ジェイコブ・コリアーが語る「メロディとは?」 観客とともに歌う理由、自分を信じる力
Rolling Stone Japan / 2022年12月28日 17時30分
さる11月、大阪BIGCATとZepp DiverCity Tokyoで開催され、共にソールドアウトとなったジェイコブ・コリアー(Jacob Collier)の来日公演。これまでも成長し、進化し、チャレンジすることに夢中だった彼は、今回のツアー「Djesse World Tour 2022」でもバンド編成を拡張。コーラスを増やしてハーモニーを厚くしたり、ギターや鍵盤を加えて楽曲をカラフルにしたりすることで、スタジオ録音に迫る豊かさや複雑さを表現しようとし、観客の度肝を抜いた。それに加えて、これまでの活動を総括するようにハーモナイザーや多重録音を駆使するなど、ステージ全体の流れを俯瞰してバラエティを組み込む余裕、アーティストとしての成熟ぶりも感じられた。
2022年11月28日、Zepp DiverCity Tokyoにて(Photo by Hajime Kamiiisaka)
【画像を見る】ジェイコブ・コリアー撮り下ろし/ライブ写真(全17点:記事未掲載カット多数)
その中で、大きな見せ場となっていたのがピアノ弾き語り。ジェイコブは28カ国で91公演行った今年のツアーで、毎晩異なるカバー曲を歌とピアノで披露。観客もクワイアとして巻き込み、一緒にパフォーマンスを創り上げてきた(大阪では映画『シュレック2』で知られるカウンティング・クロウズ「Accidentally In Love」、東京ではマイケル・ジャクソン「Human Nature」を披露)。そこから約100分に及ぶテイクを収録したライブアルバム『Piano Ballads』で、彼はテンポ、キー、ハーモニー、リズムのどれも思うままに変えつつ、原曲の良さも浮かび上がらせている。ジェイコブがこのチャレンジに胸を踊らせていたのは、誰の目にも明らかだった。
ジェイコブ・コリアーのインタビューはいつもわくわくする。彼の音楽について丁寧に質問すると、思いもよらない素敵な表現で返してくれるからだ。その感じは『Piano Ballads』に収められた、想像の斜め上を行くアレンジと似ている。その一方でジェイコブは、無茶振りみたいな質問にも答えてくれる。答えるのが難しそうな問いであるほど嬉しそうにも見えるし、瞬時に魅力的な答えを見つけだしてしまう。その感じは、様々な要素やテクニックを常識離れした組み合わせで融合させてきた彼のオリジナル曲と似ている。
今回は初っ端から「メロディって何?」と、無茶振りな問いを投げかけてみた。ジェイコブはやはり楽しそうに自分の哲学を話してくれた。そこからノープランで対話をしていった結果、「Never Gonna Be Alone」を始めとした近年のシングル曲に通じる話になったし、『Piano Ballads』を聴くためのヒントにもなったと思う。そのうえで、どこをどう切り取ってもジェイコブらしい回答になっているのが面白い。彼は近年、新たな発想で作曲に取り組んでおり、飽くなき創作意欲もここから伝わってくるはずだ。
―これまでのインタビューでリズムやハーモニー、ボーカルテクニックについて尋ねてきました。今回はメロディについて聞かせてください。まず、あなたにとってメロディとは?
