ローリングストーン誌が選ぶ、2022年の年間ベスト・ホラー・ムービー10選
Rolling Stone Japan / 2022年12月29日 18時0分
(左下から時計回りに)『SCREAM/スクリーム』、『PIGGY』、『プレデター ザ・プレイ』、『X エックス』。MORENA FILMS. UNIVERSAL PICTURES, HULU, A24
グランジ感満載のスラッシャー映画や禁断の地下室で起きる悪夢を描いた意外なあの映画など、ホラー映画が豊作だった2022年屈指の10作品を紹介する。
まずは結論から言おう。2022年は、良質なホラー映画が大量に誕生した一年だった。
知的でショッキングなユーロホラーから、莫大な製作費が注ぎ込まれたモンスター映画や意欲的なインディー映画と互角に渡り合った映画製作・配給会社A24の話題作に至るまで、そのバラエティは実に豊かだった。2021年の夏に大ヒットしたユニバーサル・ピクチャーズの『ブラック・フォン』(2021)のようなサクセス・ストーリーもあれば、口コミという昔ながらの方法によって高い評価を得た『バーバリアン』のような作品もあった。その一方で、『テリファー2』のような超低予算映画が最終的に1150万ドル(約15億3000万円)という興行収入を叩き出すという思いもよらない展開もあった(製作費25万ドル[約3300万円]という超低予算のDIY映画がここまでヒットしたことが意外だったのか、それとも殺人ピエロを描いた本作が138分という長尺物だったこと、あるいは2016年の「テリファー」の続編が製作されたこと自体が意外だったのか、サプライズの要因をひとつに絞るのは難しい)。ホラー映画の要素は、アニメーションからスーパーヒーローを描いた超大作に至るまで、ありとあらゆる作品に取り入れられた。まったく、サム・ライミ監督の『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、『死霊のはらわた』(1981)がたまたまMCU作品になったようなものではないか。この一年を通してすべてのシリーズ物が平等に製作されていないことが証明されたとしても、過去作で活躍したお馴染みの俳優たちのカムバックも注目に値する(『ハロウィン THE END』のいちばん良い点は、THE ENDという約束を守ったことだ)。
ここでは、2022年を通して私たちの安眠を妨害し、不安をあおり、人目をはばからず映画館で大絶叫したことで大恥をかかせてくれただけでなく、ホラー映画というジャンルの力強さを再認識させてくれた10作品を取り上げる。
(この場を借りて、ここで紹介しきれなかった『Dashcam(原題)』や『Flux Gourmet(原題)』、『フレッシュ』、『The Innocents(原題)』、『マッドゴッド』、『ザ・メニュー』、『Smile(原題)』、『A Wounded Fawn(原題)』にも称賛を贈りたい。生粋のホラー映画ファンの度肝を抜いた韓国発ゾンビ映画『哭悲/THE SADNESS』のように救えないくらいグロテスクな作品を”おすすめする”のもどうかと思うが、同作がホラー映画本来の目的を見事に達成している点は認めなければならない。『哭悲/THE SADNESS』をご覧になる方は、その点を十分踏まえた上で、慎重に鑑賞していただきたい)。
10位『SCREAM/スクリーム』
日本公開終了、各社配信で視聴可能
BROWNIE HARRIS/PARAMOUNT PICTURES
あなたは他のホラー映画をおちょくりながらも、それに敬意を払うことを忘れないタイプのホラー映画はお好きだろうか? もし好きだとしたら、大ヒットホラー「スクリーム」の通算5作目となる本作は、きっとあなたを狂喜乱舞させるに違いない。監督を務めたのは、挑発的という点では本作とほぼ互角の『レディ・オア・ノット』(2019)のメガホンをとったマット・ベティネッリ=オルピンとタイラー・ジレット。両者によって「スクリーム」シリーズは、リメイクないしリブートと有毒なファンダムの時代にふさわしいものにアップデートされた。本作では、カムバックを果たした初代ファイナル・ガールのネーブ・キャンベルに加えてドラマ『ウェンズデー』(2022)で主役を演じたジェナ・オルテガをはじめ、大勢のZ世代俳優たちが逃げ惑う姿を楽しむことができる。もちろん、製作陣には何らかの思惑があるのかもしれないが、ゴーストフェイスが巨大なナイフでティーンエイジャーたちをひとりまたひとり消していくシーンが与えてくれるゾクゾク感は健在だ。スラッシャー映画の門下生である両監督は、2022年においても原作シリーズを裏切らずに皮肉満載のホラー映画をつくれることを教えてくれた。皮肉とホラーは一見矛盾するようだが、両立可能であることが証明されたのだ。
