追悼ジェフ・ベック ベストソング11選
Rolling Stone Japan / 2023年1月16日 18時0分
1969年7月4日、ジェフ・ベック・グループのリーダーである英国出身のロックギタリストのジェフ・ベックが米国ロードアイランド州ニューポートで開催されたニューポート・ジャズ・フェスティバルの舞台でギブソンのレスポールを奏でる。(Photo by DAVID REDFERN/REDFERNS/GETTY IMAGES)
時にはナイフのように鋭く、時には夢のように甘い、ジェフ・ベックのベストソング11選を紹介する。ヤードバーズのファジーなリフから天才的なギタープレイが光るビートルズのカバーなど、78歳で世を去った伝説的なギタリストの魅力が詰まった珠玉の楽曲を振り返る。
ジェフ・ベックは、ジミー・ペイジやエリック・クラプトンなどの同世代アーティストと違って、「これぞ、ジェフ・ベック!」と言えるような代表曲を残さなかった。だが、ベックはそのキャリアを通じてロック、ひいてはロックギターの変化を探求し続けた。ロック界屈指のテクニカルなギタリストのひとりとして、ベックはいつもギターとの格闘を楽しんできたような印象を与える。英国文化が世界を席巻した”ブリティッシュ・インヴェイジョン”によってその名を世に知らしめたベックは、ポップスというジャンルにいつまでもとどまることを良しとしなかった。60年代後半に一世を風靡していたブルース・ロックに移行したかと思うと、次の10年間はよりハードなロックやフュージョンのサウンドを探求した。時代が変わっても、時にはナイフのように鋭い音を響かせ、時には楽曲のメロディーに楽しそうに寄り添うベックのスタイルは変わらなかった。ここでは、ベックの珠玉の楽曲を紹介する。
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ヤードバーズ「Heart Full of Soul」(1965)
1965年を代表する2大ファズギターリフは、たった数週間を挟んでレコーディングされた。ローリング・ストーンズのキース・リチャーズがファズ・エフェクターに足を置いてかの有名な「(I Cant Get No) Satisfaction」のリフを弾く前に、ジェフ・ベックはシタールのような音色が特徴的な、60年代を象徴する「Heart Full of Soul」のギターリフをレコーディングしていたのだ。ギターソロでベックは、シンプルにメロディーをなぞる。26年後にもカート・コバーンがやってのけたように、まさに失敗知らずの鉄板プレイだ。— B.H.
ヤードバーズ「Jeffs Boogie」(1966)
「誰もが『Jeffs Boogie』を知っている」と、かつてギタリストのスティーヴィー・レイ・ヴォーンは語った。「だが、実はこの曲の原曲がチャック・ベリーの『Guitar Boogie』であることを知っている人は誰もいない」。たしかにベックは、この曲の”共同作曲者”としてベリーに感謝しなければいけないのかもしれない。それでも、時代の先を行く疾走感や跳ねるようなハーモニクス満載のベックのバージョンを聴いて原曲を思い浮かべることはほぼ不可能。「Jeffs Boogie」は、もはや原形をとどめていないのだ。— B.H.
ヤードバーズ「Stroll On」(1966・映画『欲望』より)
イタリアの巨匠ミケランジェロ・アントニオーニの映画『欲望』(1966)には、記憶に残るシーンが数え切れないほどある。デヴィッド・ヘミングス扮する主人公がカメラのフィルムに収められた死体の謎を解こうとする途中でヤードバーズが演奏するクラブに立ち寄るシーンはそのひとつだ。このシーンでは、熱唱するキース・レルフに寄り添うように、若きジミー・ペイジが演奏する。その一方でベックはアンプに苛立ち、ギターを破壊してしまう。「アントニオーニ監督に自前のギターを破壊してくれと言われたときは、冗談じゃないと思った」と、ベックは1971年のローリングストーン誌のインタビューで語った。「だから私は『でも監督、それは(ピート・)タウンゼントのパフォーマンスじゃないですか』と反論した」。さらにベックは、映画を初めて観たときの感想を次のように述べている。「死ぬほど恥ずかしかった。だって、よく見るとアソコが立ちまくってるんだ! 照明のせいで体がどんどん熱くなったのを覚えている。それにもしかしたら、窮屈なズボンを履かされていたせいかもしれない」— A.M.
「Becks Bolero」(1967)
短いながらも、狂気と隣り合わせの才能に満ちあふれたプロト・プログふうのこのインスト曲は、そうそうたる面々によって演奏されている。ドラマーはザ・フーのキース・ムーン、ベーシストは後にレッド・ツェッペリンのメンバーとなるジョン・ポール・ジョーンズ、ピアニストはローリング・ストーンズと何度も共演を果たしたニッキー・ホプキンス。ベックとともにツインギターを務めるのは、ヤードバーズのメンバーであり、後にレッド・ツェッペリンのキーマンとなるジミー・ペイジだ。「Becks Bolero」は、ラヴェルの「ボレロ」のリズムを刻むペイジのアコースティックギターの音色とともにはじまり、そこにベックのエレキギターのメロディーが重なる。その後もメロディーは上昇を続け、やがては壮大なサイケデリックサウンドと史上最高のハードロックサウンドとともに爆発する。— B.H.
ジェフ・ベック・グループ「I Aint Superstitious」(1968)
レッド・ツェッペリンがデビューすると、一部のロックファン(ロック評論家のジョン・メンデルスゾーンが本誌上でレッド・ツェッペリンをこき下ろしたのは有名)は、ジェフ・ベック・グループの安っぽい偽物としてしか見ようとしなかった。その理由を知りたい人は、ジェフ・ベック・グループによるウィリー・ディクソンの名作ブルース「I Aint Superstitious」(この曲を最初にレコーディングしたのはハウリン・ウルフ)のカバーをぜひ聴いてほしい。曲全体を通じて朗々とかき鳴らされるベックのワウ・ペダルのサウンドにヒントが隠されているはず。— B.H.
ジェフ・ベック・グループ「You Shook Me」(1968)
レッド・ツェッペリンがウィリー・ディクソンの1962年の名曲「You Shook Me」をカバーする1年前、ジェフ・ベック・グループはファズの効いた自分たちのバージョンをすでにレコーディングしていた。この曲のオルガンを担当したのは、後にレッド・ツェッペリンのメンバーとなるジョン・ポール・ジョーンズだった。「同じようなものに仕上がっていたらどうしようと、私は不安で仕方がなかった」とジミー・ペイジは言った。「ベックがこの曲をカバーしていること自体知らなかった。ベックも私たちがカバーしたことを知らなかった」。ひとまずここは、ジョーンズから何も聞いていないというペイジの言い分を信じることにしよう。だが、ベックのカバーのほうがはるかに優れている。これだけは言っておかなければいけない。— A.G.
ベック・ボガート&アピス「Superstition」(1973)
ベックとスティーヴィー・ワンダーのジャムセッションから生まれた「Superstition」は、ワンダー本人のバージョン(1972年のアルバム『Talking Book』に収録)よりも先にレコーディングされた。そしてリリースされるや否や、ベックとヴァニラ・ファッジのベーシストのティム・ボガートとドラマーのカーマイン・アピスによるスーパーロックトリオ、ベック・ボガート&アピス(BB&A)の代表曲となった。BB&Aは短命に終わったが、ワンダーのモンスター級のクラビネットの代わりにベックが奏でるギターは、いま聴いてもゾクゾクする。— D.B.
「Cause Weve Ended as Lovers」(1975)
ベックの演奏には、驚くほど豊かなエモーションが込められている。だがそれは、時おりベック本人のテクニックの陰に隠れてしまうことがある。1975年のアルバム『Blow by Blow』に収録されているスティーヴィー・ワンダー作詞作曲のバラード「Cause Weve Ended as Lovers」のインストバージョンは、ベックの楽曲の中でもその豊かなエモーションが表現されている素晴らしい作品だ。甘く切ないギターの旋律は、聴く人の涙を誘う— D.B.
「Blue Wind」(1976)
70年代半ばの限られた期間において、ベックはフュージョン・ギタリストとしての再出発を図った。ベックは、プロデューサーのジョージ・マーティンとタッグを組むかたわら、時おりキーボーディストのヤン・ハマーとも共演した。1976年のアルバム『Wired』に収録されている、ハマー作曲の「Blue Wind」は、活気に満ちあふれたカオスのような作品だ。この曲でベックは、当時第一線で活躍していたフュージョン・ギタリストと同じくらい巧みに指板の上を行ったり来たりできることを証明しただけでなく、そこに疾走感と刺激を加えた。— D.B.
ジェフ・ベック&ロッド・スチュワート「People Get Ready」(1985)
1969年にジェフ・ベック・グループが一度解散すると、ベックとロッド・スチュワートはそれぞれの道を進んだ。それから16年後、ふたりはカーティス・メイフィールドの「People Get Ready」のカバー(1985年のベックのアルバム『Flash』に収録)でふたたび共演を果たす。スチュワートは、本誌の2018年のインタビューでベックのギターと自分の歌声が重なることで「天上のハーモニーが生まれた」と語った。スタジオでの共演は最後となってしまったものの、ベクとスチュワートの「People Get Ready」はまさに天上のハーモニーそのものだ。— A.G.
「A Day in the Life」(1998)
ビートルズの「A Day in the Life」は、カバーするにはなかなか手強い名曲だ。だが、果敢に挑戦したアーティストがいないわけではない。ビートルズのプロデューサーとして知られるジョージ・マーティンが手がけたビートルズのトリビュートアルバム『In My Life』(1998)に収録されている、ベックによる「A Day in the Life」のカバーがその一例だ。この曲でベックは、ボーカルを入れずに自らギターを弾いてメロディーを再現した。「A Day in the Life」はベックの妙技が光る素晴らしい作品であると同時に、過去25年にわたってベックのライブのラストやアンコールを飾ってきた。— A.G.
From Rolling Stone US.
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