ジェイコブ:メロディは自然に生まれる僕の声のようなもの。つまり、メロディを作ること自体に集中しすぎてはいけないんだ。あくまでも必然的にやってくるものとして感じとらなきゃいけない。それをうまく掴むことさえできたら、曲全体がうまくいくはず。僕にとってメロディとは、文章における言葉のような役割かな。何が一番言いたいことなのか、僕のアイデンティティを表現するために何を持ってくるかってことを考える。同時にメロディはハーモニーの構成要素でもある。ハーモニーってメロディが重なって生まれるよね? リズムも時間的要素が重なることで生まれる。つまりは全てがメロディと繋がっている。鉛筆で線を描くみたいなイメージだよ。自分が納得できる最善の線を描くんだ。
―メロディは音楽におけるコア(核)のようなものでもあるし、基礎となる単位でもありますよね。
ジェイコブ:確かに。感情的な部分を一番表現しやすい、音楽の中でもっとも普遍的な部分だ。コアという表現がふさわしいね。
Photo by Mitsuru Nishimura
―メロディはどうやって作っているんですか。みんなが言葉にしづらいもので、音楽における「謎」みたいな部分だと思いますけど。
ジェイコブ:そうだね、頭を使って作ろうとするとうまくいかない。科学や数学みたいに、論理的に作ることができないんだ。それよりも心と耳をオープンにして、頭に浮かんだものを歌う感じかな。僕の師匠が言ってた表現なんだけど「僕の隣に誰かがいて、その人が僕にメロディを歌ってくる。それを声に出して僕が歌う」感じのもの。つまり、師匠はメロディを自分じゃない誰かが歌ったものとして捉えてる。そのメロディが自分にとって正しいのかどうかは本能的にわかるはずなんだ。だって日常にはメロディが溢れているでしょ。例えば、ラジオで流れてる音楽や人の会話、イントネーションですらメロディを持っている。もちろんいつもシンプルとは限らなくて、複雑なメロディともあらゆるところで遭遇しているんだけど、僕らはそれを自然なものとして感じとっているはずなんだ。僕たちは人生において数多くのメロディを聴いているし、自分自身のメロディを持っているはずなんだ。
―頭の中で自然に生まれるってことは、突然降りてきたり、ひらめいたりするということ?
ジェイコブ:突然降りてくる、もしくは思いつくっていう感じかな。メロディにはミステリアスな部分もあるかもしれないけど、それよりも本能的なものだと思う。隠された秘密を見つけるっていう感覚じゃなくて、すでに自分の中にあるものなんだ。自分の中にあるものが出てくる。だから、「思いつく」という感覚なんだ。
メロディと作曲、「スパークする」感覚
―これまでいろんな音楽を聴いてきたから、自分の中にたくさんのメロディが入っているという話でしたが、それでいうと過去に聴いてきたものに似てしまう怖さもあるのでは?
ジェイコブ:たしかに。でも、それは音楽を作るプロセスの一部だと思う。例えば、子供が言葉を覚えるプロセスと同じだよ。家族や友達の会話の真似をして音を覚えているでしょ。周りに溢れる音を聴いて、自分の表現に昇華させることは良いことだと思う。僕も以前は、他のアーティストの曲をよくアレンジしてきたけど、それは自分にとって良い勉強になった。ある意味で守られた環境の中で、いろんな音と関わることができるからね。
―なるほど。あなたは最初、カバー動画を通じて知られるようになったわけですしね。当時、自分のオリジナルのメロディを発表することに関して、怖さのようなものがあったのでしょうか?
ジェイコブ:そうだね。自分のスキルを磨くベストな方法って、すでに確立されたアーティストの周囲にいることだと思っていて。だからアレンジをしていたっていうこともあると思う。実は、曲のアレンジって作曲とそれほど違いはないんだ。作曲はメロディに関して即興をするけど、アレンジでも曲の周りに関して即興をすることができる。つまり、守られた環境で自分の軌道を掴んでいくことができるんだ。僕はここ2年くらい、アレンジのスキルを作曲スキルに活用しようとしてきた。今はその新しい方法での作曲に没頭している。とても楽しいよ。だって、僕のパレットにはたくさんの色があるから。たくさんの色を持っている分、ふさわしいものを忠実に表現できるようになったんだ。
―今までやってきたアレンジなどで得たものが、メロディを書くことにも生かされていると。
ジェイコブ:そうそう。
Photo by Mitsuru Nishimura
―メロディにアレンジが生かされているっていうのは、どういうことですか? 僕の中のイメージだと、あなたのアレンジはクレイジーかつ自由で、どう捉えるべきかわからないような部分もある。そのアレンジが、どうメロディを作ることに繋がるのでしょうか?
ジェイコブ:誰かの曲をアレンジするのと作曲するのはたいして違わない。でも、作曲はプロセスを分ける必要がある。言葉を書いてメロディを作って、ベーシックなハーモニーができたらアレンジをする。よし遊ぶぞっていう感じかな。僕にとってアレンジは一番好きな部分で、作曲は一番ワクワクする部分と言ってもいいかもしれない。どんな曲ができるかはまるで予測できないよね。もしかしたらクレイジーなリズムやハーモニー、面白いサウンドが生まれるかもしれない。摩擦が起こるスポットを見つけていく感覚だ。それを見つけたらスパークさせる。その火花を曲にしていくんだ。その感覚を掴む一番簡単な方法は、今までやったことないことをすることだと思ってる。アレンジは色々とやってきたけど、まだ作曲の経験は多くないから、その実験的なプロセスはとても新鮮なんだ。
―最初に、メロディは科学や数学じゃないという話をしてましたが、火花ということは、どちらかというと自然(Nature)に近いものなのでしょうか。
ジェイコブ:そうだね。音楽はいつだって、今この瞬間に起こっている。過去でも未来でもなく今なんだ。曲を聴くことだって同じようで毎回違うよね。さっき言った「スパークさせる」っていうのは身体的なことを意味するんだけど、そのプロセスで大事なことは、今に集中して自分に意識的になること。外からやってくるものを受け入れて、自分の中で作り変えるんだ。あとは自分を信じること。もしかしたら不可能かもしれないっていうギリギリのレベルにハードルを設定して、自分に「できる」って言い聞かせるんだ。そんなふうに今までやってきた。僕はいつも「これをやってみたらどうなるんだろう?」ってチャレンジを楽しんでいるんだ。それを楽しめる限りは、うまくいくと思っているよ。
「コントロールできないこと」を楽しむために
―あなたが今までやってきたことは、自分の頭の中に思い描いているもの、つまり「コントロールできるもの」を完璧に音楽に置き換えることだったと思うんですよね。でも近年は、メロディを書くこともそうですし、ライブでオーディエンスに歌わせたりしているのも含めて、自分ではコントロールできないものと向き合っていますよね。そうやってコントロールできない状況を楽しんだり、コントロールできない自分を許すことに関心があるのかなと思ったのですが、いかがでしょうか。
ジェイコブ:その通り。『Piano Ballads』では、まさにその実験をしている。どうやって演奏するかだけじゃなくて、キーさえも事前に決めたりはしなかった。ピアノの前で「今日はどんな景色を見れるだろう?」って毎回思うんだ。オーディエンスも、毎回すばらしいハーモニーを奏でてくれるよね。今、僕は何が起こるかわからない状況を楽しんでいるんだ。パンデミックで学んだように、僕たちは今を生きていて、誰もこれから何が起こるかなんて予測できない。このプロセスから「自分を信じる」ことの力についてたくさんの学びがあるし、その練習をするには良いタイミングだと思う。これは望みを叶えることに繋がっているから。
―コントロールできないことを楽しむことは、自分を信じることにも繋がるわけですか。そういう考えをもつようになったきっかけはありますか。
ジェイコブ:僕の母親は自分を信じることに対する意識が強くて、どんな状況でも「自分であること」にとても真摯だった。特に学校では、周りと比較して何が正しいかの判断基準が作られるでしょ。だから、自分を肯定してくれる母親の存在はありがたかった。音楽業界も学校と似ているところがあって、よく「これはできない」って言われたりするんだけど、それは嘘だ。もちろん、コントロールの力が働く限りはできないだろうけど、みんなが何にも縛られていなかったら、みんな自分のやり方に従ってできるはずだから。この視点を持つことができたら、人生はもっとうまくいくと思うんだ。
例えば、僕がステージの隅々までコントロールしたところで、何も面白くないよね。僕にとって音楽の面白さって、自分から手放して自由に遊ぶことだと思う。『Piano Ballads』でも、時には短かったり長すぎたりしている部分もあるけど、それも音楽の一部だし、正しさなんてない。これは人生においても同じだと思うんだ。予測できないことを受け入れ、自分を信じて、身を任せるーそうすると人生はきっとうまくいくよ。
Photo by Mitsuru Nishimura
―いい話ですね。今の話はジェイコブ・コリアーの音楽そのものって感じがします。最後に『Piano Ballads』に絡めた質問です。ここではあなたが好きな曲、あなたが良いと思う曲、あなたにとっての名曲を演奏していると思います。あなたにとって名曲の条件って何ですか?
