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マネスキン『RUSH!』全曲解説 2023年ロック最大の話題作を徹底レビュー

Rolling Stone Japan / 2023年1月20日 10時0分

マネスキン(Photo by Francis Delacroix)

マネスキン(Måneskin)の最新アルバム『RUSH!|ラッシュ!』が本日1月20日にリリースされた。イタリアが生んだロックンロールの救世主は、世界的ブレイクを経てどのような最新モードを見せているのか? 音楽ライター・新谷洋子によるアルバム全曲解説をお届けする。

2023年最初の話題作にして、最大の話題作の1枚と言い切って差し支えないだろう。マネスキンの2年ぶりの3rdアルバム『RUSH!』がいよいよ完成。(日本盤ボーナストラックを含めた)以下18の曲に、激動の2年間の体験と、その間にバンドが遂げた変化が、深く刻み込まれている。

本作については何よりもまず、マックス・マーティンとのコラボに大きな注目が集まっていたわけだが、ふたを開けてみると、半数の曲はマックス以下ラミ・ヤコブやマットマン&ロビンといった彼の弟子たちとLAでレコーディングし、残る半数は、最初の2枚のアルバムを共同プロデュースしたファブリツィオ・フェラグツォと、故郷イタリアで制作。マックスたちと作った曲は確かにキャッチーではあるものの、ツアーで強化したバンド・アンサンブルが主役のロックンロールに全編が貫かれ、余計な音はほとんど混じっていないし、いきなりトラップが聞こえてきたりもしないので、ご安心のほどを。まあ考えてみると、マックスはヘヴィメタル・バンドのフロントマンとしてキャリアをスタートしており、ラミもバンド出身。滅多にないルーツ回帰のチャンスとして、彼らもマネスキンとのセッションを楽しんだのではないかと思う。

と同時に、同じロックンロールでも、前作『Teatro DIra:Vol.1』を特徴付けていた70年代/グランジ色は後退。王道のパワー・バラードからパンクにインダストリアルまで、やりたいことは全部やってみたのか、雑食性が格段に増している。中でもダンス・パンクやガレージ・ロックなどなど2000年代前半のシーンから掘り起こしたサウンドが目立つのだが、どんなスタイルだろうと、4人はスリー・ミニッツ前後の即効性の高い曲に消化。そして、時にユーモラスに、プレイフルに、あるいはシニカルに、ポエティックに、ツアー生活を振り返ってサクセスやフェイムについて論じている。しかも自分たちが置かれた状況を見極めようとする視線はいたって冷静で、環境の変化に動じることなく、与えられたチャンスを活かして音楽作りを満喫するマネスキンの肝の座りっぷりは、頼もしい限りだ。



1. OWN MY MIND|オウン・マイ・マインド

幕開けはパワフルなドラムビート、オープニングに配置した、盟友ファブリツィオとバンドの共同プロデュース曲は、古いと言われようとトレンドに逆行していると言われようと、自分たちはこれからもロックンロールし続けるんだという意思表示と見た。共作者には、グループラヴのライアン・レビンを含むユニット=キャプテン・カッツを起用。”Do you wanna own my mind?”と挑発的に手招きするダミアーノの声、シンプルだけどクセになるリフ、ファンキーなグルーヴという4人のシグネチャーを揃えて、これまでのマネスキンから今作の彼らへ、橋渡し役を担う1曲だ。



2. GOSSIP|ゴシップ

引き続きファブリツィオが共同プロデュースし、トム・モレロによる聴き間違えようのないギター・プレイをフィーチャーした「GOSSIP」。だからといってレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのサウンドをオマージュするわけでもなく、メロドラマティックなマネスキン節で貫いた。冒頭のフレーズにある”偽りの町”とはLAなのか、セレブリティ・カルチャーやSNSの負の側面全般のメタファーと解釈するべきなのか定かではないが、彼らは早くもアメリカへの違和感を露わにする。

【関連記事】マネスキン×トム・モレロ 夢のコラボ曲「GOSSIP」を紐解く相思相愛対談



3. TIMEZONE|タイムゾーン

アップテンポな曲がふたつ続いたところで、早くもスローダウン。ドゥーワップの匂いがする、このオールドファッションなパワー・バラードでは、”時間帯”というタイトルから想像がつくように、長距離恋愛の辛さをテーマに選んだ。ワールド・ツアーの最中に、もしくはLAで本作をレコーディングしていた時に綴ったと思われるが、”フェイムなんか意味を持たない/俺は帰ることにするよ”と言い放つくらいだから、ホームシックはかなり重症だったようだ。プロデューサーはラミ、共作者はジャスティン・トランターと、当代売れっ子で固めた曲の完成度は極めて高いものの、放縦なギター・ソロがいい意味でバランスを崩す役割を果たしている。



4. BLA BLA BLA|ブラ・ブラ・ブラ

これまたファブリツィオとバンドがプロデュースしたダンス・パンク仕立ての「Bla Bla Bla」は、究極的にはブレイクアップ・ソングではある。しかし自分を裏切った相手に対するダミアーノの大仰なキレ方から察するに、あくまでキャラを演じて楽しんでいるのだろう。嘲りから怒りへとシフトする彼の声に寄り添って、バンドもテンションを上げていくのだが、強がってばかりもいられなくて、終盤ではザ・スミスを聴きながら大泣き。名曲「Please Please Please Let Me Get What I Want」の引用が効いている。



5. BABY SAID|ベイビー・セッド

2021年11月にマネスキンがLAで公演した際に対面したというマックスが、自ら関わった曲のひとつ。彼はジャスティンと共にソングライターとして名を連ね、プロデュースはラミが担当。曲の成り立ちはコンテンポラリーなポップソングに近いが、必要最低限の骨格だけに削ぎ落としたバンド・アンサンブルに、彼らのアイデンティティが図太く残っている。少々キワどい歌詞のテーマは、キレイに言えば”コミュニケーション”か?



6. GASOLINE|ガソリン

ウクライナ戦争の勃発を受けて綴られたこの曲の、”冷酷な心で神のように”振る舞う標的は、ほかでもなくロシアのプーチン大統領だ。ラミのプロデュースで、インダストリアル・ミュージックを独自に消化。ストップ&スタートを繰り返すアウトロといい、ずば抜けて実験的なサウンド作りを行なっている。もとを正せば昨年4月に、ウクライナ難民の支援などを呼び掛けるキャンペーン”Stand Up For Ukraine”への参加表明としてスニペットを披露したものの、以来コーチェラ・フェスティバルでプレイしただけで、今に至るまでフル音源は公開されていなかった。



7. FEEL|フィール

マックスの門下生であるマットマン&ロビン(イマジン・ドラゴンズ、P!NK)をプロデューサーに迎え、ディストーションの効いたリフで駆動するガレージ・ロックは、ライブ映えすること間違いなし。少々バカバカしいプロットはファンタジーに相違ないが、”テーブルの上のコカイン”という箇所は、ユーロヴィジョン・ソング・コンテストのファイナルで起きた、例の濡れ衣事件をネタにしているんだろう。やや単調な曲ではあるものの、充分にエンターテイニングに聴かせてしまう話力と演技力が、ダミアーノの歌にはある。



8. DONT WANNA SLEEP|ドント・ワナ・スリープ

ラミ、マックス、ジャスティンという豪華な組み合わせで、「MAMMAMIA」以降定番化したダンス・パンクのスタイルを、思い切りポップに表現。これまたツアー生活にインスパイアされたようで、感覚を麻痺させてアドレナリン・ラッシュだけで乗り切るタフな日々を描き出す。ちなみに、”ルーシーのダイアモンド”のくだりでザ・ビートルズにオマージュを捧げている彼ら、前述したザ・スミスへの言及然り、「FEEL」の”Rebel rebels”(恐らくボウイへのオマージュだろう)と言い、ロック史からのレファレンスが歌詞のそこかしこに潜んでいることも指摘しておきたい。



9. KOOL KIDS|クール・キッズ

少しポップに接近し過ぎたかなと思ったら、そんなこちらの気分を予測していたかのように、4人だけで綴り、ファブリツィオとプロデュースした1曲で、グイっとピュアなロックンロールに引き戻す。アイドルズの影響を強く映したこのユーモア満々のパンク・チューンは、アクセントやボキャブラリーもブリティッシュな音楽賛歌。自嘲モードにプライドを包み込んで、クールじゃない自分たちを祝福する。昨年末の全米ツアーでは毎夜セットのオープニングを飾っており、未発表曲でライブをスタートするという発想そのものが大胆極まりないのだが、目下のバンドのテーマ・ソングと見做すこともできるんだろう。



10.IF NOT FOR YOU|イフ・ノット・フォー・ユー

「TIMEZONE」に続く、今作2曲目のバラードも献身的なラブソング。そしてここでもダミアーノは音楽とラブを天秤にかけて、ラブを選んでいる。ラミ&マックスの強力プロデューサー・コンビは、彼のパーフェクトなボーカル・パフォーマンスを前面に押し出し、ここまではギター、ベース、ドラムス以外の音はほぼ聴こえなかったのだが、ストリングスやマンドリンらしき楽器の響きでさりげなく彩った。曲の終わり方も相俟って、「BLA BLA BLA」で引用した「Please Please Please Let Me Get What I Want」を想起させはしないだろうか?



11. READ YOUR DIARY|リード・ユア・ダイアリー

引き続きラミ&マックスによるプロダクションだが、こちらは一転してアップテンポ。共作者にジャスティンを含む「READ YOUR DIARY」は、ストーカー・ファンタジーじみたストーリーを聞かせる。これまたマネスキンらしいレトロ&メロドラマティックな旋律に乗せて、留守中の女性の家に忍び込んで勝手に日記を読む男をダミアーノは演じており、最後の溜息までもが不穏だ。



12.MARK CHAPMAN|マーク・チャップマン

そして、今回は英語オンリーなのかと思いきや12曲目にして言語が切り替わり、ここから先3曲はイタリア語詞。全てファブリツィオがプロデュースしている。やはり母国語で歌う時は、分かり合える相手が望ましいのだろう。タイトル通りに、ジョン・レノンを殺めて未だニューヨークの監獄に収監されている男を象徴的に用いて、偏執的なファンダムを描写。”オブセッション”というゆるいテーマを「READ YOUR DIARY」と共有しており、スピード感のあるニューウェイブ・サウンドが、誰かに追われているかのような不安を醸す。



13.LA FINE|ラ・フィーネ

「ZITTI E BUONI」の延長にある、グランジーなリフとイタリア語の高速ラップのコンビネーションで身軽に走り切る4人は、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやレッド・ホット・チリ・ペッパーズといった90年代レファレンスに立ち返る。英語で”The End”を意味するタイトルを掲げ、そろそろ手に負えないレベルに達しているフェイムとどう付き合うのか、いかにして息の長い活動を成立させるのか、自らに問うている。”唯一の答えは立ち去ること、でなければ留まって朽ちるだけ”のくだりは、”消えていくより燃え尽きたい”というニール・ヤング御大の言葉にも重なる。



14.IL DONO DELLA VITA|イル・ドーノ・デッラ・ヴィータ

”人生という贈り物”と題されたこのバラードは、不死鳥をモチーフにした生命賛歌。音楽的にも、ポエティックな歌詞においても、他と少々趣を異にしている。トーマスがマイク・マクリーディーの名前を影響源に挙げていたという記憶はないのだが、ギター・プレイを含めてパール・ジャムの大河バラードに重なる重厚な出来だ。コンパクトながらスケール感は申し分なく、クライマックスで転調して光のほうへ歩み出し、エンディングで聴こえるファルセット・ボイスが重みを払拭する。



15.MAMMAMIA|マンマミーア

ここからは、既発のシングル曲をリリース順にまとめて収録。一旦「IL DONO DELLA VITA」でアルバムはフィナーレを迎えた感があり、アンコールみたいな印象を受ける。その1曲目は、ユーロヴィジョン・ソング・コンテストから半年が経った2021年10月に登場。ブレイクはしたものの、自分たちの意図がなかなか正確に伝わらないことへのフラストレーションをここに吐き出して、事実上3rdアルバムに向けて口火を切った。



16.SUPERMODEL|スーパーモデル

昨年5月にシングル・リリースされたこの曲は、4人が世に送り出した、マックスとのセッションの最初の果実。ジャスティンとラミも曲作りに参加し、バンドの持ち前のポップセンスを引き出す結果となった。マックスたちとのセッションで長く滞在したLAの町はまた、彼らに曲のテーマをも提供。表向きはグラマラスながら裏にはダークネスとサッドネスを秘めた人々の象徴として、スーパーモデルを選んだ。「GOSSIP」然りで、アメリカへの複雑な視線を浮き彫りにしている。



17.THE LONELIEST|ザ・ロンリエスト

イタリアでは昨秋、2018年発表の「Torna A Casa」以来のナンバーワン・シングルとなったこのバラードの裏には、意外なインスピレーションがあった。多くのロック・ミュージシャンに愛されている、BBC制作の傑作ドラマ『Peaky Blinders』だ。主人公トミー・シェルビーが、”自分が死んだ時には……”というフレーズから始まる手紙を書くシーンに着想を得て、手紙形式の歌詞を綴ったのだとか。「TIMEZONE」と同じく、遠く離れた恋人に宛てられているようだが、遺書みたいな思いつめたトーンにドキリとさせられる。

【関連記事】マネスキン新曲「THE LONELIEST」クロスレビュー 攻めのバラードをどう聴くか?



18. TOUCH ME|タッチ・ミー

オーラスの日本盤ボーナストラックは、昨年8月の来日公演でザ・フーの「My Generation」とのマッシュアップで披露し、強烈な印象を刻んだ1曲。「MAMMAMIA」アナログ盤のB面に収められていたガレージロック・ソングだ。デモ・バージョンとされているだけにローファイな仕上がりだが、その後レコーディングし直した形跡はなく、ライブでプレイするたびに、その夜限りのパーフェクトなバージョンが生まれるという、不思議な立ち位置を維持している。



マネスキン
『RUSH!』
2023年1月20日リリース
再生・購入:https://ManeskinJP.lnk.to/RushRS

初回限定盤:2022年の来日時の模様を収めたスペシャルフォトブック、初来日公演(8月18日:豊洲PIT)のライブ盤CDを付属
購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/Maneskin_RushfeRS

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