2CELLOS最後の日本公演、愛すべき2人の魅力に満ちたラストステージ
Rolling Stone Japan / 2022年11月25日 17時0分
2CELLOSが11月21日に大阪・丸善インテックアリーナ大阪、11月22日に東京・日本武道館にて、最後の来日公演を開催。武道館公演の模様を、荒野政寿(シンコーミュージック)がレポート。
【写真を見る】2CELLOS最後の日本公演 ライブ写真(全6点)
これが2CELLOSにとって、日本で最後のコンサート──あらかじめそう銘打たれていたこの日の日本武道館公演は、やはり開場前から独特なムードに包まれていた。10年前の2012年、最初のジャパン・ツアーから毎回彼らのステージを観てきたが、あのように静かな熱気が場内を浸す光景は初めて見た気がする。卒業式の前にも似た緊張感、と言ったらわかりやすいだろうか。
武道館のような大会場を何度も埋められるグループになったのに、どうして活動を止める必要があるのか……割り切れない気分で場内を見渡しながら、最近のインタビューでの発言を思い返してみる。クラシックからラテンにまで視野を拡げ、プレイヤーとしてのさらなる飛躍を模索しているステファン・ハウザー。コンポーザーとしての可能性を本格的に追求し始めたルカ・スーリッチ。キャリアを重ね、それぞれの道に歩み出したふたりにとって、2CELLOSというフォーマットは、もはや窮屈すぎる。今でも友人──これまで以上に仲がいいとすら言っているが、ミュージシャンとして進化した結果の「ひと段落」はごく自然な流れでやって来たもの。性格もキャラも違うが、共通して生真面目なところがあるふたりだから、この「流れ」に逆らうという選択肢を選ぶわけがなかった。
Photo by Yuki Kuroyanagi
Photo by Yuki Kuroyanagi
あれこれ思い出しつつ開演を待っているうちに感傷的な気分になった19 : 05、暗転してショーがスタート。カール・ジェンキンス作、「ベネディクトゥス」の繊細な主旋律をステファンからルカへ受け渡し、丁寧に進行していく。凝り固まった心をゆっくり解きほぐすようなスタートだ。
その空気が、シームレスに続いた2曲目、「ウェア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネーム」でガラッと変わる。U2の言わずと知れた名曲。ジ・エッジがディレイを用いて組み立てた独創的なギター・リフをチェロで刻みながら、ステファンがリズムに合わせてヒョコヒョコと首を動かし始めた。”いつものひょうきん野郎のままじゃん!”と、ここでホッと一安心。
MCで4年も日本のファンを待たせたことを詫びたステファンは、「年をとったから、もう速く弾けないよ!」と笑わせる。何回も日本に来ているのに日本語がさっぱり上達しておらず、コンバンワとアリガトウぐらいしか言葉が出てこない点も、変に手練れた感じにならない彼らしくていい。お馴染みの愛すべき2CELLOSが、間違いなく目の前にいる。
エド・シーランの「キャッスル・オン・ザ・ヒル」では、ステファンが原曲のフォーキーな曲調を踏まえて、指でコードをかき鳴らす。こういうちょっとした工夫に、オリジナルへのリスペクトが滲むのだ。続くミューズの「レジスタンス」ではルカも加熱してきてアタックが強さを増し、弓がみるみるほつれていく。そしてステファンが「次は……僕の好きな曲!」と前置きしてから、再びU2の「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」へ。異なるジェネレーションのロック名曲を次々と、叙情味豊かに料理していく。
マイケル・ジャクソンの2曲、「ヒューマン・ネイチャー」「スムーズ・クリミナル」では、静/動のコントラストを鮮やかに描く。いずれもステファンがコーラスで歌うよう促し、オーディエンスを巻き込んで楽しませる技が相変わらずうまい。その間も指を使ってリズムをさまざまに出し続け、チェロの常識を超えたプレイをたっぷり見せつける。煽情的なリフで押しまくる「スムーズ・クリミナル」では、たまらず客席から立ち上がる人が続出した。
ロックンロール・モードに突入、感動のエンディング
