ジェレミー・ザッカー来日公演、豊かなメロディと躍動感に満ちた「幸福な対話」
Rolling Stone Japan / 2022年10月18日 17時45分
Z世代のシンガーソングライター/プロデューサー、ジェレミー・ザッカー(Jeremy Zucker)が3年ぶりに来日。さる10月13日、渋谷・Spotify O-EASTで行われたライブの模様を、音楽ライターの小池宏和がレポート。
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あの「comethru」で嬌声を誘い、美麗なメロディをオーディエンスとじっくり共有するジェレミー・ザッカー。一瞬の溜めを作り、焦らすようにしながらこの曲をフィニッシュするとき、オーディエンスが待ちきれずに歌ってしまうので、ジェレミーは「僕の歌、取られちゃったよ」と楽しそうな笑顔で言葉を添える。その微笑ましくも親密なムードのライブに触れながら、世界中がパンデミックにさらされた季節に我々の心を潤してくれたのは、TikTok動画などを通じてバイラルヒットしたこんな曲(リリースは2018年)だったよな、と感慨に耽った。
米ニュージャージー州出身、現在26歳のシンガーソングライターであるジェレミー・ザッカーの来日公演。彼は2019年に初来日して一夜のみのショウを繰り広げたが、今回は大阪と東京でステージに立つツアーである。アジア/オセアニア諸地域を巡るワールドツアーの一環、なかなかにタフなスケジュールだが、この日の渋谷・Spotify O-EASTも焦らず気負わず、オーディエンスと共にライブのムードを練り上げてゆくステージになっていた。
学生時代にGarageBandを用いて本格的に音楽制作をスタートさせたジェレミーの表現は、いわゆるベッドルーム・ポップのスタイルだ。ブリンク182のポップパンクからボン・イヴェールのようなルーツ志向オルタナティブ、さらにはR&Bやヒップホップまでさまざまな音楽の影響を受けつつ、しかし決して密室的なサウンドにはならない。メロディ・オリエンテッドで伸び伸びとした、ときにはサーフポップのように有機的で風通しの良い楽曲の数々を生み出し、人気を博している。EPリリースを続ける中で2017年にメジャーデビューを果たすと、自身のライブツアー開催のみならずラウヴ(Lauv)のツアーにも帯同した。
Photo by Sotaro Goto
映画スコアのような開演SEが音量を増して迫り、姿を見せたジェレミーは熊の耳のような突起が付いた可愛らしい帽子を被っている。ステージ上はサポートのドラマーと、ベース兼キーボード奏者(こちらはジェレミーのお兄さんらしい)という3人編成である。まずは2020年のメジャーデビューアルバム『love is not dying』から、メランコリックな旋律の「were fucked, its fine」が披露される。ハロー、とシンプルな挨拶を挟み込み、今度は最新アルバム『CRUSHER』から「Therapist」だ。インディーズ時代にはどちらかと言えばプログラミング主体のエレクトロニック・サウンドが目立っていたジェレミーの作風だが、近年はそのどっしりとしたグッドメロディのセンスを存分に発揮し、オーセンティックなロック系シンガーソングライターの作風を現代的に表現している。
だからなのか、ステージ上のパフォーマンスも3人という少人数編成なのに、早くもパワフルな躍動感を放ち始める。ジェレミーがギターを携えて東京再訪の喜びを交えながら挨拶すると、骨太な手応えの「i-70」へと向かっていった。フロアには「WE♡U」のメッセージボードが揺れ、体感温度が上昇してゆく。アコギにスイッチした「always, ill care」は音源と違って弾き語りスタイルのソフトな立ち上がりだが、後からキーボードフレーズやビートが加わり、最後はオーディエンスとの歌の掛け合いでフィニッシュするという、ダイナミックな抑揚を描き出していた。
新曲も披露、巻き起こるジェレミー・コール
トロピカルテイストの最新曲「Im So Happy」(音源ではBENEEとのコラボ曲)は、その軽やかなグッドメロディとは裏腹に、恋のすったもんだが折り込まれる、皮肉めいた楽曲だ。「クソッタレな君の歌だよ」というジョーク混じりの紹介に、笑いが巻き起こる。メロディセンスのみならず、こんなふうに奥行きのある詩情も、ジェレミーの大切な持ち味だろう。スロウなグルーヴ感の中から立ち上る”not ur friend”の、物悲しくどこか滑稽な感情表現も雄弁で素晴らしい。
また今回のステージでは、未発表の新曲群も披露された。ドラマーもギターを手に、セミアコースティック編成で届けられる「internet crush」は、非常に内省的なメランコリアに満ちた曲だ。また、「cindy」では歌詞をレクチャーし、新曲であるにも関わらず早々にオーディエンスに歌わせてしまう。ジェレミーは繊細な一面も持ち合わせているけれど、ジョークを交えながら人懐っこい振る舞いを見せ続ける人柄が、彼のキャッチーなポップソングの大きな基盤になっている気がした。レーベルメイトである同世代アーティスト、チェルシー・カトラーとの素晴らしいデュエットも数々の作品として残されているが、ライブの場ではオーディエンスを表現のパートナーに仕立て上げてしまうかのようである。
Photo by Sotaro Goto
ダイナミックに展開するエレクトロポップ「somebody loves you」(直後、ポケモンのモンスターボールに寿司とカービィのミニチュアを仕込んだプレゼントをオーディエンスから受け取る)や、遂にはタンクトップ姿になって熱唱する「HONEST」、スマホのライトがフロア一面に揺れる「Cry with you」など、音楽のエモーションとインタラクティブな楽しさが渾然一体となったパフォーマンスが続き、早い時期の再来日を約束すると、ライブ本編は「supercuts」で締め括られる。熱いジェレミー・コールを受けてのアンコールもサービス精神旺盛に記念撮影を繰り広げ、名残惜しそうに全22曲を駆け抜けた。豊かなメロディの数々とともに、幸福な対話の記憶を刻みつけるステージであった。
〈セットリスト〉
were fucked, its fine
Therapist
all the kids are depressed
i-70
always, ill care
better, off
Im So Happy
not ur friend
full stop
julia
Internet Crush *未発表曲
somebody loves you
comethru
Cindy *未発表曲
HONEST
this is how you fall in love
Cry with you
you were good to me
18
supercuts
(アンコール)
oh, mexico
talk is overrated
ジェレミー・ザッカー『CRUSHER』配信中
https://umj.lnk.to/JeremyZucker_Crusher
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