ドミ&JD・ベック、超絶テクニックの新星が語る「究極の練習法と演奏論」
Rolling Stone Japan / 2022年12月26日 17時45分
ドミ&JD・ベック(DOMi & JD BECK)の噂はじわじわと広がっていった。YouTubeやInstagramにアップされた動画を観たとき、キーボード奏者のドミとドラマーのJD・ベックによる演奏は想像をはるかに超えていた。超がつくほどテクニカルなだけでなく、越境的なセンスも抜群だったからだ。アンダーソン・パークやサンダーキャット、アリアナ・グランデらを魅了した才能に僕もすぐにハマっていた。
彼らが自分たちの名義でデビューアルバムをリリースすると聞いたとき、楽しみに思う一方で、少しだけ不安もあった。バカテク演奏系のYouTuberが録音作品を発表して、残念な結果に終わった例をいくつも見てきたからだ。誰もがジェイコブ・コリアーのような成功を収めるわけではない。とはいえ、その心配は杞憂に終わった。
アンダーソン・パークとドミ&JD・ベック
アンダーソン・パーク主催の新レーベル「APESHIT Inc.」とジャズの名門ブルーノートのダブルネームでリリースされた『NOT TiGHT』には、これまでに聴いたことがないような音楽が収められている。リズムもハーモニーもあらゆる部分が高度かつ挑戦的。カート・ローゼンウィンケル、ブラッド・メルドー、ジャコ・パストリアスからアラン・ホールズワースまで研究し、その先にある表現を目論む野心がしっかりと聴こえてくる。さらに、その難易度をポップに昇華させる不思議なセンスや、それを楽曲としてまとめる構成力をもつことも彼らは示した。それは明らかにサンダーキャットやルイス・コール、モノネオンらが開拓してきた地平の先に生まれたものだ。
様々な音楽の要素が入り混じってはいるのだが、2人はそれを「ハイブリッド」と感じさせない、まだ名前のついていない音楽に仕上げている。ドミ&JD・ベックの音楽は何かの融合体というよりは、端的に「2人の演奏」であり、「作編曲と即興演奏」の独特なコンビネーションによって、ジャンルの羅列による説明を無効化する新たなインストゥルメンタル音楽を提示している。『NOT TiGHT』が2022年最大のハイライトのひとつだったのは誰の目にも明らかだ。
第65回グラミー賞では、最優秀新人賞を含む2部門にノミネート。今から来日も待ち遠しい2人に、いよいよ話を聞く機会を得た。
曲づくりにおけるハードな挑戦
―プレスリリースにあった、「僕らはスナップショットをアートにすることを望まなかった。何か新しいことをしたかったんだ」というJDの言葉がとても印象的でした。アルバムを作ろうと思ったとき、お二人にはどんな青写真がありましたか?
JD:何か自分たちらしいものにしたかったんじゃないかと思う。これぞ自分たちのものだって言えるもの。幅広さがあって、自分たちが聴きたいと思う作品にね。一緒にやり始めたときからにどんな音にしたいかはお互いに分かっていたから、それを全部出し切りたかったんだ。
ドミ:「彼らは自分たちの音を作っているよね。でも、その音に囚われていない」って言われたかった。
JD:そう、まさにそんな感じ。
―『NOT TiGHT』はすべてオリジナル曲です。スタジオ・アルバムなので、これまでの動画よりも作り込むことが可能だったと思います。『NOT TiGHT』での作編曲のプロセスについて聞かせてください。
JD:ソングラインティングというアートに敬意を抱きつつ、3分もの長尺ソロがあるようなインプロビゼーションの名作アルバムにも憧れてきた。僕たちはできるだけベターな形で、その二つを組み合わせようとしているんじゃないかな。大体セクションごとにしっかり曲を書いていて、その場の即興で作られている感じがあまり出ないように、インプロのための空間は注意深く作るようにしている。一方で、リハーサルを重ねているような感じがしないようにもしているね。ミステリアスな感じにもしたいから。
ドミ:曲を書くモードなのか演奏するモードかにもよるけど、書くときはしっかり書いているかな。できるだけがっつり書く。でも演奏するとき、つまりリハーサルやライブではなるべくその曲想を広げていく。書いたように演奏するけど、つまらなくならないように広げてもいくという感覚。常に自分たちとリスナーを驚かせたいから。
―作曲する際に「ライブで再現できること」もしくは「自分の楽器で演奏可能なこと」は考慮していますか?
JD:自分たちは決して自分たちの担当している楽器で作曲をするわけじゃないし、2人ともハーモニーに関してもリズムに関しても役割を均等にしている。何もかも均等。だから曲を書くときは、彼女のパソコンに向かってメロディを歌い合ったり、一緒にコード進行を考えたりして、2人でしっかり書いていく。作品ができあがったなと思ったら、それをしっかり覚えてから演奏を始めるんだ。書くときは脳から直接書いていく感じ。
ドミ:脳から直接Sibelius、Logic、あるいはAbletonに入れて、MIDIを使って作業する。絶対に楽器では書かないことにしているんだ。筋肉の記憶があるから、(楽器を使いながら作曲すると)自分が前に演奏したもの、演奏できるものを演奏しがち。それをしたくないから、自分たちの耳に聴こえてくるものじゃなきゃいけないと思っている。
JD:それが「脳から直接」ってこと。筋肉のことは忘れなきゃいけないんだ。
―「楽器は使わない」というのは今回のアルバムに関してですか? それとも、これまで曲を書くときもずっとそうだった?
JD:ずっとそう。ネットにあげてきたクリップとか動画も楽器に向かう前に書いたもの。それが僕らにとっては自然だったんだ。2人だけだし、できるだけ親密なものに仕上げるのが自然だと思った。
―頭の中にあるものを出力するということですが、頭の中ではどういう感じで音楽が鳴っているんですか。譜面とか映像とか……。
JD:音かなぁ。
ドミ:私は色。実際にある青とか赤とかそういうのではないけど。異なるテクスチャーの音楽っていうか……。
JD:そう、色々想像するんだと思う。メロディとかいろいろなものが頭にある。どこから来るものかはわからないけど、それは脳が不思議な動きをしているからなのかな。でも、頭の中で感じたことを手始めにやっていくと、それが最終的に自然と曲になっていくんだよね。
ドミ:たくさんのアーティストやスタイルを聴いていて、色々な影響を受けているから、それが全部融合しているのもあると思う。無理やり組み合わせようとするのではなく、無意識のレベルでね。
JD:そう、「この曲の15%はR&Bじゃなきゃいけないね」って意識的なものではないよね。サウンドにしてもテンポにしてもあまり考えないようにしているっていうか、どうするのかは後で決める。そうしているおかげで、多くの人が曲づくりで直面する問題と無縁でいられるんだと思う。
―楽器を使わないってことですけど、曲を書くときにそれを楽器で再現・演奏できるものにしようとは考えているんですか?
ドミ:いいえ。
JD:しないね、だいたいは……。
ドミ:(実際に演奏する段階になってから)苦しむ。
JD:でも、それは無意識的にわざとやっている気がする。自分たちに挑んでいるっていうか。難しくしようと思っているわけではないけど、自分たちがもともと演奏できる範囲のアルバムにはしたくないんだ。できるだけクールなものに仕上げたいから。
ドミ:挑戦できる要素があるのはクールだと思う。アルバムを仕上げると「じゃあライブで演奏しないといけないね」ってなるから。たとえば「SMiLE」が仕上がったとき、すぐにかなり先回りしないといけないってわかっていた。メロディをレコーディングするだけで大変だったのに「ベースの音をどうにかしないと、きっと足でなんとかしないとだな」って思った。私たちはそういう困難に立ち向かうのが大好き。曲を書くときに何の制限もかけないのは、演奏するのが大変であればあるほど楽しくなるから。
JD:そう、面白いことにもっと楽しくなるんだ。もし本当に演奏できなかったらライブでは演奏しない。でも何とかレコーディングはしてみる。とにかく限界まで自分たちを追い込むだろうね。それこそ、ドミは実際にライブで演奏できるようにするために、新しい楽器を学ばなければならなかった。
ドミ:実を言えば、「演奏できないからライブで演奏しなかった」というのは今までなかったんだけどね。例えば、スヌープ・ドッグに毎回ライブに来てもらうことはできないから、他の人にラップしてもらうっていうことはしない。でも、私たちのパフォーマンスに関しては、いつも何らかの形でライブ演奏できる方法を模索してきた。
JD:今のところね。
ドミ:もし、本当に努力してリハーサルしてもダメそうだったら、アルバムに入れないかな。自分たちとしても高い水準を求めているし、優れたサウンドにしたいから、うまくいかなかったらほかの事をすると思う。でも確実にチャレンジはする。
JD:そう、僕らはかなり努力してきたからね。
2人が明かす独自の演奏論
―ドミさんは以前から、名演奏をトランスクライブ(採譜)してコピーする動画をYouTubeに上げていました。譜面に起こしてからそれを演奏することから、どんなことが学べるのでしょうか?
