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ハリー・スタイルズ独占取材 世界的ポップアイコンが怒涛の一年を語る

Rolling Stone Japan / 2022年11月15日 17時30分

ハリー・スタイルズ(Photo by Amanda Fordyce for Rolling Stone)

ハリー・スタイルズの約5年ぶりとなる来日公演が、2023年3月24日(金)・25日(土)に有明アリーナで開催されることが決定。これを記念して、米ローリングストーン誌の最新カバーストーリー完全翻訳版をお届けする。世界的なポップアイコンとなった彼が、怒涛の一年、2本の新作映画、女優で映画監督のオリヴィア・ワイルドとの関係、アクティビズム、セクシュアリティ、セラピーなど、さまざまな話題について語った。

【写真を見る】ハリー・スタイルズ撮り下ろし(全8点)

「2022年の顔」になるまで

2022年5月20日の夜、ニューヨークでハリー・スタイルズのライブが開催された。それもただのライブではない。その日、スタイルズはのちにキャリア史上最大のヒット作となる3作目のアルバム『Harrys House』(2022年)の全曲を初めて披露したのだ。会場となったロングアイランドのUBSアリーナには、羽飾りやキラキラのラメで着飾り、涙で頬を濡らしたファンたちが押し寄せた――スタイルズがライブで訪れる街では、もはやお決まりの光景だ。

だが、その日のファンはアンコールが普段と違うことに気づいた。いつもなら「Kiwi」をラストに持ってくるところ、スタイルズはニューシングル「As It Was」をもう一度披露してライブを締めくくったのだ。ダンサブルでありながらもエモーショナルな「As It Was」には、パンデミックがもたらした孤立と変化に対するスタイルの考えが投影されている。演奏開始と同時に、観客の熱狂は最高潮に達した。スタイルズにとって初めての経験だった。さすがの彼も、これには心を揺さぶられた。

「ステージを降りて、楽屋に入った。少しのあいだ、ひとりにしてほしかったんだ」とスタイルズは2カ月前のライブを振り返る。「ワン・ダイレクション以来、何か新しいことを経験するなんて思ってもいなかった。『熱狂がどういうものか、もうわかっているよ』と思っていたんだ。でも、あのときは何というか、自分でもわからない何かを感じた……恐怖じゃない。でも消化するのに少し時間が必要だった。得体の知れない感情だったから。あのとき感じたエネルギーは尋常じゃなかった」



28歳のスタイルズは、自らの力で新次元のスターダムの扉を開いた。イギリスのボーイズグループ、ワン・ダイレクションのメンバーだった数年前までは、満席のアリーナやスタジアムでライブを行なっていたスタイルズだが、2022年の春から夏にかけては、ひとりのアーティストとしてステージに立った。キャリア史上最大のヒットとなったシングル「As It Was」は、ストリーミング回数の記録を塗り替え、20カ国以上の音楽チャートのトップに輝いた。さらに、全米チャートでは10週連続で1位に君臨した。ファンの大半が若い女性であることを理由に、世間はスタイルズをキュートなティーンアイドル以上の存在として見ようとはしなかった(それがいかに間違っているかを証明するために彼の功績をここでわざわざ掘り起こす必要はないだろう)。スタイルズは、こうした流れが不思議と変わりつつあることを感じている。「『As It Was』は、いままでの楽曲の中でいちばん男性の反応が多い楽曲かもしれない」とスタイルズは指摘する。「変な発言に聞こえるかもしれない。だって、男性ファンを獲得することを狙っていたわけじゃないから。でも、気づいたんだ」

同年4月にスタイルズがコーチェラ・フェスティバル2022のヘッドライナーを務める直前、筆者はバックステージでコメディアン兼俳優のジェームズ・コーデン、ゲストシンガーのシャナイア・トゥエイン、ガールフレンドのオリヴィア・ワイルドに囲まれるスタイルズを直撃した。その後、ニューヨークとロンドンのウェンブリー・スタジアムのライブ(チケットは完売)にも足を運んだ。そこでは、スタイルズに注がれるとてつもない量の愛情を目の当たりにした。ライブの終わりにほぼ毎回スタイルズが述べる「1年、2年、5年、あるいは12年間」自分のことを支えてくれたファンへの感謝の言葉にもあるように、ファン歴にかかわらず、彼女たちの表情はスタイルズへの愛にあふれていたのだ。ライブの前でさえ、街のいたるところでスタイルズの楽曲を耳にした。「As It Was」は乗車したタクシーで必ずと言っていいほどかかっていたし、「Watermelon Sugar」はもはや朝食のBGMとして定着している。ロンドンのドラッグストアでは、「Golden」が静かに流れていた。「Late Night Talking」が大音量で流れるブルックリンのバーでは、男性が「認めるよ、俺はハリー・スタイルズが好きだ」と明かした。まるで、あるがままの自分を受け入れる過激な告白であるかのように。



2022年、ハリー・スタイルズは世界のいたる場所に存在していた。そしていま、筆者の目の前のアームチェアに腰掛けている。汗ばむ陽気の6月某日の午後、ドイツ北部の港町ハンブルクのホテルのスイートルームに私たちはいる。その日の朝にアイリッシュ海でひと泳ぎしたあと、スタイルズはハンブルクに到着した。この地を訪れるのは、2018年にソロアーティストとして行なった初のヨーロッパツアー以来だ。いまは、ツアーの合間のオフを満喫している。

