ラトーとフロー・ミリ、互いを認め合うふたりのラッパー
Rolling Stone Japan / 2023年1月12日 18時46分
フロー・ミリは、たった数年前のことをいまもはっきり覚えている。その当時、ファンや音楽評論家をはじめ、音楽界全体が気鋭の若手女性ラッパーであるフロー・ミリとラトーをライバルとみなし、ふたりの敵対関係をあおろうとしたのだ。だが実際には、ふたりはこうして声を大にして互いを称え合っている。
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フロー・ミリが2022年にリリースしたアルバム『You Still Here, Ho?』が大好きなラトーは、アルバムに収録されなかったお気に入りの曲をぜひリリースしてほしいとフロー・ミリにせがむ。その一方でフロー・ミリは、ラトーが昨年リリースした「Big Energy」がヒットする前の「カーリーヘア時代」を懐かしみながら、自分と同世代の若手女性ラッパーが活躍する姿に刺激を受けたと回想する。誰が見てもわかるように、ふたりは深い愛情で結ばれている。
「私たちは最強のビッチ」(ラトー)
フロー・ミリ ラトーと対談ができるなんて、最高にうれしい。私たちが互いを愛し、応援し合っていることをみんなに知ってもらう機会だと思う。だって、私たちにはそうしたパワーが必要だから。まずはお礼から。私のことをいつも応援してくれてありがとう。
ラトー 気づいていると思うけど、私がフローについて言うことはお世辞なんかじゃない。インタビューで「お気に入りの同世代の女性アーティストは?」と訊かれるたびに「フロー・ミリ」って答えているの。フローはとても才能豊かなアーティストだと思う。ラップの世界に新しい何かをもたらしてくれた。まさに山羊座特有のエネルギーって感じ。だって、私たちはふたりとも最強のビッチだから。
フロー・ミリ 私もラトーのことを心から称えたい。ラトーは、本当にすごいことを成し遂げてきた。自分はこんなことを達成したんだって堂々と言える人はとても貴重。12歳くらいのころからラトーを見てきたけど――、
ラトー 12歳から!? やめてよ、なんか一気に歳を取った気分。
フロー・ミリ 本当だって! 子供のころにラップグループを組んでいたんだけど、そのときに親友のインディアって子から「ラトー知ってる? かなりヤバい」って勧められたのがきっかけだった。私の記憶が正しければ、あのころのラトーは、フワフワのカーリーヘアがトレードマークだった。みんなでラトーの動画を観ながら、成長していく姿を見守っていた。若手女性ラッパーがラップ愛を表現して、ラップにすべてを捧げている姿はとても新鮮だった。だって最近のラップは、本物らしさに欠ける気がするから。
ラトー たしかにそう。私は、フローや自分がパフォーマンスを披露することで、ドミノ倒しのように影響が波及していくのが好き。
フロー・ミリ 私たちの仕事は、インスピレーションを与えることだと思う。音楽界が私たちのことを執拗にあおってはライバルに仕立て上げようとした時期のことを覚えているけど、そうした流れに逆らうことで私たちはアーティストとしての力をつけてきた気がする。実際は、「ラトーは私にとって姉のような存在だから、ラトーを応援している自分の姿をみんなに見せつけてやる」って思うわけ。ここまで言ってしまったら、もうライバルとか言う人もいなくなるでしょう?
でも、これってすごく大切なことだと思う。音楽界で活躍したいと思う若手女性アーティストにとっては特にそう。だって、一人ひとりのバックグラウンドは多種多様だから。BET(註:音楽、ファッション、エンターテインメント、アフリカ系アメリカ人のニュースに特化したオンラインメディア)のインタビューを読んで「ラトーはフロー・ミリのことを応援しているんだ!」ってみんながいつも気づいてくれるわけじゃないしね。時には、互いを認め合っていることを示すのも大切だと思う。
ラトー 心がくじけそうになることは誰にでもあるはず。だからこそ、他の誰か――同世代の人でも、自分よりもっと有名な人でもいいんだけど――からちょっとした応援の言葉をもらえるだけでやる気が湧いてくる。カーディ・Bが自分を褒めてくれたときのことは、いまでも忘れない。
フロー・ミリ そのときは、どんな気分だった?