ドミ:トランスクリプションをする過程がそれぞれ違うことを教えてくれる。音符を紙やパソコンに起こすわけだけれど、その作業だけでもとても面白い。自分の耳を使って学ぶことだから。本当にスーパークレイジーでクールな耳の訓練。それが一段階目。
それから今度は演奏を学ぶ中で、ソロによって技術を磨かなければいけない。で、それを練習すればするほどわかることがある。例えば、移調があったりすると、そういうのが私を特徴づける部分になる。そこでのソロを本当の意味で自分のものにできれば、その部分をインプロできるようになるし、それをもとにさらなる語彙に発展させることができる。同じリック(短い定型フレーズ)だけでインプロをやっていくよりもね。ちなみに私はリックって言葉が大嫌い。使うべきじゃなかったね。
ソロを学ぶことで自分の語彙が広がって、より自由が得られる。つまり、まずは耳、次が技術を学んで磨くこと、そして最後、私にとって一番大切なのは自由と色々な可能性を学ぶこと。そして、ここでもやっぱり筋肉の記憶力と闘わないといけないと思う。でないと同じものを何度も何度も繰り返し演奏することになっちゃって、最終的にはインプロでなくなるから。そのようなことを学んでいるのだと思う。
ドミのカバー映像、スナーキー・パピー「Lingus」
―ドミさんは鍵盤奏者だけでなく、ベーシストのコピーもしていますよね。あなたのソロには鍵盤の発想を超えたフレーズもあるのかなと思います。鍵盤、ベース以外でトランスクライブしてきたミュージシャンがいたら教えてください。
ドミ:鍵盤奏者はできるだけ書き起こしをしないようにしてきた。大体一つの楽器をやっていると、同じ楽器のミュージシャンだけを書き起こす傾向にある。ピアノ奏者ならピアノ奏者、サックス奏者ならサックス奏者を書き起こしがちで、みんな同じような演奏になっていってしまう。だから私はパット・メセニーのギター、ジャコ・パストリアスのベース、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーン、ジョシュア・レッドマンなどを書き起こしてきた。もちろん、ブラッド・メルドー、チック・コリア、キース・ジャレットあたりは研究したけど、ピアノ奏者だけにはならないように意識してきた。ベースに関しては演奏するのが大好き。キーボードを弾くのよりも好きかも。ベーシストならジャコが一番好きかな。
JD:アラン・ホールズワースのソロもやってたよね。「Atavachron」をやっていたけど、あれは本当に難しかった。
ドミ:どの楽器にも一番簡単な演奏の仕方、一番難しい演奏の仕方があって、自分の楽器の限界に合わせてフレーズやソロの演奏も限定してしまう。そこで例えばサックスのように違う楽器の演奏をピアノに置き換えれば、アルペジオだったり、もっと大きなインターバルだったり、ピアノと比較するとやりやすくなる。見た目や本質が違うから。ギターもそう。個人的にはピアノの曲ばかり演奏していても、ピアニストにはなれるけどミュージシャンにはなれないと思ってる。
ドミのカバー映像、サンダーキャット「Them Changes」
―JD・ベックさんのドラムはかなり手数も多いし、大胆な変化も細やかな変化も至るところで見受けられます。『NOT TiGHT』において、あなたのドラムは作編曲の時点でどのくらい事前にあらかじめ組み込まれていましたか?
JD:アルバム全体を通して、自分が持ち得る限りのボキャブラリーをつぎ込もうと思っていた。それぞれの曲で、僕のなかにある技術やアイデアが空っぽになるまでね。実際こうやってレコーディングしたことで、これまで演奏してきたフレーズやスティッキング、パターンから解き放たれた気がする。今はツアー中だから忘れるわけにはいかないんだけど、真っ新の状態で再スタートできると思うよ。
―ドラムのプレイはもちろんとして、特殊なセッティングも含めた個性的な音色やテクスチャーも特徴的ですよね。作編曲をする際にどのくらいデザインしてるものなんですか?
JD:曲づくりのとき、最後までドラムのことは考えない。それが自分にとって一番いいんだと思う。そうすることによって、仕上がった時にすべてを見渡せて、色々なアイディアが思い浮かぶからね。フルスコープで見られるというか。
―『NOT TiGHT』のドラムについて、録音や演奏の面でもっともクレイジーだと思う曲は?
JD:一番クレイジーなレコーディングは「SPACE MOUNTAiN」。できる限りロボットのように、できるだけアグレッシブに叩いているから。ドラムにエフェクトをかけて、これまでで一番ドラムマシーンに近い音になったんじゃないかな。しかも、iPhoneですべてレコーディングしたんだ。演奏面でいうと「WHOA」か「SMiLE」のドラム・ソロが一番難しくて込み入っていると思う。特に、「SMiLE」のソロは自分自身を驚かすためにやったものだから。自分が演奏するとなれば大体想像がつくから、そういう気持ちはなかなか得られない。あのソロは自分を無意識で驚かそうとしていたんだと思う。
―『Not Tight』では僕らが今までにYouTubeなどで見てきたドミ&JD・ベックのすごさがそのまま出ています。キーボードもドラムも(ドミさんがキーボードで弾くベースも)全てが主役に聴こえるアレンジになっているし、2人ともライブのと同じように自由に演奏しているように映ります。でも、ジャムではなくて、完成度の高い「曲」になっている。インストゥルメンタル音楽における理想を形にしていると思うんですが、どうやってこんな音楽を作ったんですか?
ドミ:どうしていきたいのか考えながらだった。人生を右往左往しながら、自分たちがどうなりたいのか考えながら、自分たちのサウンドを作り上げながらだった。どうなっていくのかわからない2、3年の努力の結果かな。
JD:曲を書き始めたのが14歳で、今19歳でアルバムが発売されるからとても不思議な気分。説明が難しいな。
ドミ:プロセスを説明するのは大変。やってきたことを考えたり分析してきたりしたわけじゃないし、とにかくやっているだけだったから。
JD:今振り返ってみるとややこしいね。全部まとまったことが驚き。
ドミ:うん、できあがったこと自体が驚き。
JD:今の時点でアルバムってどう作るのか忘れてしまったくらいだよ。
ドミ:もう諦めて、次は絵でも描くしかないかも。
―このアルバムからは、繊細なコミュニケーションも伝わってきます。誰かのソロを弾いているときに重ねる鍵盤のコードや、そのソロの変化に応えるようなドラムのアプローチなど、とにかく丁寧で、誰よりも音を聴いているのを感じます。自分たちの大胆さやクレイジーさではなく、繊細さや丁寧さについて心がけていることがあれば聞かせて下さい。
ドミ:鍵を握っているのは耳を使うこと。多くの作曲家やミュージシャンというのは、必要なレベルまで自分たちの耳を使っていないんだと思う。
JD:みんなもっとプラクティカルっていうか、脳を使っているっていうか……たとえばソロをやっているときに「こういう演奏をしなければいけない」なんてどこにも書いてないよね。それなのにジャズのライブに行くと、ベースがソロを始めるや否やピアノが止まるか、静かになってドラマーがハイハットしか叩かなくなる。何でそんなことをするのって思うんだよね。僕はそんなことをしたくない。誰かがソロのときも、みんなもっとソロの周りで演奏しようよ、一人に物語を語らせるのではなく、みんなで手伝おうよってね。
ドミ:アートに関するルールなんて作れるわけがない、それに尽きると思う。自分の耳を使って、その瞬間にうまくいく術を見出さないと。繊細さについて答えると、演奏中は自分たちでも考えていないはず。「ここはこうしないと」なんて考えていない。だから、ルールもなければ秘密もない。やらなければならないことをやっているだけ。曖昧な言い方だけど、そういうものなんだよね。
JD:そうだね、これは言葉で説明しづらいことだね。
―『NOT TiGHT』の中で「みんなが気付いてなさそうな細かい部分」があったら聞かせてください。
ドミ:「TWO SHRiMPS」のボーカルを録音しているとき、マック(・デマルコ)がテイクの途中で咳をしているんだけど、気づいた人がいるかどうか。
JD:僕もあの曲の静かなところで、ボーカルでちょっとやらかしている(笑)。
ドミ:あとはサンプリングなんて使ってないのに、「どこからのサンプリング?」って聞かれることもある。
メンターたちとの交流、練習とクリエイティブの関係
―今更ですけど、『NOT TiGHT』でアンダーソン・パークは、プロデューサーとしてどんな役割を果たしたんですか?
ドミ:いわゆるプロデューサーではなかったかな。プロデューサーっていうと、パソコンの後ろに座ってセッションをプロデュースしているものだけど、そういうことはまったくなくて、彼はメンターだった。彼の家に滞在していたんだけど、毎晩友人として様子を見に来てくれたって感じ。
JD:1年間限定のお母さんのような存在だった。食事も用意してくれたし。
ドミ:彼は音を変えようとすることなく、私たちのベストを引き出してくれた。
JD:多くの人がやりたがらないレベルで追い込んでくれたんだ。他のみんなは僕たちの音楽について気を遣って話してくれるけど、彼はそうじゃなかった。最初からそれが気に入ったし、「彼は気に入らないかも」と思うときもあったけど、それも含めて全てを曝け出せるくらい心を許せたんだ。
ドミ:彼は真摯な意見を言ってくれた。最近ではなかなかないこと。「いいアルバムだね」「ライブ良かったよ、演奏良かったよ」ってみんな上っ面の感想を言うなか、彼は常に正直でいてくれた。だからこそ私たちのベストを引き出してくれた。
JD:何かを変えるように言ってきたことはなかったけど、常に僕たちが何をやろうとしているか理解してくれて、それが純粋なまま確実にできるように僕たちを極限まで追い込んでくれた。本当に疲れたもんね。
ドミ:それから彼のおかげで、スヌープやハービー・ハンコックとの共演が実現したことも重要だよね。
―サンダーキャットはベース奏者であり、ボーカリストであり、作曲家です。彼の音楽は彼自身の演奏が重要な要素になっていて、そのうえでどこかポップで聴いていて楽しい。その点ではドミ&JD・ベックのインスピレーションの一つなのかなと。
JD:僕たちに大きく影響を与えた、数少ないミュージシャンの一人じゃないかな。僕たちと楽器こそ違うけど、それぞれの音楽を通して達成しようとしていることは一緒で、習ったことの先を行って自分らしいものを作ろうとしているんだと思う。このご時世に、そういう存在はとても珍しいよね。本当にとても仲良くなって、メンターというか……二人目のお母さんになったね。
ドミ:演奏もできるし、キャッチーだけど非常に難しい曲を書くことのできる珍しいミュージシャンの一人。そんな人はなかなかいない。ジャズ奏者ってクレイジーな演奏はできるけど、曲は書けない人も少なくない。逆に、ポップ/R&Bのミュージシャンは演奏がそこそこだったりする。だから彼は、完璧な演奏をして完璧な曲を書ける最高のハイブリッド。それは自分たちがめざすところでもある。
2020年、アリアナ・グランデとサンダーキャットの共演動画に2人も参加
―では、ルイス・コールはどうですか?
JD:まさしく彼もそういうタイプ。サンダーキャットやアンディ(アンダーソン・パーク)もそうだけど、僕たちのメンターは大体みんな同じくらいの年齢なんだ。ルイスは自分らしさを貫いているドラマーで、僕にものすごくインスピレーションを与えてくれる。それに曲を書く数少ないドラマーの一人でもあるよね。僕自身もそうだけど、そういう人はなかなか見かけない。そういう意味では、「自分はドラマーなんだ」っていう枠から飛び出る勇気も与えてくれた。僕はドラマーだけど、自分のことをドラマーだとは思っていない。彼がいてくれたおかげでね。
―先ほども「僕らはかなり努力してきた」と話してましたが、たくさん練習して、かっこいい音楽を作ってる姿をドミ&JD・ベックが見せているのは、若いプレイヤーにとって最高のメッセージになっていると思います。練習や研究することとクリエイティブの関係について、お二人が思っていることを聞かせてください。
JD:練習と研究はたくさんの事を学ぶという幅広い部分で大事だと思う。若いミュージシャンとして一番大事なのは自分自身を研究することであり、自分のコンフォートゾーンから抜け出すために練習すること。そして、自分がやりたいことを学んで、自分らしい「何か」を見出していくことだと思う。「巨匠を学べ」とか「これを勉強しないと」っていうのはよく言われるけど、このことはあまり強調されていないように思うからね。
ドミ:「みんなが何万回もラジオで聴いてきたような曲を書け」とかね。
JD:そう! 僕らは出逢ってからずっと練習してきて……そうそう、僕たちが自分たちの楽器で曲づくりしていないもう一つの理由は、自分たちの「手」から生まれるものではなく「頭」から生まれるものを練習したいからだと思う。それって全く違うことなんだよ。今、自分がドラムで演奏できないリックが20個くらい思いつくけど、それが学べれば最高の練習になるよね。
ドミ:練習のやり方は2つある。練習時間を積み上げる方法もあるけど、それでは深いところまではいけない。5時間の長いセッションをやるより、一つのことに集中して10分練習する方がいいこともある。長くやりすぎると身体も脳も疲れて、自分たちのやっているかに耳を傾けなくなるから前進していなかったりする。
何年練習しても上手くならないこともある。それでも、若いミュージシャンは本当にたくさん練習しなければいけない。ひたすら努力して、できる限り最高の高い技術を得なければならない。それは自分が達成したいことの役に立つから。「プロデュースできます、楽器もいくつかちょっと演奏できます」みたいな人が最近よくいるけど、深く突き詰めなければ自分に苛立ちが募ってくるし、自分の能力を最高レベルまで発揮できない。だから練習して技術的にある程度高いところまで行って、自分が作りたいものを作れる自由を手に入れないとね。
JD:効率的に練習をしないと。僕はもっと若かった時、一回数時間の練習をしていたけど、ドミと出逢ってからは1日1時間以上は練習してないよ。
ドミ:私も。
JD:練習するときは200%で練習して、結果を手に入れるためにものすごく集中して、できる限りのベストを尽くしているからだと思うんだ。
ドミ:ゴールがあるからね。
JD:そうそう、ゴールがあることが重要なんだ。「10時間練習しているよ!」って言う人もいるけど、その10時間で何を達成しているの?って思うね。
ドミ:必要なのは目標、耳、集中するための脳、そして技術を手に入れながら自分のサウンドを見つけ出すこと。それが全部達成できれば、いいところまでいけるんじゃないかな。
JD:脳も訓練しないとね。音楽の全てが肉体的にできるわけではないし、自分が聴きたいもの、脳が何をやりたいかにかかっている部分もあって、それはそれで練習できること。
ドミ:ルイスだってそうでしょう。(ドラムだけでなく)キーボードもベースもギターも演奏できるし、それぞれの専門ではないのに、誰よりもキーボードが上手い。それは彼にフィーリングがあって、ゴールがあって、演奏することで何がほしいのかわかっているから。自分の脳にあるものをどうやって楽器で実行できるかわかっている。楽器はただの楽器ではなくて、頭の中で描いているものを達成するための道具だということ。だから、何を手に入れたいかわかったうえで演奏するべきだと思う。それこそが最高の練習方法じゃないかな。
ドミ&JD・ベック
『NOT TiGHT』
発売中
再生・購入:https://domi-jdbeck.lnk.to/NOTTiGHT
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