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ドライ・クリーニングが拡張させた、ソニック・ユース的音響と妖艶な詩世界

Rolling Stone Japan / 2022年10月25日 17時0分

ドライ・クリーニング(Photo by GUY BOLONGARO)

アートな佇まいで異彩を放つUKサウス・ロンドンの4人組、ドライ・クリーニング(Dry Cleaning)が2ndアルバム『Stumpwork』を名門4ADからリリース。実験的オルタナ・ロックとポエトリーリーディングの組み合わせを、抜群のバランス感覚で成立させてみせた。11月30日(水)に東京・恵比寿LIQUIDROOM、12月1日(木)に大阪・梅田CLUB QUATTROで初来日公演も決定。絶賛されたデビューアルバム『New Long Leg』(全英4位)を経て、彼女たちはどんな進化を遂げたのか?


ドライ・クリーニングの2ndアルバム『Stumpwork』の中盤に収録されている「Hot Penny Day」で、詩の朗読のようなボーカルスタイルが印象的なフローレンス・ショーが「あなたのこと、今でも私のディスコ・ピクルスって呼んでもいい?」と問いかける時、誰もがイエスと答えるに違いない。4人の鳴らす音は極めて個性的であり、好きになれない人は冒頭から数曲の時点で聞くのをやめてしまっているはずだからだ。絶賛されたデビューアルバム『New Long Leg』で、バンドは音楽の文脈における二重露出というべき手法を確立してみせた。男性メンバー3人がザ・スミス風のポストパンクを鳴らすなか、フローレンスはポストモダニストのT.S.エリオットを彷彿させる殺伐とした詩を紡いでいく(その不合理な結論はエリオット以上だが)。

泡だった石鹸をカンヴァスに見立て、陰毛で『Stumpwork』の文字をエレガントに描いたジャケット写真は、バンドの二元性を端的に表現している(皮肉なことに、タイトルは刺繍のレファレンスである)。水と油を混ぜたようなサウンドは健在であり、フローレンスのボーカルとトラックを切り離したならば、どちらもそれ単体で十分に成立するはずだ。




バンドはインスピレーション源として、ペイヴメントとポルヴォ(Polvo)という90年代のオルタナバンド2組を挙げているが、デビューアルバムと同じく(PJ・ハーヴェイとの仕事で知られる)ジョン・パリッシュをプロデューサーに迎えた2ndアルバムは、より多様なバックグラウンドを感じさせる。先行シングル「Anna Calls From the Arctic」は、ピチカート・ファイヴのアップリフティングなラウンジに通じる部分がある(サックスも含めて)。「Kwenchy Kut」や「Gary Asbhy」では、ジョニー・マーのトレードマークである艶のあるポップなギターサウンドが聴ける。一方「No Decent Shoes for Rain」のキーボードサウンドは、ピンク・フロイドのリック・ライトを思わせる。かと思えば、「Conservative Hell」はスティーヴ・ジョーンズを差し引いたセックス・ピストルズのようだ。メンバーは今作でビブラフォン、クラリネット、オープンリール、カズー等を弾いているほか、鳥の鳴き声を使ったり、フリューゲルホルン奏者を迎えるなどの実験的試みもなされている。

だが最も顕著な比較対象はやはり、ドライ・クリーニングの楽器隊の3人が幼かった頃にビブラートのかかった轟音で世界中を席巻したソニック・ユースとマイ・ブラッディ・ヴァレンタインだろう。もしバンドがモグワイやペリカンのようなインストバンドだったとしても、その魅惑的かつパンチの効いた音楽は支持されるに違いない。

フローレンス・ショーが紡ぐ妖艶な詩世界

ロンドンあるいはブリストルの街を散策しながら思い浮かべた言葉が元になっているというフローレンスのヴァースは、テーマが目まぐるしいスピードで変化していく。ジョークや公案、論争、ナンセンス等が次々に放たれる呟くようなボーカルスタイルに神経を集中させていると、一部のリスナーは向精神薬のボトルに手を伸ばしてしまうかもしれない。聴き手の関心を惹く目的で、彼女はことあるごとに同じフレーズを独特の方法で繰り返す。今作では前作『New Long Leg』の時のようにメモやノートから引用するのではなく、彼女はスタジオで即興で言葉を紡いでいったという。前作と比べると、『Stumpwork』に見られる言葉の羅列にやや一貫性が見られるのはそのためだろう(”ヴァージニア・ウルフを恐れているのは誰?”というラインは見事だ)

「Anna Calls From the Arctic」における「何ひとつ成立しない/何もかも高すぎる/曇っていて独占されてる」というフローレンスのラインは、息継ぎを挟むことなくこう続く。「靴の整理に便利なやつが届いた/神様ありがとう」。家族とはぐれてしまった亀についての曲「Gary Ashby」で、フローレンスは「私抜きで背中にしがみついているの?」という疑問を口にする。「Hot Penny Day」では「男性による暴力が蔓延している」とした上で、「綺麗な顔、柔らかさ/『ビッグ・ソフト・ベッド・クラブ』を思い出す」と続いている。タイトルトラックに見られる「私は自分の行動の決定権を持っていない」というラインは、彼女の複雑な思考回路の説明であるようにも思える。

印象的なフレーズは他にもある。「私のゲーム用マウスに触らないで、ネズミの分際で」(「Dont Press Me」)。「あなたのお尻は見たけど、口は見てない」(「No Decent Shoes for Rain」)。「春巻きのためならゆっくりと死んでいく覚悟がある」(「Liberty Log」)。脱文と混沌に満ちた彼女の言葉は一貫してユーモアのセンスを感じさせ、聴き手を不快にさせることはない。




アルバムの最後を飾る「Icebergs」からは、彼女の考えをはっきり読み取ることができる(彼女なりの「Everybodys Free (To Wear Sunscreen)」というべきか)。「幸せで刺激に満ちた人生を送りたいのなら、周囲で起きていることに関心を持ち続けるべき/子どもの持つ好奇心を失わないで」。かと思いきや、「蘇生器」という何の脈絡もない言葉が続く。

フローレンスは所々で歌声を披露しているが(特に「Drivers Story」)、ドライ・クリーニングの言葉とサウンドは、それぞれが独立して機能してこそ真価を発揮する。ポエトリー・リーディングとポストパンクの組み合わせという観点ならば、ライバルというべきウェット・レッグに軍配が上がるかもしれないが、ドライ・クリーニングがユニークな存在であることは疑いない。バンドは(キング・ミサイルのように)ストーリーの全貌を明らかにすることも、フローレンスが紡ぐ言葉を祝福することもない(パティ・スミスが自作の詩に対してそうしているように)。4人は単に、ディスコ・ピクルスの関心を自分たちに向けさせ、石鹸にくっついた陰毛のサウンドの下劣な美しさを伝えようとしているだけだ。

【関連記事】オルタナを蘇らせるUK大型新人、ドライ・クリーニングの映画みたいな結成物語


From Rolling Stone US.



ドライ・クリーニング
『Stumpwork』
発売中
日本盤CD:解説・歌詞対訳付き、ボーナストラック2曲追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12859


Dry Cleaning Japan Tour 2022
2022年11月30日(水)東京・恵比寿LIQUIDROOM
2022年12月1日(木)大阪・梅田CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,000(スタンディング、ドリンク別)
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3774

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