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WurtSが語る、秘密のベールに包まれた「研究家×音楽家」の裏側

Rolling Stone Japan / 2022年11月17日 17時45分

WurtS

WurtSとは何者か?――2021年1月に「分かってないよ」のサビをTikTokに投稿しバズを巻き起こし、現在総ストリーミング再生数は1億7000万回超え、さらには『CDショップ大賞2022』でOfficial髭男dismと並んで大賞を受賞し、11月に開催する初ワンマンツアーはZepp DiverCity公演含め全会場ソールドアウト。そんな輝かしい成果を前に、当の本人は「WurtS」についてどこか俯瞰して語る。

【写真を見る】WurtSのアーティスト写真

WurtSを生み出した現役大学生の彼は、ある種プロデューサーのような目線で「WurtS」というものをクリエイトしている。そして、彼がやろうとしていることは「WurtS」だけに終わらない。通常のアーティスト活動とはまったく異なる、彼の壮大な計画についてこのインタビューで明かしてくれた。「普通」からはみ出たことを始める人の発想は大抵の場合、最初は他人に理解されないもので、彼自身も自分の地図とコンパスを信じながら荒野を飄々と突き進んでいるように見える。



11月9日には、EMIとタッグを組みEP『MOONRAKER』をメジャーリリース。まずは彼が影響を受けているThe 1975のことから話に入って、彼の関心やクリエイティブの源泉を探ってみた。

―The 1975のニューアルバム『Being Funny in a Foreign Language』、WurtSさんはどう聴きました?

WurtS 個人的には、原点回帰もあるのかなと思ったりしました。もちろん楽曲も素晴らしいんですけど、やっぱり僕が一番好きなのは彼らの見せ方の部分で。サマーソニックでライブを観たときも、映画のワンシーンみたいに始まって、どんどん惹き込まれていく演出に勉強させていただきました。



―そもそもThe 1975に興味を持った理由は?

WurtS 小6か中1くらいのときに、MTVで流れていた「Heart Out」をチラっと見て。最初の印象としてはクールというか、イケイケなのかなみたいな(笑)、ちょっと苦手なタイプという意識があったんですけど、逆に苦手なものはどんどん好きになっていくというのが僕は結構あって。1stアルバム(『The 1975』)はクールなイメージがあったんですけど、2ndアルバム(『I like it when you sleep, for you are so beautiful yet so unaware of it』)では内面が見えるというか。「Love Me」とかを聴いて、外側を着飾ってたものを全部脱ぎ捨てた感じがしたことがすごく刺激的で、そこからどんどんハマるようになっていきました。


SF映画への憧憬

―「映画」「内面が見えるか否か」というのはまさにWurtSさんのEP『MOONRAKER』について深掘る上でテーマにしたかったところで。WurtSさんはこれまでもMVやオンラインライブでクラシック映画をモチーフにしていたり、楽曲も映画的に作られていたりしますが、そうやって映画と音楽を繋げるのはなぜ?

WurtS 映画だと別人格になれるし、僕自身が経験できてないものを映画から吸収しているという側面もあるので。いろんな人生を見るという意味でも僕にとって映画は大事で、それを音楽にしているのかなと。

―『MOONRAKER』は映画『007/ムーンレイカー』がモチーフになっていると思うのですが、今回その作品を選んだのはどうしてでしたか?

WurtS 『007/ムーンレイカー』は幼稚園くらいのときに見て、僕の中で初めて見た映画と言っていいほどで。『スター・ウォーズ』とかもすごく好きでずっとシリーズを見ていたんですけど、その世界観が好きなのであって、ストーリーについては理解できない頃に見ていたんですよね。『007/ムーンレイカー』は父が『007』シリーズが好きでボックスが家にあったんですけど、シリーズの中でも一番心に残っています。そこから家にポスターを飾ったりしていたので、自分にとって映画の中の憧れでしたし、最初の映画体験でもあったので、今回このタイトルにしました。僕の中で「ロマン」と思う映画で、僕の考えるロマンがある映画の言葉やものとかを歌詞に書いているというのもあります。

