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『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』がMCU史上最高の続編となった理由

Rolling Stone Japan / 2022年11月17日 17時25分

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』 (C)Marvel Studios 2022

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を観る人は、必ずハンカチを用意すること。本作では、ライアン・クーグラー監督とキャストたちが亡きヒーローと俳優の死を悼む一方で、シリーズの新たな力関係が描き出されている。以下、米ローリングストーン誌の作品評。

ライアン・クーグラー監督による2018年の大ヒット映画『ブラックパンサー』の続編『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が厳粛なムードとともに幕を開けるのは、ある意味必然なのかもしれない。ここには決定的な何かが欠けているのだ。もちろん、地球規模で展開される多面的でパン・アフリカ主義的なストーリーは前作に続いて健在だ。さらに本作では、ヨーロッパのコンキスタドール(征服者)によるアメリカ大陸の植民地支配から、緊張感みなぎる現代のCIAの陰謀にいたるまで、多岐にわたる歴史が描かれている。それに加えて、自らの正義を掲げる悪者の存在や儀式と伝統への鋭いフォーカス、ワカンダという王国の可能性に対する純粋な愛情などがストーリーをさらに盛り上げる。それでも、何かが失われたことを認めずに本作を観るのは不可能であるだけでなく、正しくないような気がするのだ。本作もこの点を十分理解しているようだ。2020年8月28日、ワカンダの国王ティ・チャラを演じた俳優のチャドウィック・ボーズマンが結腸がんのため43歳で他界した。ボーズマンの訃報は、多くの人々に衝撃を与えた。ボーズマンは、病気のことをごく一部の人にしか明かしていなかったのだ。クーグラー監督は、映画づくりを辞めたいと思ったほど打ちのめされた。



それでもクーグラー監督は、映画を諦めるのではなく、前作に携わったコラボレーターたち(衣装デザイナーのルース・E・カーターやプロダクションデザイナーのハンナ・ビーチラーらは本作でも素晴らしい仕事をしている)とともに怒りと悲しみ、そして混乱に根ざした続編を完成させた。国王不在のワカンダは、どのような運命をたどるのだろうか? 本作は、大切な人の死を悼むことのできる人——できない人は、理不尽な世界に怒りの矛先を向ける——による自己省察の試みを描いている。現実を受け入れるか、血に飢えた復讐や正義、すべてを焼き尽くす怒りの炎に身を委ねるか。これは多くのヒーロー映画のカギを握る、危険なジレンマでもある。

本作は、この作品がほかのヒーロー映画とは一味も二味も違うことを最初のシーンから証明する。本作で描かれるヒーローと悪者の壮大な葛藤が真に迫るのは、この作品が直球のヒーロー映画よりもはるかに大きなものを拠りどころとしているからだ。ティ・チャラは、自分を信じることでヒーローとしての運命をつかみ取った単なる風変わりなアウトサイダーではない(あるいは、運命によって膨大なレガシーとともに自らの未来を引き継いだといえるかもしれない)。ましてや、喪失感によって復讐に駆り立てられることもなかった。ティ・チャラは復讐などしない。彼は守護者なのだ。ワカンダの運命は、最初からティ・チャラの肩にかかっていた。彼自身も気づいていたように、最初から大勢の先祖が彼を導き、監視していたのだ。


神と崇められる戦士の王ネイモアに扮するテノッチ・ウエルタ(Photo by ELI ADÉ / MARVEL STUDIOS 2022)

かくして本作は、国王ティ・チャラを失ったワカンダからはじまる。「謎の病によって国王が急逝」とメディアが報じるなか、すべての人に「どうして?」という疑問がのしかかり、ひとりひとりが国王の死と向き合わざるを得ない状況に陥る。国王を失ったワカンダは、他国にとっては格好のターゲットだ。世界中の強国が兵器を開発するのと同じように、誰もが鉱石”ヴィブラニウム”を狙っている。ワカンダの舵取りを任されたティ・チャラの母である女王ラモンダ(アンジェラ・バセット)は、まずは息子の死を受け入れなければいけない。それは、ティ・チャラの妹シュリ(レティーシャ・ライト)にも当てはまる。オコエ(ダナイ・グリラ)とアヨ(フローレンス・カスンバ)率いるワカンダの国王親衛隊”ドーラ・ミラージュ”はかつてないほど強力だが、悲しみという手強い敵を相手に苦戦している。ティ・チャラの幼馴染で元恋人のナキア(ルピタ・ニョンゴ)は、もうワカンダにはいない。いつも陽気な戦士エムバク(ウィンストン・デューク)の冷静な話ぶりと見事な毛皮もあまり役に立っていない。どうやら、誰もが少し途方に暮れているようだ。

