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ハリー・スタイルズが「21世紀最初のロックスター」になった15の理由

Rolling Stone Japan / 2023年1月14日 11時45分

ハリー・スタイルズ

あなたはハリー・スタイルズというアーティストをどのように捉えているだろうか? ワン・ダイレクション出身の元アイドル? テイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュと並ぶ世界屈指のポップスター?――いまや彼はその両方であると同時に、名実ともに世界最大の”ロックスター”でもある。なぜそのように言えるのか? 3月24日、25日に有明アリーナにて開催される5年ぶりの来日公演を前に、その理由を紐解いてみよう。

【写真を見る】ハリー・スタイルズ撮り下ろし(全8点)
 
1.
「元アイドル」の枠を超えた
『Harrys House』の記録的成功
 
常にポップミュージックの最前線で活躍してきたハリー・スタイルズだが、2022年5月リリースの最新アルバム『Harrys House』は、彼の輝かしいキャリアにおいても群を抜いた成功を収めた。
 
Harry Styles – Harrys House

 
同作のアメリカにおける初週売上は52万1500ユニット。これはテイラー・スウィフト『Midnights』に次ぐ、2022年の初週売上2位という大記録だ。当然ながら、同年にリリースされたドレイクやケンドリック・ラマーやザ・ウィークエンドのアルバムさえも、この記録には及ばない。
 
『Harrys House』からの先行カットだった「As It Was」の記録はさらに驚くべきものだ。全米チャートで通算15週の1位を奪取したこの曲は、リル・ナズ・X、マライア・キャリー&ボーイズⅡメン、ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキーに続いて、史上4位の全米1位最長記録を達成している。ホイットニー・ヒューストン「I Will Always Love You」やエルトン・ジョン「Candle In The Wind」といった歴史的な大ヒット曲でも、スタイルズが打ち立てた記録には届かないのだ。
 
「2022年、ハリー・スタイルズは世界のいたる場所に存在していた」とRolling Stoneが評したように、いまや彼は老若男女に愛されるお茶の間レベルの大スターだ。現在の彼を「所詮アイドル上がり、”本物”のアーティストとは呼べない」と意固地になって批判し続けるのは、固定観念に捉われた頭の固いリスナーか、ノエル・ギャラガーくらいだろう。ソロデビューの時点で既にアイドルからの脱皮を始めていたスタイルズだが、『Harrys House』がこれまで以上に幅広い年齢/性別/国籍/人種/音楽的テイストの人たちに届いたことによって、彼は2020年代を象徴するアイコンの一人にまで上り詰めた。

 
2.
「ロックの神の復活」と評された
コーチェラでの完璧なステージ
 
『Harrys House』がリリースされる直前の2022年4月、ハリー・スタイルズは世界屈指の影響力を誇る音楽フェス、コーチェラで初日のヘッドライナーを務めている。各所から絶賛が寄せられたそのステージは、イギリスの有力紙The Guardianをして「ロックの神の復活(Rock God Reborn)」と言わしめるほど鮮烈なものだった。The Guardian は以下のように評している。
 
「ロックは死んだと言われているが、実際はスパンコールがあしらわれたキャットスーツを着て、コーチェラ初日のヘッドライナーを飾ったのだ。その名もハリー・スタイルズ。少なくとも、彼はみんなにそう考えてもらいたいと思っていたはずだ」
 
イギリスの音楽メディアNMEからは「熟練のショーマンシップを発揮し、これまででもっともロックの神の地位に近い強烈なパフォーマンスを見せた」との絶賛も寄せられた見事なパフォーマンスは、以下の映像で確認することが出来る。
 
Harry Styles - As It Was (Live From Coachella)




3.
「2010年代のロック」を誰よりも
鮮やかに提示したソロデビュー曲
 
ハリー・スタイルズのソロデビュー曲は、デヴィッド・ボウイやクイーンを彷彿とさせる「Sign of The Times」。この曲がリリースされた2017年はラップとポップが全盛の時代であり、ロックやインディロックは求心力を失いつつあった。そんなタイミングで、元アイドルのスタイルズが正統派のロックバラッドでデビューしたことは、ひとつの事件だったと言っていい。
 
音楽評論家の田中宗一郎は、この曲を「2017年のベストロックソング」だとして、Spotifyのポッドキャスト番組POP LIFE: The Podcastで以下のように話している。
 
