ヘイルストームが語る、希望の道筋「ツアーこそが自分のいるべき場所」
Rolling Stone Japan / 2022年12月16日 20時30分
現代アメリカのハード&ヘヴィ・ロック界を代表するバンドとなったヘイルストームが2023年2月、来日公演を行う。
【写真を見る】2019年の来日ライブの様子
彼らの最新アルバム『Back From The Dead / バック・フロム・ザ・デッド』は闇の中で希望とポジティブな光を見出す作品だ。コロナ禍の始まる3カ月前から曲作りを始め、一時はボーカリスト、リジー・ヘイルが精神的に”暗い場所にいる”と報じられたが、無事アルバムは完成。攻撃的なシャウトからバラードの歌いっぷりまで限りなくエモーショナルで説得力のある彼女のヴォーカルは、生命力がみなぎるパワフルなものだ。
既にツアーを再開。アメリカ、ヨーロッパ、大洋州を回って満を持して日本に戻ってくるヘイルストームのリジー、そしてギタリストのジョー・ホッティンジャーがジャパン・ツアーに向けての抱負、そして12月16日にリリースされた『Back From The Dead』デラックス盤について語った。
ー現在バンドはどんな状態ですか?
リジー:すべてに対してポジティブで順調よ。ツアーはどこでもすごい盛り上がりだし、日本でプレイするのを楽しみにしている。
ジョー:東京のショーはこれまで日本でやった単独公演としては最大規模のものになるし、その逆に大阪では久しぶりにお客さんとの距離が近い、親密なクラブ・ギグなんだ。フェスからクラブまで、いろいろ異なった会場でプレイすることで刺激を受けるんだよ。
ーアルバム制作当時と今では、音楽に対して異なった視点を持っていますか?
リジー:私たちの曲はその時々の自分たちを捉えたスナップショットだし、今ではまた異なった地点にいるわ。『Back From The Dead』は私たちのサバイバル宣言だった。新型コロナウイルスで世界が静止して、私たちはそれぞれの個人的な問題を抱えていた。でも私たちは生きていて、前に進んでいく。そんな意思表示だったのよ。それと同時に、ありのままの自分を肯定する作品でもあった。誰だって落ち込むときはある。でも、いつか気分が良くなるときも訪れるし、必要以上に頑張る必要はないのよ。
ジョー:俺たちにとって曲を書いたり、ステージで演奏してお客さんとエネルギーを与え合うことは、人生そのものだったんだ。コロナ禍でそれを奪われたことはショックだったし、いつになったら日常が戻ってくるか先行きが見えてこないことで不安を感じた。そんなとき、バンドの絆を再確認出来たし、SNSで世界中のファンからメッセージをもらったことが励みになった。彼らの住む町ひとつひとつを訪れて、感謝を込めたライブをやるつもりだよ。”外国人”になるのが好きなんだ。新しい人々や文化に触れることはいつだってエキサイティングだよ。
ーヘイルストームはヘヴィなサウンドにリジーのパワフルなボーカルが乗って”無敵感”を放っていますが、自分の弱い・脆い面を表に出すことに躊躇はありませんでしたか?
リジー:まったくなかった。結果として、自分の弱い部分をさらけ出したことは正解だったと思う。たくさんのファンとエモーショナルな面で繋がることが出来たし 、私たちの音楽を聴いて自分が1人ではないことに気付いてくれたファンもいた。「Raise Your Horns」や「Bombshell」の歌詞をタトゥーで彫って、「この一節は自分が考えていたことを集約している」と見せてきたファンもいた。ステージに上がっているからといって、私は特別な存在ではない。みんなと同じように喜んだり悲しんだり悩んだりするのよ。その一方で、私たちは1人1人がそれぞれ違っている。だからお互いの相違点を受け入れて、許容するべきね。
ジョー:人生は短いからね。周囲を気にして黙り込んでしまうのではなく、自分の意見を主張するべきなんだ。ヴァン・ヘイレンも言っているだろ?「とにかくジャンプしろ」って(笑)。
ー精神的に落ち込んでいるとき、リジーはプロフェッショナルな専門家に診てもらいましたか?
リジー:私は13歳のときから歌ってきたし、ステージ上のペルソナやレザー・ジャケットが自分のヨロイだった。パンデミックになって、それが剥ぎ取られたことで、寄りかかれるものがなくなって混乱したわ。それでセラピストに相談した。彼女は私と同じように苦しんでいる人を大勢診てきたし、 自分の悩みや心配事に接する新しい方法のアドバイスをしてくれて、助けになった。私が自分の経験から言えるのは、1人で抱え込まずに誰かに相談することよ。家族でも友達でもいい。彼らに言うのが難しかったら、プロに話してみることは良い選択だと思う。
ジョー:ロックダウンから最初の1、2カ月は家で曲を書いたりジャムをやったりしたけど、先行きが見えなくてさすがに不安になったね。俺たちに出来ることは再始動に向けて備えることだけだった。行くところがなくてもレザー・ジャケットを着て、香水を付けてね(笑)。
リジー:結果として、ツアーに戻ることが出来たのが一番の救済となった。ここが自分のいるべき場所だと実感したわ。
リジー・ヘイル(Vo)(Photo by Jason Stoltzfus)
人生における「聖域」とメンタル・ヘルスの問題
ー『Back From The Dead』では死者の復活、贖罪、教会の尖塔などキリスト教的なイメージがしばしば描かれていますが、宗教は”救済”になるものでしょうか?
リジー:それは人によるんじゃないかな。私はキリスト教の家庭に育った。大人になって教会には行かなくなってしまったけど、その文化がバックボーンにあるのよ。ロックという”悪魔の音楽”であっても、聖書にある表現を使ったりしている。自分はオリジナルなソングライターでありたいけど、文化に根付いたフレーズを引用することでリスナーと価値観を共有することも有効だと考えている。それにロック・コンサートと教会の礼拝のセレモニーの様式やオーディエンスの熱狂には共通するものがあるしね。
ジョー:人々が教会に行くのは、説明出来ない未知に対する答えや希望を求めている部分があるんだ。俺たちにとって、それに相当するのが音楽だ。音楽が答えであり、希望なんだ。人生において、そういう聖域は必要だよ。
リジー:2年ぐらい前、鬱状態だったことがあった。そのときジョーが「近所で友達がライブをやるんだ。見に行こう」と誘ってくれた。正直そんな気分じゃなかったけど何度も言われて、根負けして行くことにした。目の前の黒雲がスッと消えていくのを感じたわ。音楽に包まれて、安らぎを感じた。
ーリジーが提唱する”#RaiseYourHornsキャンペーン”について教えて下さい。
リジー:2018年からSNSで#RaiseYourHornsキャンペーンを立ち上げて、メンタル・ヘルスで悩んでいる人たちが1人で抱え込むのでなく、連帯することが出来るようにした。問題の解決にならなくとも、同じように考えている人がいると判れば、気が楽になるからね。アルバムのラスト曲「Raise Your Horns」は、そんな彼らに捧げた曲なのよ。タイトルだけだと”悪魔の角をした拳を突き上げろ!”というメタル・ナンバーだと思うかも知れないけど、ボーカルとピアノだけのバラードだったりする。
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ジョー:コロナ禍から学ぶことがあったとしたら、人間同士の繋がりの重要性だろう。我々は1人では生きていくことが出来ない。”社会的動物”としてお互いを支え合って、進んでいくんだ。そのことを再認識することで、他人に対しても寛容になれたんじゃないかな。そしてバンドとして再びステージに立つことで、見に来てくれるオーディエンスへの想いを新たにしたよ。
ー12月16日にリリースされた『Back From The Dead』デラックス盤にはシングル「Mine」を含む7曲が追加収録されますが、それらはアルバムと同じセッションで書かれたものですか?それとも新曲でしょうか?
ジョー:主に『Back From The Dead』の初期セッションで書いたものだよ。まだアルバムを作ることは決まっていなくて、ただ集まっていろんなタイプの曲を書いていた。あるとき「Back From The Dead」のリフとコード進行をプロデューサーのスコット・スティーヴンズが持ってきたんだ。これだ!と思って、新たに曲を書いていった。だからアルバムの曲はそれ以降に書いたものだった。「Bombshell」は例外で、かなり最初の方に書いたものだったけどね。初期セッションの曲にも良いものがたくさんあったけど、『Back From The Dead』の流れにしっくりハマらなかったんだ。ちょっとギャグっぽかったり、逆に深刻でシリアスだったりね。今回デラックス・エディションを出すにあたって、それらをボーナスとして追加収録することにした。バンドの異なった表情を垣間見ることが出来て、きっと楽しんでもらえるよ。
リジー:追加収録曲は”みにくいアヒルの子”みたいなものよ。毛色が違っても、可愛い子供であることは変わりがないわ。「マイン」はもう何年も前に書いた曲だけど、発表するタイミングを逃していた。この機会で聴いてもらえるのが嬉しいわ。
ジョー:「Mine」は『Vicious / ヴィシャス』(2018年)を完成させた後に書いたんだ。いつもアルバムを完成させた後、クールダウンするためにスタジオでアイディアを書いたり、ジャムをやったりする。そんなときに生まれた曲だよ。アルバム本編とは異なることをやってみようと、シンセっぽいフレーズを書いたんだ。1980年代っぽい、ミュージック・ビデオにデヴィッド・ハッセルホフが出てきそうな曲だ(笑)。
ジョー・ホッティンジャー(Gt)(Photo by Jason Stoltzfus)
「俺たちは常に一歩先を見ている」
ーヘイルストームに”無敵感”があるのはリジーのボーカルに加えて、その目覚ましい成功も理由です。バンドは初のアルバム『HALESTORM / ヘイルストーム』(2009年)を発表した翌年に早速日本上陸を果たし、2ndアルバム『THE STRANGE CASE OF... / ストレンジ・ケイス』(2012年)から「LOVE BITES (SO DO I)」がグラミー受賞、最新作『Back From The Dead』も全米トップ40に輝いています。キャリアの早いうちに多くのアーティストが羨む実績を作って、まだ成し遂げていないことがあるでしょうか?
ジョー:これだけの成功を収めたことは誇りに思っているし、世界中のファンに感謝しているけど、バンドが結成したのは1997年で、もう25年やっているから、決して”早いうち”ではないよ(苦笑)。俺たちは常に一歩先を見ているんだ。これまで成し遂げたことよりも、それをどう超えていくかを考えているよ。そのために曲作りやリハーサルに励むし、毎日ギターの練習をするんだ。まだまだやるべきことは幾らでもあるし、言いたいこともある。
リジー:自分が13歳の頃には想像もしなかったことを実現させたし、あとはレッド・ツェッペリンみたく自分のジェット機を持つことが夢かな(笑)。まあ、それは冗談で、音楽を続けられて、世界中のファンの前でプレイ出来れば、それでハッピーよ。まだ行ったことがない国にも行きたいし、行ったことがある国でも別の都市や別の会場でショーをやりたい。そうしてより多くの人たちのハートに触れられたら満足ね。
ーザ・ローリング・ストーンズやオジー・オズボーンなど70歳以上のロック・スター達と較べると、ヘイルストームはまだまだ若手バンドですが、あとどれぐらい突っ走れるでしょうか?
リジー:私も70歳になっても歌っていると思う。こないだハートのアン・ウィルソンのショーを見に行ったけど、素晴らしい声をしていたわ。
ジョー:ライブを観に来てくれるファンがいる限り、いつまでも続けるつもりだよ。「もう止めろ」と言ったって無駄だ。ステージで自分たちの音楽を演奏する以上に楽しいことはないからね。
リジー:そう、他の仕事なんて今更やるつもりがないからね。人生ずっと音楽と共に過ごすつもりよ。
ーバンドの公式YouTubeチャンネルでフリートウッド・マックの「The Chain」、アデルの「Hello」、トミー・ジェイムズやジョーン・ジェットで知られる「Crimson and Clover」、ドリー・パートンやオリヴィア・ニュートン・ジョンでお馴染みの「Jolene」などをプレイする映像を公開していますが、これまで3作がリリースされてきたカヴァーEP『Reanimate』の第4弾の予定はありますか?
リジー:具体的なスケジュールはないけど、カバー曲をプレイするのは楽しいし、ぜひやりたいわね。
ジョー:ネットに上げた「Jolene」はリハーサルも30秒ぐらいで、ぶっつけ本番だったんだ。そんな生のフィーリングが好きなんだけど、EPに入れるとしたら、あと数回通して練習して、ちゃんと弾けるようにしておくよ(笑)。
ードリー・パートンというとリベラーチェと並んで誇張されたアメリカ・エンタテインメントの象徴であり、”真剣な”ロック・リスナーからシリアスに捉えられない傾向がありますが、メタル・ファンに彼女の音楽を聴くように、どのように説得しますか?
ジョー:ここナッシュヴィルで数年前にドリーのコンサートを観たことがあるけど、素晴らしかった。今まで観てきたなかで最高のライブの一つだったよ。音楽に加えて、MCでのトークも笑い死にするぐらい面白かった。時計や携帯を見ている人なんていなくて、誰もが彼女に釘付けだったよ。単に”メタルではないから”と言って見ないのは、大きな損失だと思うね。
リジー:ドリーのコンサートは私も人生のトップ5に入るものだった。曲も素晴らしいし、彼女の歌い方、ステージの存在感など、あらゆる要素が最高だったわ。外側から見たイメージはフェイクなのに、ドリーは本物のシンガーでパフォーマーよ。あらゆるロックやメタルのアーティストもそうあるべきだし、彼女から学ぶことは多いわ。
ジョー:音楽業界だけではなく、ドリーは世界中の人々から感謝されるべきだよ。彼女がヴァンダービルト大学に巨額の寄付をしたことで、モデルナ・ワクチンの開発に多大な貢献をしたんだ。図書館に何百万冊もの本を寄付したり、聖人に認定されてもいいだろう。
来日公演に向けて
ーこれまで2010年の「LOUD PARK」、2015年の単独ツアー、2019年の「DOWNLOAD JAPAN」、同年に単独ツアーと、複数回日本を訪れていますが、日本の印象はどんなものですか?
リジー:日本に来るたびにファンの音楽に対する強い愛と情熱を感じる。日本のファンは音楽に対してシリアスに向き合っているよ。初めてプレイしたとき、みんな大人しいからウケていないのかな?と思ったら、曲が終わるとワッと盛り上がった。音楽を単なるパーティのBGMでなく、アートとして受け入れてくれる。2023年2月の日本公演ではそれに応えるショーをやるから、思い切り楽しんで欲しいわ。
ジョー:俺たちが会った日本の人々は誰もがフレンドリーで、家に帰った気分にしてくれる。日本にはヘイルストームの曲を専門にプレイするトリビュート・バンドもいるんだ。ビューティフルな人々の前でショーを出来るのはいつだって最高の経験だよ。アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアをツアーして、全身が熱くなった状態で日本に向かう。俺たちもすごくワクワクしているんだ。待ちきれないよ!
【関連記事】ヘイルストームのバンド哲学「ヘヴィ・メタルは生きる希望」
<INFOTMATION>
HALESTORM JAPAN 2023
東京・2023年2月7日(火)Zepp DiverCity Tokyo
大阪・2023年2月9日(木)BIGCAT
公演詳細ページ:
https://www.creativeman.co.jp/event/halestorm-22/
『Back From The Dead / バック・フロム・ザ・デッド』(デラックス盤)
ヘイルストーム
ワーナー・ミュージック ジャパン
配信中
1.Back From The Dead
2.Wicked Ways
3.Strange Girl
4.Brightside
5.The Steeple
6.Terrible Things
7.My Redemption
8.Bombshell
9.I Come First
10.Psycho Crazy
11.Raise Your Horns
12.Mine
13.Heavy MeNtal (Fuck Yeah)
14.Legendary
15.Wannabe
16.You Only Die Once
17.Alien
18.Special
https://halestormjp.lnk.to/bftddeluxe
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