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ブルース・スプリングスティーンが語る最新R&Bカバー集、ツアーの展望、さらなるアーカイブ企画

Rolling Stone Japan / 2022年11月28日 17時45分

ブルース・スプリングスティーン(Photo by DANNY CLINCH)

ソウル/R&Bカバー集となった最新アルバム『Only the Strong Survive』を発表した、ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)の最新インタビュー。

約束の7分前、携帯電話に見知らぬ番号が表示された。ニュージャージー州のポイント・プレザント・ビーチからの着信だ。その日は、R&Bの名曲の数々をカバーしたニューアルバム『Only the Strong Survive』をリリースしたばかりのブルース・スプリングスティーンと、ローリングストーン誌の電話インタビューがセットアップされていた。通常はまずマネージャーや広報担当者と、インタビュー内容について打ち合わせるものだが、電話の向こうには一人だけだった。「よぉ、ブルースだ」と、聞き慣れたしわがれ声が話しかけてきた。

ブルースは、ロサンゼルスでロックの殿堂入りしたジミー・アイオヴィンのプレゼンターとしてステージに立ち、ニューヨークで毎年開催される退役軍人を支援するイベント「スタンド・アップ・フォー・ヒーローズ」で演奏した。それからロンドンへ飛んでBBCの『グラハム・ノートン・ショー』に出演した。さらに、ラジオ番組『ザ・ハワード・スターン・ショー』に初出演すると、引き続きジミー・ファロンの『ザ・トゥナイト・ショー』を4夜「乗っ取り」、大掛かりなバンドを率いて4曲披露するという、激動の数週間から解放されたばかりだ。このインタビューでブルースは、ニュージャージーのホームスタジオでレコーディングした『Only the Strong Survive』について語った。アルバムには60年代、70年代、80年代のR&Bの名曲が収められている。今回のアルバムでは、長年プロデューサーを務めてきたロン・アニエロにほとんどの楽器を任せたため、ブルース自身はボーカルに専念できたという。

インタビューではその他、次に計画しているカバーアルバムや、Eストリート・バンドの2023年のツアー、アーカイブ・ボックスセットの企画、オンライン・ブートレック・シリーズ、さらに、コンサート・チケット価格の高騰や価格変動制(ダイナミック・プライシング)の導入に反発して広がるファンの激しい怒りに対する想いなど、実に多くのトピックを30分に凝縮して語ってくれた。




―(ジミー・)ファロンの番組はいかがでしたか?

BS:楽しかったよ。とても面白かった。20人編成のバンドを組んで演奏したが、いわばミニ・オーケストラといった感じだった。

―Eストリート・バンドのオリジナルメンバーだったキーボーディストのデヴィッド・サンシャスとの共演を見られたのは、嬉しかったです。

BS:特別な出来事だった。デイヴィはハワイから飛んできてくれた。楽しい時を過ごせたよ。



―番組を見て、「もしもデヴィッドと(ドラマーの)アーネスト・”ブーム”・カーターがバンドに残っていたら、今頃どうなっていただろうか。彼らがいたら『Born To Run』、『Darkness』、『The River』などのアルバムは、どのようなサウンドになっただろうか」などと考えていました。もちろん今や、ロイ・ビタンやマックス・ワインバーグ抜きのバンドは考えられませんが、あり得た話ではないでしょうか。

BS:そうだな。ブームは元々ジャズ畑の人間だったから、Eストリート・バンドに加入した当初は、物凄いプレッシャーがかかっていたと思う。だけど彼は、ロックンロールの技術をあっという間に身に付けた。

そもそもは、(ドラマーの)ヴィニ・ロペスが脱退したことがきっかけだった。次の日の晩にライブを控えていたが、ギャングが経営するクラブだったから、キャンセルする訳にも行かないしな(笑)。もしも俺たちが姿を表さなかったら何をされるか、奴らの態度からはっきりと分かった。

するとデヴィッドが「ブームという名前のドラマーを知っている」と言うんだ。そこでブームを呼んで、真夜中から翌朝まで徹夜で、バンドの全セットリストを覚えてもらった。それからフォート・ディックスまで車を飛ばして、サテライト・ラウンジで夜の11時から深夜2時まで演奏した。ブームの加入は、怪我の功名といったところだ。彼のドラムは常にスイングしていたが、バンドにマッチしたロックの切れ味も持ち合わせていた。

彼が残っても上手く行っただろう。ただバンドのサウンドは今とは違い、ファロンの番組で演奏した時のようにスウィングした音楽になっていたかもしれない。おそらくね。

ソウル/R&Bカバーに取り組んだ理由

―ニューアルバムについてですが、今回のアルバムとは全く違う楽曲をレコーディングしたものの、リリースを見送ったとお伺いしました。お蔵入りになったアルバムも、ソウルやモータウンの作品だったのでしょうか。あるいは新たなジャンルに挑戦した実験的なアルバムだったのでしょうか。

BS:「俺は曲を作り、ビデオも作ってきた。でも今は家でじっとしているだけだ。レコーディングがしたい。自分のお気に入りの曲を、ちゃんとした形でアルバムにしたい」というところから始まったのさ。プロデューサーのロン(・アニエロ)には、「アルバムを作りたいが、俺は歌に集中したい」とリクエストした。ギターやキーボードを時々弾いただけで、レコーディングのほとんどを歌うことに費やした。

ロンは、各トラックを見事に編集してくれる。俺たちはロック&ソウルの音楽を作ってきた。俺は基本的に、ソウルをベースにしたロック向きの声だ。俺たちは、少しだけロック寄りにアレンジできる曲を探していた。もちろん、偉大な歌手が歌った美しい曲であることが前提だった。

以前、埋もれた伝統曲をカバーしたアルバムを作ったことはある。でも、フランク・ウィルソンによるモータウンの隠れた名作「Do I Love You (Indeed I Do)」を歌ってみると、俺の声が完璧に溶け込んだのさ。その時、「俺はソウルミュージックを歌うべきだ」と思った。



―今回のアルバムに収録された曲は、今までコンサートでも披露していません。曲はどのように選んだのでしょうか。

BS:「Do I Love You」は、ノーザン・ソウルのコンピレーション・アルバムの中から見つけた。ノーザン・ソウルの編集盤には、オフビートのリズム&ブルーズやモータウン系の作品が多いからね。いわゆる名曲も入れたかったが、誰の耳にも新鮮に聴こえる隠れた名作も歌ってみたかった。だから(ドビー・グレイの2001年のシングル曲)「Soul Days」なんかを選んだのさ。

「Nightshift」は大ヒットしたとはいえ、1985年の作品だ。ヒット曲と言っても50年前のもので、俺のファンのほとんどが聴いたこともない曲やアーティストだ。俺が歌うことで、今の人たちに再発見してもらいたかったのさ。最終的には、自分が気に入って気持ち良く歌える曲が残った。

―「My Girl」や「Dancing in the Streets」のように、今でもどこかで耳にするような超ポピュラーな楽曲は避けたということでしょうか。

BS:その2曲も考えた。実際に「My Girl」はレコーディングもした。”誰もが知る曲”になる理由は、作品自体が非常に素晴らしいからだ。人々が聴き慣れたメロディーを俺流に焼き直して素晴らしい作品に仕上げられたら、また新鮮な気持ちで曲を見直してくれるんじゃないかというのが、俺のスタンスだ。

レコーディングしてみて思い通りに行った作品は残して、上手く行かなかったものはゴミ箱行きさ。だから何度もヒットしている有名な「What Becomes of The Brokenhearted」のように、俺たちがパフォーマンスに満足した出来の曲は、アルバムに採用した。「I Wish It Would Rain」を歌ってデヴィッド・ラフィンに挑戦しようなんて、どうかしていると思うだろう(笑)。でも俺なりにしっくり来たし、歌っていて気持ち良かった。とても素晴らしい作品だ。人が感じる痛みとか、感情の中枢部分に触れたような気がする。とにかく最高だった。最高の出来だったから採用した。



―あなたは、モータウンやギャンブル&ハフといった、その時代のR&Bの作品を総括しようとしているように感じます。80年代や90年代になると、当時のヒット曲もオールディーズ専門のラジオ局でしか聴けないようになっていました。60年代や70年代を知らない世代の多くは、当時どんなに素晴らしい作品が存在したのか、全く気づかないでしょう。

BS:タイトル曲の「Only the Strong Survive」すら知らない人も多いだろう。エルヴィス(・プレスリー)もカバーしたような、大ヒット作だ。「Soul Days」や「I Forgot to Be Your Lover」、「Hey, Western Union Man」なども同じで、今のほとんどの人には馴染みのない曲だろう。

―アルバムのクレジットを見て、ロン・アニエロがほとんどの楽器を担当していたことに驚きました。彼に、”一人ファンク・ブラザーズ”を実現する才能があるとは知りませんでした。

BS:ロン・アニエロは、天才的なミュージシャンだ。彼は自分の才能を隠しているのさ。彼はニュージャージーに住んで、俺と仕事している。彼がいてくれて、俺は世界一ラッキーだ。彼の他に、地元出身の(エンジニアの)ロブ・レブレットもいる。彼は、その道の達人だ。俺たち3人でニュージャージー工場を運営している(笑)。大抵のことは、俺たちだけで片付いてしまう。バンドのメンバーと一人ずつ調整しながら時間を掛けて30曲のレコーディングを進めていく、なんてことをする必要がないから、俺はものすごい楽だ。

それに各楽器を、ほぼアナログに近い美しいサウンドで再現できる。ここでミックス作業をしたのは、1984年以来だった。自分のスタジオだから、いつどこで何をしようが、とにかく自分の好きなようにできるのさ。

ニューアルバム制作を通じて発見したこと、続編の可能性

―あなたは今回のアルバムをEストリート・バンドとしてレコーディングしたかったのではないか、と言う人もいるでしょう。一方で、あなたは今回のようなタイプの作品がバンドにはマッチしないと考えていたように感じます。

BS:今、Eストリート・バンドに招集をかけるのは、少々大掛かりなプロジェクトになってしまう。前回のアルバム『Letter To You』にはバンドが参加したが、たった4日間だった。皆それぞれが、俳優やプロデューサーや自分のツアーなど、自分の仕事を持っている。スケジュール調整をできないことはないが、そう簡単ではない。それに今は、30年前とは違う。俺に何のアイディアもないままバンドを集めるなんてことは、したくない。まずはコンセプトを固めるのが先だ。

―サム・ムーアが参加しているのは、とてもクールです。90歳近くになっても今回のように歌えるのは、とても素晴らしいと思います。

BS:サムとは30年来の友人だ。アルバム『Human Touch』(1992年)では、「Real World」や「Soul Driver」などにも参加してくれた。彼のコーラスは素晴らしい。俺が知る中で最も素晴らしい高音のテノールだ。彼とのデュエットは、とにかく最高だ。現役のソウルシンガーの中で一番だと思う。

―今回のプロジェクトを通じて、モータウン作品の優れた技巧をあらためてリスペクトしたのではないでしょうか。作品を分解して再構築する中で、これまでとは全く違う聴こえ方をしたと思います。

BS:作品の素晴らしさを引き出しただけさ。俺が取り上げた作品は、ガーシュウィンやコール・ポーターのように、60年代や70年代、80年代のアメリカン・スタンダードとして扱われるべきだ。今でも通用する素晴らしい作品ばかりだ。当時のレコーディングも素晴らしいが、今では1965年や1970年には無かった方法でバージョンアップできる。作品のアレンジに豊かなサウンドを加えて、より大きなパワーを引き出せるのさ。俺たちが実現したのは、そういうことだ。



―個人的には、フランキー・ヴァリの「The Sun Aint Gonna Shine Anymore」が好きです。彼やザ・ウォーカー・ブラザーズのバージョンは、既に知っていたのでしょうか。

BS:実は、フランキー・ヴァリが歌っていたことは知らなかった。素晴らしい曲だ。もちろん、スコット・ウォーカーのバージョンは有名だ。俺は「Born To Run」や「Darkness」などではオペラ的な歌い方をしていたが、その後はずっと、バーテンダーのようなロック・ボイスで歌ってきた。だが「The Sun Aint Gonna Shine Anymore」では、昔のように、パワフルで丸みのあるトーンで歌えている。俺の好きな歌い方だ。全く違った印象になるから、このトーンで歌える他の曲も探して試してみたい。

―「Nightshift」はご存知のように、マーヴィン・ゲイやジャッキー・ウィルソンをよく知る人たちが書いた作品で、特別な存在だと思います。友人に捧げる曲でした。

BS:何度も言うが、とても素晴らしい作品だ。親しかった人たちに捧げた曲だ。ライオネル・リッチーがコモドアーズを抜けた直後に、この曲が大ヒットした。当時の俺のお気に入りで、その後何年も聴き続けた。何度聴いても涙が出てくる。とにかく素晴らしい曲なので、「絶対に外せない曲だ」と思った。



―ジェリー・バトラーやウィリアム・ベル、それからコモドアーズのウォルター・オレンジは今なお健在で、もっと評価されるべき存在だと思います。今回は、あなたが彼らにスポットライトを当てました。

BS:光栄なことだ。この半年間は、今までにないほどジェリー・バトラーにのめり込んだ。彼は素晴らしいシンガーであり、優れたライターだった。彼らのような素晴らしいアーティストには、第2、第3、第4、第5、第6の人生が与えられるべきだ。彼らの作品は、永遠に愛されて当然だ。俺は純粋に楽しみながら、喜んで今回のアルバムを作ったのさ。

―ニューアルバムでは、今までにない歌声も聴かれます。大音量のロックバンドを従えてシャウトしていた時代を考えると、声を休めて新たなことにチャレンジできるのではないでしょうか。

BS:どうかな。俺の声はパワフルなままだし、この5、60年は何の問題もない。風邪をひいた時だけは、声の調子が悪いけどね。でもハードでヘヴィに歌わなかったことで、このオフの時期に少し声の余裕ができたかもしれない。それはあり得るな。でも音楽は面白いもので、Aメロを歌っている時はマイルドな感じで、サビに来た途端に力が入り、少々だみ声になったりする。「Turn Back the Hands of Time」のようにね。

面白いもので、ファロンの番組の時に俺は歌いながら「もっと力を入れなければ」と思っていたが、実は十分にパワフルだった。音楽がそういう風にパフォーマンスして歌うように仕向けていたんだ。番組で歌うまでは、バンドと一緒にやったことがほとんどない曲だったので、気づかなかった。ファロンの番組でビッグバンドとやったことで、リアルな経験から学ぶことができた。すごく楽しかった。

―ファロンの番組向けに、それまで一緒に組んだことのないメンバーを集めました。「このメンバーでコンサートをしてみたい」と思った瞬間はありませんでしたか?

BS:シーガー・セッションズの時のように、素晴らしいメンバーが集まり、良いバンドだった。とても楽しめたから、彼らと一緒にもっとやると思う。

―今回のアルバムには、「Covers Vol.1(カバーシリーズ第1弾)」のサブタイトルが付いています。そうなると当然、第2弾が期待されます。

BS:『Vol.2』は、4分の3程度のレコーディングが済んでいるかな。

―次はどんなジャンルに取り組んでいるでしょうか。

BS:1枚目と同じ路線だ。今はソウルミュージックをやるのがとても楽しい。でも今後は、俺が好きなあらゆるジャンルをやっていこうと考えている。今は曲を書いていないからな。当分は書かないと思う。いつものことだが、『Letter To You』の時のように素晴らしい作品が出来上がった後は、しばらく書かないんだ。しかし今回は、俺もじっとしている訳には行かない。ファンも、次のアルバムまで4年も待ってはくれないだろう。俺には、好きなタイミングでレコーディングできる環境がある。それに、俺自身にやる気が出てきている。記事が出る頃には、次の準備に入っていると思うよ。

―すると間もなく、ブリティッシュ・インヴェイジョンなどの違うジャンルにも取り組むかもしれないということでしょうか。

BS:カントリーミュージックもいいな。カントリーで1枚のアルバムを作ってみたい。ロックもいい。やりたいものは、たくさんある。どれも俺の声が重要だ。俺がいかに上手く歌えるかだ。自分の曲作りをしていない今の時期に、自分の声を極めたい。

Eストリート・バンドとの6年ぶりツアーについて

―6年近くもフルのロックコンサートを開催していません。来年2月のステージが待ち遠しいのではないでしょうか。

BS:その通りさ! Eストリート・バンドと早く一緒にステージに立ちたい。2025年には、彼らとの50周年を迎える。これまで一緒にやってきた中で最高のバンドだ。完全に俺たち流のサウンドが出せる。俺の後ろではマックス(・ワインバーグ)がドラムセットに座り、ロイ(・ビタン)がキーボードを弾く。そしてゲイリー(・タレント)がベースを持ち、スティーヴ(・ヴァン・ザント)とニルス(・ロフグレン)のギターが俺の横に立つ。それからパティ(・スキャルファ)も。全員が揃う。きっとすごく素晴らしいステージになるだろう。

―次のツアーでは、ホーンセクションやバックコーラスも同行しますか?

BS:そうだ。だから、今回のアルバムの曲もできる。

―エド・マニオンやカーティス・キングらが参加した、2014年のラインアップでしょうか?

BS:ほぼ同じだと思う。多少は入れ替えもあるだろうが、ほぼ一緒だ。

―『Western Stars』の収録曲もセットリストに入れる予定はありますか?

BS:1曲はやるかもしれないが、Eストリート・バンドが前面に出たロックコンサートになる。ファンもそれを望んでいる。俺もそうだ。結局はそうなると思う。



―前回彼らと一緒に回ったツアーでは、4時間を超えるコンサートもありました。今回もそうなるでしょうか。それとも次のツアーでは少し自重しますか?

BS:あれは成り行きだった。予定していた訳ではない。「今夜は4時間やろうぜ」などとバンドには言えない。きっと彼らは「なんてこった」と言って俺をにらみ付けるだろう。メンバーも、俺が声をつぶしてステロイド治療している姿など見たくないはずだ。彼らは、3時間半を超えると俺が無意識にどんどん突っ走ってしまうことを、よく心得ている。でも俺としては、3時間近くはやりたいと思っている。

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―セットリストについては、まだ決めていませんか? あなたのコンサートでは、セットリストがよく変更されますが、基本となる曲目については考えているのでしょうか。

BS:あらかじめセットリストを作って、バンドのメンバーと共有しているよ。初日のリハーサルはセットリスト通りにやるが、2日目からは違うことをしているだろうね(笑)。

―リハーサルは来年1月に始まるのでしょうか。

BS:その通り。

―ツアー初日はものすごく盛り上がるでしょうね。実に久しぶりのEストリート・バンドとのコンサートです。90年代にバンドが活動休止して以来の、長期にわたるブランクでした。

BS:素晴らしいステージになるだろう。Eストリート・バンドとまたステージに立てるのを、今から楽しみにしている。

チケット販売問題に怒るファンへの想い

―チケット販売について質問してもよろしいですか?

BS:もちろん。

―ダイナミック・プライシング(需要に応じて価格を変動させること)の採用や、5000ドルもの値が付いたチケットもあるなど、チケット販売問題は、ファンのコミュニティーに混乱をもたらしました。事前にプライス・ポイントやダイナミック・プライシングについての情報は来ていましたか? 振り返ってみて、反省すべき点などはあるでしょうか。

BS:俺のスタンスはシンプルだ。「他のアーティストの状況を確認してくれ。市場よりも少し低い価格設定にしよう」というのが、俺から担当者への指示だ。それでスタッフが価格を決める。過去49年かそれ以上やっているが、俺たちはほとんどの場合、市場価値を下回る金額設定をしてきた。俺はそれで満足だった。ファンにとっても良かったはずだ。

今回は、「俺たちも73歳になった。仲間も同じだ。俺も他のアーティストがやっているのと同じことをしたい」と言った結果がこうだ。スタッフが対応した結果さ(笑)。

チケット販売に関しては、非常に複雑化してきている。購入するファンのみならず、アーティスト本人にとってもそうだ。重要なのは、ほとんどのチケットが適正な価格で売られるべきという点だ。手の届く価格帯に設定されるべきだ。ところが、とてつもなく高額になるチケットもある。チケットのブローカーか誰かが、値をつり上げているんだろう。そのお金は、「一晩に3時間も汗をかいて頑張っている奴らに支払われるべきじゃないか?」と思う。

そんな状況でチケットの価格が高騰した。当時は俺たちも流れに従っていた。一部のファンに不評なのは分かっている。チケットの販売方法に不満があれば、返金することもできる。

―ご存知の通り、ファンはとても怒っています。ブルース・スプリングスティーンのファンが運営するウェブサイトBackstreetsは、自分たちに降りかかる「信頼性の危機」と表現しています。また、ダイナミック・プライシングの採用は「ブルース・スプリングスティーンとファンとの間の暗黙の信頼関係を損なう」との論説も投稿されました。あなたに対するファンからの批判的な反応を、どう捉えていますか?

BS:俺も歳を重ねて、大抵のことは上手く対処できるようになった(笑)。批判を受けるのは気持ちいいことではない。もちろん、チケット価格高騰の象徴のようにも言われたくない。そんなのは絶対に嫌だ。しかし現実は違う。自分の下した決断に責任を持ち、最善を尽くすしかない。それが俺のスタンスだ。コンサート会場へ来てくれる人々は、きっと楽しんでくれると思う。

―チケット発売初日に目の前で価格が上がっていくダイナミック・プライシングを、将来的に止めようという考えはありますか?

BS:わからない。もちろん、今後は検討することになるだろう(笑)。ツアーごとに事情が異なる。俺たちは復活しようとしている。屋外でやることもあるだろう。だから、コンサートによって全く別の議論になる。今ここで確定的なことは言えないが、状況は常に見守っていく。

次なるアーカイブ・ボックスセットの企画

―話題を変えます。未発表アルバムを含むボックスセット『Tracks』第2弾の噂が出ています。リリースの計画は本当でしょうか。

BS:1988年以降の未発表曲を中心とした、5枚組のボックスセットを準備している。90年代の作品も聴いてくれているファンの中には、「90年代の作品はイマイチだ。やっつけ仕事のようだし、Eストリート・バンドもいない……」と評価する人もいる。実際に俺は90年代に多くの曲を書いたし、アルバムも作った。タイミングが悪かったとか、いろいろな理由で、リリースしなかったものがある。

それがここにきて、なんとなく(素材が)集まってきた。ある年の冬に、その時期の作品をまとめて整理したんだ。『Tracks』シリーズの一環として、いずれリリースしようと思う。バンドとやっていた頃の古い作品もあれば、90年代以降に構想を練っていた新しい曲もある。90年代のブルース・スプリングスティーンを再評価する機会になるだろう。中には酷い作品も多い。どんな評価を受けるか、楽しみだ(笑)。



―かなり以前から、ドラムループを使ったアルバムが存在するという伝説があります。

BS:想像の通り、酷い出来だと思うよ(笑)。全編にドラムループを採用し、シンセサイザーも使った。個人的には気に入っている。でもまずは、一連のアルバムをリリースする。全部が俺のお気に入りの作品だから、ファンからの反応が楽しみだ。

―リリース時期はいつ頃でしょうか?

BS:今は言えない。ニューアルバムを出したばかりだからね。「近い将来」とだけ言っておくよ。

―『Born in the USA』ボックスセットの話もあります。こちらも準備が進んでいるのでしょうか?

BS:いや(笑)。『Born in the USA』ボックスセットについては、何もしていない。言っておくが、『Born in the USA』のアウトテイクの美味しいところは、ほとんど『Tracks 1』に収録されている。残っているのはたいしたことの無い音源か、ほとんど残っていないかだ。俺には分からない。俺たちは何も隠していないよ。それから残念なことに、『Born in the USA』ツアーの映像は、どれも上手く撮れていないんだ。俺たちが管理する素材が足りていないというだけなんだが、もっと調べようと思う。時期が来たら、リリースできるものが分かると思う。でも『Born in the USA』に関しては、『Darkness』や『The River』のように大々的なボックスセットは期待できない。第一に、素材があるかどうかすら分からないんだからね。



―『Nebraska』についてはいかがでしょう。収録曲のさまざまなバージョンを含むブートレッグが存在すると耳にしました。

BS:『Nebraska』に関しては、確かにいろいろなアウトテイクがある。まとめて出せるかもしれない。俺にもアイディアがある。ただ、今のところは可能性でしかない。それから、『Nebraska』関連の書籍が出る。言ってしまっていいのか分からないが。著者の出版計画を台無しにはしたくない。とにかく、誰かがアルバムをテーマにした本を書いていたのは事実だ。これも今後の話だ。

―『Nebraska』の素晴らしいブートレッグを聴いたことがあります。あなたが歌いながらノートをめくる音が入っています。歌詞もまだラフな状態で、いろいろなフレーズが含まれていました。多くのファンにとって、そそられる内容だと思います。

BS:ファンには受けるかもしれないな。俺は「完全な形で聴かせてくれ」というスタンスで、仕上がった曲を聴くのが好きだ。俺は、ひとつの曲の無数のバージョンが収録されたボックスセットには興味がない。たぶん俺が特殊なんだろうな。『Nebraska』の周辺について、詳しく調べているところだ。何か見つかれば、公開するよ。

―オンライン上では毎月、コンサートのブートレッグ映像を公開しています。ご自身で映像を選ぶことはありますか?

BS:専門のチームがいる(笑)。俺はただ「これはいいね。これもいいね。これもOKだ」と言うだけだ。映像は見るが、積極的には関わっていない。



―1975年以前の映像が少ないですね。スティール・ミルやブルース・スプリングスティーン・バンドなど、初期の素材を公開するのには反対ですか?

BS:そういう訳ではない。75年以前の、例えばスティール・ミルのコンサート映像が見つかったら、出しても構わない。たぶん、あまり質は良くないと思う。ただ、当時の俺がどんな感じだったのかを知ることはできるだろう。検討してみるよ。もしも質の良いスティール・ミルのコンサート素材があれば、リリースしてもいいな。



―『Human Touch』と『Lucky Town』をまとめたボックスセットも素晴らしいでしょうね。当時を振り返り、新鮮な感覚で作品を聴ければ最高です。

BS:『Human Touch』と『Lucky Town』は、俺のソロ作品だ。『Lucky Town』ではなく『Human Touch』からは、いくつかのアウトテイクが見つかるかもしれない。でもボックスセットを出す予定はない。この2枚は、リリースされたありのままの形でいいんだ。

―最後になりますが、ツアーを本当に楽しみにしています。かなり久しぶりです。

BS:そうだな。俺自身も本当に楽しみだ。全員で目一杯楽しむよ。

【関連記事】ブルース・スプリングスティーンの名曲ベスト40選

From Rolling Stone US.



ブルース・スプリングスティーン
『Only the Strong Survive』
発売中
特設サイト:https://www.110107.com/bruce_survive
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/BruceSpringsteen_otsscd

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