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追悼テイクオフ 「史上最大のグループ」ミーゴスのラップ革命と故人の偉業を振り返る

Rolling Stone Japan / 2022年11月2日 17時0分

テイクオフ、2018年撮影(Photo by Jeff Hahne/Getty Images)

ミーゴス(Migos)のテイクオフ(Takeoff)を追悼。音楽ブロガー/ライターのアボかどが、故人とグループの偉業を振り返る。

11月1日、アトランタのラップグループ、ミーゴスでの活動で知られるテイクオフが28歳の若さで凶弾に倒れるというニュースが走った。クエイヴォとオフセット、そしてテイクオフの三人からなるミーゴスは、全員が親戚関係にあたるグループだ。2013年のシングル「Versace」でブレイクを掴んで以降、多くのヒットを残し客演でもいくつかの重要な瞬間に立ち会ってきた。最近でもオフセット抜きのデュオとしてのアルバム『Only Built for Infinity Links』をリリース。二人は親族での音楽集団の先輩であるアイズレー・ブラザーズのアルバム『Make Me Say It Again, Girl』にも客演するなど、デュオとしての新たなキャリアを進み始めたばかりだった。奇しくも唯一のソロアルバム『The Last Rockest』のリリース4周年の前日だったテイクオフの死は大きな衝撃を与え、世界中のファンや同業者たちが追悼の意を示した。

ミーゴスは、現代のヒップホップにおけるスタンダードとなった、所謂「三連フロウ」を広めたラップグループとして知られている。スロウなトラップビートに小気味良くラップを乗せるそのスタイルはミーゴス以降にヒップホップの「型」となり、そしてそれはヒップホップを飛び越えてR&Bなどにも浸透していった。2018年にはBig Boyによるインタビューで、オフセットが「俺たちは史上最大のグループだ。ポップスもヒップホップも含めた全てにおいて。今の音楽は全て俺たちの音楽を元に作られているからね」と話していたが、それも大袈裟ではないのだ。そこで本稿ではミーゴスのキャリアを振り返ってその功績を称え、その中でのテイクオフの重要性を紐解いていく。


テイクオフが亡くなった11月1日に公開された、『Only Built for Infinity Links』収録曲「Messy」のMV


ミーゴス前夜のスタイルと「Versace」の成功

ミーゴスが結成されたのは2008年頃で、初期はミーゴスではなくPolo Clubと名乗っていたという。この頃のアトランタはYung L.A.やJ Money(後にJ. Futuristicに改名)などに代表される「フューチャリスティック・スワッグ」と呼ばれるムーブメントの真っ只中だった。このフューチャリスティック・スワッグではポロシャツが重要なアイテムで、Polo Clubというグループ名も恐らくその時代を反映したものだと推測される。

フューチャリスティック・スワッグは、音楽的には2005年頃のYoung Jeezy(現Jeezy)などが取り組んでいたトラップの特徴を一部引き継いでいた。手数の多い808やスロウなBPM、ホーン系の音色の多用などがそれにあたる。賑やかなアドリブもYoung Jeezyから継承したものだろう。さらにShop Boyzの2007年のヒット曲「Party Like A Rock Star」などに見られるロックスター・メンタリティも混ざっており、ギター系の音色もよく使われていた。ラップスタイルは脱力感のある緩いものが主流で、Roscoe Dashのようなメロディアスなアプローチも好まれた。



ミーゴスの音楽性の基礎は、このフューチャリスティック・スワッグをハードな方向に発展させたものだと言えるだろう。エレクトロニックなシンセよりもオルガンやホーンなどの音色を好むビート選び、賑やかなアドリブ、特にクエイヴォに見られるメロディアスなアプローチ……など共通点を多く発見できる。また、2011年のミーゴスとして初のミックステープ『Juug Season』では、まだ三連フロウの開拓が進んでおらずルーズなフロウが目立つ。これはかなりJ Moneyなどと通じるラップスタイルだ。




2012年に放った初期の小ヒット曲「Bando」も基本的にはそのスタイルの延長線上にあるものだったが、ここでは三連フロウを随所で使用していた。そして同曲をきっかけに現所属レーベルであるQuality Control Musicの代表・Coach Kと繋がり、ミーゴスは三連フロウを多用したスタイルで曲を量産。その中の一つが2013年のヒット曲「Versace」で、ドレイクが丁寧に三連フロウを披露するリミックスの登場もありミーゴスはローカルを越えた成功を掴んだ。そして、ここから三連フロウが一気に浸透していった。

「Versace」の成功で注目を集めたミーゴスだったが、前後してオフセットが逮捕され二人体制での活動を余儀なくされていた。ヒットの勢いに乗って発表したミックステープ『Young Rich N*ggas』でもオフセット不参加の曲がいくつかあり、「Versace」に続くヒットとなった「Hannah Montana」もオフセット不在の曲だった。そのためトリオのミーゴスだが、最初はデュオとしてのブレイクのような形になった。今ではオフセットのソロでの活躍が目覚ましいが、初期の人気はクエイヴォとテイクオフの二人が支えたのだ。




ミーゴスの二次ブレイク、テイクオフのソロ作に見る才能の片鱗

ミーゴスのブレイクに伴う三連フロウの浸透は凄まじく、2014年に発表したミックステープ『No Label II』の冒頭を飾る「Intro No Label II」でもテイクオフがそのことに言及している。さらに2曲目は「Copy Me」というストレートなタイトルを冠し、グループ全員でそれをテーマに据えた。なお、「Copy Me」で「お前らは俺のフロウを盗んでいるってわかっているんだろ」と迫るフックを担当したのもテイクオフだ。グループの中の誰が三連フロウに最初に挑んだのかは不明だが、これらの曲でのテイクオフのリリックからはオリジネイターとしての自負が強く感じられる。



その後もオフセットの再びの逮捕などマイナスなトピックもあったものの、クエイヴォとテイクオフの二人でその人気を保持。2015年にはシングル「Look At My Dab」をリリースし、アトランタに根付く「ダブ」と呼ばれるダンスの振り付けの流行に貢献した。そして2016年にはシングル「Bad and Boujee」が14週連続でチャートのトップ10に残る大ヒットを記録。勢いに乗って2017年にリリースしたアルバム『Culture』も成功し、ミーゴスはさらなるステップアップを果たした。




この頃にはオフセットが詰め込み気味でシャープなフロウ巧者としての才能を本格的に開花させており、それまでメロディアスなアプローチも得意なクエイヴォがグループ内での一番人気だった状況が『Culture』を機に少し変化した。そのため、テイクオフ個人に限っては『Culture』での二次ブレイク後もほかの二人ほど単独での客演数の増加は起きなかった。「Bad and Boujee」にテイクオフが不参加だったことも災いしたのだろう。しかし、それでも2018年にはグッチ・メインが「テイクオフは今の俺のお気に入りのラッパー」とInstagramでシャウトアウトを送るなど、ドスの効いた迫力の低い声質と安定したフロウを持つそのラップへのファンはしっかりと着いていた。

テイクオフにとって唯一のソロ作となった2018年の『The Last Rocket』はミーゴスと少し異なるスペイシーな音使いが目立ち、独自の路線を追及する姿勢を見せていた。トラップから離れたスムース&ダンサブルな「Infatuation」はミーゴスにはないタイプの曲で、クエイヴォとオフセットのソロ作でも聴けないテイクオフだけが持つセンスだ。また、未だにリリースされていないものの、リル・ヨッティやCarnageとのコラボ作の制作も報じられていた。未発表のラップが今後リリースされる可能性はあるものの、テイクオフが持っていたミーゴスとは違うセンスでまとめ上げられた作品をもう聴くことができないのは残念でならない。



ミーゴスがいたからこそ現在の音楽シーンがある

アトランタのシーンが育んだ音楽性を発展させつつ、三人で同じスタイルのフロウを使うことにより集団の力でヒップホップに大きな変革をもたらしたミーゴス。二次ブレイクの際には一人置いて行かれるような状態になったものの、その初期の活動を支えたテイクオフの存在はなくてはならないものだった。もしテイクオフがいなかったらオフセット不在時にミーゴスの名前はシーンに残らず、「Versace」の一発屋になったか、クエイヴォだけがソロで人気を集めていたかもしれない。Murda BeatzやBuddah Blessのように、ミーゴス作品をきっかけにステップアップしていったプロデューサーの活躍もなかっただろう。カーディ・Bやポスト・マローンも、ミーゴス(のメンバー)との共演曲でヒットを重ねて現在の地位を固めたアーティストだ。トラップの人気もミーゴスあってのものだろう。ミーゴスが常にヒップホップの第一線で活躍していたからこそ、現在の音楽シーンがあるのだ。

また、2017年にはヒップホップ/R&Bが全米で最も聴かれている音楽ジャンルになったことが報じられたが、この2017年というのは「Bad and Boujee」の大ヒットと重なる時期だ。ヒップホップ/R&Bの市場規模の拡大という点でもミーゴスの功績は大きなものがあると言えるだろう。ヒップホップのフロウを変えてセールスを伸ばしたミーゴスは、オフセットが言うように紛れもなく「史上最大のグループ」なのだ。改めてその偉業を称え、テイクオフに追悼の意を捧げたい。

【関連記事】ミーゴス1万字インタビュー:ヒップホップ界のキングが語る過去・現在・未来

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