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メガデス『破滅へのカウントダウン』 デイヴ・ムステインが語る30年目の真実

Rolling Stone Japan / 2023年2月9日 17時30分

メガデスのデイヴ・ムステイン、1992年ロンドンにて(Photo by Martyn Goodacre/Getty Images)

メガデス(Megadeth)の6年ぶり来日公演が、2月24日に東京・豊洲PIT(追加公演)、2月27日に東京・日本武道館、2月28日に大阪・グランキューブ大阪で開催される。昨年には最新アルバム『ザ・シック、ザ・ダイイング…アンド・ザ・デッド!』をリリース。好調が続くフロントマンのデイヴ・ムステインが、メガデスの最高傑作と称される1992年の4thアルバム『破滅へのカウントダウン』を振り返った。




メガデスをメインストリームへと一気に押し上げた1992年のアルバム『破滅へのカウントダウン』(原題:Countdown to Extinction)制作時を振り返るとき、デイヴ・ムステインは当時のクリアな精神状態に感謝していると言う。長年アルコールとドラッグを乱用したのち、赤毛のシンガー・ギタリスト・ソングライターのムステインは、スラッシュの傑作と呼ばれる1990年のアルバム『ラスト・イン・ピース』に取り掛かる前にシラフに戻った。そして、その新たな精神状態ゆえに、スピードメタルをシンプルで能率的にプレイするアプローチへの興味が沸き起こり、『破滅へのカウントダウン』からのシングル曲「狂乱のシンフォニー(Symphony of Destruction)」「スウェッティング・ブレッツ」誕生に至ったのである。

「『ラスト・イン・ピース』を作った時、俺はシラフに戻ったばかりで、当時の悪い習慣を止めてすぐにスタジオに入ったのさ。自分の内側に燃えたぎるものを感じていたよ。あの時、何が起きていたのかは自分でもわからないし、(依存者が集う)会合にも行かなかった。それまでの俺はアル中だったけど、今は違う。断ち切ることができたんだ。これは完全にHP(高次の力)のおかげだと信じているが、それについては話をしないようにしているよ。だって、みんなビビるから」と、現在61歳になったムステインがローリングストーン誌に語る。



『破滅へのカウントダウン』を思い起こすと、彼の脳裏にエディ・クレイマーが浮かぶと言う。クレイマーはジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリンのアルバムにクレジットされているレコーディング・エンジニアだ。ムステインは次のように言う。「彼はジミ・ヘンドリックスのレコーディングを行って、すべての生物にヘンドリックスの音楽を知らしめた男だよ。俺たちが作業している最中に、そんな人間がコントロールルームに入って来るんだぜ。”俺は大物だぞ”って態度で。彼が誰だろうと俺には関係なかった。でも、彼が繰り返しそんな態度を取るから、不快感がどんどん増して行ったよ」

当時、メガデスはマックス・ノーマンとともにバーバンク・スタジオ・ジ・エンタープライズでレコーディングを行っていた。ノーマンはムステインと一緒に本作をプロデュースしたのだが、クレイマーが誇示する巨大なエゴへの軽蔑が、ムステインとノーマンの絆を深めたのだった。「マックス・ノーマンは汚い言葉をたくさん知っていて、彼も俺も相手に何かを言う時にわざと大きな口を叩くようにしたのさ。そうしているうちに、エディ・クレイマーを立入禁止にするために、大きな貼り紙を入り口のドアに貼ることにした。その貼り紙には”媚びへつらう道化師恐怖症はお断り―そうだよ、お前だよ、エディ・クレイマー”と書いた」

メガデスの急成長と先見の明

そんなことがあったにしろ、ムステインが思い出すのは楽しい雰囲気と、バンドが持っていた明確なミッションだ。それまでのメガデスの作品は、高度な楽器演奏能力とヘッドバングできる楽曲にフォーカスされていたが、『破滅へのカウントダウン』では、楽曲を作り上げる巧妙さに重点が置かれた。ムステインのトレードマークである唸るような歌声に加え、「狂乱のシンフォニー」ではブルージーなギターリフが織り込まれ、さらに当時のベーシスト、デヴィッド・エレフソンが拍動するベースラインを思う存分発揮できる空間も作られた。さらに、映画『影なき狙撃者』にインスパイアされた歌詞の中で、ハーメルンの笛吹とマリオネットがカオスに向かって揺れ動く様子を歌うだけの余裕も持っていた。不安の歌である「スウェッティング・ブレッツ」では、スイングする汗まみれのグルーヴが中断され、ムステインのユーモア (”こんにちは、俺。また俺がやってきたよ”)が最後まで貫かれて、良い変化球となっている。



このアルバムを通して、相変わらずメガデスの演奏能力はピカイチだ。ドラマーのニック・メンザが叩く「スキン・オー・マイ・ティース」でのオープニングのドラムフィルや、リード・ギタリストのマーティー・フリードマンが奏でる「アッシュズ・イン・ユア・マウス」での驚愕のソロを聞くと、それがよく分かるのだが、特筆すべきはメジャーなロックラジオ局で流せる楽曲となっている点だ。

80年代のムステインは社会政治的な対立や衝突について皮肉を込めた楽曲を作っていたが(「ピース・セルズ」「フック・イン・マウス」)、『破滅へのカウントダウン』では、対象となる範囲をさらに広げた。破られたことで有名なジョージ・H・W・ブッシュの選挙公約「私の唇を読め、増税はしない」が挟まれている「フォアクロージャー・オブ・ア・ドリーム」は、当時の崩壊した農業を歌う、まるでヘヴィメタル版ファームエイドのようでもある。その一方で、タイトルトラックでは、檻に入れられた絶滅危惧種の狩猟に金を出す裕福層を激しく非難している。この曲が動物の権利を広く知らしめることに貢献したとして、メガデスはヒューメイン・ソサエティのドリス・デイ音楽賞を受賞しており、ムステイン曰く「動物の友人たちの保護」だそうだ。

楽曲「破滅へのカウントダウン」の中盤で、近所の寿司レストランで働いていたフリードマンの友人が、当時のエコロジー的ファクト、つまり”今から1時間後、地球上から生命体がまた一つ消滅する、永遠に、そして生物が消滅する確率は上がる一方だ”と朗唱する。最近、メガデスの最新アルバム『ザ・シック、ザ・ダイイング…アンド・ザ・デッド!』用に楽曲「キリング・タイム」を作りながらシロサイの運命を考えていたというムステインは、今でもこのコンセプトに圧倒されると言う。「あれから30年を経た今になって、どれだけ多くの生物が消滅したのかを実感できるようになったよ」と。

「修行」が報われ、世界的バンドへと飛躍

アルバム『破滅へのカウントダウン』全体を考えたとき、収録されている音楽の焦点と、自分やバンドメンバーがつぎ込んだディテールへの注意と労力に感謝しているとムステインは言う。ノーマンは全てを完璧にすべく、バンドへの要求が非常に厳しかった。ムステインかフリードマンが音をベンドしてピッチを上げるとする。それは1/4度ではなくて、1/2か1度にならないとOKが出なかった。「マックスはさっきも言ったように、辛辣なウィットを持っていた。今でも覚えているのは、ある日、あのアルバムの楽曲を必死に歌って、歌い終わって『良かったか?』と彼に聞いたんだ。すると『あんまり』と返ってきた。心の中で思わずため息をついたよ。まあ、長年やってきて面の皮が厚くなったから、もう気にならないけどね」と、ムステイン。



ブートキャンプにも似た精神修行は最終的に報われた。1992年7月14日に発売されたこのアルバムは、ダブル・プラチナムになり、ビルボード・チャートでは、ビリー・レイ・サイラスのアルバム『Some Give All』に続く2位が最高位となった。2017年、ローリングストーン誌は「歴代最高のメタルアルバム100選」でこのアルバムを33位にランク付けした。80年代初期にメタリカを解雇されてから何年も自分の能力を証明し続ける一方で、ムステインはメガデスと同じジャンルのメタリカが成功する姿を横目で見ていた。そして遂に『破滅へのカウントダウン』で、メガデスは世界という舞台に立った。

「『破滅へのカウントダウン』のことを考えると、エンタープライズのライブルームを思い出すよ。あそこは、自分ひとりで曲作りのためにこもった場所でね。それ以前の楽曲にもすべてメロディがあったのに、俺たちはスーパースラッシュやスピードメタルのファン以外からは見向きもされなかった。『カウントダウン』が成功して、ヒット曲にだけ反応する音楽ファンに聞いてもらえたけど、そういうファンはラジオで聞いて知ったり、他の人を目当てに来たフェスティバルで偶然知ったりってタイプだ。でも、そういう人たちがメガデスを見つけてくれて、俺たちの音楽が他のバンドとは全く違うと気づいてくれたら、俺は嬉しいよ」

【関連記事を読む】メガデスのデイヴ・ムステインが語る、最新作と60歳の心境「俺の感覚は若返っている」

From Rolling Stone US.




MEGADETH Japan Tour2023

2023年2月24日(金) 東京・豊洲PIT ※追加公演
18:00開場 / 19:00開演
料金:¥12,000(スタンディング/ドリンク代別途/税込)

2023年2月27日(月)東京・日本武道館
18:00開場 / 19:00開演
料金(税込): S席 ¥12,000 A席¥11,000

2023年2月28日(火) 大阪・グランキューブ大阪
18:00開場 / 19:00開演
料金(税込): S席 ¥12,000 A席¥11,000

公演ページ:https://udo.jp/concert/Megadeth2023


メガデス ライブ・アット・武道館 2023
THEY ONLY COME OUT AT NIGHT - LIVE AT BUDOKAN
2月27日(月)午後7:00 [WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]
※WOWOWオンデマンドで、生中継終了後準備でき次第~2週間アーカイブ配信あり
番組サイト:https://www.wowow.co.jp/detail/187691

メガデス
『ザ・シック、ザ・ダイイング…アンド・ザ・デッド! - ツアー・エディション』
2022年2月22日(水)発売
来日記念盤:SHM-CD仕様、ボーナス・トラック2曲追加収録、付属DVDに全5曲のミュージック・ビデオを収録
予約:https://store.universal-music.co.jp/product/uicy80290/

※以下5タイトルが同時再発
『ピース・セルズ…バット・フーズ・バイイング?』
『ソー・ファー、ソー・グッド…ソー・ホワット!』
『ラスト・イン・ピース』
『破滅へのカウントダウン』
『アーセナル・オブ・メガデス』(DVD2枚組ビデオ・コレクション)
詳細:https://www.universal-music.co.jp/megadeth/news/2023-01-31/

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