―大人になって見返したときに、『007/ムーンレイカー』のストーリーや映像表現にはどういった魅力があるとWurtSさんは感じますか。

WurtS どんどん映画を見る中で昔の映画を好きになっているんですけど、その中で『007/ムーンレイカー』はチープというか。「チープ」というといろんな捉え方があると思うんですけど、僕の中ではいいチープさで。『フィフス・エレメント』とかもすごく好きなんです。僕が思っているのは、SF映画を作ることによって、その映画から生まれるものがあるなということで。『フィフス・エレメント』にはガラケーを特化させたような携帯が出てきたり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でも自動で紐を結んでくれる靴が出てきたりして、あのシーンがなかったらそういうものが生まれなかったかもしれないなと思える。もしかすると今作っているSF作品が今後の未来を作っていくのかなと。

―今回のEPは1stアルバム『ワンス・アポン・ア・リバイバル』からムードの変化を感じますが、そういったSF映画の魅力を音楽に落とし込んでみようという試みもあったと言えますか?

WurtS この楽曲たちはいつかのタイミングで出したいなと思っている2ndアルバムに向けて作っていたもので、その布石としてEPを出すというイメージなので、アルバムに向けての世界観作りの楽曲なのかなと。その世界観がSFで。『ワンス・アポン・ア・リバイバル』はキーワードとして「リバイバル」を出していて、過去に戻るイメージで作っていたんですけど、今年に関しては「未来」という軸で考えたくて。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいなイメージ。なので前作はどちらかというと、過去の楽曲とかからインスピレーションを得て作った楽曲が多いんですけど、今回に関してはより今っぽさ、プラス、さらにその先の音楽ってどんなものだろうということを想像しながら作りました。



―「その先の音楽」とは、具体的にどういったイメージをWurtSさんは持っていますか? たとえばタイトル曲である「MOONRAKER」には久保田慎吾さんがアレンジに入って、ヒップホップやファンクをWurtS流のダンスミュージック的ポップスに落とし込んだもので「こんなこともできるのか」と私はドキッとしたんですね。

WurtS 去年は自分ですべてを作ることによさを感じていたんですけど、今回に関してはアレンジャーさんに入ってもらって共同で作っていったものが半分あって、僕の中ではすごく変化したと思ってます。「MOONRAKER」は形にできるまで1年間くらいずっと「どうすればいいんだろう」と考えていたもので。ブラスを入れたいとか、ちょっと洋楽チックなアプローチをしたいとか、色々と願望があったんですけど、自分の得意な部分だけでは思っていた通りいかなくて。アレンジャーさんと一緒に完成まで持っていくことができました。


コミュニテイの必要性

―WurtSさんは以前から「音楽で社会問題を持続的に支援できるシステムを作りたい」と言っていて、今回の楽曲たちにも今の社会に対する批評的な目線が所々にあるように感じます。今、社会のどんなところに課題感を感じていて、どういった未来を作っていきたいと考えているのでしょう。

WurtS 僕、「反骨精神の塊」みたいに思われるときもあるんですけど、社会に対して別に反発はしていなくて。どちらかというと順応していきたいというイメージがあります。それこそWurtSが生まれたのも、「コロナ禍でどうしたらもっと音楽を届けられるのか」を考えてTikTokに投稿したことが始まりだったので。社会の変化に対して「これはダメ」という言い方ではなくて、「これがダメならこうしていきたい」みたいな、どちらかというと反抗精神のロックではなくて順応するための楽曲を作っているようには思ってます。

―「前向きな提案」とも言えるというか。

WurtS そうですね、「考え方を変えよう」みたいな。僕が思っているのは、WurtS自体は枠組みを作る人だということで。他のアーティストさんは音楽の内容とか歌詞で元気付けられていて、それもすごく大事だと思うので僕もそういうことをしたいんですけど、どちらかというとWurtSが言ってる社会貢献、社会に対するアプローチというのは枠組みを作ることなのかなと。音楽で何かを変えるというよりかは、コミュニティを作っているような感覚なのかなと思います。問題があったときに、コミュニティを作ってみんなが動いたらできることがあるよね、みたいな。その場所を作りたいというイメージです。

―一般的な「ファンコミュニティ」とは違うイメージを持っているということですよね。そのコミュニティでWurtSさんは何を成し遂げたいのでしょう。

WurtS 今年からシリーズ企画を始めていて、それは枠組みになってほしいなと思っているんですけど。最終的には、新しい音楽の聴き方ができるコミュニティを作りたいなと思ってます。説明がすごく複雑になっていきそうなんですけど(笑)、「Ws Projectをディズニーランドにしたい」ということを言っていて、その計画のためのシリーズ企画であったりして。シリーズ企画というのは、ミュージックビデオをシリーズ化するという面白さもあるんですけど、それ以上にミュージックビデオがどんどん繋がっていって、最終的にみんなが別のコミュニティに参加するようなシステムにしようかなと思っています。それが成功しても成功しなくても、ミュージックビデオを見ながら新しい取り組みに意識を向けさせることができたらなと。

―強固なコミュニテイが何かを動かすことがあったり、リーダーたちに頼れなかったりする今の時代性とも関係しているのかなと推測しちゃうのですが、WurtSさんがコミュニティを形成することをそこまで大事に思っているのはどうしてですか?

WurtS 色々とぐちゃぐちゃになりそうなんですけど(笑)、WurtS自体は1つのキャラクターだと思ってて。ディズニーランド計画でいうと、ミッキーがWurtSで、ウォルト・ディズニーがWurtSの中の人。最終的にはミッキーの中の人はいろんな人がやってるみたいな、僕が音楽を作らなくてもWurtSというものが動いているようなキャラクターにしたいなと。僕はWurtSとは別のキャラクターも作っていきたいなと思ってます。僕はドナルドとかデイジーも作りたいので、WurtSはコミュニティとして作っていきたいというか。





否定・反抗ではなく「順応」が武器

―いわゆる普通のアーティスト活動の仕方ではない、そういうスタイルを理想とするのはどういった想いがあるからだと言えますか?

WurtS WurtSは「研究家×音楽家」としてコロナ禍にできたもので、WurtSの活動自体が僕のひとつのデモバージョンみたいな感じで。僕はもっと別のアーティストもやってみたいし、裏方みたいなこともやってみたいと思っているので。WurtSが完成したら、もう他の人に譲りたいというか。そんなにWurtSに関して愛着がないからこそできるのかなとも思います。WurtSは最終的にコミュニティにして、いろんな人たちが集まってWurtSというものを作り上げていくようにしたい。だからWurtSは「デモ運動のひとつ」みたいに言ってます。

―ご自身の中では、他にやりたい表現がすでにあったりするんですか。

WurtS そうですね。もっと「こういう音楽作りたい」とか、「こういうアーティストを作りたい」とか、どちらかというと裏方目線で思い描いているものはあります。シリーズ企画がそれにちょっと繋がっていて、新しいアーティストをそのシリーズの中で出してみたいなと。ストーリーの中でアーティストが出てきて、そのアーティストがデビューするとか。『アベンジャーズ』感覚というか(笑)。

―マーベルシリーズを描いている感覚ということですよね。それらの連作で表現したいメッセージや体現したいカルチャーというものは、具体的に見えているんですか?

WurtS 僕はマイノリティが集まるコミュニティを作りたいなと思っていて。僕の中では全員マイノリティだと思っているんですけど。何かに対しては絶対自分の中の価値観があるから。最終的にはマイノリティたちが集まって、音楽活動や表現活動をしたいなと。僕、アーティストが神様みたいに扱われるのが好きじゃなくて。対等だと思っているし、誰しもが言葉を言えるような場所を作れるといいのかなと思ってます。だからWurtSは最終的にみんなが発言できるようなコミュニティになればいいなって。

―The 1975の2ndアルバムは着飾ってなくて内面が見えるから好き、という話をしてくれましたが、中の人が変われば音楽に表れる内面性も変化しますよね。現状、WurtSの作品やこのEPの楽曲には自身の内面はあまり出てないという感覚ですか。

WurtS 今はいろんな自分を試している感じというか。WurtSでやりたいのは、信頼してもらえるWurtSブランドを作ることで。「このアーティストはWurtSがやってるから安心だな」とか、そういう面で今WurtSを育てている感覚です。だからいろんなものを試している最中なのかなと思います。

―どうしたって歌詞には内面が滲み出るものであると思うからこそ、具体的に曲についても質問をさせてください。「コズミック」はどんなところから着想を得てこの曲を綴っていきましたか?

WurtS 「コズミック」は「Nothing Phone (1)」とのタイアップで、「ポストモダンの讃美歌」がテーマでした。機械・科学と宗教って、対立しているイメージがあるというか。これは本で読んだことなんですけど、神様がいるということを信じながら生きていたのに機械や科学の発明をしてしまうと「やっぱり神様はいなかったんだ」という証明になってしまう。今はそういう時代なのかなと思ってるんですけど、実は違うんだよ、ということを歌詞にしてます。その本に書いてあったのは、人間が空を飛べるようになったりどんどん進化したりしているのは、神様を超越しているのではなくて、神様はいるという証明がしたいための行動なんだと。それがすごく刺さったというか。僕は結構冷めているタイプなので、そういうのを見るとアガるんです。



―The 1975のニューアルバムはポストモダンへの批評がひとつの軸としてあって、その中で愛の在り方を改めて問いかけるような表現がありましたよね。

WurtS 僕は、機械に反対を掲げるのではなく、逆に機械というものを肯定することが大事なのかなと思っていて。やっぱり「共存」というのがテーマなのかなと。それが「Nothing Phone (1)」ともマッチしました。

―では、「SPACESHIP」はいかがでしょう。

WurtS これはNHKの『パラスポーツアニメ』に書き下ろした曲で。ロックでかっこよく見せるアプローチは去年やったので、今年は「Talking Box (Dirty Pop Remix)」を推し曲にしたくてEDM的なアプローチの曲をどんどん出していきたいと思っていたときにコラボの依頼をいただいて、スポーツとEDMってあまり日本で見たことないなと思いながら作りました。歌詞に関してはノアの方舟をテーマにして、そこに向かって進んでいく感じ。WurtSの映画・エンターテイメント的な世界観と、スポーツを合わせられる歌詞にしました。



―ノアの方舟は『007/ムーンレイカー』にも通ずるテーマで、「SPACESHIP」の歌詞からはまさに『007/ムーンレイカー』のストーリーが浮かんできます。選ばれし者以外の人間や地球自体を一掃する、といったテーマ性においてWurtSさんはどういう考えを持ってますか?

WurtS 僕は何が正しいのかとかあんまりわからなくて、何でも肯定しようみたいなスタイルですね。自分から正解を言うような歌詞はあんまり作っていなくて、考えられる余地がある歌詞を作るようにしてます。

―そうやって否定・反抗ではなくいろんなことを肯定していこう、という価値観の背景には何があるんだと思いますか。

WurtS 逆張りの反抗なのかもしれないですね。みんなが反抗してるんだったら、じゃあ僕は順応していこう、みたいな。それが一番尖がってるのかもしれないです。

―今、特にZ世代は意識を高く持って社会問題と向き合う行動が求められていて、それに疲弊するようなムードも出てきている中で、同世代に対して次のスタンスを提案しているかのようにも思いました。

WurtS 外枠は反抗の塊のように見せているんですけど、実はそうではないという感じがあえての反抗なのかなと。逆の逆をつく感じがWurtSなのかなと思ってます。

―今作からEMIとタッグを組んでのリリースとなりますよね。すでに楽曲の広がりを十分見せている中でも、今日話してくれたWurtSさんの構想を実現していく上でメジャーレーベルと契約しようと思ったのは、どういった理由が大きかったですか。

WurtS やっぱり一番大きいのは、もっとWurtSを知ってもらいたい、信頼を深めたいということ。自分ではできる限界があったので、メジャーと組むことでより多くの人に発信してもらって、より信頼度を勝ち取りたいなと。やりたいことを考えると予算も足りなかったりしたので、そういう部分も可能にできるかなと。コロナがなかったら音楽活動もしてなかったですし、留学してまた別のアプローチのことをしていたと思うんですけど、音楽を始めたことによって、その一歩先でやりたかったことを今できているような感じがしています。

<INFORMATION>


WurtS  New EP『MOONRAKER』

1. Talking Box (Dirty Pop Remix)
2. コズミック
3. SWAM
4. ふたり計画
5. SPACESHIP
6. MOONRAKER

Streaming / Download 
配信中
https://lnk.to/WtS_moonraker

CD
発売中
・初回生産限定盤(デジパック仕様)/ UPCH-29447 ¥5,280(税込)
・通常盤 / UPCH-20637 ¥2,200(税込)
https://lnk.to/Ws_MR_PHY

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