ホセ・ジェイムズ、エリカ・バドゥを語る「ここ25年のジャズにとって最重要人物」
Rolling Stone Japan / 2023年1月23日 17時45分
現代ジャズをリードするボーカリスト、ホセ・ジェイムズ(José James)の最新作『On & On』はエリカ・バドゥの代表曲に独自の解釈を施したトリビュート・アルバム。鍵盤奏者のBIGYUKI、ベン・ウィリアムス(Ba)とジャリス・ヨークリー(Dr)からなるリズムセクションに加えて、ホセがフックアップする新進気鋭の女性サックス奏者、エバン・ドーシーとダイアナ・ジャバールが参加した本作を掘り下げるべく、ジャズ評論家・柳樂光隆がインタビュー。
ネオソウルの話になると、どうしてもディアンジェロやJ・ディラ、クエストラヴ、ピノ・パラディーノらが生み出したサウンドに焦点が当たることが多い。ただ、エリカ・バドゥの魅力について考えるとなれば、ソウルクエリアンズの文脈はもちろん重要だが、それだけを軸に捉えるとしっくりこないところがある。
エリカの作品を改めて聴き直すと、『Live』(1997年)はマイルス・デイヴィス「So What」の引用から始まって(「Rimshot (Intro)」)、想像以上にジャジーなサウンドだ。リズムにもスウィングのフィールがあるし、アップライトベースのサウンドも印象的で、ジャジーR&Bもしくはジャジーソウルと呼んでも違和感がないほど。そのジャズ成分多めの音作りは、『Live』に先駆けて発表された1stアルバム『Baduizm』(1997年)でも採用されている。そこではデビュー当時、エリカがメディアからビリー・ホリデイに喩えられたのもあながち的外れとは言えないような、ジャズ・シンガー・テイストの歌唱もところどころで聴こえてくる。エリカはその後の作品でも、ロイ・エアーズとコラボしたり、ドナルド・バードをサンプリングしたり、ジャズとの接点をいくつも持ち続けてきた。
そういえば、ロバート・グラスパーは『Black Radio』(2012年)の先行シングルに、ジョン・コルトレーン由来でジャズのイメージが強い名曲「Afro Blue」のカバーを敢えて選び、それをエリカ・バドゥに歌わせたことで大きな成功を収めている。エリカの初期作におけるジャズ志向を考えると、かなりしっくりくる起用ではないだろうか。グラスパーはその後も、マイルス・デイヴィスを扱った映画『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』の音楽を手掛けた際にもエリカを起用しているし、彼女にマイルスの「Maiysha(So Long)」のリメイク曲を歌わせてもいる。グラスパーはジャズの歴史を意識した曲になると、エリカ・バドゥにいつも頼ってきたのだ。
こういった文脈を踏まえることで、ホセ・ジェイムズが最新アルバム『On&On』で、エリカの楽曲をカバーすることの根拠の一端が見えてくるはずだ。ここでは選曲にも、アレンジにも、歌唱にも、ホセがエリカを丹念に研究した跡がはっきりと感じられるし、彼女を取り上げた理由がその端々から聴こえてくる。『On&On』はまるで、ジャズ・ミュージシャンがエリカのジャズ性を批評的に炙り出したような作品だ。その成果については、ホセ自身にたっぷり語ってもらうことにしよう。
「ヒップホップを理解するジャズ・シンガー」の先駆け
―なぜエリカ・バドゥを取り上げたのでしょうか?
ホセ:エリカ・バドゥはここ25年のコンテンポラリー・ジャズにとって最重要人物だと思ってるから。ボーカリストとしてだけでなく、パフォーマーとしてもソングライターとしても本当に素晴らしい。それにロバート・グラスパー、サンダーキャット、テラス・マーティンといったミュージシャン兼プロデューサーたちに与えた影響も大きい。ここまで様々な側面でジャズに影響を与えた人物は他にいないんじゃないかな。
―たしかに。
ホセ:僕はシーンの一員としての立場からジャズの未来を考えた上で、ボーカリストはそれぞれの時代のスタンダードを歌っていくことが重要だと思っているんだ。だったら、次のスタンダードって意味でもエリカを歌うべきなんじゃないかってアイデアが頭に浮かんだんだよね。
ホセ・ジェイムズ『On & On』、ステージで生披露
―エリカの音楽と出会った頃の話を聞かせてもらえますか?
ホセ:みんなと一緒だと思うけど、25年くらい前に『Baduizm』を聴いて衝撃を受けたよね。彼女がすごいのはシーンに登場した時点で、スタイルもコンセプトも完成されていたこと。そして、自身のルーツでもある過去の音楽に根差しながらも常に前を向いていた。彼女の音楽はブルース、ゴスベル、リズム&ブルース、ジャズなど、黒人音楽がすべて入っているハイブリッドなものだった。しかも、当時から25年が過ぎても、その時間の経過に耐えうる強度を持っている。
それに改めて聴き返してみると、『Baduizm』の頃の彼女の音楽はすごくジャズだったなって感じたんだ。例えば、当初の彼女の音楽にはかなりアップライトベースが使われている。彼女はジャズって音楽をモダンかつクールに表現して、僕も含めた多くの人々に「ジャズを自由に受け取ってもいい」って許可証みたいなものを与えてくれていたように感じるんだ。
―たしかに、エリカの初期作はジャズのフィーリングがかなりありますよね。『Live』ではマイルス・デイヴィス「So What」の引用から始まっていたように、直接的にジャズをやっていたりもします。
ホセ:実はBIGYUKIにとって、あのライブ盤はバークリー音大生時代のバイブルだったらしい。あのアルバムをかなり聴き込んだと言っていたよ。
そもそもエリカ・バドゥの周りにはジェイムス・ポイザー、ロイ・ハーグローヴに代表されるようなジャズの感性を持ったミュージシャンが揃っていた。だから、リズムにもハーモニーにもジャズの感覚がかなり入っている。それに、エリカ自身がとても耳がいいシンガーだと思う。ビリー・ホリデイと同じようにね。ミュージシャンたちがどんなに複雑なコード進行で演奏したり、複雑なコードを乗せたりしても、そのなかで巧みに彼らを操縦していけるような感覚を彼女は持っていた。
「Out of Mind, Just in Time」や「On &On」を聴くと、そもそも彼女の曲は普通のR&Bのメロディとは異なるものなんだよね。そのメロディを彼女は鋭角的に歌ったり、リズミックに歌ったりする。まるで管楽器奏者のように歌っていることがかなり多い。そこが彼女のユニークさだと思うよ。
―ボーカリストとして、かなり個性的ですよね。
ホセ:エリカは複雑さやパワーを併せ持っているシンガーだね。トランペット奏者のようにパンチのある歌も歌うし、レスター・ヤングのサックスのようにレイドバックした表現もできる。そして、彼女はリズム的にすごくフレキシブル。彼女の歌は一聴しただけだとシンプルで簡単そうなんだけど、バックのものすごく複雑な演奏にマッチするだけのフレーズを紡いでいるんだよ。それはビリー・ホリデイにも通じるし、フランク・シナトラもそういうタイプだったと思う。リズムとマッチするようなフレージングで、もはやバンドが要らなくなるくらいにリズミックな歌なんだよね。
「On&On」なんてまさにそう。”oh, on and on and on and on. Woo, on and on and on and on”ってところの彼女が加えるOhやWooって言葉には、ものすごいリズムの情報量がある。彼女の歌だったら、その下には何があろうが音楽は成立してしまう。彼女がリズムの上を漂ってフロウしているだけだと思う人もいるかもしれないけど、彼女はラッパーみたいな感覚でリズムにチャレンジしているんだよね。「ヒップホップを理解しているジャズ・シンガー」という意味でも、エリカみたいな人はジャズ・シーンには存在しなかった。そして、当時は彼女の歌をきちんと理解したうえで歌える人もなかなかいなかったと思うよ。彼女の歌はジャズだけじゃなくて、ヒップホップの要素があったわけだから。もしロバート・グラスパーがピアニストじゃなくてシンガーだったら、エリカみたいなことができたんだろうなって思う。
Photo by Janette Beckman
―そう考えるとホセ・ジェイムズが登場したとき、僕らは「ジャズとヒップホップの両方を理解しているジャズ・ボーカリストがついに出てきた」と思ったわけで、あなたがエリカの歌にチェレンジするのは自然なことだと感じますね。あなたは今までヒップホップもジャズも共存した音楽をやってきたし、それにフィットする歌を歌ってきました。過去の曲のなかで「エリカ的な歌い方」に通じる曲はありますか?
ホセ:『Blackmagic』(2010年)でフライング・ロータスが制作してくれた「Code」「Blackmagic」「Made For Love」がそれにあたるね。あと、「Love Coversation」(テイラー・マクファーリンがプロデュース)は、もともとエリカに向けて書かれた曲だったらしいから、これも該当すると思う。
『No Beginning No End』(2013年)の「Its All Over Your Body」を聴くと、僕がトランペット的なフレージングで歌っているのがわかると思う。それにあの曲にはピノ・パラディーノやクリス・デイヴ、ラッセル・エレヴァードも関わっているから、その部分でもエリカと繋がるよね。
エリカは「冒険的でアバンギャルド」
―次は、プロデューサーやソングライターとしてのエリカ・バドゥの特徴について聞かせてもらえますか?
ホセ:サンプリングに対する耳がとにかくいいよね。彼女はJ・ディラとスタジオでハングアウトしながら、そこでいろんな曲からサンプリングしていってトラックが出来ていったみたいだよね。「Didnt Cha Know」ではタリカ・ブルー「Dreamflower」をサンプリングしているんだけど、ちょっとしたサンプリングがものすごい曲になっている。彼女はプロデューサー的な感覚で音楽を作っていける人で、なんならバンドが要らないくらいだよね。J・ディラやマッドリブ、カリーム・リギンスみたいに何万枚のレコードを持っていて、そのアーカイブのデータベースが頭の中にあって、そこからサーチして音楽を作っている人たちとエリカはコラボしているんだけど、エリカ自身も彼らと同じような耳を持ったアーティストだと僕は思う。
そしてエリカは、過去の曲のサンプリングによって生み出された、完全に新しい音楽のうえに新しいものを書いてきた。彼女はとんでもないソングライティングの技術をもっているんだ。彼女はビートのうえにスポークンワードとしてのラップを乗せるんじゃなくて、サンプリングされたフレーズのキーを考慮して、そこにあるハーモニーの構造を考えたうえでメロディを書くことができる。50年前に書かれた曲のフレーズのキーに合わせて、新たなメロディを加えて、それにより全く新しいものを生み出すってこと。僕はエリカもそうだし、ATCQ(ア・トライブ・コールド・クエスト)の功績はそういうところにあると思ってる。
―なるほど。
ホセ:今回、僕がアルバム『On&On』でやったことは、望遠鏡の反対側からエリカの音楽を見つめた感じと言っていいと思う。エリカは70年代のバンドが作った音楽をサンプリングして新しい音楽を作った。僕らはそのエリカの音楽をいかにバンドならではの表現で演奏できるかってことにチャレンジしたんだ。
制作中は不思議なパズルを組み立てているような感覚だった。エリカの音楽のヒップホップ的な要素を失いたくなかったけど、同時に僕ららしいバンド的な表現も両立させたかったから。エリカの音楽はとてもシンプルに聴こえるんだけど、そこには奥深さがある。僕らはそこがきちんと伝わるような表現にしたかった。たった一行の中にあるとんでもない情報量を確実に捉えたような音楽をやりたかったんだよね。これはビル・ウィザースの音楽を取り上げた『Lean on Me』(2018年)の時と同じ。エリカもビルと同じようにすごく深い音楽をやっているからね。
Photo by Janette Beckman
―同じソウルクエリアンズの音楽でも、ディアンジェロの『Voodoo』がどれだけ優れているかはいろんな人が言葉にしていますが、エリカの音楽のどこがどういうふうに優れているのかはあまり言葉にしようとする人がいなかったような気がします。今回あなたは、そんなエリカの音楽を分析して、それを言葉じゃなくて音楽で伝えようとしているのかなって思ったんですけど、いかがですか?
ホセ:うん、その通り。あのシーンの中でJ・ディラと同じくらいエリカ・バドゥの貢献はすごかったと思うよ。クエストラヴがJ・ディラの貢献を語っているはみんなよく知っているけど、もっとも冒険的でクリエイティブでアバンギャルドだったエリカ・バドゥのことももっと語られていいよね。それに、エリカがあれだけのセールスを記録したのはとんでもないことだと思う。ただ持て囃されただけでも、担がれたわけでもないんだ。しかも、彼女は今でも先端にいるし、常に素晴らしいコラボをしている。つい最近だってBTSのRMとコラボしていた。ロバート・グラスパーやサンダーキャット、フライング・ロータスともコラボしているし、コラボした人たちに場所を与えるようなプラットフォームの役割も果たしている。エリカの話になると、どうしてもファッションやクールな発言にフォーカスされがちなんだけど、シンガーとして、ソングライターとして、プロデューサーとしてのすごさも忘れちゃいけないと思うんだよね。
アリス・コルトレーンと共振、スピリチュアルな側面
―ここからは個別の曲について聞かせてください。「On&On」はどんなことを考えてアレンジしたんでしょうか?
ホセ:エリカの音楽のなかにあるジャズの部分って前面に出ているわけじゃないんだよね。例えば、ハーモニーとはメロディはジャズ的なんだけど、そのジャズっぽさは隠されている。でも、ところどころに隙間があって、僕らにはその先にジャズの光があるのが見えている。僕としては、その隙間を押し広げてぐっと中に入っていったような感覚だね。彼女の音楽の中に入り込んで、コンセプトを拡張しようと試みている。
そうやって拡張しようとする際に、アリス・コルトレーンの音楽がエリカとのリンクになった。アリスはグレイト・マザーみたいな存在。世界中のいろんな音楽を取り入れながらも、その核にはブラックチャーチがあったり、黒人由来のリズムがあったりする。アリスの音楽は僕にとっての完璧な表現なんだ。しかも、70年代のアリスの作品にはファンクのビートがあったりして、ヒップホップを感じることも少なくない。僕はアリスの音楽を聴きながら、エリカの音楽を取り上げる中で、J・ディラがやったようにヒップホップ的な発想で様々な要素を一つにまとめることができないかなって考えたんだ。
エリカとアリスのリンクという意味では、スピリチュアルな部分が共通しているような感じた。だから、(ジョン・コルトレーンの)『A Love Supreme』の「Acknowledgement」のような「ここからスピリチュアルな旅が始まる」って雰囲気で曲が始まって、そのイントロの後にビートがドンって鳴ってから次の展開にいく流れを思い付いた。そして、それはコルトレーンからヒップホップまでを演奏できる多様性を持った、僕らのバンドだからこそできることなんだよね。
左からホセ・ジェイムス『On&On』、アリス・コルトレーン『Journey in Satchidananda』(1971年)
―スピリチュアルな要素は「The Healer」にも強く感じました。
バリ島に旅行に行ったときにスティール・タム・ドラムを買ったんだけど、そのキーが「The Healer」の原曲とたまたま同じだって気付いたから使ってみたんだ。それにチベットのシンギングボウルも使っている。さっき言ったように、アリス・コルトレーンは世界中の色んなものを取り入れた音楽を作っていた。僕のバージョンにはシンセも入っているけど、世界中のオーガニックな楽器を使うことで、意識の深いレイヤーまで潜ったような3D的なサウンドによって、アリスやエリカに通じるスピリチュアル性を表現しようとした。あと、「The Healer」の原曲はマッドリブが手掛けているとおもうんだけど、あの曲では日本語の曲(ヤマスキ・シンガーズ「Kono Samourai」)をサンプリングしているんだよね。僕らはサンプリングに頼るのではなく、生楽器に戻すような感覚でスティール・タム・ドラムやシンギングボウルを使って、あの曲のフィーリングを表現しようとしたんだ。
―実際、エリカはスピリチュアルな人みたいですよね。キャンドルを灯して、お香を焚いて、メディテーションをしているというのをよく語っていますし、彼女のライブを観たときもすごくスピリチュアルな要素を感じました。そこはエリカを語るうえで欠かせない要素なのに、本人のアルバムにはそこまで出ていない。その部分にフォーカスしたというのは慧眼だと思います。
ホセ:エリカはドゥーラ(出産に立ち会い、妊婦をサポートする仕事。助産婦とは違い医療行為はしないのが特徴)の仕事もしているしね。彼女はブラック・コミュニティの女性に対してのメンタルヘルス、もしくはスピリチュアルヘルスみたいなことへの意識がある人で、それは彼女の音楽にも表れていると僕はずっと感じていた。自分を大切にすること、相手を大切にすること、そして地球を大切にすること。エリカがやっていることは、そういうところに通じているんじゃないかなって思うよ。
―あと、「Green Eyes」は原曲もかなりジャズ色の濃い曲です。
ホセ:「Green Eyes」は組曲的な構成なんだけど、それを自然発生的な演奏によって一曲になるようなアプローチを試みた。楽曲としてかなり複雑だけど、敢えて直感的にそのシーンに役者をぶち込んで、とりあえずその役者がどんな演技をするのか見てみようって感じで、監督的なマインドでミュージシャンの演奏に委ねた感じだったね。BIGYUKIはアメリカではストレートアヘッドなジャズプレイヤーとして認識されていないんだけど、僕は彼がそういう演奏ができるのを知ってるし、この曲のコンテクストにはぴったりだと思っていた。
「Green Eyes」って1920年代から現代にいたるまでの黒人音楽の歴史が網羅されたような曲だと思う。最初は外からものを見ている感覚で「私は野菜をたくさん食べるから目がグリーンなんだ」みたいに冗談っぽく話しているんだけど、組曲の第3楽章まで進むとエリカの心の中にまでぐっと入り込んで行く。そのストーリーをバンドの生演奏で追うように演奏したんだ。だから、ほぼワンテイクで録った。そして、ポストプロダクションの段階でもっと開放的にするためにチャレンジをした。そこではハービー・ハンコックが70年代にワーナーブラザースからリリースしたサウンドがインスピレーションになっている。BIGYUKIにウーリッツァーやフェンダーローズを弾き分けてもらって、わかる人にはわかるような繊細なサウンドを作ったんだ。
―たしかにワーナー期ハンコックはサイケデリックでスピリチュアルなので、エリカに通じる部分があるかもしれないですね。ところで、近作のあなたの作品はアナログ機材でのテープ録音を採用したり、録音やミックスへのこだわりが強いのが特徴になっていますが、本作ではどうですか?
ホセ:『Merry Christmas from José James』(2021年)と同じスタジオ(Dreamland Studios)で録音している。フリート・フォクシーズやレジーナ・スペクターなど、インディーロック系のアーティストに好まれているスタジオで、全てをアナログ機材でレコーディングできるところが気に入ってる。アナログ・レコーディングは楽器本来の音をどれだけ輝かせることができるかってところが重要なんだよね。例えば、ダーティーな音のピアノがほしいと思ったら、それを再現するために音をいじるんじゃなくて、ダーティーなサウンドを鳴らすことができるピアノを持ってきて、それをきちんとダーティーに鳴らさなきゃいけない。
「Green Eyes」の第2章の部分のサックスはアムステルダムで録ったんだけど、これは自分がマニピュレートしながら録音した。「The Healer」でのエバン・ドーシーのサックスにかかってるフェイザーはリアルタイムでかけている。ドラムも通常のスネアと、ディレイがかかるスネアの両方を用意した。後からディレイをかけるんじゃなくて、リアルタイムでそれを叩ける楽器を用意したんだ。ほとんどのプロセスをリアルタイムで行って、それをテープにレコーディングしたってこと。今の僕が重視しているのは、その瞬間をいかにとらえるかってことなんだ。それは別の言葉で言えば、50年代のジャズのスピリットってことだと思う。『A Love Supreme』や『Kind of Blue』はたった3時間で作られたけど、今は1週間や1カ月かけてアルバムを作るのが当たり前になっている。でも、僕はその瞬間に何ができるかってことにこだわりたいんだ。
ホセ・ジェイムズ
『On & On | オン&オン~トリビュート・トゥ・エリカ・バドゥ』
発売中
詳細:https://www.universal-music.co.jp/jose-james/
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