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UKドリルの注目株がシーンの現状を語る「勢いを持続させられるかどうかは、俺たち次第」

Rolling Stone Japan / 2022年11月3日 12時0分

セントラル・シー(©Jack Bridgland)

UKチャート初登場1位に輝いた2ndミックステープ『23』やドラマ『アトランタ』のサウンドトラックへの起用など、イギリスで注目を集めるロンドン出身のラッパー、セントラル・シー。UKドリルの”顔”として活躍する彼の音楽が支持を集める理由は、厳しい現実のリアルな描写がそこにはあるからだ。

※この記事は2022年6月発売「Rolling Stone Japan vol.19」に掲載されたものです。

成長のまっただ中にいる
 
ーあなたの地元はウエスト・ロンドンのシェパーズ・ブッシュですが、この地区は、2010年から盛り上がりをみせているUKドリルを語る上で欠かすことのできない場所であると同時に、ロンドンでもっとも犯罪発生率の高い地域でもある。ソングライターとして、楽曲では包み隠さず自分をさらけ出しているように思えます。それはあなたにとって自然なことなのでしょうか?

シー もちろん。俺にとってはごく自然なことだ。それが俺の音楽の本質だから。奥に行けば行くほどリアルになる。実際、そんなにたくさん曲は作らないんだ。スタジオに入って自分の中から音楽を引き出すには、まず何かを感じなければいけない。あとは、いたって自然に出てくる。

ー最新作のレコーディングでもっともインスパイアされたことは?

シー 最近は自分に向けられる愛情から多くのインスピレーションをもらっている。時折、我に返って自分の音楽を心から愛し、それを聴きたがっている人がいることを噛みしめるんだ。こうしたインスピレーションのおかげで、次の曲を作る気力が湧いてくる。自分の音楽が最高だとは思っていない。それはあくまで俺の感情表現だから。言うなれば、日記の1ページのようなもの。自分の音楽には感動しないけど、誰かが俺の音楽を聴いて感動してくれると想像するだけで「すげーな。新曲でも作るか」と思えるんだ。

ーデビューミックステープをリリースした頃と比べて、『23』ではアーティストとしての成長を実感することができましたか?

シー 成長したと思う。アーティストとしてかはわからないけど、一人の人間として成長した気がするし、それがアーティストとしての自分に投影されると思っている。俺はまだ成長の真っただ中で、もしかしたら、もっとはっきり自分の意見が言えるようになったり、新しいものの見方に対してもう少しオープンになれたりするかもしれないけど。



ー「Commitment Issues」で描かれているように、恋愛に関しては大人な視点を持っていますね。

シー 確かに。でも、それが現実だから。「あばずれ」とか「ビッチ」とか、そういうのが取り立てて好きなわけじゃない。何て言ったらいいかわからないけど、俺は普通の人間で、それが音楽に投影されているんじゃないかな。



ー自分のことをロマンチストだと?

シー いや、まさか。ロマンチストとしては絶望的。

ーその理由は?

シー 理由は、俺が他のことにフォーカスしすぎているから。恋愛は、俺の頭の片隅にしかない。最優先事項ではないんだ。それに、多くの時間を恋愛に捧げることもできない。恋愛とキャリアは似ていると思わないか? どちらも献身が求められる。俺は自分のキャリアと現状にかなり集中しているから、恋愛とかそういった人間関係に費やす時間がないんだ。

ーパンデミックの最中にブレイクしたわけですが、パンデミックによって以前とは違うものの見方をするようになったと思いますか?

シー 思うよ。俺のキャリアにとって(パンデミックは)プラスだった。すべてをスローダウンさせてくれたから。パンデミックがなくても当時の俺は冷静だったし、そこまで苦労することはなかったと思うけど。でも、すべてがスローダウンしたおかげで、助けられたんだ。うまく表現できないけど、平凡な市民が突然「有名ラッパー」になったわけだから。ごく普通の人間が、次の瞬間にはライブをしたり、たくさんの人に会ったりするのはかなりエネルギーを消耗するし、相当キツイと思う。でも俺は、居心地のいい自宅からこうした状況に身を置くようになった。人間関係も変わらない。誰かに会う必要もない。1年間、一度もライブをしなかった。地に足をつけていられたのも、そのおかげかもしれない。


ドレイクについて

ードレイクがあなたの曲を聴いている動画をソーシャルメディアに投稿していましたが、ドレイクのような有名人に認知されるのは、どんな気分ですか?

シー クールだと思った。今もそう思っている。その前からも、心の中で思い描いていたんだ。「ドレイクはUK音楽のリスナーだ。きっと俺の作品を見てくれたに違いない」と思っていた。ドレイクが俺の音楽に対する愛情を示してくれるのは時間の問題だと確信していたんだ。そしたら、実際にそうなった。

ー昨今のUKヒップホップシーンを見渡すと、世界的にもグライムが一世を風靡したように思えます。でも今は、あなたをはじめとする新しい世代の時代です。

シー そうだな。まったく新しい時代だと思う。俺は、物心ついた頃から音楽が大好きだ。それもただのファンじゃない。音楽を研究したと言ってもいいくらいだ。だから、グライム時代のことはよく知っている。違いを目の当たりにするのは興味深いよ。この前も、グライム時代と今を比べていたんだ。当時のグライムは病んでいて、世間の興味が薄れはじめると、ドリルが取って代わった。その勢いを持続させられるかどうかは、俺たち次第だ。だって、同じように廃れる可能性だって大いにあるから。世間が関心を向けなくなるかもしれない。世界レベルでの音楽シーンという意味でどれだけ確実なインパクトを与えられたかはわからないけど、その勢いは消えてほしくない。

ーナイジェリアのラゴスで、大勢のオーディエンスの前でパフォーマンスをするTikTok動画を先日拝見しました。ラゴスは初めてですか?

シー 西アフリカ自体、俺にとって初めての場所だった。驚いたよ。ライブをするたび、オーディエンスがいい反応を示してくれるたびに驚かされる。いい気分だ。故郷からあんなに遠く離れているのに。そんな状況を目の当たりにして圧倒された。いまだに信じられない。

ーイギリスとアメリカのリスナーの違いは何だと思いますか?

シー アメリカのリスナーのほうがラップミュージックに対してオープンだと思う。イギリスでは、ラップはポップスだ。アメリカでは90年代からラップが音楽シーンの第一線を走り続けている。イギリスがラップカルチャーを受け入れるようになったのは、ひょっとしたら2016年以降とかじゃないかな? まだ新しいジャンルなんだ。だから、みんながラップに慣れようとしている。




『23』
セントラル・シー
Central Cee
配信中

セントラル・シー
本名:オークリー・ニール・H・T・シーザー・スー。ウエスト・ロンドンのシェパーズ・ブッシュで幼少期を過ごす。14歳の頃、スタジオに出入りするように。次から次へとネット上に楽曲をアップロードした。「初めてレコーディングした曲もリリースした気がする。細かいことは気にせずアップし続けた」。2020年にシングル「Day in the Life」がきっかけで注目を集める。同曲のMVはYouTubeで5000万回以上再生され、グライム専門の人気ブログにも再投稿された。2021年、デビューミックステープ『Wild West』を発表。2022年3月には2作目のミックステープ『23』をリリースした。

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