そしてオーディエンスの体温が上がってきたところで、満を持してのAC/DC「サンダーストラック」! ドラマーのドゥーシャン・クランツが加わって、いよいよロックンロール・モードに振り切った。そうそう、このド直球なハード・ロック感こそ、クラシック界では2CELLOSにしか出し得ない持ち味。単に「企画」として大人にロック名曲をやらされているのではなく、ふたりが根っからのロック野郎だった点にこのグループの斬新さがあったことを思い出す。AC/DCのアンガス・ヤングよろしく、ステージに寝転んでバタバタと暴れ回るステファンのようなチェロ奏者など他に見たことがない。
ドゥーシャンのパワフルなドラムソロを挟んで、後半はホワイト・ストライプスの「セヴン・ネイション・アーミー」からスタート。ここからプロディジーの「ヴ―ドゥー・ピープル」、ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を畳み掛ける。映像を使った演出も実にダイナミックで、ここまで積み上げてきた彼らのパフォーマンスが今日で見納めなのかと思うと、何とも惜しい。
Photo by Yuki Kuroyanagi
Photo by Yuki Kuroyanagi
続くAC/DCコーナーは、当初は「ユー・シュック・ミー・オール・ナイト・ロング」「ハイウェイ・トゥ・ヘル」の2曲が予定されていたが、その前に「バック・イン・ブラック」を追加して増量。ファンにはお馴染みのキャリング装置が登場して、ステファンがチェロを弾きながらステージ上を闊歩する。ヒートアップしたステファンは客席に下りると、柵前を練り歩いてファンと交歓。頭につけていた光る角をファンにプレゼントするサービス精神も見せた。
次のローリング・ストーンズ「サティスファクション」でもステファンは客席を襲撃。お世辞にも美声とは言えないボーカルで煽りまくり、観客を1秒たりとも休ませない。このしつこいほどのエンターテインメント魂こそ、ライブ・バンド=2CELLOSの真骨頂だ。
セットリスト上はここまでが本編となっていたが、ショーは熱気を保ったままボン・ジョヴィ「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」に突入。オーディエンスとの記念撮影を挟んでから披露したガンズ・アンド・ローゼズ「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」では、印象的なイントロからギターソロまでを、原曲に肉薄するドラマティックなプレイでじっくり聴かせてくれた。
Photo by Yuki Kuroyanagi
ショーはいよいよ終盤に。ロッシーニ「ウィリアム・テル序曲」とマッシュアップしたアイアン・メイデン「トゥルーパ―」の激演で駆け抜けてから、アヴィーチー「ウェイク・ミー・アップ」では心に残る仕掛けが待っていた。ここで同曲のプロモーション・ビデオ(長尺バージョン)をスクリーンに投影。2069年の80代になった彼らを見せてから、子供時代の1996年に戻り、現在までの歩みを振り返っていく。ふたりの深い絆を示した素晴らしい演出。いつかまた、何かの機会に再びタッグを組んで戻ってきてくれるかも……と、ここで未来に希望を残してくれたことが何よりうれしかった。
この後、ジョニー・キャッシュもカバーしたナイン・インチ・ネイルズの「ハート」(彼らはキャッシュのバージョンを参考にしている)をやる予定だったが、急遽スティングの「フィールズ・オブ・ゴールド」に変更。過去の日本公演でも何度かアンコールで演奏した優美なメロディを持つ名曲を、別れの挨拶代わりとして特別に演奏してくれたのかもしれない。
最後の曲に選ばれたのは、レナード・コーエンの「ハレルヤ」。オーディエンスが皆スマホの照明をオンにしてライトアップするなか、ふたりの演奏に応えるように自然と合唱がわき起こり、この場にふさわしい感動的なエンディングとなった。これ以上のアンコールは残念ながら叶わなかったが、客電が点いても鳴りやまずに続いた拍手の長さに、日本での圧倒的な人気を再確認させられた、特別な一夜だった。
【関連記事】2CELLOSが振り返るチェロで起こした革命、音楽とファンに捧げた10年の軌跡
Photo by Yuki Kuroyanagi
〈セットリスト〉
1. ベネディクトゥス(カール・ジェンキンス) *イントゥイション収録
2. ウェア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネーム(U2) *2CELLOS収録
3. キャッスル・オン・ザ・ヒル(エド・シーラン)*デディケイテッド収録
4. レジスタンス(ミューズ) *2CELLOS収録
5. ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー(U2)**2CELLOS収録
6. ヒューマン・ネイチャー(マイケル・ジャクソン)*2CELLOS収録
7. スムーズ・クリミンル(マイケル・ジャクソン) *2CELLOS収録
8. サンダーストラック(AC/DC)*チェロヴァース収録
9. セヴン・ネイション・アーミー (ホワイト・ストライプス)*レット・ゼア・ビー・チェロ収録
10. ヴ―ドゥー・ピープル(プロディジー)*イントゥイション収録
11. スメルズ・ライク・ティーン・スピリット(ニルヴァーナ)**2CELLOS収録
12. バック・イン・ブラック(AC/DC) *デジタル配信中/スコア・ライヴ!DVD・BD収録
13. ユー・シュック・ミー・オール・ナイト・ロング(AC/DC)*デジタル配信中/スコア ライヴ!DVD・BD収録
14. ハイウェイ・トゥ・ヘル(AC/DC) *イントゥイション収録
15. サティスファクション(ローリング・ストーンズ)*チェロヴァース収録
16. リヴィン・オン・ア・プレイヤー(ボン・ジョヴィ)*デディケイテッド収録
17. スウィート・チャイルド・オブ・マイン(ガンズ・アンド・ローゼズ)*デディケイテッド収録
18. トゥルーパ―(アイアン・メイデン)*チェロヴァース収録
19. ウェイク・ミー・アップ(アヴィーチー)*チェロヴァース収録
20. フィールズ・オブ・ゴールド(スティング)*2CELLOS収録
21. ハレルヤ(レナード・コーエン)*レット・ゼア・ビー・チェロ収録
「2CELLOS|最後の来日公演セットリスト」
プレイリスト再生:https://sonymusicjapan.lnk.to/FinalJPTour_Setlist
来日記念・日本独自企画リパッケージ盤
『デディケイテッド~デラックス・エディション~』
発売中
詳細:https://www.sonymusic.co.jp/artist/2cellos/discography/SICP-31567
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
シガー・ロスが語る日本との絆、オーケストラ公演の全容、希望とメランコリーの30年
Rolling Stone Japan / 2024年11月21日 17時30分
-
ボン・ジョヴィ、40周年記念の日本限定ベスト・アルバム『オール・タイム・ベスト 1984-2024』 11月20日(水)発売!
PR TIMES / 2024年11月19日 18時15分
-
伝説的音楽プロデューサー死去、87歳 ザ・フー、デヴィッド・ボウイなどの数々のヒット曲を手掛ける
よろず~ニュース / 2024年11月16日 16時0分
-
結成10周年 弦楽合奏団「石田組」8300人の観客が熱狂した武道館公演レポート到着
@Press / 2024年11月12日 9時0分
-
バーチャルシンガー・花譜、最新アルバム「寓話」参加アーティスト一挙発表
PR TIMES / 2024年11月4日 12時15分
ランキング
-
1【NewJeans緊急会見要点まとめ】ADORとの契約解除を発表・今後の活動に言及
モデルプレス / 2024年11月28日 21時54分
-
2辻希美、娘の“顔出し解禁”デビューに予定調和の声も、際立つ「華麗なプロデュース力」
週刊女性PRIME / 2024年11月28日 18時0分
-
3戸田恵梨香が“細木数子物語”で女優復帰! Netflixが昭和ドラマ戦略で描く勝ちパターン
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月27日 16時3分
-
4芸能事務所「サムデイ」破産手続き…松井咲子もコメント 藤原紀香、篠田麻里子ら所属
スポーツ報知 / 2024年11月28日 22時42分
-
5栗山英樹氏、大谷翔平の盗塁激増に驚がくしながら明かす「僕はケガする怖さがあって盗塁とかさせなかったんですよ」
スポーツ報知 / 2024年11月28日 22時33分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください