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アークティック・モンキーズはどこへ向かう? No Buses近藤大彗らとバンドの現在地に迫る

Rolling Stone Japan / 2022年11月21日 18時0分

アークティック・モンキーズ(Photo by Zackery Michael)

アークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)の通算7作目となるニューアルバム『The Car』が、ここ日本でも大きな話題を集めている。このたび過去タイトル全作の紙ジャケ・高音質UHQCD新装盤リイシューも決定(詳細は記事末尾)。UK最重要ロックバンドはどこへ向かおうとしているのか。荒野政寿(シンコーミュージック)による解説コラムと、アークティックの初期ナンバーからバンド名を拝借したNo Buses・近藤大彗のインタビューをお届けする。


1. 車、ミラーボール、憂鬱と寂寥
荒野政寿

2018年の前作『Tranquility Base Hotel & Casino』の反動で、さすがに少しはヘヴィなギター・ロック側に揺り戻すのでは……と勝手に予想していたので、『The Car』を包むメロウさには心底驚かされた。ストリングスをたっぷり使ったドラマティックなアレンジに、アレックス・ターナーがラスト・シャドウ・パペッツや映画音楽で試していたことは「別の流れ」ではなく、今このように合流するのか、と感慨を覚える部分もある。アレックス自身もそう感じているようで、「今となっては、少なくとも僕にとって、完全に別物なんてありえないんじゃないかと思う。自分のやることすべてが、次に影響するような気がするから」と発言している(Apple Music掲載のインタビューより)。


Photo by Zackery Michael

ここまでアレックスのカラーが強まって、メンバーのモチベーション的にどうなのだろう、という疑問はあるが、かといってソロ・アルバムのようには聞こえない。キャリアを重ねて技術的に熟達してきたメンバー同士が、会話を重ねるようにグルーヴを編んでいく。そこに力みはないし、抑制された心地よいリズムとビートがじわじわと湧き出てくる。

リズム・セクションの変化から、インプットされる音楽の傾向が少し変わったのかな、とも感じた。本作を聴いて真っ先に思い浮かんだのは、アル・グリーンに代表される、メンフィスのHi Recordsの作品群。アル・ジャクソン、ホッジス兄弟などを起用、切れのあるリズムと情感豊かなストリングスを絶妙なバランスで同居させていたウィリー・ミッチェルのプロダクションは、本作で参照されていたとしても不思議ではない。

メンフィスといえば、アルバムの印象的な写真は、ドラマーのマット・ヘルダースがウィリアム・エグルストン(メンフィス出身の写真家、ビッグ・スター『Radio City』のジャケット写真を撮影したことでも知られる)の作品に触発されて撮ったそう。まったくの偶然だと思うが、実際、エグルストンがメンフィスで撮り続けた初期の作品は、本作の世界とフィットする寂寥をまとっている。





ウィリアム・エグルストンの写真、Instagram(@egglestonartfoundation)より引用。右上がビッグ・スター『Radio City』ジャケットに用いられた作品。

カーティス・メイフィールドを引き合いに出して本作を語っている評者もいるが、ワウ・ギターに対する考え方がカーティスとはかなり違う。手/足がギター/ワウ・ペダルに直結、一音一音で”語る”タイプのカーティスに対し、「I Ain t Quite Where I Think I Am」で聞こえてくるのはオートワウ(ペダルを踏み続けなくてもワウ効果を得られるエフェクター)を用いたプレイ。このプラスティック・ファンク感溢れる、ちょっとコミカルな響きのギターに身を委ねていると、後半にドッとストリングスが押し寄せてきてたちまち風景が一変する。時間をかけて練り上げたのが感じられるアレンジだ。

ソウル/ファンクへの接近が顕著になる一方、もともとの持ち味であるスコット・ウォーカー、デヴィッド・ボウイといったシンガーたちから受けた影響も、引き続き色濃く出ている。いかにも英国的なオーケストラル・ポップに、一見すんなり混ざりそうにないソウル/ファンク要素を同居させている点、そしてアルバム冒頭の曲にミラーボールが登場(!)する点で、ポール・ウェラーの『On Sunset』(2020年)と重なる部分もあるが、同作はサウンド的に多くの要素を詰め込もうとした分、アルバムとしてはやや散漫なところがあった。全体の統一感では『The Car』に軍配が上がるし、楽曲のムードに完璧に寄り添った歌詞が見事な効果をあげている。訳詞を読みながら曲の世界に没入して聴き進めると、1本のロード・ムービーを通して観たような満足感が得られるはずだ。



アレックスは歌詞について、必ずしも自分の体験を書くわけじゃないという旨の発言をしているが、それにしても『The Car』の告白的な歌詞はあまりにも赤裸々だ。ここまで感傷的な気分に支配されたアークティック・モンキーズのアルバムを他に知らない。全体の柱となるのは恐らくある人物との別離で、それを象徴するように”車”のイメージが現れては消える。

同じ時期にまとめて書いたわけではないのだろうが、「Thered Better Be A Mirrorball」で提示された”車”は、海岸沿い(「I Aint Quite Where I Think I Am」や「Jet Skis On The Moat」)を周り、やがて「Perfect Sense」でホテルへ戻ってくる……と、連続性を持たせて深読みすることもできそうだ。その間に「The Car」で挟まれる独白、「でも車から何か取ってくるまでは、まだ休暇とは言えないんだ」で、逡巡の中にいる主人公の心情があらわになる。

自身の音楽キャリアに対して言及しているのでは、と感じる歌詞もある。”何でもあり”と題された彫刻作品群を前にして、過去の音楽シーンにそれを重ね合わせる「Sculptures Of Anything Goes」の刃は、他者にのみ向けられたものではないだろう。「Hello You」に出てくる一節、「この電気の武者の自動車パレードがあの大通りを疾走することはもうないだろう」のナイーブさも気になるし、締めの「髭を剃り、一寝入りすれば、僕だってきっと17歳で通るはず」は、真意のほどはともかく、今や36歳になったアレックスに言われるとハッとする。

「Perfect Sense」で歌われる「連続無敗を記録したまま最終ストレートに突入しても、これはレースなんかじゃないと僕に念押し続けてくれ」は、アークティック・モンキーズを20年以上走らせ続けてきた者の憂鬱と無縁ではないはず。本作はテイラー・スウィフトの『Midnights』に阻まれ、デビュー以来続いてきた全英アルバム・チャートでの連続No.1を達成できなかったが、ここで余計な肩の荷がおりたことは、バンドマンとしての生き方を長い目で見ると、かえってよかったのかもしれない。

スタジオで徹底的に作り込んだ『The Car』の楽曲をライブでどう表現するのか想像できなかったが、先日YouTubeで公開された『Arctic Monkeys at Kings Theatre』では、新曲も過去の代表曲と違和感なく共存させており、ライブで熱狂を巻き起こしてきたバンドの底力を感じさせた。ステージ上で化けそうな曲も多い『The Car』が、今後のアークティック・モンキーズをどこへ連れていくのか、ここから始まる新しい旅に期待したい。


『Arctic Monkeys at Kings Theatre』からの映像

2. アークティック・モンキーズに塗り替えられた音楽人生
近藤大彗(No Buses)


近藤大彗(こんどう たいせい:写真の一番右)
No Busesのギター/ボーカル。バンドは2016年結成。2022年9月に3rdアルバム『Sweet Home』をリリース。ダウナーながらも煌びやかにサウンドを彩るメロディやストイックなビートのバンドサウンドを武器とする。2020年よりソロ・プロジェクト=Cwondoを本格的に始動、2022年7月に3rdアルバム『Coloriyo』をリリース。


