くの実りをもたらしてくれる肥沃な土壌なのだ。
2016年に国進氏の会社がTommy Gun Warehouseという銃砲店をオープンすると、亨進氏はこの店を祝福し、トランプ氏の息子のエリック・トランプ氏は基調演説を行った。文兄弟は、トランプ氏の息子と一緒に写真に収まる機会を逃さなかった。そのときの写真は、亨進氏だけでなく、国進氏のSNSアカウントにも高々と掲載されている。
MAGA運動の指導者であるトランプ氏を称えるにあたり、国進氏の武器メーカーはトランプ氏のモチーフやスローガンをあしらった武器のコレクションを発表した。POTUS 1911やCommander in Chief AR-15、さらには第45代米大統領へのオマージュが込められた45口径のTrump Thompson Tommy Gunなどが展開されている。
文兄弟は、2019年に「憲法修正第2条を称える、特定の宗教にとらわれないイベント」
を謳うRod of Iron Freedom Festivalを開催した。2021年のイベントには、トランプ氏の元側近のスティーブ・バノン氏や「保安官には、何が合憲で何がそうでないかを決める権限がある」という虚偽の理論を打ち立てたリチャード・マック氏、NRAの元スポークスパーソンのダナ・レッシュ氏、『More Guns, Less Crime(銃を増やせば犯罪は減る)』の著書ジョン・ロット氏らが参加した。
亨進氏は、神の意志によってトランプ氏が2020年の大統領選挙に勝利すると信じていた。
選挙運動期間中、亨進氏は徹底してトランプ氏を支援した。2020年11月2日にSNSに投稿された自撮り動画では、スクラントン近郊の集会にMAGAキャップを被り、「神よトランプを守りたまえ」と熱心に唱える姿が映っていた。
「トランプ最高司令官の訴えに応じて、我々は1月6日に立ち上がる」
トランプ氏が敗北した当初、亨進氏はショックで打ちのめされた。選挙日の翌日に「赤い蜃気楼」が消えてゆくなか、亨進氏は「いまとなっては、我々人間の力ではどうすることもできない! トランプがウィスコンシン州、ミシガン州、あるいはネバダ州で勝利できるかどうかは、神の恩恵にかかっている。すべては、イエス・キリストと共にあられる人類の真の父次第なのだ。王国よ、祈り続けよ!」と投稿した。
だが、その翌日には「トランプの勝利! アメリカはこの詐欺行為を認めるわけにはいかない! トランプこそが我々の大統領だ!」と新たに投稿し、敗北したトランプ氏の先陣を切って信者たちのあいだに「大きな嘘」を拡散した。
そうすることで亨進氏は法と伝統に背き、ジョー・バイデン氏への平和的な権力移行を妨害するという政治運動の真っただ中に身を置いていた。首都ワシントンで行われたミリオンMAGAマーチやペンシルベニア州の州都ハリスバーグで行われた「Stop the Steal(詐欺行為を止めろ)」集会にも参加した。その後、亨進氏は12月12日に米連邦最高裁判所の前で行われたジェリコ・マーチにも参加し、神の介入によって2020年の大統領選挙の結果が覆されるようにと祈りを捧げた。
さらには、ペンシルベニア州の選挙人団による投票のやり直しの必要性を訴えた。2021年1月3日には、同州議会議事堂の議長を務めるブライアン・カトラー氏の自宅の前で同州での再選挙を要求した。
問題の1月6日が近づくにつれて、亨進氏は「Black Robed Regiment(黒衣の連隊)」との連携を強めるようになった。Black Robed Regimentとは、アメリカ独立革命を支援した過激派の牧師たちを揶揄するためにイギリスが用いた呼称を拝借した、右派宗教家たちの緩やかな連合を指す。
まもなくして亨進氏は、武力によって行動することの必要性を喧伝しはじめた。2020年12月30日に投稿された動画には、兄の銃砲店の壁の前で祈る姿が映し出されている。アメリカ独立革命を願う亨進氏は、「悪に立ち向かった建国の父たちの精神」をトランプ氏に与えたまえと神に祈った。その後も「トランプ最高司令官の訴えに応じて、我々は1月6日に立ち上がる」と述べ、支援者たちの加護を神に求めた。
事件前日の2021年1月5日。銃と同じくらいオートバイに夢中の亨進氏は、バイカーギャングさながらの「Rod of Iron Riders(鉄の杖ライダース)」を率いて首都ワシントンに集結。亨進氏は集会の目的が「首都の偵察」であったと綴り、偵察の様子を捉えた短い動画を投稿した。そのときの亨進氏は、迷彩柄に塗られたドクロのマスクを被っていた。
1月6日、亨進氏は夜明け前の暗闇のなか、ナショナル・モール(訳注:首都ワシントン中心部に位置する国立公園)に姿を現した。暴徒たちが議事堂へと押し寄せるなか、亨進氏は催涙ガスを浴びるほど近い場所で暴動に参加していた。事件当日の亨進氏の行動の詳細は明らかにされていないが、同じく暴動に加わっていたデイヴィッド・カナギーという教団の熱心な信者は、警官を圧倒する信者たちの勇姿を書き留め、サンクチュアリ教会のホームページ上で公開した。
カナギー氏の手記——とりわけ議事堂に討ち入ろうとする試みが2回目に失敗したときのことを綴った箇所——からは、亨進氏に対する心酔っぷりが垣間見られる。「人々が左側の観覧席の階段を駆け上がるのが見えた。私は、そのあとに続いて階段を上った」とカナギー氏は綴る。さらにカナギー氏は、足場が不安定だったことを言い添えた。「そんなことは気にならなかった。国王(亨進氏)の力になれるのなら(中略)人々の体重に耐えかねて足場が壊れたとしても、たしかにそれは悲劇的かもしれない。だが、自らの命を捧げる方法としては悪くない」
常軌を逸したレトリック
現在、亨進氏は1月6日の「狂気」への関与を躍起になって否定している。本誌の質問に対し、亨進氏は自分と信者たちが讃美歌や愛国歌「ゴッド・ブレス・アメリカ」などを「平和的に歌っていた」最中に催涙ガスを浴びせられたと主張する。「私たちはただ、修正第1条に規定されている、平和的に集会する権利を行使していたにすぎません」と答えた。
その一方で、亨進氏は事件直後に1月6日は「巨人兵士ゴリアテの無敵のオーラ」が「粉々に打ち砕かれた」ことを歴史が立証するだろうと述べ、1773年のボストン茶会事件も「当時は非難された」と言い添えた。
ペンシルベニア州ニューファンドランドにあるWorld Peace and Unification Sanctuary (世界平和統一正殿)で行われた礼拝中に弾が入っていない実銃を握りしめる男性。JACQUELINE LARMA/AP IMAGES
法執行機関や事件を調査している下院特別委員会からの連絡はない、と亨進氏は言う。
亨進氏は、苦々しい思いでバイデン氏の大統領就任式を見守った。2021年1月21日の動画では、バイデン氏の大統領就任を中国共産党の勝利と嘆き、「中国共産党のスパイ」であるバイデン氏が「かつてのユダヤ・キリスト教の共和国としてのアメリカを強奪した」と非難した。
亨進氏は武力による抵抗を説き、愛国右翼団体のオース・キーパーズの創設者を引き合いに出した。「神は、我々が神の手足となることを望んでいます」と語る。「オース・キーパーズのスチュワート・ローズが言ったように、トランプ派の人々はただちに武装市民集団や自警団——名称は何でもいいのですが——の一員に加わらなければいけません」
亨進氏は、いまは「カルト教団や過激派、あるいは国内テロ組織と呼ばれることを恐れてはいけません」と話す。長きにわたって一族がカルト教団と呼ばれてきたことを指摘しながら、「我々の仲間になってください。過去を乗り越えましょう」と言い添えた。
銃崇拝者の亨進氏は、昔からバンディ一族への憧れを抱いている。バンディ一族とは、過去に何度か政府と武力衝突をしたことのある武装市民集団のリーダーである牧場主アモン・バンディ氏の一族を指す。亨進氏は、「連邦政府による権力の乱用」に立ち向かうために必要な「人格と勇気」の体現者としてバンディ氏を称えた。亨進氏は「スターリン主義的な呪いのマシンがやってくる」と警鐘を鳴らす一方で、動画の中で「バンディ氏の牧場のようなものが100あるべきだ」と、集団的な抵抗こそが唯一の防衛であると主張する。さらには、バンディ氏と政府の武力衝突について「こうしたものがアメリカ中で起きるべきです。そうすれば、ひとつを制圧しようとする政府は、全国民を敵に回すことになるのですから」と続けた。
常軌を逸したレトリックにもかかわらず、サンクチュアリ教会はいまもMAGA共和党員を引き寄せ続けている。2021年5月には、ペンシルベニア州で共和党の知事候補に選ばれたダグ・マストリアーノ氏がサンクチュアリ教会でスピーチを行う予定だった。最終的にスピーチは実現せず、マストリアーノ氏はトランプ氏の元顧問弁護士ルディ・ジュリアーニ氏と選挙資金集めイベントに参加した。亨進氏はマストリアーノ氏との面識はないものの、「我々は、マストリアーノ氏と彼の政策を支持しています」と話した。
同年10月に行われたRod of Iron Freedom Festivalでは、バノン氏のみならず、極右派の元上院議員候補で右翼団体のプラウド・ボーイズと密接な関係にあるジョーイ・ギブソン氏がゲストスピーカーとして招かれた。ダニエルズ氏は亨進氏と談笑し、金色のAR-15を抱えて自撮りをした(これは国進氏の武器メーカーが製造したもので、独特の色合いは窒化チタンコーティングによるもの)。2022年のイベントの参加者はまだ確定していないものの、元大統領補佐官のセバスチャン・ゴルカ氏や元国連大使のアラン・キーズ氏などの参加者名が挙げられている。
亨進氏は、自分と教団は「政治的悪魔主義」と戦っていると考える。MAGA運動に身を投じた理由は、「人間の自由への渇望、そして少人数の秘密結社が罰を受けずにこの国を支配している状態に終止符を打つため」と答える。
神の王国の建設を実現するうえでMAGA支持者は役に立っているのかと尋ねると、亨進氏は「これらの関係性を神がどのように活かされるかはわかりません」と明言を避けた。その一方で、「思想や心を同じくする人々と団結して——王国を実現するための神の意志を追求していきたいです」と語った。
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