ラトー 本当に衝撃的だったし、いまでも信じられない。フローが言ったように、私はずっと昔から曲や動画をつくってきたから、そうした努力がやっと報われた気がした。でも、ダイレクトメールで直接コメントが送られてくる経験は、フローにもあるんじゃない? 新しい作品をリリースした直後は特にそうだと思う。そのたびに「あなたが私の曲を聴いてくれたなんて、知らなかった!」ってびっくりする。
フロー・ミリ そのとおり! 私もいつもそんな感じ。そんなときは、アーティストとしての自分の才能を誇りに思える。だってリスナーには見えないけど、制作の裏側ではいろんなことが起きているから。リスナーには、ハッピーな完成形しか見えない。そこにどれだけ多くの努力や血、汗が注がれたかは見えないの。
ラトー そうそう。だから『777』(2022年)というアルバムをリリースしたときは、クリアランス(註:サンプリングなどをする際の原盤権の権利処理)に苦労した。レコーディングまでに曲のヴァースが担当者の手に渡るようにものすごく努力したの。本当はアルバムに入れたかったのに諦めなければいけない曲もあった――そのアーティストとのコラボレーションはとてもクールだったから余計に残念だけど。どうやら、相手側のレーベルがサンプリングの許可取りをしていなかったみたい。そうなってしまうと、どれだけコラボレーション相手と「私たちはレーベルの枠を超えたパーソナルな関係で結ばれてます」みたいな感じになっていてもダメ。こういうくだらないトラブルって本当にどうかしてる。
フロー・ミリ トラブルの原因の十中八九がアーティスト本人じゃないってことには、本当にうんざりさせられる。でも、実際は何が原因かなんて、私たちには絶対にわからない。これについては、また別の機会に話し合わないとね。私もそのせいでいくつかの曲をアルバムに収録できなかったから。
ラトー そうなの? ちょっと詳しく教えてよ! 制作の舞台裏で何が起きていたかを話してほしいな。あまりにドロドロなのはまずいけど。
フロー・ミリ いいわよ。私も、ラトーのようにクリアランスとかいろんなトラブルを経験した。自分が本当に使いたい音源の著作権処理を誰もやってくれないこともあった。あれこれ口出ししてくるわりには、全然進めてくれないというか。
ラトー 口出しね……。
フロー・ミリ 本当にいろんなことを言ってくるの。正直に言うけど、私はまだその曲のリリースを諦めていない。いまもリリースに向けて絶賛奮闘中。
ラトー 場合によっては、誰かが許可を渋っているとか、自分のヴァースを誰かに使用されないようにしているとか、そういう厄介な問題でさえないのよね。レーベル側に問題がある場合もあれば、レーベル側のリリースの都合とかもあるのかもしれない。
「自分をコントロールする力が大切」(フロー・ミリ)
フロー・ミリ そうね。だって、みんな忙しいのは誰もがわかっているから。スケジュールの調整とかいろんなことがあるけど、この対談が実現できて本当にうれしい。物事には理由があるっていうように、これって奇跡だと思う。
いつかラトーに訊いてみたいと思っていたんだけど、私がアーティストとしてのキャリアを歩みはじめたころは何もかもが猛スピードで進んでいった。昨日までは大学生だったのに、翌日には夢が叶いはじめたんだから。でも、新人アーティストとして他にもいろいろ経験したと思う。自分の周りの人たちが変わることによる心の傷もそうだし、世間やメディアの評価もそう。こうした問題については、あまり十分に議論されていない気がする。
ラトー それに加えて、どんなときも自分のメンタルヘルスを維持しつづけることも大切。私も若くしてデビューしたから、フローの言うことはよくわかる。私の場合は、自分の居場所がなくなったように思えたの。自分にとっての最善が何であるかを自分以外の人が知っているような気がした。自分より、他人のほうが自分のことをよくわかっていると思っていたの。だから、いろんな人の意見に耳を傾けていた。このテーマについてラップしたほうがいいとか、こういうファッションがいいとか、こういうふうに話したほうがいいとか、こういう歩き方がいいとか、いろんなことをアドバイスされた。でも、ある時点で「このままだと自分自身でいられなくなってしまう」って気づいたの。私は、みんなにありのままの自分を愛してほしかった――誰かがつくった自分ではなくて。
いまは、ウザいくらい自分のキャリアは自分でコントロールしてる。チームのみんなは「もういい加減にして!」って思っているかもしれない。でも、何もかもが自分流じゃないと気が済まないの。だからある意味、私を操り人形にしようとした当初の計画が裏目に出てしまったのかも。