「2017年頃のインディロックは、UKでもUSでもアンダーグラウンドで良質なものが生まれていましたが、良くも悪くもポップを志向しておらず、少し難しい時代に差し掛かっていました。そんな状況下でリリースされたのが、ハリー・スタイルズの『Sign of The Times』。ラップやR&Bが全盛の時代にもかかわらず、そこに最適化することなく、ほぼ横揺れしないシンプルな8ビートを用いたロックバラッドで。『あっ、これでよかったんだ! ここに正解があったんだ!』って目から鱗でした。それくらいロックのフォルムと歴史を大きく捉えている楽曲だと感じたんですよね。もともとインディロックをやっていた人たちが『これが今のサウンドだ』っていうものを作れなくなったのを尻目に、その外部にいたはずのハリー・スタイルズが誰よりも説得力がある曲を作ってしまった。あれは鮮烈でしたね」
 
#330 ハリー・スタイルズの何がどうすごいのか?


なお、「Sign of The Times」のミュージックビデオは、現在までにYouTubeで10億再生を突破している。
 
Harry Styles - Sign of the Times (Official Video)

 

4.
スタイルズが好むピンクは
ロックンロールを象徴する色
 
ハリー・スタイルズのデビューアルバム『Harry Styles』は、もともと『Pink』というワーキングタイトルだったという。確かにアルバムのジャケット写真ではスタイルズがピンク色の浴槽に浸かっているように見えるし、当時の彼はピンク色のスーツを好んで着用していた。だが、なぜ当時の彼はピンクをキーカラーのように使っていたのか。
 
2017年のRolling Stoneのカバーストーリーによると、ザ・クラッシュのベーシスト、ポール・シムノンが「ピンクが唯一、本物のロックンロールのカラーだ」と言ったことが由来だという。ソロでロック色を強く打ち出していくにあたり、スタイルズはシムノンの言葉を参照してヴィジュアル面でもロックンロールであろうとしていた。


5.
スタイルズがセクシュアリティの型に
はめられることを拒む理由
 
ハリー・スタイルズと言えば、そのジェンダーレスなファッションでも知られている。ときにはパールのネックレスを身に着け、ピンクのネイルをして、女性もののドレスを着る。2020年にはVOUGE誌で単独表紙を飾った初の男性となったが、そのときも彼はグッチのドレスを身にまとっていた。
 
そもそもスタイルズは、ワン・ダイレクション時代から一貫して自らのセクシュアリティが型にはめられることを拒んできた。2014年に1Dのリアムと一緒にトーク番組に出演した際、司会者から恋人の条件を訊かれてリアムが「女性であること」と答えたことを受け、スタイルズは「それってそんなに重要じゃないよ」と発言している。初のソロツアーでは、ブラックライヴズマターと書かれた旗と一緒に、最前列のファンから拝借したレインボーフラッグも振っている。
 
こうしたスタイルズの行動は、ときに「クィアベイティング」(訳注:セクシュアリティの曖昧さをほのめかして世間の注目を集める手法)と批判されることもある。だが、そういった自分の行動について、スタイルズは2019年のRolling Stoneのカバーストーリーで、このように説明している。
 
「たとえそれが何であれ、自分がなりたい姿で、自分らしく感じてほしいんだ」「もしかしたらコンサートで、独りじゃないんだと感じられる瞬間があるかもしれない。僕も白人男性として、自分がコンサートに来ている大勢の人々と同じ経験をしているわけじゃないってことは意識している。君たちの気持ちがわかるなんて言えないよ、だってわからないもの。だから『気持ちはわかる』と言うつもりはない。ただみんなに、自分も仲間として見てもらっているんだ、と感じてもらいたいんだ」
 
また、ソロコンサートを始めたばかりの頃、ストックホルム公演でこのようにも発言していた。
 
「君が黒人だろうと、白人だろうと、ゲイでも、ストレートでも、トランスジェンダーでも――君が誰であっても、どういう人間になりたがっていようとも、僕は応援する。君たち一人ひとりを愛しているよ」


6.
期せずしてパンデミック時代の
アンセムとなった「Watermelon Sugar」
 
計らずも時代を象徴するアンセムを作ってしまうこと――それが優れたポップスターの条件のひとつだとすれば、ハリー・スタイルズはそれを満たしている。2019年にリリースされた2ndアルバム『Fine Line』に収録されている「Watermelon Sugar」は、2019年のリリース後に一度チャート外へと落ちているものの、2020年5月にシングルカットされ、同年8月には全米チャート1位にまで上り詰めた。
 
この曲がヒットした理由のひとつが、シングルカットと同時に公開されたミュージックビデオ。「このビデオを”触れること”に捧げる――2020年5月18日」というメッセージから始まる映像には、スタイルズがビーチで大勢の男女と濃密に触れ合う様子が収められている。
 
Harry Styles - Watermelon Sugar (Official Video)


2020年5月と言えば、世界的にソーシャルディスタンスが推奨され、他者と触れ合えることの大切さを人々が改めて噛み締めていた時期。だからこそ、性的な暗喩がリリックに散りばめられ、「これ無しで生きていけるかわからない」と歌われる「Watermelon Sugar」は、そのビデオの話題性に後押しされる形で、パンデミックという時代を象徴するアンセムのひとつになったのだ(ビデオの撮影自体はアメリカでソーシャルディスタンスが推奨される前の2020年1月に行われている)。


7.
BTS、シザ、リゾ、そしてフリートウッド・マックの
スティーヴィー・ニックスもスタイルズに夢中
 
2021年11月にロサンゼルスで行われたハリー・スタイルズのライブには、BTSのJ-HOPE、ジミン、V、ジョングク、そしてリゾやシザが姿を見せて話題となった。有名アーティストにもファンが多いスタイルズだが、一番のビッグネームのファンと言えばフリートウッド・マックのスティーヴィー・ニックスだろう。
 
ニックスはスタイルズの『Fine Lines』について、ツイッターで「よくやったね、ハリー。これがあなたの『Rumors』よ」と称賛の言葉を送っている。
 
ニックスの称賛ツイート
pic.twitter.com/qdw8WuZJ3G — Stevie Nicks (@StevieNicks) March 23, 2020

『Rumors』は1977年にリリースされたフリートウッド・マックの代表作にして、今も数多くのアーティストに影響を与え続けている歴史的名盤。2020年にTikTokでヴァイラルしたことをきっかけに再び全米チャートにランクインし、2023年1月現在も全米トップ40に入り続けている。累計売上枚数は4000万枚以上。ニックスがそんな自身のモンスターアルバムと『Fine Lines』を並べ称するのは、スタイルズに対する最大限の賛辞だと言っていい。
 
Fleetwood Mac - Rumours


Harry Styles - Fine Lines


また、スタイルズと彼の母親がフリートウッド・マックのライブに来たとき、ニックスは大ヒット曲「Landslide」を歌う前にこのようなMCをしている。
 
「この曲を私の小さなミューズ、ハリー・スタイルズに捧げたいと思います。彼は今日お母さんと一緒に来ているの。アンっていうのよ。お母さん、ハリーを立派に育てましたわね。彼は本当にジェントルマンですよ。優しくて、才能があって、ああ、本当に私はメロメロ。みんなもそうでしょ。この曲をあなたに捧げます」


8.
ソロ転向直後のスタイルズが
映画に端役で出演したことの意義
 
ハリー・スタイルズはワン・ダイレクション解散翌年の2017年、クリストファー・ノーラン監督の映画『ダンケルク』に出演している。彼に与えられたのはアレックスという名の英国兵役で、決してポップスターに相応しいメインキャストでの出演ではなかった。
 
映画『ダンケルク』本予告


だが、そのキャスティングを受け入れたスタイルズの選択を、音楽評論家の田中宗一郎はジョン・レノンを引き合いに出して称賛している。田中はPOP LIFE: The Podcastで以下のように話している。
 
「たとえ本人が求めていなくても、ポップスターが映画に出るとなれば周りがその名声に見合った配役をお膳立てしてしまうもの。でもハリーには、そこから切り離されたい、等身大の自分でいたい、という衝動があったということですよね。キャリアの変節点に戦争映画に端役で出るというのは、奇しくもジョン・レノンがやったことと同じです(『ジョン・レノンの 僕の戦争(原題:How I Won the War)』、1967年)。自らの肥大したパブリックイメージやアドバンテージを使わずに何が出来るのか、自分でも試してみたかったんだろうと思います」

なお、クリストファー・ノーラン監督はスタイルズをキャスティングした際、彼がどれだけ有名かを把握していなかったとAP通信に話している。
 
「ハリーがどれほど有名なのか、わかっていなかったんです」「私の子供が彼について話したりしていましたけど、そんなによくわかっていませんでした。だから真相は、彼が役に素晴らしくフィットしたからキャスティングしたのであり、彼は本当にその役を勝ち取ったということです」


9.
『Fine Lines』に潜む
ジョニ・ミッチェルからの影響
 
ハリー・スタイルズは2ndアルバム『Fine Lines』で、ダルシマーという打弦楽器を演奏している。この珍しい楽器を使うことにしたのは、スタイルズのフェイバリットアルバムであるジョニ・ミッチェル『Blue』で使われているからだ。
 
Joni Mitchell - Blue (Full Album) [Official Video]


しかも彼はジョニが使っていたダルシマーを製作した女性を探し出し、直々にレッスンまで受けている。『Fine Lines』でスタイルズが演奏しているダルシマーも、その女性が作ったものだという。
 
ハリーは2019年のRolling Stoneのカバーストーリーで、このように話している。
 
「大きなジョニの穴にはまっちゃったんだ」「『Blue』を通しで流しながら、ダルシマーの音だけずっと聴いていた。それから、60年代にジョニのダルシマーを組み立てた女性を探し出した」
 
スタイルズのソロ作における重要なコラボレーターの一人、キッド・ハープーンは、スタイルズと一緒にその女性に会いに行ったときのことをこのように回想している。
 
「彼女は『どうぞいらっしゃい』って言ってくれた」「それで彼女の家に行って、ハリーが『そもそも、ダルシマーってどう弾くんですか?』と訊いた。彼女は俺たちにレッスンしてくれたよ。それからボンゴを取り出して、3匹のでかいチェシャ猫よろしくニヤニヤしながらセッションしたんだ」




10.
『Fine Lines』の弦楽パートに
影響を与えたT.レックス
 
「ハリー・スタイルズが手がけた中でもっとも骨太かつソウルフルな楽曲が満載」とRolling Stoneで評された『Fine Lines』だが、ストリングスのパートはT.レックスの「Cosmic Dancer」を参照しているという。2019年のRolling Stoneのカバーストーリーでは、レコーディング中のスタジオで「Cosmic Dancer」を参考にしている様子が紹介されている。
 
「スタジオでは、彼(ハリー・スタイルズ)が弦楽器隊をチェックしていた。自分が求めるヴァイブを説明するのに、エンジニアに頼んでT.レックスの「Cosmic Dancer」を流してもらっていた。彼がガラスのこちら側で、Neveのミキサー卓に座ってミュージシャンに指示を出すのを楽しんでいるのがよくわかる。何度かリハーサルした後、インカムボタンを押してこう言った。『いいね、T.レックスっぽいよ。今まで聴いた中で最高のストリングスだ』。さらにもう一度ボタンを押して、付け加えた。『君たち最高だよ』」
 
T.Rex - Cosmic Dancer




11.
ファンが10代の女性中心であることを
スタイルズが躊躇なく誇る理由
 
元ワン・ダイレクションなのだから当然だが、当初スタイルズのファンは10代の女性が中心だった。そのことでアーティストとしてシリアスに捉えてもらえないことも少なくなかったが、彼は自分のファン層を恥じたことは一度もない。2017年のRolling Stoneのカバーストーリーでは、最初はアイドル人気が高かったビートルズの女性ファンを引き合いに出し、若い女性の先見の明とセンスの良さを称えている。
 
「ポップミュージック――これはポピュラーの略だよね?――を好きな若い女性が30歳のヒップスター野郎より音楽の趣味が悪いって誰が言える?」「若い女性たちはビートルズが好きだった。彼女たちがちゃんとしていなかったって言える? 彼女たちが理解していなかったと?」「10代の女性ファンたち――彼女たちは噓をつかない。もし君のことが好きだったら、そこにいるんだ。彼女たちは過剰にクールに振舞おうとはしない。君のことが好きだったら、ちゃんとそれを伝えてくれる。それって素晴らしいよね」


12.
「As It Was」のメガヒット以降
変化が見られるスタイルズのファン層
 
当初は10代の女性ファンが中心だったハリー・スタイルズのファン層だが、「As It Was」のメガヒット以降、変化が見られるようになったという。スタイルズは2022年のRolling Stoneのカバーストーリーで以下のように話している。
 
「『As It Was』は、いままでの楽曲の中でいちばん男性の反応が多い楽曲かもしれない」「変な発言に聞こえるかもしれない。だって、男性ファンを獲得することを狙っていたわけじゃないから。でも、気づいたんだ」
 
Harry Styles - As It Was (Official Video)


また、このカバーストーリーでは、スタイルズのファン層の変化を象徴するエピソードとして、このような話も紹介されている。
 
「『Late Night Talking』が大音量で流れるブルックリンのバーでは、男性が『認めるよ、俺はハリー・スタイルズが好きだ』と明かした。まるで、あるがままの自分を受け入れる過激な告白であるかのように」
 
Harry Styles - Late Night Talking (Official Video)



13.
初めて夢中になった音楽はエルヴィス・プレスリー
 
ハリー・スタイルズが初めて夢中になった音楽はエルヴィス・プレスリーだったという。Rolling Stoneのインタビューで、スタイルズはこのように幼い頃を回想している。
 
「初めて聴いた音楽はエルヴィス・プレスリーだった。小さい頃、よくカラオケでエルヴィスを歌ったよ。祖父母がいつもエルヴィスを聴いていたから。祖父のためにカセットのA面に僕が歌うエルヴィスの曲を録音して、B面にエミネムを録音した。そしたらなんと、間違えてうっかりエミネムのほうをかけちゃったことがある」
 
そんなスタイルズにとって、バズ・ラーマン監督によるエルヴィス・プレスリーの伝記映画『エルヴィス』に出演するのは念願だったに違いない。だが、スタイルズはギリギリのところでオーディションに落選。エルヴィス役の座はオースティン・バトラーが射止めた。最終的にスタイルズを起用しなかった理由について、ラーマンはこのように説明している。
 
「(ハリー・スタイルズがエルヴィスの)スーツに身を包んで、踏み出すしかない、というところまで来てたんだよ。ハリー・スタイルズは素晴らしい精神の持ち主で、彼については素晴らしいことしか言いようがない」「彼とも何かをやりたいと思うけど、本当の問題は彼がハリー・スタイルズだっていうことなんだ。彼は既にアイコンだからね」


14.
70年代ロックだけではなく
現行のインディロックにも深い造詣
 
ハリー・スタイルズが70年代のロックだけでなく、現行のインディロックにも造詣が深いのは、ツアーのオープニングアクトの人選からも伺える。
 
デビューアルバムのツアーでは、ケイシー・マスグレイヴスやメイベルと並び、ムナやウォーペイントを起用。そして2019年9月から始まり、現在も続いているLove On Tourは、ミツキ、アーロ・パークス、ウルフ・アリス、ブラッド・オレンジ、ガブリエルズ、コフィなどという非の打ち所がない人選である。2023年2月から始まるヨーロッパツアーのオープニングアクトは、「2022年最大の英国インディの新人」となったウェット・レッグ。スタイルズはわざわざカバーを披露するほどウェット・レッグのことがお気に入りだ。
 
Harry Styles - Wet Dream (Wet Leg cover) in the Live Lounge


ちなみに、スタイルズのバンドでドラマーを務めるサラ・ジョーンズは元ニュー・ヤング・ポニー・クラブ/ホット・チップのメンバー。こうして名前を挙げていくだけでも、スタイルズのインディロックに対する知識と愛情の深さを理解できるだろう。




15.
最新作は「東京スタイルのシティ・ポップ」
 
Rolling Stoneは「2022年の年間ベストアルバムTOP100」で、『Harrys House』収録曲である「Music For A Sushi Restaurant」を「東京スタイルのシティ・ポップ」と評している。そもそも『Harrys House』というアルバムタイトルも、細野晴臣が1973年にリリースした『HOSONO HOUSE』から取られたものだ。それゆえに、『Harrys House』には「ハリー・スタイルズ流のシティ・ポップ」という側面があると言ってもいいだろう。
 
Harry Styles - Music For a Sushi Restaurant (Official Video)


細野晴臣 - HOSONO HOUSE


2022年はザ・ウィークエンドやBTSのRMがシティ・ポップを取り入れた曲を発表するなど、明らかにシティ・ポップは爛熟期を迎えた。ただ、いま「シティ・ポップ」と呼ばれているムーブメントは2010年代初頭のヴェイパーウェイヴにその源流のひとつを見出だせるように、もともとはインディ/アンダーグラウンドのカルチャーと親和性が高いものだった。現代のロックスターと呼ばれ、インディロックにも造詣が深いスタイルズが、シティ・ポップを取り入れてメインストリームできっちりとヒットさせたのは、まさに彼がやるべきことをやったと言うべきかもしれない。



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