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さかいゆう & origami PRODUCTIONSが語る、シティポップ再解釈と「楽しい同窓会」

Rolling Stone Japan / 2022年12月1日 12時0分

さかいゆう & origami PRODUCTIONS(Photo by Mitsuru Nishimura)

さかいゆうによるキャリア初のカバーアルバム『CITY POP LOVERS』が11月30日にリリースされた。タイトルからも分かるように本作は、このところ再評価が極まった感もある1970〜1980年代のシティポップがテーマ。しかも山下達郎「SPARKLE」や鈴木茂「砂の女」、竹内まりや「プラスティック・ラブ」など定番中の定番を、なんの衒いもなく取り上げている。

しかしながら、OvallやKan Sano、Michael Kanekoら、さかいと深い縁のあるorigami PRODUCTIONSの面々が全面的に参加した本作は、トレンドに乗じた安易な企画物とは一線を画す、こちらの想像を遥かに上回るクオリティに仕上がっており、彼らのファンもシティポップ愛好家も必聴だ。そもそもトレンドなど「どこ吹く風」で、好きなものをマイペースに追求してきたさかい。今、このタイミングで盟友たちとシティポップに向き合ったのは、どんな経緯があったのだろうか。本人はもちろん、origamiのアーティストも参加した総勢8名の座談会で制作エピソードについて話してもらった。

【画像を見る】さかいゆう & origami PRODUCTIONS 撮り下ろし写真(全14点)


『CITY POP LOVERS』全曲トレーラー

─今回、さかいさんが初のカバーアルバムを作ろうと思った経緯と、そのテーマとして「シティポップ」を選んだ理由をまず教えてもらえますか?

さかいゆう:実は今作のタイトルに「シティポップ」というワードを入れるの、最初は躊躇したんですよ。ここでカバーしているアーティストたちは、もしかしたら「シティポップ」などと呼ばれたくないかもしれないので。とはいえ、自分の中で「シティポップ」には明確な定義があるんです。

─というと?

さかい:シティポップというのは、多くが1970年代後半から1980年くらいに生まれたいわゆる「おしゃれな音楽」じゃないですか。それより以前にあったのはフォークミュージック。戦争が終わり、高度経済成長期に突入する一方でベトナム戦争や安保闘争など世の中が殺伐とする出来事が増え、音楽もメッセージ性の強いものが多かったと思うんです。そんな時代の空気に疲れてしまった人たちの、心を癒す音楽として生まれたのが「シティポップ」だったのではないかと。おしゃれで耳心地が良くて、生活に一瞬にして溶け込んでいくんだけど、何度聴いても飽きない上に、心を癒し生きる希望を与えてくれる。とりわけ都会に生きる人たちの心を支える音楽のことを、シティポップと呼んだのだと思います。

アルバムタイトルをつけるときには色々な意見があったのですが、『CITY POP LOVERS』だったら自分自身のことであり、シティポップが好きな人、好きだった人、これから好きになっていく人にも向けた、自分なりに思い入れがもてそうなタイトルだなと思ったんです。

─都会に生きる人々の癒しになっていたシティポップは、今のこの殺伐とした時代の中でもきっと必要とされ、力を持ち得るはずだという気持ちもありました?

さかい:それもあります。それにシティポップとは、「日本人にしか書けない洋楽」のことだったと思うんですよ。アメリカのAORやファンク、ソウル、イギリスのブリティッシュポップに影響を受けてはいますが、それらともまた一味違う。僕はよく「芸術的職人芸」という言葉を用いるのですが、シティポップにもそれを感じる。要するに、職人的技術を駆使して「芸術」を作るようなところが日本人らしいなと思うんですよね。



─今作は「さかいゆう & origami PRODUCTIONS」名義で、origamiのアーティストと本格的にタッグを組んでいます。

さかい:origami代表の対馬芳昭さんにはインディーズ時代からお世話になっていますし、いつか一緒にお仕事する日が来たらいいな、アルバム1枚一緒に作れたらいいなとずっと思っていたんです。機会を伺いながら、かれこれ15年くらい経ってしまった。でもカバーアルバムだったら、僕を含めメンバーそれぞれが曲に対し、客観的に向き合えると思ったんですね。僕自身を料理してもらうよりも、それぞれの解釈を持ち寄りながら、対等な立場で作品を作りやすいかもしれないなと。

─origamiのみなさんは、さかいさんに対してどんな印象を持っていますか?

mabanua:テクニック的な面でも勉強になることが多いけど、それ以外の部分も持ち合わせている人ってそんなに多くなくて。大抵の人は、上手いんだけど面白味がなかったり、面白いんだけど技術が追いついていなかったりするんですよ。そこのバランスってすごく重要な気がしているんですけど、とにかく(さかい)ゆうさんは「バランス感覚に長けた人」という印象が以前からありましたね。

Shingo Suzuki:僕はゆうくんとは結構長くて。プロデュースをさせてもらったり、ツアーに参加させてもらったりしたことがあるんです。とにかく一緒にいると楽しい人(笑)。「音楽は楽しくあるべきだな」ということを彼から学んだし、会うと常に音楽や楽器の話ばかりする「音楽バカ」でもあって。一旦話し出すと尽きないところも魅力ですね。

関ロシンゴ:僕、ゆうくんと知り合う前からライブを観に行っていたんですよ。吉祥寺の「Star Pines Cafe」や、青山の「月見ル君想フ」とか「Plug」とか。常に超満員で、後ろの方で待っていると第一声が聞こえた瞬間にふわっと体が軽くなるような歌声で。今日、久しぶりにみんなでセッションしたんですけど、そういうエバーグリーンな歌声が、さらに増してきているなと思いました。


左からShingo Suzuki、さかいゆう、mabanua、関ロシンゴ(Photo by Mitsuru Nishimura)

Kan Sano:僕はピアニストなので、ピアニストとしてのさかいゆうさんの凄さを、一緒に演奏していてすごく感じます。歌がめちゃくちゃ上手くて、ピアノもめちゃくちゃ上手い。個人的に、いわゆる「ピアニスト」の弾くピアノよりも、シンガーが弾くピアノの方が好きなんですよ。その人の持つキャラクター、声やリズム感、歌い方と共通しているものがピアノの演奏にもあって。さかいさんのようなグルーヴをピアノで出せる人は、日本ではなかなかいない。そういうピアノ奏者と一緒に演奏しているとめちゃめちゃ楽しいですけどね。

Michael Kaneko:ゆうさんには自分の作品にも参加してもらったり、プライベートでもすごく仲良くさせてもらったりしていて。そばで見ていると、彼の性格が音楽にも反映されている気がしますね。一緒に演奏していても、とにかく楽しくて遊び心たっぷりで、周りのみんなを本当に楽しませてくれる。その反面、めちゃくちゃ職人気質のストイックなところもあるんですよね。マバさん(mabanua)も言ったように、そういう絶妙なバランス感覚を持った人だなという印象です。


左からHiro-a-key、Michael Kaneko、さかいゆう、さらさ、Kan Sano(Photo by Mitsuru Nishimura)

Hiro-a-key:彼は「遠い親戚」みたいな感じ。15年くらい前によく渋谷でジャムセッションをやっていて、僕は半年くらい遅れてそのシーンに入っていったんですけど、当時はゆうくんとタケオくんという子がいて。二人が「Just Two Of Us」を歌っているのを聴いた時の感動を今でも覚えていますね。「あの世界に僕も飛び込みたい」って。歳は一つしか違わないし、誕生日も1日違いですけど、でもシーンにおいては先輩。今回origamiを通してこうやってアルバムに参加できるのは感慨深いものがありますね。愚直に音楽を続けてきてよかったなと。

さらさ:私はセッションから音楽をスタートして、高校生の頃にゆうさんのライブを観に行って。さっきせっきーさん(関ロ)もおっしゃっていましたが、ゆうさんが歌い始めたその第一声でめちゃめちゃ泣いてしまって。何があったのか自分でもよく分からなかったんですけど(笑)、それがすごく記憶に残っているんです。その後こうやって自分もミュージシャンになってorigamiの姉妹レーベルASTERIに入って、このお話をいただいた時に、ずっと尊敬していた大先輩なので、皆さんと違ってこれで初めてゆうさんとお会いしたので、新鮮に「びっくり」の方が大きかったですね。


Photo by Mitsuru Nishimura

それぞれの個性を発揮、収録曲の制作エピソード

─では早速曲ごとのエピソードを聞かせてください。mabanuaさんとはユーミン(荒井由実)の「やさしさに包まれたなら」を一緒にカバーしたんですよね。

mabanua:ゆうさんに「mabanuaの声が入っていてもいいんじゃない?」と言ってもらって。

さかい:Kan Sanoもそうだしmabanuaもそうだけど、「ボーカリスト」というよりは「ボイシスト」なんですよ。声がいい。この曲に、倍音をたっぷり含んだmabanuaの優しい声が入ったらさらに良くなるんじゃないかと。それをオーダーしましたね。

mabanua:カウンターメロディみたいな感じでCメロの裏にずっと入っています。

さかい:あれもすごくいい。リズムをシャッフルにしたのは僕のアイデアでしたが、そこから先の作業は全てやってもらいました。


Photo by Mitsuru Nishimura

─Shingoさんは、かまやつひろし「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」のカバーアレンジと、松原みき「真夜中のドア〜stay with me」のカバープロデュースを手掛けています。