実物のスタイルズは、アンドロジナスな魅力をたたえたスタイルアイコンというよりは、スポーティでキュートな親友の兄のようだ。ふわふわのボアやスパンコールが散りばめられたオールインワンではなく、スポーツブランドの青いトラックジャケット、ショートパンツ、グッチのスニーカーといったコーディネートに身を包む。まるでロマンス小説に登場する反抗的な貴公子のように乱れた髪は、スタイルズがオフの日に好んで使うヘアクリップですっきりと後ろにまとめられている。

スタイルズは、ミレニアル世代の若者としては一風変わっている。スイートルームの反対側にあるコンセントでスマホを充電するあいだ、着信や通知が来ていないかとチェックすることは一度もない。ゆったりとしたイギリス英語でインタビューに応じるあいだも、話し相手の目をしっかり見つめる。かつて世界中が恋した、クラスのお調子者的な陽気なオーラやワン・ダイレクションのメンバーとして活動した12年前の面影は消え、いまでは禅僧あるいはストア哲学者のように落ち着いている。それでも、その親しみやすさと魅力的な人柄は何ひとつ変わっていない。世界を股にかけてスタイルズを追いかけ回してきた(あくまで仕事として)筆者と交わしたちょっとした会話でハンブルク滞在中の筆者の予定、雑誌の締め切りの仕組みを聞いてくるなど、好奇心旺盛なところは昔のままだ(ニューヨークで行われたSpotify主催のニューアルバムのサプライズイベントでファンを驚かせたスタイルズから、デヴィッド・クロスビーのニューアルバムの感想を求められた。ちなみにスタイルズは、このアルバムがとても気に入っている)。

「ハンブルクには、大おじが住んでいるんだ」とスタイルズは話す。「彼はドイツ人の女性と結婚した。だから、僕にはドイツ人のいとこがいる。僕が子供だった頃は、しょっちゅう遊びに来ていたよ。いとこは、『レモネード』以外の英語はチンプンカンプンだった。だから、本当にレモネードを飲みたがっていたのか、『お願いだから、お水をちょうだい!』と言おうとしていたのか、わからなかった」

スタイルズほどのアーティストがヨーロッパを再訪するのにさほど時間はかからなかった。26日の夜には、地元のサッカークラブが本拠地とするフォルクスパルクシュタディオンで5万人以上の観客の前でライブを行う。Love On Tourと銘打ったこのツアーは、当初は2作目のアルバム『Fine Line』(2019年)がリリースされた数カ月後の2020年の春にはじまる予定だった。延期の理由は、説明するまでもないだろう。


PHOTOGRAPHED BY AMANDA FORDYCE FOR ROLLING STONE. VEST BY VIVIENNE WESTWOOD. JEWELRY, STYLES OWN.

スタイルズがふたたびステージに立てるようになったのは、2021年の秋だった。だが、その間に不思議なことが起きた。人々が家の中で時間を過ごすようになるにつれて、『Fine Line』に収録されているシングル「Watermelon Sugar」が米音楽チャートで初めてNo.1を獲得したのだ。スウィートなこの曲には、実は性的な意味合いが込められている。それから一年を待たずして、スタイルズは同曲で初めてグラミー賞を受賞した。

パンデミックの深刻化にともない、スタイルズはロサンゼルスに舞い戻った。もともとロサンゼルスには家があり、そこに3人の友人とともに引っ越したのだ。「散歩したり、夕飯を作ったり、レタスを洗ったり、そんなことをしながら時間を過ごした」とスタイルズは話す。ほどなくしてスタイルズはこの一時休止を有効に使おうと決意し、音楽づくりに着手した。音楽プロデューサーのリック・ルービンが所有するマリブのレコーディンズスタジオ「シャングリラ」が空いていたので、スタイルズは長年来のプロデューサー兼共同ソングライターのキッド・ハープーンとタイラー・ジョンソンとともに入居した。「明確な目的があったわけではない」と彼は話す。「家の中でじっとしているより、みんなでスタジオに入って音楽をつくるほうが精神的にもいいんじゃないかと思った」。こうして彼らは、知らず知らずのうちに3作目のアルバム『Harrys House』に取り組んでいた。同作は、スタイルズのディスコグラフィー屈指のラジオ向きの楽曲を取り揃えたステイトメント的なアルバムであり、細野晴臣の1973年作『HOSONO HOUSE』からインスパイアされている。スタイルズは、数年前に日本で暮らしていたときに初めてこの作品と出会った。彼にとってこの作品は、日常生活を交差するモノローグのようなものだ。

行動規制の緩和によって飛行機での移動が可能になると、スタイルズはロンドンの自宅に戻った。その後、友人と一緒に他界した義父の車でイタリアを目指した――義父が遺してくれたジャズのCDを聴きながら。ローマのトレヴィの泉を訪れたスタイルズ――おそらく、パンデミック期間にしか拝むことができなかったヒゲを蓄えていたはず――が目の当たりにしたのは、普段であればローマ屈指の観光スポットに群がる人ごみではなく、たった4人の観光客だった。「行く先々で『変な時代だね』と話しかけると、みんな口を揃えて『ほんとうに! まったくどうかしている!』と答えた」

コロナ禍でも自分を見失わなかったのは、友人やコラボレーターといったルームメイトたちのおかげだとスタイルズは語る。「僕ひとりだったら、本当に苦しかったと思う」と、”Harry, youre no good alone(ハリー、ひとりでいるのはよくない)”という「As It Was」の歌詞をほのめかしながら言った。イタリア旅行を終えると、友人に会いにフランスを訪れた。その後、イングランド西部のバースからほど近い場所にあるレコーディングスタジオ「リアル・ワールド・スタジオ」に落ち着いた。2021年の秋に『Fine Line』を引っ提げて待ちに待った全米ツアーに出発した頃には、『Harrys House』は内々に完成していたのだ。