9位『Nope/ノープ』
一部劇場公開中、12月23日よりデジタル先行発売開始、1月6日よりDVD他発売開始。
UNIVERSAL PICTURES
ジョーダン・ピール監督は、本作を通じてスピルバーグ的な仮説を検証しようとしている。その仮説とは、『未知との遭遇』(1977)に登場する宇宙人の母船が、実は『ジョーズ』(1975)の巨大な人喰いザメのような危険な存在だったらどうする? というものだ。手に汗を握るハラハラドキドキの展開というテンプレートには忠実でありながらも、超大作物には批判的なピール監督の長編監督第3作となった本作は、革新的という点では『ゲット・アウト』(2017)に劣るし、背筋が凍りつくような恐ろしさという点では『アス』(2019)に及ばない。それでも、空を飛ぶ謎の飛行物体を描いた1950年代のSF映画を現代風にアップデートした本作はどこまでも不気味で、UFOのような物体が獲物を探す捕食動物のように空を飛び回るシーンはただただ恐ろしい。ダニエル・カルーヤとキキ・パーマー扮する兄妹が人類に紛れ込んだ宇宙人の存在を確かめようとする一方で、スティーブン・ユァン演じる元子役スターと暴れん坊のチンパンジーの伏線は恐怖の一言に尽きる。観るたびに面白くなり、不安が募る——本作はそんな映画である。
8位『ボーンズ アンド オール』
2023年2月17日より劇場公開開始
YANNIS DRAKOULIDIS / METRO GOLDWYN MAYER
たしかに、”人を喰べて”生きる若いカップルを描いたルカ・グァダニーノ監督の『ボーンズ アンド オール』は、万人受けする映画とは言い難い——スプラッター映画ファンには物足りないし、アカデミー賞狙いのメインストリーム映画としてはあまりにも過激だ。それでも本作は、原作となった米作家カミーユ・デアンジェリスの同名のYA小説を2022年でもっともロマンチックなホラー映画に昇華させた(『ハロウィン THE END』には申し訳ないけど)。本作の主人公は、テイラー・ラッセル扮する18歳の少女マレン。社会からのけ者にされながら暮らす彼女は、遠い昔に消息を絶った母親を探す旅に出る。旅をするうちに彼女は、レーガン時代のアメリカ社会の端で生きる人喰いたちのコミュニティにたどり着き、自分と同じように人喰いの衝動を抑えられないリー(ティモシー・シャラメ)という浮浪者のような青年と出会う。ふたりはすぐに意気投合し、一緒に旅を続けるのだが……。ここまで言うと肉食系の「トワイライト」シリーズのように聞こえるかもしれない。実際、数々の有名なホラー映画の特殊メイクを手がけたトム・サヴィーニがスタンディングオベーションをして称えるような残忍なシーンも満載だ。
7位『PIGGY(英題、原題:Cerdita)』
日本公開未定
FILMAX
シャイなぽっちゃり女子のサラ(ラウラ・ガランの名演に注目)は、両親が営む精肉店で働きながら、地元の意地悪な女の子たちから執拗ないじめを受けていた。ある日、怪しげな浮浪者(リチャード・ホームズ)がサラたちの町に流れ着いたのをきっかけに、謎の失踪事件が相次いで発生。この町に連続殺人犯が潜んでいるのでは? と住民たちは不安を募らせる。果たして、この連続殺人犯はサラを狙うのか、それともサラの守護天使となるのか? ドラマの監督や脚本家として長年スペインのテレビ業界で活躍するカルロタ・ペレダの長編監督デビュー作となった本作は、復讐をテーマにしたスリラー映画と殺人鬼が暴れ回る残酷なスラッシャー映画の両方の要素で戯れる。その一方で、殺人鬼から逃れようとするのであれ、その殺人鬼に弟子入りするのであれ、ペレダ監督はオーディエンスがサラの肩を持ちたくなるような正当な理由をそこここに散りばめている。実際、劇中の拷問シーンよりも、サラがいじめられるシーンのほうがはるかに凄惨だ。無人の高速道路で仁王立ちをする血だらけのサラのイメージは、まさにこの映画を象徴している。
6位『Soft & Quiet(原題)』
日本公開未定
MOMENTUM PICTURES
「エルム街の悪夢」シリーズのフレディと「13日の金曜日」シリーズのジェイソン、「チャイルド・プレイ」シリーズのチャッキー、「ハロウィン」シリーズのブギーマンことマイケル・マイヤーズを全部ひっくるめた存在よりも怖いのは、ネオナチ思想に傾倒した過激な女性グループかもしれない。ベス・デ・アラウージョ監督の長編監督デビュー作『Soft & Quiet(原題)』が描くのは、巧みなワンショットによってリアルタイムで展開するアメリカの悪夢。オーディエンスは、一見SNSフレンドリーな女性グループの仲間に引きずりこまれる。彼女たちがその有毒さをいかにも気軽に振り撒く様子や、仲間たちに促されて新入りの若い女性(エレアノーレ・ピエンタ)が人種差別的なコメントをSNSにあっさり投稿する場面は、不気味なほど現実味を帯びている。そして彼女たちが行動に移る瞬間、事態はますます悪くなるのだ。家宅侵入がヘイトクライムへと変わるラスト30分は、目を覆いたくなるほど凄まじい。これは、本作に対する称賛であると同時に、観る人への警告として受け止めていただきたい。
5位『MEN 同じ顔の男たち』
12/9より全国劇場公開中
A24
アレックス・ガーランド監督は、『MEN 同じ顔の男たち』によって男性の悪しき行い——ここで改めて”男性の”という点を強調したい——を寓意的に表現している。本作が公開されると、敵意に満ちたコメントが噴出した。それでも私たちは、本作が過去12カ月にわたってもっとも不当に評価されてきたホラー映画であることを慎ましやかに訴えたい。本作がここで取りあげられるのは、当然のことなのだ。主人公は、夫を亡くしたばかりのハーパー(ジェシー・バックリー)という女性。ハーパーは夫の死を悼み、心の傷を癒すためにイギリスの田舎街を訪れる。ある日、散歩をしていた彼女は、不審な裸の人物の存在に気づく。その人物は、彼女の後をつけているようだ。ハーパーは警官に助けを求めるが、警官はそれほど力になってくれない。それも警官だけでなく、彼女がこの街で出会うすべての男性が非協力的なのだ。ストーリーが進むにつれて、オーディエンスはガーランド監督の意図に気付きはじめる。体系立てられた女性嫌悪という展開が明確になるにつれて、その不穏さも募る。それは幻覚の領域に足を踏み入れるラストにおいてもっとも強く感じられる。ここでは、バックリーと共演者のロリー・キニアはもちろん、VFXチームの見事な仕事に拍手を贈りたい。トラウマになるほどショッキングな作品だ。
4位『Speak No Evil(英題、原題:Gæsterne)』
SHUDDER
デンマーク人の父親(モルテン・ブリアン)と母親(シゼル・スィーム・コッホ)、そして幼い娘(リヴァ・フォシュベリ)の3人家族がイタリアのトスカーナ地方でバカンスを楽しんでいた。滞在先の別荘で、一家はオランダ人の3人家族と知り合う。父親(フェジャ・ファン・フェット)は誰よりも社交的で、妻(カリナ・スムルデルス)も親切でオープンな性格のようだ。だが不思議なことに、息子は一向に話そうとしない。両親は、先天的な異常が原因で息子はしゃべることができないと言う。その数カ月後、デンマーク人一家は、森の奥深くにあるオランダ人一家の自宅に招待される……。シンプルな前置きとともに、クリスチャン・タフドルップ監督は中産階級の家族を地獄のような恐怖体験へと誘う。ここには、悲鳴以外のありとあらゆる恐怖描写がある。その理由は、最後にタイトルの意味を知った人だけに明かされる。抜群に後味の悪い、新しいユーロホラー映画の世界へようこそ。
3位『バーバリアン』
デジタル配信中
20TH CENTURY STUDIOS
2022年の意外すぎるヒット映画は、俳優から映画監督に転身したザック・クレッガーの『バーバリアン』だ。知的で面白おかしいだけでなく、必要な場面で背筋の凍る恐怖体験を味わわせてくれる、禁断の地下室をめぐる昔ながらのストーリーをきわめて過激に描いた本作は、公開当初はまったく話題にならなかった(劇場公開直後の1週間は興行収入ランキングで1位に輝いたが、これはたまたま夏の終わりの新作映画のない時期に公開されたおかげ)。その後、徐々に口コミで評判が広がり、ついには普段ホラー映画にあまり関心のない人の耳にも届いた。ある日、テスという女性(ジョージナ・キャンベル)があまり治安の良くないエリアにある民泊を予約する。そこを訪れると、ダブルブッキングによってすでに男の先客(ビル・スカルスガルド)がいた。他に行くあてもないため、テスは仕方なくその男と宿泊することに。すると、真夜中に不審な物音で目を覚まし……。次の展開が見えたと思った瞬間、本作は思いもよらない方向へ進んでいくのだ。クレッガー監督の次回作が待ち遠しい!