アークティック・モンキーズの音楽と出会ったのは高校1年生のときでした。その頃、音楽に詳しい従兄弟が自分の家にしばらく居候することになって。まだONE OK ROCKくらいしか聴いてなかったけど、僕も音楽に興味を持ち始めた時期で。従兄弟のiTunesライブラリを勝手に覗いたら、アークティックは「A」だから割とすぐ表示されたんですよね。ちょうど『AM』(2013年)が出るくらいの頃で、彼らの写真をいろんなところで見かけていたりしていたので気になったんです。

それでしばらくして、近所のTSUTAYAに行ったら、「洋楽ならこれを聴け」みたいなコーナーでレッチリやミューズ、ストロークスなどと並んで、アークティックの1st(2006年の『Whatever People Say I Am, Thats What Im Not』)が面陳されていて。とりあえず片っ端から借りてみて、自分に一番刺さったのがアークティックでした。

特に1stは、まだそんなに音楽を掘っていない自分にもリーチするような、単純にかっこいいと思える魅力がありますよね。ギターもキャッチーだし、スピードも速くて、あの疾走感がグサッときたのかもしれない(笑)。もちろん、今聴いても洗練されているというか、単にわかりやすいだけでもない。



そこからすっかり夢中になって、他のアルバムも順番に聴き進めていきました。自分の転機になる音楽を見つけられたのが嬉しくて、ずっと聴いてましたね(笑)。音楽を聴くうえでのシグネチャーみたいなものが一つ確立されたような感じがして、そういう意味で音楽を聴くことに意識的になったというか。それに、音楽を始めるきっかけとしてもすごく大きかった。

高校2年でギターを買ってからは、家でひたすらコピーしました。アークティックは一通りコピーしたので、今は忘れてしまった曲もあるかもしれないけど、たぶんほぼ全曲弾けると思います。パワーコードが多くて弾きやすかったんですよね。2nd(2007年の『Favourite Worst Nightmare』)は特にそうで、単音で押さえられたり弾きやすいフレーズの曲が多い。難しいコードが弾けなくてもギターを弾いた気になれるのが楽しくて、何度も練習することで自分のなかに刷り込まれていって、そういう面でも好きになりました。No Busesのメンバーもみんな好きで、大学時代にコピーバンドをやったりもしましたね。



「No Buses」というバンド名は、もともと仮で付けたものなんです。先にライブが決まってバンド名を決めようとなったとき、自分たちでは悲惨なものしか思い浮かばず(笑)、好きなバンドの曲から拝借しようと。それで、字面もバンド名っぽいし、いわゆる代表曲でもないし(2006年のEP『Who the Fuck Are Arctic Monkeys?』収録)、曲調もメランコリックで好きだったからちょうどいいなと思って。そして、そのまま変えるタイミングを見失ってしまい現在に至ると(笑)。

でも実は、「アークティックみたいな曲を作りたい」と思ったことはないんですよね。それなりにギターが弾けるようになっても、あんなふうにはなれないなって。そういう意味で、バンドサウンドというよりは、アレックス・ターナーの歌心に影響を受けているのかもしれない。アルバムだと4作目の『Suck It and See』(2011年)、曲でいうと「Only Ones Who Know」(2nd収録)や「Piledriver Waltz」(4th収録)みたいに、歌がフォーカスされている作品が特に好きなんです。




だから、今回の『The Car』はすごく好きですね。本人たちが意識しているのかわからないけど、「歌を聴くアルバム」という印象を受けました。ここまでアレックスが感情的に歌っているのを初めて聴いたというか。今作ほどまで息遣いを感じたことはなかった気がします。

『Suck It and See』の頃はもっとバンド的だったけど、今作ではアレックスが歌うメロディと呼応するようにオーケストレーションが躍動している。それに、歌に深みをもたせるためだと思うんですけど、難しいビートを叩いてないですよね。過去作を遡ると、アレックスは声をビートにバチバチ乗せていて、そこで綺麗に韻を踏んでいたのが、3rdの『Humbug』(2009年)辺りから歌っぽくなってきた。そういう歌への意識が『The Car』では最高潮に達していて、なおかつ他の作品でも聴いたことがないようなメロディになっている。だけど、その歌を彩るバンドサウンドは、懐かしさを覚えるくらいアークティック節が効いたフレーズが出てくるので、不思議なバランスだと思いました。

バンドサウンドという点では『AM』でひとつの区切りを迎えたあと、前作の『Tranquility Base Hotel & Casino』からは「どういう質感を選ぶのか」を追求している感じがします。ラスト・シャドウ・パペッツとしての活動もあったので、そういった作風に踏み込むのは予想できなくもなかったけど、「他でやってるんだから、このバンドでやる必要はない」とはまったく思わないです。ラスト・シャドウ・パペッツではマイルズ・ケインのスウィートな作風が強調されているのに対し、現在のアークティックはアレックスらしいメランコリックな雰囲気に落とし込んでいて、バンドの色味はしっかり保たれていますからね。

アレックス・ターナーという人は、冷たくそっけないようで、どこかチャーミングというか。クールに振る舞いつつ、隙をちゃんと見せてくれる。彼のメロディもそういうところがあるし、今作にもそれは感じました。


写真の一番下がアレックス・ターナー(Photo by Zackery Michael)

『The Car』で特に好きな曲は、2曲目の 「I Aint Quite Where I Think I Am」。『AM』の雰囲気もありつつ展開がすごくて、今作を象徴する一曲だと思いました。今のアークティックっぽいと思ったのは、7曲目の「Big Ideas」。最後の「Perfect Sense」は個人的な好みで、単純にめっちゃいい曲だなと。

あと、アークティックはB面曲がいつも素晴らしいんですよ。「Suck It and See」B面曲の「Evil Twin」はいわゆるアークティックらしいギターリフに乗っかる軽やかなボーカルの揺らし方がいいとこ取りで、『The Car』とも少し近い感じがします。前作のB面曲「Anyways」もよかった。『The Car』の曲もこれからシングルカットされるのかもしれないし、そうだとすれば楽しみですね。

今後もアルバムを作ってくれるのだとすれば、次はどこにフォーカスするのか気になりますね。質感なのか、ボーカリゼーションなのか、バンドサウンドなのか。すでにここまで完成されているのに、さらに「その先」を期待したくなる。本当にすごいバンドだと思います。(取材:小熊俊哉)

【関連記事】アークティック・モンキーズが語る『THE CAR』の進化、ギターの探求、The 1975への回答





アークティック・モンキーズ
『THE CAR』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12971


アークティック・モンキーズ
過去タイトル全作が紙ジャケ・高音質UHQCDの新装盤で再発決定

初回生産盤はロゴ・ステッカー封入、数量限定Tシャツセットや日本語帯付きLPも発売

●2023年1月20日(金)リリース
1st『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』
2nd『Favourite Worst Nightmare』
3rd『Humbug』

●2023年2月17日(金)リリース
4th『Suck It and See』
5th『AM』
6th『Tranquility Base Hotel & Casino』

商品詳細:https://www.beatink.com/artists/detail.php?artist_id=2663



No Buses
『Sweet Home』
発売中
配信:https://orcd.co/sweethome
購入:https://lnk.to/nb_sweethome



No Buses 3rd Album Release Tour 2022 ”Sweet Home”
2023年1月9日(⽉祝)名古屋CLUB UPSET

年末調整GIG 2022
2022年12月10日(土)名古屋 THE BOTTOM LINE

砂上の楼閣37 ツイーディ ネフュー カムズ アロング フィーバー
2022年12月11日(日)新代田FEVER

JOHNNIVAN『GIVE IN!』RELEASE PARTY
2022年12月15日(木) 渋谷WWW

『UBC-JAM Vol.34』
2023年1月14日(土)渋谷WWWX

No Buses公式ホームページ:https://www.nobusesband.com/shows/733/

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