冒険的な新キャラクター、シリーズが抱える難しさ

繰り返し言うが、誰もがヴィブラニウムを狙っている。ワカンダからヴィブラニウムが得られないなら、ほかを当たるまでだ。『ブラックパンサー』級の世界的に有名なシリーズには、大勢の人を映画館に向かわせる本来の目的であるシリーズならではの楽しさを残しながら、ストーリーを前進させ、何か新しいものを提供するという難題がつきものだ。この点に関して、本作は冒険的といえる。本作は、世界規模の対立に新しいキャラクターを加えることで前進を図った。キャラクターの名はネイモア(テノッチ・ウエルタ)。南米大陸の古代文明の神を想起させる、タロカンという古代王国の国王だ。原作コミックでは、ネイモアは海底都市アトランティスの王子という設定になっているが、これは本作の中でネイモアが果たす役割をほのめかしているのかもしれない。本作では、アトランティスの王子という設定の代わりに、メソアメリカを思わせる生い立ちに、ある意味ワカンダの好敵手ともいうべき疑念や野心といった要素が加えられている。だが、『ブラックパンサー』らしさがにじみ出すのはここからだ。前作でマイケル・B・ジョーダンが演じたキルモンガーのように(その名前からして、心の中で燃え盛る怒りを想起させる)、ネイモアはワカンダの平和主義に不満を抱いている。それだけではない。ネイモアは、ワカンダと同じくらい強力なのだ。アフリカの奥地にある黒人の超文明国ワカンダは、初めて自分にふさわしい敵を見つけた。

ここまでは、前作のストーリーとも矛盾していない。前作とその続編である本作は、世界におけるワカンダのポジションがそうであるように、特殊でありながらも多様な矛盾をうまく利用している。誇り高いワカンダが世界屈指の強国であることは間違いない。それはヴィブラニウムという特殊な金属の原産国だからということもあるが、それ以上にヴィブラニウムの活用方法を理解している、天才的な頭脳を持つ人材が揃っているからだ。本作は、こうしたキャラクターたちを見事に描き出している。だが、ワカンダはいまだに全世界に不審の目を向けている。ワカンダの人々は、植民地化された歴史を忘れていないのだ。『ブラックパンサー』シリーズがほかのヒーロー映画と一線を画す理由のひとつは、超大国という地位とそれを失うことへの限りない恐怖という緊張感を巧みに描き出している点にある。だからこそ、ネイモアの主張には説得力がある。幼少期に母国が植民地化されるのを自分の眼で見てきたネイモアは、他国から侵略されることの意味を身をもって知っている。ヴィブラニウムは、石油のような資源といえるかもしれない。石油は超大国の条件というよりは、国を脅かすターゲットなのだ。誰だって、ターゲットにはなりたくない。


オコエを演じたダナイ・グリラ(写真左)とシュリを演じたレティーシャ・ライト(写真右)。ふたりとも同じ役で続編に復帰した。(Photo by ELI ADÉ / MARVEL STUDIOS 2022)

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は上演時間2時間40分の大作だが、その大部分は称賛に値する。前作と比べてキャストの使い方も見事で、それぞれのキャラクターにさらなる深みが加わった。威厳に満ちたグリラの演技がさらに堂々と輝く一方で、ライトのひねりの効いたユーモアにも磨きがかかっている。デュークの知恵とバセットの遊び心、さらにはドミニク・ソーンやドラマ『I May Destroy You』(2020年)のミカエラ・コエルといった新しい顔ぶれも『ブラックパンサー』シリーズにとっては新鮮な要素だ。本作はいろんな意味でダークな作品で、前作よりもビジュアル面で暗く、マーベル・スタジオの人気シリーズとしては珍しいほど重たい雰囲気に包まれている(それでも、時折登場するコミカルなシーンは大歓迎だ)。技術的なことも、必ずしも思い通りに運ぶとは限らない。中盤で繰り広げられる壮大なバトルは、パーソナルな側面に焦点を当てた本作にはふさわしくない、冷たい印象を与える。切れ味という点では、バトルよりも会話のシーンのほうがシャープに思えることも多々あり、観客は戸惑うかもしれない。クーグラー監督——現時点での最高傑作は『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)——は、全編を通して素晴らしい仕事をしているが、その中でもネイモアとの出会いのシーンは秀逸だ。海底でのミッション中に起きるこのシーンは、謎という感覚を掻き立てる。だが本作は、時折不安定なところを見せる。入り乱れるさまざまな感情と向き合おうとする複雑な作品としては、自然なことなのかもしれないが。

私たちがいま生きている世界では、過激主義者やもっとも先進的な考えを持つ革命家は、暴力に対する大胆不敵な態度とともに描かれる。こうした人たちは、暴力を必要なものと考えているのだ。ねらいは、世界を壊して再建すること。これは、超大国としての力をそのように利用することを拒むワカンダにとっては受け入れ難いビジョンである。本作を観ていると、誰を応援するのがもっとも公平なのか?とわからなくなることがある。CIA(マーティン・フリーマンがエヴェレット・K・ロス役に復帰したのに加えて、思いもよらないカメオ出演も用意されているが、ここでのネタバレは控えておこう)が絡むシーンは特にそうだ。こうしたシーンで、本作は苦戦している。ワカンダと「協力的な入植者」の関係は、若干馴れ馴れしさを感じさせ、ほかのストーリーに注ぎ込まれた丁寧さをまったく感じさせない。これは、現時点における本作の特徴でもある。悪者がいる一方で、それよりも悪い連中がいる。観客が応援するべき対象は明らかだが、その理由を一度疑ってみるのも悪くないかもしれない。

【関連記事】『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を音楽から紐解く リアーナ、ボブ・マーリーの名曲カバーと「強き女性たちの物語」


『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
全国公開中
監督:ライアン・クーグラー
製作:ケヴィン・ファイギ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©︎Marvel Studios 2022

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