2位『プレデター ザ・プレイ』
Disney+にて視聴可能
DAVID BUKACH
ここでまったく異色な作品を紹介しよう。ダン・トラクテンバーグ監督が放つ「プレデター」シリーズ最新作『プレデター ザ・プレイ』は、絶大な人気を誇る同シリーズの世界観をただ拡大するだけの作品もなければ、知的なアプローチによる回り道でもない。本作はどちらかというとB級映画の最高傑作と呼ぶに近い、サバイバル、スリラー、スラッシャー、プロトウエスタン、ファイナル・ガールの要素がすべて盛り込まれた作品だ。アイコニックなエイリアンとそれを追うネイティブ・アメリカンの部族を描いた本作は、製作陣の狙い通りの見事な作品に仕上がっている。宇宙でもっとも危険な戦士プレデターを1719年のコマンチ族の世界に送り込むことで、本作はフラッシュバック(”新世界”から襲来する、ありとあらゆる形態の侵略者との類似点を引き出して比較していることは言うまでもない)を駆使しながら「プレデター」シリーズに新しい命を吹き込み、アンバー・ミッドサンダー扮するナルという最高峰のアクションヒロインを生み出した。それだけでなく、アーマーにどくろを加えたことでプレデターの不気味さがより一層引き立つ。壮絶なチェイスシーンも必見。文句なしに100点満点の作品だ。
1位『X エックス』
2022年夏、公開終了。各社配信などで視聴可能。
CHRISTOPHER MOSS/A24
タイ・ウェスト監督がノスタルジックな作品に挑んだのは、何も今回が初めてではない。カルト的な人気を博した2009年の映画『The House of the Devil(原題)』は——悪魔崇拝を想起させる描写が特徴的——80年代のホラー映画の世界観を見事に表現している。だがそれ以上に、倦怠感漂う70年代のグラインドハウスで上映されていたような定番のB級映画をミックスした『X エックス』は、ありし日のホラー映画へのオマージュというよりは、忘れられた骨董品に近いかもしれない。トビー・フーパー監督の名作『悪魔のいけにえ』(1974)のリメイクである『テキサス・チェーンソー』(2003)にオマージュを捧げる作品は数えきれないほど存在するが、もし本作が『テキサス・チェーンソー』と同時期に公開されたのであれば、最高のダブルビルが実現したと思わずにはいられないような素晴らしい作品だ。映画の舞台は1979年のアメリカ・テキサス州。ある日、3組のカップルが人里離れた農場を訪れる。彼らの目的は、ここでポルノ映画を撮影して大金を手に入れること。だがそこには、彼らに敵意のようなもの向ける信心深い老夫婦が待ち受けていた。ミア・ゴス扮するヒロインのひとりが老人の妻と目が合った瞬間から、凄惨な事件が次々と起きる。
本作を通じてウェスト監督は、過去の名作ホラーの荒削りなグランジ感を自然に表現する一方で、ヘッドライトや血糊を駆使した惚れ惚れするようなシーンでオーディエンスを楽しませてくれる(ここまでグロテスクで魅惑的な描写は、「ハンニバル」の初期シリーズを最後に観たことがない)。さらにウェスト監督は、自らのレパートリーにある意外な要素をプラスした(それも恐怖の要素を節約することなく)。その要素とは、抑圧された者の復讐という要素をさらに盛り上げる、エモーショナルな共感性だ。さらに監督は、ミア・ゴスという新しい絶叫クイーンを発掘しただけでなく、優れたコラボレーターを手に入れたのだ。本作と本作のプリクエル(前日譚)である『Pearl(原題)』(ミアとウェストが共同で脚本を執筆)では、殺戮が繰り広げられる間も鋭い性格描写が展開される。セックスと暴力によってアドレナリンが放出された後、私たちは本作を通じて恐ろしい衝動と芸術的手腕が溶け合う瞬間を目撃したことに気付かされる。
1位『X エックス』
2位『プレデター ザ・プレイ』
3位『バーバリアン』
4位『Speak No Evil(英題、原題:Gæsterne)』
5位『MEN 同じ顔の男たち』
6位『Soft & Quiet(原題)』
7位『PIGGY(英題、原題:Cerdita)』
8位『ボーンズ アンド オール』
9位『Nope/ノープ』
10位『SCREAM/スクリーム』
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