トップアーティストの宿命ともいうべきシングルのリリースや”凱旋”ワールドツアーのほかにも、そのアーティストが新次元のスターダムに到達したことを証明する指標がある。スタイルズの場合は、「Pleasing(プリージング)」というコスメブランドがそうだ。Pleasingは、スキンケア製品やネイルポリッシュ、アパレルを展開している。このほかにもグッチとのコラボレーションや俳優としての順風満帆なキャリアも忘れてはいけない。スタイルズは、サイコスリラー『ドント・ウォーリー・ダーリン』や禁断の愛を描いた『僕の巡査』といった映画で主役を演じただけでなく、『エターナルズ』のキャラクター・エロス役で出演する契約をマーベル・スタジオと結んでいる。「『Xファクター』以来、すべての人生はまるでボーナスのようだった」と、スタイルズはワン・ダイレクション結成のきっかけとなったオーディション番組に言及した。

「裸の赤ん坊」としての時間

ハンブルクのスイートルームにいるスタイルズは、まだすべての答えを見つけたわけではない。愛や羞恥心、誠実さ、思いやりの大切さ、セラピーについて真剣に考え、不安になる。全身全霊でファンに愛される世界屈指のポップスターになる一方で、息子、兄弟、友人として最高の存在に、さらにはパートナーにとってかけがえのない存在になることは可能か? と心配する。あらゆることが大きくなるにつれて、彼はそれとは逆の人生を想像する。世界でもっとも求められるアーティストが自身の最良の部分を守り続けるには、どうしたらいいのだろうか?と。

2022年6月18日と19日に行われたウェンブリー・スタジアムでのライブ(両日ともチケットは完売)が終わるや否や、スタイルズは毎晩必ずシャワールームに駆け込んだ。それ以来、ライブ後のシャワーは儀式のようなものになっている。衛生面での必要性はもとより、それは明晰な思考を取り戻し、考えるために必要な時間を与えてくれる。スタイルズは、シャワーを浴びることでファンから受けた愛情いっぱいの叫び声や欲望を洗い流し、自分という存在に立ち返るのだ。こうした感情には、誰だって圧倒される。「あれほど大勢の人の前に立ってああいうことを経験するのは、ものすごく不自然なんだ」とスタイルズは言う。「それを洗い流せば、裸の人間に戻ることができる。裸であることは、人間としてもっとも脆弱なかたちだから。基本的には、裸の赤ん坊と同じだ」

ライブ後のシャワーは、スタイルズにとってとりわけ満ち足りた時間となった。ワン・ダイレクション(スタイルズは、ワン・ダイレクションのことを”バンド”と呼ぶ)がウェンブリー・スタジアムでライブを行った2014年、スタイルズは当日に扁桃炎を発症した。「惨めだった」と振り返る。「いまでも覚えているよ。最初の曲が終わって、僕は車に直行した。あまりに情けなくて、泣き出してしまったんだ」

ウェンブリー・スタジアムで行われたスタイルズのソロライブは、まるで同窓会のようだった。両日とも、家族や友人をはじめ、人生を分かち合った多くの人々が観客席で彼を見守った。母親のアイ・ツイストさんや姉のジェマさんをはじめ、スタイルズの仲間たちは、オリヴィア・ワイルドとふたりの幼い子供たちと肩を並べてスタンド席で踊った。客席には、元メンバーのナイル・ホーランの顔もあった。スタイルズがワン・ダイレクションの「What Makes You Beautiful」を披露するあいだ、ホーランは終始満面の笑みを浮かべていた。

世界最大のポップスターへと成長するにつれて、スタイルズはますますプライバシーを求めるようになった。それは、「裸の赤ん坊」である自分を世間の目に触れさせないことでもある。秘密主義は、しつこく向けられる性生活に関する質問をかわす際の助けになった。法定年齢に達してからというもの、スタイルズは常にこの手の質問の矢面に立たされてきたのだ。


PHOTOGRAPHED BY AMANDA FORDYCE FOR ROLLING STONE. VEST AND SKIRT BY VIVIENNE WESTWOOD. SHOES BY ERL.

スタイルズは、2年前から定期的にセラピーに通っている。「週に一度は必ず行くようにしている」と話す。「毎日運動するし、体のケアもする。だから、心のケアをするのも当然なんじゃないかって思ったんだ」

セラピーを通じてスタイルズは、それまで理解することができなかった自身の新しい側面を分析しはじめた。「感情の多くは、まったく馴染みのないものだ――きちんと分析しはじめるまでは。だから、[ひとつの感情に]フォーカスして、それを直視するというプロセスが気に入っている。それは『こういう感情を抱くのは嫌だ』と思うのではなく、『どうして僕はこんなふうに感じるのだろう?』と考えることでもあるんだ」

スタイルズは、恥の感情とも折り合いをつけなければならなかった。彼の羞恥心の原因は、セクシュアリティ(性的指向)を模索する一方で、性生活を人目にさらされることにある。時が経つにつれて、スタイルズは言い訳をすることをやめた。自らの弱さを世間から守りつつ、プライベートにおいては脆弱な存在でいられる術を学んだのだ。

徹底した秘密主義を貫くことで、スタイルズは自分が「偽善者」だと思われているのではないか、と不安になることもあったと言う。彼のライブは、大好きなアーティストと一緒にあるがままの自分を共有したいファンたちがエネルギーをもらえる安全な場所として定着している。ひとりのアーティストとして、親へのカミングアウトやプロポーズから(赤ちゃんの)性別披露にいたるまで、いろんなかたちでファンをサポートしてきた。仕事とプライベートの線引きは、スタイルズにとって重要な問題だ。「仕事中は一生懸命働く。僕は、自分のことをきわめてプロフェッショナルな人間だと思っている」とスタイルズは話す。「仕事をしていないときは違う。僕は自分がオープンな人間だと思っているけど、頑固なところもある。それに、自分の弱さを隠すつもりもない。わがままなときもあるけど、思いやりのある人間だと思われたいんだ」

物事を細分化することで、スタイルズは仕事とプライベートのバランスのようなものを見出した。「僕は、公の場で仕事以外の生活について語ったことはない。でも、それが良い影響を与えていることに気づいたんだ」と解説する。「フィクション的なものは常に存在するから、それを修正したり、何らかの方向に導こうとしたりするのに時間を使うべきではないと思った」


PHOTOGRAPHED BY AMANDA FORDYCE FOR ROLLING STONE. TOPS, SHORTS, AND SHOES BY ERL. TIGHTS BY CHARLES DE VILMORIN. JEWELRY, STYLES OWN.

プライベートを隠すことで、世間はかえってそれを知りたいと思うようになった。たとえば、彼のセクシュアリティは長年にわたって議論されている。いまでは、関心というよりは、もはや執念のレベルだ。スタイルズは、ミック・ジャガーやデヴィッド・ボウイといった先人たちがそうしたように、ファッションを通じて流動的なジェンダーを表現してきた。それだけでなく、すべての人にレッテルを貼り付け、アイデンティティによって分類することがいかに時代遅れであるかを繰り返し指摘している。スタイルズのこうしたアプローチに異を唱える者はこれを「クィアベイティング」(訳注:セクシュアリティの曖昧さをほのめかして世間の注目を集める手法)といって彼を批判し、自らのセクシュアリティを公表せずにこうしたコミュニティの注目度や話題性を搾取していると主張する。その一方で、擁護派は誰かのジェンダーやクリエイティブな表現を正当化するために誰かにひとつのアイデンティティを強要することは不公平であると感じている。

スタイルズは、自身のアイデンティティをめぐる一部の議論がいかに馬鹿げているかを指摘する。「『表立った場所では、女の人としか一緒にいない』と言われることもある。実際には、そういう場で誰かと一緒にいるところを見られた記憶はないんだけど。それに、誰かと一緒にいるところを写真に撮られたからといって、その人と何らかの関係を持っているとは限らない」

恋人にまつわる葛藤

近頃は、どうやらそうとも言えないようだ。というのも、スタイルズがいるところには、必ずオリヴィア・ワイルドもいるのだ。ふたりは、ワイルドが監督を務めた映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』の撮影現場で出会った(これについては、のちほど詳しく述べる)。2021年1月に行われたマネージャーで近しい友人のジェフリー・アゾフの結婚式でのふたりの手つなぎ写真が公開されると、世間は騒然となった。

スタイルズとワイルドは、ふたりの関係について多くを語っていない。そのため、巷ではありとあらゆる憶測が飛び交っている。とあるTwitterの匿名ユーザーは、ふたりの年齢差にショックを受け(28歳の男性が38歳の女性とデートをすることは、そんなに異常なのだろうか?)、”監督と役者”という関係から恋愛関係へと発展したことを批判した(ハリウッドには、映画を機に交際をはじめたカップルがごまんといるのだが)。

それよりも衝撃的だったのは、スタイルズの一部のファンがワイルドに激しい敵意を向けたことだ。一部のファンはワイルドの踊りを馬鹿にしたり、彼女の過去の悪辣なジョークを持ち出しては、Twitterで長々と批判したり、TikTokにネガティブな動画を投稿したりした。ファンたちがスタイルズに求めている基準が高ければ高いほど、彼のパートナー候補も同じくらい完璧な存在であるべきだ、と一部のファンはとらえているようだ。


今年11月、LA公演で音楽監督のPauli Lovejoyと共に踊るハリー・スタイルズ(Photo by RICH FURY)

スタイルズは、積極的にネットを使うほうではない。Instagramのアカウントは持っているが、主な目的は植物や建築物に関する投稿を楽しむためだ。TikTokアプリをダウンロードしたこともなければ、Twitterに関しては「人と人が傷つけ合うカオス」であると考えている。それでも、ネット上で一部のファンが恋人を攻撃していることには気づいている。「当たり前だけど、いい気分ではない」と、スタイルズは慎重に言葉を選びながら話す。こうした話題について口を開くことは、彼にとっては綱渡りのように危険な行為でもあるのだ。スタイルズは、自身のファンが善良な存在であると信じたいと願っているし、実際に信じている。だが、ネット上には憎しみや匿名性を拠りどころとする一部の人々が存在することもわかっているのだ。

仕事とプライベートを完全に切り分けたとしても、「ほかの人が両者の境界線を曖昧にすることもある」とスタイルズは言う。たとえば、不自然で時期尚早のように思えるかもしれないが、関係を築きはじめたばかりの相手と次のような会話をしなければいけないのだ。「想像してほしい」とスタイルズは話す。「誰かと2回目のデートをするときに『ネット上であんなことを言われたり、こんなことを書かれたりするかもしれない。嘘や意地悪なことを言う人がいるかもしれない……。まあ、それはさておき、何が食べたい?』と言わなければいけないんだ」

スタイルズは、すべてのファンがそうではないことに安堵している。その一方で、ノイズが大きくなりすぎたときの対処法には頭を悩ませる。「僕と親密な関係にあることでTwitterやSNSで標的にされる、と相手に思われるのは辛い」と話す。「僕はただ、歌いたいだけなんだ。誰かを傷つけるとわかっていたら、そもそも深入りはしなかった」

スタイルズのファンの行動について、ワイルドはそつのないコメントをしている。スタイルズと同じように、彼女もファンの意図を理解したうえで、ファンのことを受容性のあるコミュニティを形成した「愛情深い人々」と呼ぶ。「ファンの残酷な行動について、どうしても理解できない点があります。それは、こうした有害なネガティブさがハリーと彼のメッセージとは相反するものである、ということです」と、ワイルドは筆者に語った。「憎しみのエネルギーがハリーのファンベースのすべてではないこともわかっています。多くのファンは、まさに優しさの象徴のような人たちですから」

2本の新作映画とセクシュアリティ

スタイルズが初めて主役を演じたのは、彼が4歳のときだった。記念すべき初主演作は、『Barney the Church Man』という芝居だ。その後、『チキ・チキ・バン・バン』を上演した学芸会でバズ・ライトイヤーを演じた。理由は、「玩具店にたまたまバズ・ライトイヤーがあったから」。このほかにも、『ダウンタウン物語』のラズマタズ役(ギャングのリーダー)やエルヴィスの衣装で有名な『ヨセフ・アンド・ザ・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』のファラオ役といった役柄を演じている(のちにバズ・ラーマン監督の映画『エルヴィス』のタイトルロールのオーディションを受けるが、「彼はすでにハリー・スタイルズというアイコンだから」と監督に断られた)。

幼少期の活躍はさておき、スタイルズの人生設計に俳優という選択肢はなかったようだ。演技をするのは好きだったが、White Eskimoというバンドを結成したことで音楽が与えてくれる高揚感を知った。バンドがデビューを果たし、対バン形式のイベントで優勝すると、初めて「スイッチが入る」のを感じたと言う。学校の教師たちからも注目された。「ただの目立ちたがり屋だったのかも」と、はにかみながら話す。「過去形で言ったけどね」

2017年、ソロ・デビューアルバム『Harry Styles』のリリースに向けて準備をしていたスタイルズは、俳優としてスクリーンデビューを果たした。クリストファー・ノーラン監督の映画『ダンケルク』(2017年)に出演したのだ(ノーラン監督は、配役の際にスタイルズがどれほどの有名人であるかをまったく知らなかったと言う)。マーベル・スタジオがエロス役にスタイルズを抜擢した頃には、彼以外は考えられないとクロエ・ジャオ監督に言わしめるほどの存在感を確立していた。『エターナルズ』のサノスの弟エロスは、原作コミックの中ではサノスより英雄的な、銀河のプレイボーイとして描かれている。超人的能力の持ち主であるエロスは、人々の心を操ることができる(地球でもっともホットなポップスターにふさわしい役だ)。マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長は、スタイルズの今後に出演ついて先日コメントしたが、いまのところ『エターナルズ』のスタイルズの出演シーンは、ピップ役のパットン・オズワルトがナレーションを務めるポストクレジットしか確認されていない。「あれで終わりだったら、笑っちゃうよね」と、スタイルズはカメオ出演についてジョークを飛ばした。

『ダンケルク』に出演したスタイルズは、『ドント・ウォーリー・ダーリン』に取り組みはじめたワイルドの目に留まった。ほどなくしてスタイルズは、フローレンス・ピュー扮するアリスの魅惑的だけど秘密主義の夫ジャックの候補者のひとりとなった。ワイルドにとって長編2作目となる『ドント・ウォーリー・ダーリン』にスタイルズが興味を持つ理由は無数にあった。ワイルドの初監督作『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2020年)の成功を機に、18社もの映画スタジオが『ドント・ウォーリー・ダーリン』をめぐって競り合っていたのだから。


映画『ドント・ウォーリー・ダーリン』大ヒット上映中

コロナ禍以前に行われたスタイルズと『ドント・ウォーリー・ダーリン』の製作陣の話し合いは、大した成果を得られないまま終わった。というのも、2020年のスタイルズのスケジュールの大半はグローバルツアーで埋まっていたのだ。そこで、彼の代わりにシャイア・ラブーフが抜擢された。だが、夏が終わる頃にラブーフは降板した。現場での態度の悪さを理由に、監督によって降ろされたと報じられている。

「また演技がしたかった」とスタイルズは話す。パンデミック中は、コラボレーターでもある友人たちと一緒に自宅でいろんな映画を鑑賞した。ベルギーのドラマ映画『オーバー・ザ・ブルースカイ』(2012年/日本公開は2014年)などのお気に入りを何度も観た。ある夜は、帽子の中から無作為に選ばれた作品を楽しんだ(「みんな好みがバラバラだったから。『パラサイト 半地下の家族』から『コヨーテ・アグリー』にいたるまで、いろんなジャンルが混ざっていた」)。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』の撮影がはじまる1カ月前にスタイルズがラブーフの代わりを務めることが発表された。ジャックはまさにハマり役だった。ジャックは、妻アリスを連れて「ヴィクトリー」というアメリカの架空の辺境の街にやってくる。そこで暮らす夫たちは、妻にも言えない秘密のプロジェクトに携わっていた。ジャックは従業員の中でもスター的な存在となり、上司に認めてもらおうと必死だ。「温かみと確固たる魅力を併せ持つ役者が必要でした」とワイルドは話す。「観客がジャックを信じること。物語は、すべてここにかかっているのです」


今年3月、ロンドンを散策するハリー・スタイルズとオリヴィア・ワイルド(Photo by NEIL MOCKFORD/GC IMAGES)

『ドント・ウォーリー・ダーリン』の撮影は、2020年9月から2021年2月にかけてロサンゼルスとパーム・スプリングスで行われた。スタイルズにとってひとつの場所で長期間暮らすのは、11年ぶりのことだった。撮影中は、いっそのこと社会とのつながりを断ち切ろうかとも考えた。ガラケーにして、音楽づくりもやめる。「でも、実際は初日に現場を訪れて、一日の75%を待つことに費やさないといけない」と話す。だから「やっぱり、友達にメールしよう、と思った」

当初は、フローレンス・ピューやジェンマ・チャン、ニック・クロールといったそうそうたる俳優たちとの共演に不安を抱いた。「音楽の場合、何をするにも誰かがすぐに反応してくれる。曲の演奏が終われば、誰かが拍手してくれる」と話す。「でも、撮影はそうじゃない。『カット』と言われたあとに、心のどこかで誰かが拍手してくれるのを期待しているんだ。でも、当然ながら、みんな自分の仕事に戻っていく。そこで、『やばい。僕ってそんなに下手なの?』と不安になった」。演じることは、ミュージシャン同士のセッションに似ている、とスタイルズは指摘する。「呼ばれて自分のパートをこなす。あとは誰かがひとつにまとめてくれるんだ」)。

だが、スタイルズの努力は報われるはずだ。はやくも彼とピューは、賞レースの勝ち馬と目されている。ワイルドは、「みんなが涙を流した」という瞬間を引き合いに出した。会社の大々的なパーティーでジャックの昇進が発表されるシーンだ。「奇妙なシーンなんです。ファシスト的なモチーフが散りばめられていて、男性の怒りが渦巻いています」とワイルドは話す。「そのシーンで、ジャックはフランク(クリス・パイン)と一緒に”Whose world is it? Ours!(世界は誰のものだ? 俺たちのものだ!)”という不気味なスローガンを繰り返し叫びます。恐ろしくダークなシーンです。でも、ハリーは見事に演じ切りました。演技に没入した彼は、パーティーの参加者たちに向かって例のスローガンを叫びはじめました。まさに原始の叫びです。私たちの期待をはるかに上回る、圧倒的な演技でした」

ワイルドによると、パインは意図的に後ろに引いた。このシーンの主役がスタイルズであることを察したのだ。「カメラマンは、野生動物のようにステージ上を歩き回るハリーを追いかけました」とワイルドは振り返る。「モニターを見ながら、その場にいた全員が衝撃を受けました。本人も驚いていたと思います。体という殻から解放される瞬間は、まさに役者にとって最高の瞬間です」


映画『僕の巡査』 Prime Videoにて独占配信中(© Amazon Studios. )

それから数週間を待たずに、スタイルズは『ドント・ウォーリー・ダーリン』の現場から、より親密な作品である『僕の巡査』の現場に移った。脚本は前年に読んでいた。ストーリーに感動した彼は、マイケル・グランデージ監督に連絡をとってミーティングの約束を取り付けた。到着したスタイルズは、すべての台詞を暗記していた。

『僕の巡査』でスタイルズは、トムという警察官を演じている。トムは、パトリックという美術館のキュレーター(デヴィッド・ドーソン)に惹かれる。物語の舞台は1950年代。当時のイギリスでは、同姓同士の恋愛が法律で禁止されていた。トムとパトリックが秘密の関係を結ぶかたわら、トムはマリオン(エマ・コリン)という教師と結婚する。3人の登場人物が悲しい状況下で再会すると、映画は過去と現在を行き来するかたちで展開する。「当時は『同性愛は禁止、法律違反です』と言われていたなんて、信じ難いよね」とスタイルズは言う。「僕をはじめ、誰だって自分の人生を歩みながらセクシュアリティを発見し、それを受け入れていくのに」。スタイルズにとって『僕の巡査』はきわめて人間的な物語だ。「この映画は『同性愛者の男性が主人公の同性愛の物語』ではない。僕にとっては、愛と失われた時間の物語なんだ」

スタイルズ曰く、グランデージ監督はトムとパトリックというふたりの男性の性行為が実際の同性愛者のそれを正確に表現していることにこだわった。「同性愛者を描いた映画の大半は、男性同士の行為そのものに焦点が当てられている。そのせいで、優しさといった要素が失われているんだ」とスタイルズは続ける。「観客の中には、同性愛が法律で禁止されていた時代に生きていた人もいると思う。だからこそ、監督は優しさや慈しみ、繊細さといったものを表現しようとした」


PHOTOGRAPHED BY AMANDA FORDYCE FOR ROLLING STONE. TANK BY LOEWE. SUSPENDERS, STYLISTS OWN. TROUSERS BY GUCCI. SHOES BY ERL.

『ドント・ウォーリー・ダーリン』と『僕の巡査』は、8月の終わりから9月にかけてヴェネチア国際映画祭やトロント国際映画祭といった格式の高い映画祭でプレミア上映された。その一方で、スタイルズは今後も俳優としてのキャリアを探求していくかどうかはわからないと言う。「しばらくはやらないかな」と話す。だが、マーベル・スタジオと契約した出演作の本数やほかのシリーズものへの出演に関する噂は絶えない(『スター・ウォーズ』シリーズに出演するかもしれない、という噂に対してスタイルズは、「初耳だ。でも、その噂は嘘だと思う」と否定した)。

だからと言って、今後は新しい役に挑戦しないわけではない。「またどうしようもなく演技がしたくなるときが来ると思う」と言う。「でも、音楽をつくっているときは、何かが起きているんだ。すごく独創的に感じると同時に、いろんなものを満たしてくれる。それに対して、役者の仕事のほとんどは何もしないこと、つまり待つことなんだ。それがこの仕事のいちばん嫌な部分だとしたら、仕事としては悪くない。でも、待つことに充実感を感じないんだ。何かをするのが好きだから。多すぎるのはどうかと思うけど」

ハリー・スタイルズの素顔と未来

ライブの8時間前、ハンブルク交響楽団のコンサートに一緒にいかないかと、筆者はスタイルズに誘われた。そういうところは、まるで本物のロマンス小説の貴公子だ。

スタイルズは、過去のツアーについて次のように語った。「『ここに来るのは6回目だけど、街を見たことがない』と、ふと思ったんだ。当時は、いろんな街を訪れていたのに」。今回のツアーでは、多くの建築物を見て回っている。「どこかに腰を下ろして、何かを見る。これくらいなら、ひとりでもできるから」と話す。

建築物の細部を観察することは、スタイルズが築き上げた規則正しくて秩序ある成熟したツアー生活とも合っている。スタイルズは、ツアー中のルーティーンを徹底して守っているのだ。夜は10時間眠り、静脈注射でビタミンや栄養素をチャージする。コーヒーやアルコールだけでなく、大事な喉(5万人のファンの期待がかかっている)に悪いとされる食品を除いた、体に優しいけれど厳格な食事制限も行っている。インタビュー前日の夜は、2台の加湿器をフル稼働させて寝ていたようだ。筆者がドアをノックすると、ミストサウナのようにむわっとした空気の中からスタイルズが姿を現した。

「エルプフィルハーモニー」ことハンブルク交響楽団が本拠地とするコンサートホール――「エルフィ」の愛称で親しまれている――は、豪華客船を思わせる美しい建築物の中にある。スタイルズは、前日にホテルで会ったときと同じ格好――ショートパンツの代わりにピンストライプのパンツを履き、サージカルマスクをつけている。ふたり揃って遅刻してしまったため、幕間までホールに入ることはできない。そのため、私たちは迷路のようなバックステージの通路を歩き、エレベーターを使って見事な音響設計技術が注ぎ込まれた建物を探検する。建物からは、ハンブルクの街が一望できる。スタイルズは、ひとつひとつに感動する。空調の効いたピアノだらけの部屋では、「いちばんいいピアノはどれ?」とツアーガイドに尋ね、ビートルズ風の幻想的なメロディを披露してくれた(そういえば、昨年の夏は朝のコーヒーを楽しみながら毎日ピアノを弾いていた、と言っていた)。室内のパネル張りについて質問する。そして本物の観光客のように、ひとつひとつを写真に収めた。

筆者が初めてスタイルズに会った時もこうだった。2017年、スタイルズは初のソロツアーでサンフランシスコを訪れていた。筆者は、キッド・ハープーンをインタビューしようとバックステージを訪問した。待っていた部屋に偶然、スタイルズがふらりと入ってきたのだ。その様子は、ヘッドライナーを務める人気アーティストというよりは、照明係のようだった。あのハリー・スタイルズ(YouTubeにアップロードされているワン・ダイレクションの「傑作インタビュー集」を見ながら、部屋いっぱいに彼らの切り抜きを貼っていた学生時代を思い出した)が、いかにもくつろいだ様子で入ってきたのだ。すると次の瞬間、ワン・ダイレクションのキーチェーンを捨てられずに持ち続けているひとりのファンではなく、旧友に話しかけるように声をかけてくれた。元気? サンフランシスコで何をするの? ライブを楽しみにしててね、と言ってくれたのだ。いまでもあのときのことを完璧に覚えている。

スタイルズには、相手に強い印象を残す天賦の能力がある。ニューヨークのセントラル・パークやロンドンのハムステッド・ヒースで彼に出くわしたファンに話を聞けば、まるでローマ教皇に会ったかのように細かく語ってくれるだろう(もちろん、ローマ教皇がヘアクリップを付けている可能性はないのだが)。

エルフィでのコンサートの後半戦を前に、ホワイエはくつろいだり飲み物を買ったりする観客で賑わっている。誰もスタイルズに気づかない(マスクのおかげだ)。こうもやすやすと世界的なポップスターが誰にも気づかれずに行き来する様子は、なんだか可笑しくもある。当の本人は、自分の知名度にも気づいていないようだ。

「自分はどこにも行けないし、自分が動けば大騒ぎになると決めつけてしまうことで、人生は本当にそうなってしまう」とスタイルズは話す。「だから、ロンドンにいるときは、とにかく歩いて移動する。車に頼ってばかりだと、レストランやいろんな場所になかなか気づけないから。それに、車移動ってあまり楽しくないよね」


PHOTOGRAPHED BY AMANDA FORDYCE FOR ROLLING STONE. TOP BY BOTTER. SHORTS BY JW ANDERSON. SHOES BY ERL.

スタイルズは、今後のスケジュールを明かしてくれた。7月31日のポルトガル・リスボン公演でヨーロッパツアーを締めくくったあと、友人たちと休暇を楽しむ予定だ。見逃した恋愛リアリティ番組『Love Island』を観るかもしれないし、ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』が評判どおりの名作かどうかを自分の目で確かめるかもしれない。8月末にはじまる北米ツアーには、ロサンゼルス、ニューヨーク、オースティン、シカゴといった都市での公演に加えて、レジデンシー公演も含まれる。レジデンシー公演は、ツアースケジュールの過密化を避けるだけでなく、ツアーの合間を縫って映画祭に参加したり、スタジオを借りて4作目の音楽づくりに取り組んだりするためにたどり着いた選択肢だった。「いつも曲を書いている」とスタイルズは言う。スタイルズとコラボレーターたちのあいだでは、常にアイデアが飛び交っているのだ。「また一緒に仕事ができることにみんなワクワクしているんだと思う。変だよね、アルバムを出したばかりなのに」

スタイルズは、いままでにないくらい未来を見据えている。ひと段落したら、どこかで有意義な休暇を取り、家族や友人と過ごす時間を増やしたいと願っている(曲づくりはやめられないだろうから、ツアー後を考えているのかもしれない)。その一方で、スタイルズは真実の愛の意味を知った。「幻想やまぼろし、世間が自分に抱いているイメージのせいで、自分は完璧な人間だと思ってしまうこともある」と話す。「でも、ありがたいことに友人たちは『完璧じゃなくてもいい』と常に教えてくれる。僕は、とっちらかっていることもあれば、間違えるときもある。でも、そういうところがいちばん愛おしいんじゃないかな。誰にでも欠点はある。だから、それに目をつぶって誰かを愛するのではなく、それを含めて愛せばいいんだ」

いつか父親になったときのことについて思いを巡らせた。「そうだね、いつか子供を持つようになったら、あるがままの自分でいて、弱さを隠さずに分かち合うことの大切さを教えたいな」

スタイルズは、社会に伝えたいことについても考えている。ティーンエイジャー時代は、政治には無関心だったと認めた。自分に直接関係のないことには興味がなかったと。だが、知名度が上がるにつれて不安を抱くようになった。「自分を徹底的に見つめ直したんだ」と話す。「その結果、僕はまったく……というか、何もできていないじゃないか、と思った」。人種差別と立法の不作為が頂点に達した2020年、スタイルズはデモ行進に参加し、イブラム・X・ケンディの『アンチレイシストであるためには』やベル・フックスの『The Will to Change』などの本を読んだ。多くの雇用を創出する仕事に携わっているひとりとして、人種とジェンダーの平等についても考えるようになった。「白人だからといって優位な立場にあるという考え方は嘘だ」と語る。

妊娠中絶を女性の権利と認めた「ロー対ウェイド判決」が米連邦最高裁判所で覆された直後、私たちは一緒にいた。「いま、アメリカの女性はどれほどの恐怖を抱えて生きているんだろう」とスタイルズは言った。ハンブルクのライブでは、ファンのひとりが持っていた”My Body, My Choice(私の体は、私が決める)”と書かれたプラカードをステージ上で高らかに掲げた。観客席は、慎重でありながらも楽観的なオーラにあふれている。「たとえこのツアーのためだけだとしても、こうして集まってくれた人々に出会えて幸せだ」と話す。「こうした人たちは、前の世代よりも傷口を開き、それについて話し合い、行動に移すことを恐れていない気がする」


PHOTOGRAPHED BY AMANDA FORDYCE FOR ROLLING STONE. STYLING BY HARRY LAMBERT FOR BRYANT ARTISTS. TANK BY LOEWE. SUSPENDERS, STYLISTS OWN. TROUSERS BY GUCCI.

満席のコンサートホールで、私たちはハンブルク交響楽団の演奏の再開を待っている。家族と一緒に来ている少女たちを見ながら、ここにいる観客の何パーセントが今夜のライブ会場に足を運ぶと思う? とスタイルズに尋ねた。彼はホールを見渡す。年配の人が多い。次の瞬間、「1パーセント以下かな……僕を除いて」と言った。

スタイルズは、真剣な眼差しでオーケストラを見つめた。スタンディングオベーションに応じて指揮者が再登場すると、「待ちに待ったヒット曲の時間だ」とささやいた。5万人の観客を熱狂させていないときでさえ、隣にいる人を楽しませようとする。それがハリー・スタイルズなのだ。

コンサートホールが空になるのを待たずに、私たちは歩いて外に出た。スタイルズは、その場に少し残って写真を撮った。写真を撮り終えると、ライブの準備をしにホテルに向かった。彼のことを待ち焦がれていたファンの叫びを全身で浴びながら、今夜はステージの上で跳ね回るのだ。

ハンブルク交響楽団のコンサート後の私たちのように、ライブ後もファンたちはフォルクスパルクシュタディオンの外に集まって余韻に浸るだろう。そして着てきた洋服、涙と汗に覆われたラメだらけの顔、ふわふわの羽根飾りの残骸などの写真を撮る。夜空にスマホをかざしながら、ライブのお礼にワン・ダイレクションの「Night Changes」や『Fine Line』に収録されているバラード「Falling」といったヒット曲をかける。ハンブルクの街が一体となってハリー・スタイルズのすべてを反響させるなか、きっと本人はシャワーを浴びて裸の自分に立ち返っていることだろう。


【メイキング映像を見る】撮影中のハリー・スタイルズ

PRODUCTION CREDITS
Fashion direction by ALEX BADIA. Stylist Assistants: RYAN WOHLGEMUT and NAOMI PHILLIPS. Production by JAMES WARREN for DMB Represents. Hair by MATT MULHALL for Streeters. Grooming by LAURA DOMINIQUE for Streeters. Set design by DAVID WHITE for Streeters.

From Rolling Stone US.



ハリー・スタイルズ「Love On Tour 2023」
2023年3月24日(金)有明アリーナ
2023年3月25日(土)有明アリーナ
公式ウェブサイト:http://harrystylesjapantour.com/


ハリー・スタイルズ
『Harrys House』
発売中
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/HarrysHouse

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