Photo by Diwang Valdez
フロー・ミリ 私もそう。物事が上手くいかないときは、それ以上悪化させたくないと思ってしまう。自分のキャリアを気にするあまり、ついついそう思ってしまうの。でも結局は、自分にとって何が最善かを判断するのは自分自身。何を心地よいと感じるかは、自分がわかっているから。どの曲がヒットするかも自分でわかる。だって、自分の足でここまで歩んできたんだから。どうして他人にあれこれ言われなければいけないの?って感じ。
ラトー フローにもそういう経験があるの? 私の場合は「この曲で行く」って決めても、他の人たちは首を縦に振ってくれない。この前も同じことがあった。
フロー・ミリ わかる。「私のファンはわかってくれるから大丈夫」って説得しようとしても、なかなか信じてもらえない。この曲をリリースしたら、ファンはこういう反応をするだろうなっていう予感みたいなものは、ラトーだって有名になる前から感じることがあったはず。レーベルと仕事をする場合も、相手が何を望んでいるかは制作段階からわかっている。「こういうことをしたら喜ばれるはず。だから、それをもっと増やしていこう」のように。ファンを信じる気持ちは、そういうものに裏打ちされているの。
ラトー たしかにそう。曲をリリースする前からファンの反応がわかる感覚。曲の一部を公開するときも「ファンのみんなは、この曲のこの部分に夢中になってくれるはず」ってわかるもの。自分のラップを誰よりも理解しているのは自分なんだっていう自覚もある。フローには、びっくりするほど多彩な才能があると思う。私にとってフローは正真正銘のスーパースター。史上最強のビッチになるための資質があると信じている。歌も上手いしね。曲のフロウの変化も大好き。
そういえば昨日、まつ毛のエクステをやってもらっていたんだけど、同じくフローの大ファンの妹が「フローが(ビッグ・ボス・ヴェット)の「Snatched」のリミックスにフィーチャーされてる!」って言うの。すぐに再生してもらったんだけど、エクステ中だから目が開けられないわけ。だから映像を見ずに音だけ聴いたの。「あの娘、やってくれたわね!」って思った。曲を聴くたびに成長が感じられる。フローはすごく若いし、スター性もある。こんなに若いのに、凄まじい速さで成長している。フローはいつか必ずスーパースターになると信じてるわ。新曲や新しいヴァースもどんどんよくなっているし、自分の声で遊ぶこともできる――自分の声を楽器のように操れる。私も見習わないといけない。
フロー・ミリ そう言ってくれて本当にありがとう。私が子供のころから聴いていたアーティストもそうだった。そういうアーティストを聴き続けたことが私の力になった。最高のアーティストから学びなさいって誰に言われたかは忘れてしまったけど、本当にそのとおりだと思う。胸に刺さったというか、いまも心に刻まれている言葉なの。大切なのは、本当に優れたアーティストから学ぶこと。「あの人は、こんなことも、あんなことも成し遂げた」みたいに、そういう人たちの偉大さの秘訣を分析しないといけない。
スター性について話してきたけど、私はラトーが大好きだっていうことを伝えたい。何よりもまず、ラトーは本当に美人。これは何よりも大事なこと。私にはスーパースターになるための資質があるって言ってくれたけど、ラトーにもその資質があると思う。
ラトー 自分をスターだと信じるのは、簡単なことじゃない。
フロー・ミリ ほんとそう。でもラトーを見ていると、自分自身を見ているような気がする。私は、自分と似た人に惹かれるの。共感できる人をリスペクトしている。アーティストとしても、私たちの生き方には多くの共通点があると思う。ラトーがラップをはじめたのは、たしか10歳だっけ? 私は11歳だった。同じ人生を歩んでいる気がする。でも、何もかもが目まぐるしいのも事実。だって大急ぎで大人にならないといけないんだから。ふざけている暇はまったくない。ラトーは素晴らしいパフォーマーだと思う。ラトーを見るたび、自分をコントロールしている姿に感心するの。だって自分をコントロールする力って、スーパースターにとって才能以上に大切な資質だから。
『777』
ラトー
Streamcut / RCA Records
配信中
『You Still Here, Ho?』
フロー・ミリ
RCA Records
配信中
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