さかい:「真夜中のドア〜stay with me」だけ緩めな打ち込みというか。ちょっとおしゃれなカフェでかかっていても良さそうなアレンジにしたくて。原曲は結構キメが入っているんですが、そういうのを全て排除してワングルーヴでずっと回すようなイメージ。いろんな人にカバーされている曲だし、しかも忠実なカバーが多いから、そうではなくて「ソウル好きによる打ち込みトラック」みたいな感じにしたかったんです。

Suzuki:僕の中では「渋谷のクラブThe Roomで、仲のいいDJがかけているレコード」というイメージ(笑)。しかもオリジナル曲よりダンスチューンにアレンジしたカバーみたくしたかったんですよね。楽器もドラムとベースのみ。しかもベースはプレベにフラット弦を張ってモコモコとさせたべースサウンド。そういう、レコードマニアが喜びそうなアレンジでゆうくんが歌ったらどうなるか?みたいなところを目指しました。

「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」はデモを僕が作り、Ovallとしてレコーディングにも参加しました。ここでは、僕らが2000年代初頭によく渋谷でジャムっていた頃のノリを出そうと。ゆうくんからのリクエストは「ネオファンクのテイストで」ということだったので、ミシェル・ンデゲオチェロみたいなゴリゴリのファンクにRHファクターの要素も入れた、要するにみんなが好きな要素を詰め込んだ感じにしてみました。




Photo by Mitsuru Nishimura

─Kan Sanoさんは、それこそ昨今のシティポップブームの火付け役となった、竹内まりや「プラスティック・ラブ」のカバーをプロデュースしています。

Sano:僕は達郎さんの影響をめちゃくちゃ受けていますし、僕の周りの人たちがやっている音楽の系譜をたどっていけば、達郎さんは必ず行きつく人。避けては通れない存在なんですよね。そういう方が作った曲をリメイクするのは、「待ってました!」という気持ちもありつつ「絶対に失敗できないぞ」と(笑)。

最初にさかいさんが、ボーカルと鍵盤のみのすごくシンプルなデモを送ってくれたのですが、そのボーカルのグルーヴ感がものすごくて。それに合わせてビートを組んで行ったら自然にアレンジも完成してしまいました。僕もさかいさんも達郎さんの「Paper Doll」という曲が大好きで、あの曲のリズムを今っぽく解釈して取り入れるなどしています。




Photo by Mitsuru Nishimura

─マイキーさんがプロデュースしたブレッド&バター「ピンク・シャドウ」は、今回のカバーの中では異色といえるかもしれないですね。

さかい:フォークデュオなので、いわゆる「シティポップ」とは違いますしね。でも、マイキーの歌声とギターカッティングが一瞬にして潮風を運んできてくれました。

Kaneko:この曲は、鍵盤とベース、アコギと声を軸にできるだけシンプルなアレンジを心がけました。ブレッド&バターはサイモン&ガーファンクルみたいな雰囲気もあるし、ゆうさんからは「マイキーの歌声を大きく出したい」と言ってもらったので、さかいさんのソロというよりは僕とさかいさんによるデュオ曲というイメージで仕上げていきましたね。

さかい:マイキーのハモリの方が大きいですからね。

Kaneko:そんなことはないです(笑)。というか、ゆうさんの方がハイトーンボイスなのに、僕が上のパートを歌っているんですよ。


Photo by Mitsuru Nishimura

─関ロさんは、鈴木茂「砂の女」をプロデュースしています。この曲も、昨今のシティポップブームの中心にある曲ですよね。

関ロ:打ち合わせの時に「ギターが印象的で、ギタリストがカバーしたくなるようなリフが一つ欲しい」とのリクエストがあったので、そこを意識したカッティングフレーズを先に考えてからアレンジを組んでいきました。今までゆうくんとは、サポートギタリストとしての仕事はしたことがあったのですが、プロデュースという形は今回が初めて。どんな反応が返ってくるか、最初はめちゃくちゃ緊張したのを覚えています(笑)。一言、「最高!」とLINEが返ってきたときはホッとしましたね。

さかい:最高でした。

関ロ:すごく熱量のある曲なので、打ち込みよりは生のドラムの方がいいなと思い、Nulbarichなどでよく叩いている今村慎太郎くんにお願いしました。


Photo by Mitsuru Nishimura

─Hiro-a-keyさんは、大滝詠一の「夢で逢えたら」をNenashi名義でプロデュースしています。

Hiro-a-key:この曲は、どちらかというと鈴木雅之さんが歌っているバージョンが有名ですし、そっちでいくのかなと思ったら「大滝さんバージョンを、Nenashiサウンドでカバーしてほしい」と。なのでタイトルにちなみ、シンセを多用したドリーミーなアレンジに持っていけたらいいなと思って試行錯誤しました。


Photo by Mitsuru Nishimura

─さらささんは、尾崎亜美の「オリビアを聴きながら」にフィーチャリングボーカルとして参加しています。

さらさ:さっきも話したように、最初の打ち合わせではまだ実際にお会いしたことがなかったんです。その後、私のライブを実際に見ていただいてからアレンジを考えてくださったんですけど、私シャーデーが好きなので「シャーデーみたいな感じが合うんじゃない?」と言ってくれて、実際にもらったデモも自分の好みにドンピシャ。とても楽しく歌わせてもらいました。

さかい:さらささんのライブを見ていると、すごく憂いのあるソウルフルな声で。「オリビア」はバラードのイメージが強いけど、それをそのまま二人でデュエットしてしまうと、ちょっと重たすぎるかなと。なのでシャーデーみたいなグラウンドビートがあって、譜割を若干変えてもいいから……と思って。アップテンポまでいかない、「Love Is Stronger Than Pride」みたいな感じを目指しました。

さらさ:「さらささんは低い声がいいから、下でハモってほしい」と言われたのがすごく嬉しかったです。ビートもすごく好きな感じで、「わかってもらえてる!」と思いました。



─改めて、origamiのアーティストたちと一緒にやってみた心境を聞かせてください。

さかい:楽しい同窓会でしたね。そんなしょっちゅう集まってやるという感じじゃなくて、それぞれがそれぞれのフィールドで活躍して、こうやって久しぶりに集まって音を出す。また10年後くらいにこういうタイミングが来たらまた一緒にやりたいなと思いました。そのためにも頑張って続けていきたいです。続けていく方が難しいですからね。みんなには、変わらないところは変わらず、変わるところはどんどん変わっていってほしい。その方が、次に会うときの楽しみが増えますから。

─このカバーアルバムを、ぜひライブでも再現してほしいです。

さかい:実は来年4月、野音が決まっているんですよ。僕のソロステージと、みんなと一緒にやるステージの両方を用意していますのでぜひ見にきてください。晴れるといいな。



初回生産限定盤ジャケット


通常盤ジャケット

さかいゆう & origami PRODUCTIONS
『CITY POP LOVERS』
2022年11月30日リリース
配信・CD購入・アナログ盤予約:https://virginmusic.lnk.to/CITYPOPLOVERS

●初回生産限定盤 CD+DVD 4,950円(税込)
特典DVD:2022年8月6日に故郷 高知県土佐清水市で開催した「酔鯨酒造 presents さかいゆう sings Whale Song」ライブ映像(約60分収録)
●通常盤 CD 3,300円(税込)
●アナログ盤(LP)2023年1月25日(水)発売 3,850円(税込)

<収録曲>
1.SPARKLE / さかいゆう feat. Ovall, Kan Sano, Michael Kaneko, Hiro-a-key
2.砂の女 / さかいゆう feat. 関口シンゴ
3.ゴロワーズを吸ったことがあるかい / さかいゆう feat. Ovall
4.真夜中のドア~stay with me / さかいゆう feat. Shingo Suzuki
5.プラスティック・ラブ / さかいゆう feat. Kan Sano
6.ピンク・シャドウ / さかいゆう feat. Michael Kaneko
7.夢で逢えたら / さかいゆう feat. Nenashi
8.やさしさに包まれたなら / さかいゆう feat. mabanua
9.オリビアを聴きながら [Bonus Track] / さかいゆう feat. さらさ
10.夏のクラクション [Bonus Track] / さかいゆう

4年越しの野音ライブ開催!
2023年4月8日(土)開場16:00 / 開演17:00(20:15終演予定)※雨天決行・荒天中止
会場:東京・日比谷野外大音楽堂
ゲスト:Ovall, Michael Kaneko, Nenashi a.k.a Hiro-a-key, Shingo Suzuki, mabanua, 関口シンゴ, さらさ
チケット:全席指定7,000円(税込) ※小学生以上有料

さかいゆう公式サイト:http://www.office-augusta.com/sakaiyu/

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