ジェイコブ:一切の誇張がない等身大の曲が名曲なんじゃないかな。例えば、5バースのうち1バースは完璧だけど、他は......っていう感じじゃなくて、名曲っていうのは、すべての音と言葉がぴったり収まっていて、何一つ取って代わるものはない。クールなリズムやメロディも要素の一部としては必要だけど、アーティストが投影されていることの方が大事だと思うんだ。例えばジェームス・テイラーの「Carolina in My Mind」(思い出のキャロライナ)は、まさに彼そのものだよね。僕の選曲はそういった基準で選んでいる。そういった曲を一旦演奏してみて様子を見るんだ。その日の気分によっても変わるけどね。
―そういった名曲の中でも「自分が書いた曲にしてしまいたい」と嫉妬するくらい、あなたにとってすごいと思う曲はありますか?
ジェイコブ:一番はじめに思い浮かんだのが、ジョニ・ミッチェルの「A Case Of You」かな。あと「Both Sides Now」も。この2つは完璧な曲だね。特にあの3つのメタファー、本当に素晴らしいと思う。あの曲を書いた時、彼女はまだ24歳だった。その年齢でどうやって人生を知ったんだろう。ほんとうに美しい曲だよ。彼女は60歳のときにオーケストラでレコーディングをし直しているよね、60歳なら理解できるけど、24歳であんなに美しい曲を作れるなんて。「僕があの曲を作ったんだ!」って言えたらいいのになって思うよ。
【画像を見る】ジェイコブ・コリアー撮り下ろし/ライブ写真(全17点:記事未掲載カット多数)
【関連記事】ジェイコブ・コリアーが語る「シンプルとカオス」 音楽の申し子が変えたゲームのルール
Photo by Mitsuru Nishimura
ジェイコブ・コリアー
『Piano Ballads』
発売中 ※日本限定CD化
再生・購入:https://jacob-collier.lnk.to/Piano_Ballads
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
DURDNが語る、すべての人を包み込む「肯定感」が生まれる背景
Rolling Stone Japan / 2024年11月27日 18時15分
-
iScreamが語る、一人ひとりの「歌姫」がグループとして放つ輝き
Rolling Stone Japan / 2024年11月19日 17時30分
-
「ベートーヴェンからアフリカのリズムが聴こえる」ジョン・バティステが語る音楽の新しい可能性
Rolling Stone Japan / 2024年11月15日 17時45分
-
HOMEが語る、今を生きるバンドが考える「モダンポップス」
Rolling Stone Japan / 2024年11月8日 19時0分
-
f5veが語る、東京発の異次元サウンドを支える姿勢「ありのままでいることの素晴らしさ」
Rolling Stone Japan / 2024年10月30日 18時15分
ランキング
-
1戸田恵梨香が“細木数子物語”で女優復帰! Netflixが昭和ドラマ戦略で描く勝ちパターン
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月27日 16時3分
-
2辻希美、娘の“顔出し解禁”デビューに予定調和の声も、際立つ「華麗なプロデュース力」
週刊女性PRIME / 2024年11月28日 18時0分
-
3【NewJeans緊急会見要点まとめ】ADORとの契約解除を発表・今後の活動に言及
モデルプレス / 2024年11月28日 21時54分
-
4今さらどのツラ下げて? 東山紀之に芸能界復帰説…性加害補償が一段落、スマイルアップ社は解散か?
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月28日 16時3分
-
5「こんな顔だっけ」西野カナ、復活ライブでギャル路線から“演歌歌手風”への激変にネット困惑
週刊女性PRIME / 2024年11月28日 17時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください