「半虫半人」を題材にしたロマンス小説、TikTokで炎上した盗作問題 米
Rolling Stone Japan / 2023年2月8日 6時45分
TikTokで書籍にまつわる新たなムーブメントが起きている。海外TikTokでは、BookTokという本を紹介する動画投稿が1つのコミュニティと化し、既刊本がリバイバルするなど注目を浴びているが、同時に問題点も浮上しているのが現状だ。
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ロマンスや官能に入れ込むファン・コミュニティはごまんとある。モンスターやエイリアン、半獣半人ならぬ半虫半人を題材にしたロマンス作品の作家たちは、BookTokで盛り上がるコミュニティを開拓した。読者はセクシーなモンスターが出てくる作品に飢えているだけでなく、時に官能的な内容の本について臆することなく語り合い、人におすすめしたいと願っている。その都度タグは度違うが、たいていは#monsterloversとか#monsterfudgersとか、「刺激的な」本といったタグが付けられる。すべてTikTokの検閲を免れるための隠語だ。だが草の根的な形でファン層が形成されたがゆえに、大きな事件が起きている――さらに大きな問題として、自費出版界における作家の責任や、コミュニティによる自主規制も問われている。
モンスターファッカー事件
人気作家の1人にティファニー・ロバーツがいる。ティファニーさんとロバートさんのフロイント夫妻のペンネームだ。夫妻はティファニー・ロバーツ名義で、モンスターや半獣半人のアンチヒーローを主人公にしたロマンス小説を何十冊も自費出版している。中でもBookTokで注目を浴びたのが、アイヴィー・フォスターとvrix(擬人化されたクモ)の恋人ケターンを描いた「The Spiders Mate(クモの恋人)」3部作だ(第1作『Ensnared(罠)』、第2作『Enthralled(誘惑)』、第3作『Bound(束縛)』)。
だが『Ensnared』の出版から1年ほど経ったところで、メリッサ・ブリンコウという別のロマンス作家がセクシーなクモ男を題材にした物語『Heart Throb(胸の高鳴り)』を出版した。ティファニー・ロバーツのファンは似通っている点があるとしてフラグを立て、インスパイアとあからさまなパクリの境界線をめぐって論争が勃発した。
ティファニー・ロバーツことフロイント夫妻は、ローリングストーン誌の取材もコメント要請も辞退した。だがティファニー・ロバーツの公式Facebookページに先月掲載された声明によると、ブリンコウ氏はフロイント夫妻に直接メッセージを送り、「The Spider Mate」シリーズ第2作『Bound』の表紙は誰に依頼したのか、と尋ねてきたそうだ。いざブリンコウ氏の本が出版されるや、場面設定や用語が明らかにティファニー・ロバーツ作品と似通っている、と複数のファンが連絡してきたという。またブリンコウ氏は夫妻が以前仕事を依頼したアーティスト(オーディオブックのナレーターなど)を突き止め、夫妻の作品と酷似したアートワークを依頼した、とも書かれていた。
その後もブリンコウ氏は自分の作品に似通った宣伝文句や場面やアートワークを使って、意図的に「The Spiders Mate」をパクり、偽のレビューを書かせたり裁判で訴えると脅したり、嫌がらせされていると言いがかりをつけている、と夫妻は主張している。
「私たちが登場人物用に依頼したあらゆるアートワークに、恐ろしいほど酷似したものをブリンコウさんは依頼しました」と、フロイント夫妻は声明の中で述べた。「『Heart Throb』に関しては、『Ensnared』から借用しているのは明らかですが、一字一句そのまま拝借したという箇所がなかったため、盗作には該当しませんでした。私たちにはなす術がありませんでした」
盗作容疑を否定しているブリンコウ氏は一貫して、両者の作品に見られる共通点は登場人物が擬人化したクモだという点だけだ、と主張している。ブリンコウ氏はローリングストーン誌に宛てた声明で、『Heart Throb』の執筆を開始したのはティファニー・ロバーツのシリーズを読む前だったこと、『Heart Throb』の表紙に問題はないかとフロイント夫妻に質問したところ、メッセージをブロックされて既読無視されたことを語った。バッシングを受けたため『Heart Throb』をAmazonから完全に削除したが、そのために書き直しができなくなったとも述べている。
「あちらからご連絡をいただいていたら、こんなことはすべて解決できていたでしょうに。どこを変更するべきか、あちらと一緒に作品を見直すこともできたでしょうに」とブリンコウ氏。「アーティストの件ですが、あくまでも参考写真としてあちらのアートワークを使わせていただきました。その後は無料サンプル画像の写真や他の参考写真に変えました。(ティファニー・ロバーツと)一緒に仕事をしていないアーティストにも大勢仕事を依頼しています」
モンスター系ロマンスという狭いコミュニティでは、似通ったタイプの登場人物が出てくることがよくある。それはフロイント夫妻も認めている。だが夫妻はスパイダーものを手がける大勢の作家をずっと応援し、甚だしいパクりがあった時だけ異を唱えてきたと言う。ブリンコウ氏に対して嫌がらせをそそのかしたことは一度もなく、読者にも中傷的なコメントをしないよう度々お願いしている、とも付け加えた。
「誰がクモのヒーローものを書いたって構いません。多ければ多いほど楽しくなります! でもひとつ言わせていただくと、私たちのvrix(登場人物のクモの名称)と、皆さんが書いたクモのヒーローはどれも(物語の章立てやあらすじも)違います」とフロイント夫妻。「私たちは自分たちの代わりであろうとなかろうと、第三者を攻撃してくれと頼んだことは今まで一度もありませんし、そう願ったこともありません」
だがブリンコウ氏は主張を曲げず、いまだにティファニー・ロバーツのファンから嫌がらせを受け、問題の作品以外でも被害に遭っているという――そうした嫌がらせを「助長」しているのはフロイント夫妻だ、というのが彼女の言い分だ。
「私に嫌がらせをするあちらのファンには手を焼かされます。私の新刊の見本を受け取ってもいないのに、先行予約で1ツ星をつけて評価を落とそうとしたり、数か月前から私のTikTokにひどい書き込みをしたり」とブリンコウ氏は言う。「『Ensnared』とは似ても似つかないクモ男シリーズ「Zxalian Mate」に矛先を変え、盗作だと言いがかりをつけてきたり。本当に残念です、お2人を心から尊敬していたのに。でもあちらはファンが多いので、私の言い分は聞いてもらえません。本当にがっかりです、私に弁明のチャンスを与えてくれさえすれば、こんなことは避けられたのに」
自主出版界の自主規制
ティファニー・ロバーツ対メリッサ・ブリンコウの騒動は、ニッチな問題に思えるかもしれない。だがモンスターロマンスのコミュニティでは、そこから新たな問題が浮上した。すなわち、自主規制だ。出版業界では徹底したミスのチェックが求められ、編集者に回覧される。だがAmazonなどのマーケットプレイスでeブックとして販売されるインターネットの場合、チェッカー(有償または無償でインディーズ作品を校正する)を通してもミスが発生する可能性がある。作家は執筆、宣伝、校正、事実確認といった作業をすべて一人でこなさなくてはならない。こうしたシステムでは、自主出版作品は悪意ある人々の餌食になりやすい。
システムの穴に目をつけた輩がしばしば人気作品の著作権を侵害するのだと語るのは、売れっ子ロマンス小説家のルビー・ディクソン氏だ。ベストセラーとなった官能小説シリーズ「Ice Planet Barbarians(氷の星の野蛮人)」の作家であるディクソン氏は、自主出版の使い勝手が著作権侵害を日常化していると言う。
「オンラインで気軽に出版できるため、他人が著作権を侵害するのも容易になります。別の作者名をつけて、こちらの印税を横取りしてくるんです」とディクソン氏。「作家仲間ではあまりにもよく聞くので、いい加減うんざりしています」
オーストラリア人のモンスター系ロマンス小説家オパール・レイン氏によれば、こうしたことが頻発することで、ファンは盗作だと思われる作品を取り締まるのは自分たちの責任だと感じるようになった。時には勘違いから批判や嫌がらせを招くケースもあるが、オンライン出版は既存の出版社からダメ出しされずに済むなど、マイナス面よりもプラスの面が多いとレイン氏は言う――パクリには手を出さないように、とファンを諭す作家にとってはなおさらだ。
「明らかにそれとわかる場合、読者は(盗作を)指摘して、被害を受けた作家が対処できるよう知らせてくれます――そこからどうするかは私たち次第です」とレイン氏は言う。「厚かましく模倣した作家にはしっかり目を光らせるべきです。オリジナル作品に仕上げるために一生努力してきた他人の知的財産を奪うなど、言語道断です。ですが、嫌がらせはいただけません」
官能小説作家に対する偏見
モンスター系ロマンスの読者と作家の間では、大規模なBookTokコミュニティでの立ち位置をめぐる対話も行われている。モンスター系ロマンスを65作品以上出版した人気小説家のケイティー・ロバート氏いわく、自費出版作品はメインストリームの読者から、出来がイマイチだから本としては出版されなかったのだ、と思われがちだ。だがオンライン作品の人気が高まったことで、多種多様な作家、アーティスト、作品に光を当てる場所が生まれたとロバート氏は語る――その一方で、懐に入る収入も増えた。
「自費出版は、従来の出版業界があえて目を逸らしてきたような隙間を埋めています。そうした隙間でニッチなジャンルが花開き、周辺に追いやられていた作家が読者を獲得し、広い読者層(すなわち、白人でストレートの読者層)向けにお茶を濁すことなく、自分たちの好きな物語を語ることができるのです」とロバート氏は言う。「読者が求める最前線に立っているんですよ」
数々の人気作家がモンスター系ロマンスのファンを築き上げ、BookTokのサブジャンルにまで押し上げた一方、性的に赤裸々な内容にまつわる偏見を排除するのにいまも躍起になっている。
「この数十年で飛躍的に進歩したとはいえ、いまだに隠語がたくさん使われていて、堂々とセックスを受け入れるには至っていません。ロマンスの世界でも同じことが起きています。皮肉ですが、みんな読みたがっているのに、読んでいることを他人には知られたくないと思っているんですね」とロバート氏は言う。「私も以前は、当事者全員の悦びや同意や保護についての対話を促すという点で、ロマンスというジャンルが大きな役割を果たしていると得意げに話していた時期もありました。でも最近は、曲解やあら捜しに一生懸命な人を相手に、ロマンスを正当化するのは止めました」
いまやBookTokで不動の人気を誇る「Ice Planet Barbarians」シリーズのディクソン氏は、ロマンス小説の作家がどんなに反感を買おうとも、モンスターファッカーのコミュニティが発展し続けていることが、恥らいを捨てば心から楽しめる本が見つかることを証明していると語る。
「サブカル系ロマンスがどんどん増えているのは、好きなものは好きでいいんだよ、というコミュニティだからだと思います。所詮はフィクションですし、だからこそみな安心して妄想に没頭できます」とディクソン氏。「本当に素晴らしいですよ。どんな趣味嗜好も恥ずかしくないんです。どんなに変わった要望も、投げかければきっと誰かが手を差し伸べて、痒い所に手が届く本を探してくれます」
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