BIGYUKIが明かす、海外の超一流が集う場でグラスパーやメルドーから学んだこと
Rolling Stone Japan / 2023年3月1日 17時45分
BIGYUKIがバンドセットによる待望の日本ツアーを、3月15日(水)Billboard Live OSAKA、3月17日(金)東京・OPRCT、3月18日(土)Blue Note Tokyoにて開催する。前回のインタビューから約1年半を経て、シーンの最前線で活躍するキーボード奏者が現在の心境を語ってくれた。聞き手はジャズ評論家の柳樂光隆。
BIGYUKIの勢いが止まらない。パンデミック前にはマーク・ジュリアナのグラミー賞ノミネート作に名を連ねていた彼は、最近もホセ・ジェイムズによるエリカ・バドゥのトリビュート作『On&On』で音楽的な要として存在感を放ち、アントニオ・サンチェスが始めた新グループ、Bad Hombreでエレクトロニックなサウンドに貢献してきた。さらに日本でも、CHAIやAwitchなどとコラボし、AIとの共演プロジェクトにも参加するなど、刺激的な場所に顔を出し続けている。
ここ最近、日本人アーティストの海外進出について取り沙汰される機会が増えているが、そもそも海外の現場がどういったもので、そこで日本人がどのような活躍をしているのか紹介される機会は少ない。そこで今回は、BIGYUKIに最近の体験談を語ってもらいながら、彼が海外のシーンで具体的にどういった活動や交流をしているのか掘り下げることにした。先日、ロバート・グラスパーがTOKYO FMの番組「THE TRAD」に出演したときにBIGYUKIを絶賛していたが、彼はどのようにしてジャズシーンの最先端に溶け込んできたのだろうか。さらに記事の後半では、BTSも支えてきた韓国の新世代ジャズについても語られている。
共に高め合うミュージシャン仲間について、ずっと嬉しそうに語っていたBIGYUKIの笑顔が忘れられない。刺激的なエピソードの数々を経て、今の彼は「純粋に演奏したいという気持ちが高まっている」という。このインタビューを読んだら、今度のジャパンツアーにも足を運んでみたくなるはずだ。
―日本に来る前はアントニオ・サンチェス(※)のバンドのツアーに参加してましたよね。
※パット・メセニーとの共演や、2014年公開の映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のスコアで知られるメキシコ系アメリカ人のジャズ・ドラマー
BIGYUKI:そうそう。彼のバンドでツアーをやって、日本に来る前日にワシントンDCで「Tiny Desk Concert」の収録をやったんですよ(※現時点で未公開)。普段のアントニオのバンドはAbleton Liveでトラックを流したり、タナ・アレクサ(Vo)がリアルタイムでループを組んだりして、トラックをがんがん流しながらみんなで演奏するんだけど、「Tiny Desk」はバッキングトラックNGだし、素の声を聞かせるのがテーマなので、歌を加工するのも喜ばれない。だから俺たちは、「Tiny Desk」で(このバンドでは)初めて生での演奏に挑んだんです。でも、みんなそういう無茶を面白がる人たちなので楽しかったですよ。アントニオのバンドは「チャレンジすることが自分の表現力向上にも繋がる」ってマインドだし、いつだって自分の演奏に厳しいから、彼らとプレイするとこっちも気持ちがシュッとしますよ。
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―いきなりすごい話ですけど、他には最近どんなことを?
BIGYUKI:この前、ブルーノート・クルーズ(※)に乗ったんですよ。そこでロバート・グラスパーに「日本のラジオ(上述の『The Trad』)に出たから、お前のことを話しておいたぞ」って言われました(笑)。ブルーノート・クルーズはみんなの(音楽に対する)愛の濃度が高くて、本当にすごかったんですよ。俺はホセ(・ジェイムス)のバンドで参加したんですけど、他にもデリック・ホッジとジュリアン・ラージが一緒にスペシャル・バンドをやったりしていて。みんなと船の中で1週間一緒に生活して、お互いのライブを見たりできるから、最高に楽しいんですよ。
※「Blue Note at Sea」は米ブルーノート・レコードとブルーノート・ジャズ・クラブの主催で、2001年に始まった企画。クルーズ船でカリブ海の海を周遊しながら、一流アーティストによるジャズが堪能できる。2023年は1月13日〜20日に開催。
「Blue Note at Sea」公式ホームページより
―特によかったライブは?
BIGYUKI:歌いながらドラムを叩くジェイミソン・ロス。彼は絶対に有名になると思います。PJモートンみたいな存在になるんじゃないかな、それだけ求心力がありました。特に歌が良くて、ダイナミクスのコントロールもすごいし、ライブが自然にゆっくりと上昇していくから、(ステージ)横で見ながら感動しました。セシル・マクロリン・サルヴァントとシリル・エイメーも前でノリノリで踊ってたり、みんなを巻き込んでましたね。
ジェイミソン・ロス、ブルーノート・クルーズでの演奏
―ジェイミソン・ロスはスナーキー・パピーのドラマーでもありますよね。他には?
BIGYUKI:夜中にグラスパーがジャムセッションをやってて、ゲストでジーン・ベイラーとマーカス・ベイラーが入ったりして、そういうのも良かったです。
俺が参加したデリック・ホッジのバンドは、ジャスティン・タイソンがドラムで、ジュリアン・ラージがギターだったんですけど、リハの時から「出る音出る音愛しかないな」って感じてました。出演したのはクルーズのメインシアターで、夜の部はマーカス・ミラーやクリスチャン・マクブライドが演奏して、デリックのバンドは朝の部が出番だったんですけど、そこに俺が大学生の頃に熱心に聴いていたジェフ・バラードやラリー・グレナディアも観に来てくれたんです。
あとは、ブラッド・メルドーとセシル・マクロリン・サルヴァントが共演したりもしてましたし、サリヴァン・フォートナーとジェフ・バラードの即席バンドも超良かった。サリヴァン・フォートナーは未来でしたね。彼はサポートするときの世界の作り方がすごいんですよ。しかも、ソロピアノはソロピアノでめちゃくちゃヤバイですから。
―挾間美帆さんもBRUTUSのジャズ特集で「サリヴァン・フォートナーがすごい」と話してました。みんな彼をチェックしてるんですね。
BIGYUKI:セシル・マクロリン・サルヴァントとサリヴァン・フォートナーのデュオは本当に神がかってますよ。あの2人は天使ですね。
グラスパーやメルドーから学んだこと
―話を聞いていると、ブルーノート・クルーズでの体験は本当に大きかったみたいですね。
BIGYUKI:そうですね。この衝撃を忘れずにどうやって自分のものにするか、今後の自分に活かせるかをずっと考えていて。最近はピアノを練習しているんですよ。NYに帰ってからピアノがある練習スタジオを一日2時間借りて、練習をちゃんとしてます。クラシックも弾いてますね。
―ジャズの世界は大きなコミュニティで、みんなが繋がっていて、お互いに影響を与え合っている。ブルーノート・クルーズはそのためのハブになっていると。
BIGYUKI:それはデトロイトジャズや、ニューポートといったフェスでも感じました。世代とか関係なく、みんなお互いのことを知ってるし、コミュニティ感がある。クルーズはそういうフェスが1週間ずっと続いている感じで、ずっと一緒にいるからミュージシャン同士の会話もできるし演奏も見られる。グラスパーは「ジャズ・フェスの同窓会」と表現してました。
―そういえばグラスパーが以前、グレゴリー・ポーターが『Black Radio 3』に参加したのは「クルーズで一緒になったのがきっかけだった」と語ってました。
BIGYUKI:俺がデリック・ホッジのバンドで演奏しているとき、ステージ横でグラスパーとドン・ウォズ(米ブルーノート・レコードの社長)が見てくれて。ドンは俺の演奏を見るのが初めてだったらしく「ユキ、超良かったから、新しく録音したものがあったら送ってくれ」と言ってくれました。
夜はグラスパーが毎日ジャムセッションをしていたから、「おい、BIGYUKIいるか?」と呼ばれて、入って弾いたりしました。そしたら、グラスパーがメシを食うからと離れちゃって、キーボードが俺一人になっちゃって(笑)。ジャスティン・タイソン、ホセのバンドのジャリス・ヨークリー、エレ・ハウエルっていうクリスチャン・スコットのバンドの若手ドラマーが叩いていて、そこにベン・ウィリアムス(のベース)も入ったりしているのを俺が回す感じになって焦りました(笑)。ブルーノート・クルーズはいろんな人が繋がる場所だと感じましたね。
ブラッド・メルドーともあそこで知り合ったんですよ。最高の話があるので、してもいいですか?
―どうぞ(笑)。
BIGYUKI:クルーズにはリハーサルルームが一つだけあるんですよ。その入り口に紙が貼ってあって、時間ごとに区切られた表になっていて、使いたい時間のところに自分の名前を書いて予約する方式。昼や夜はリハーサルで埋まっていて、朝はほぼ空いてるんですけど、朝の一番早い時間はどこも毎日「ブラッド・メルドー、ブラッド・メルドー……」と書いてあって(笑)。朝イチはメルドーがひたすら予約してたんですよ。コービー・ブライアントみたいだなと思って。
―イチローみたいですね(笑)。いつだって誰よりも早く練習している。
BIGYUKI:俺はブラッド・メルドー大好きだからすぐに影響されて、その後の時間に「BIGYUKI、BIGYUKI……」ってストーカーみたいに書いたんですけど(笑)。このあいだ、日本でブラッド・メルドーのコンサートを観に行って、終わってから楽屋に行って「クルーズの時、練習室をブラッドが毎朝予約してたから、ピアニストのあいだで噂になってたよ」と伝えたら、「日本で自分が書いたコンチェルトを弾くから、その練習をしなければいけなかったんだよ」と言ってました。
さっき話したように、NYでスタジオを借りて練習している理由はこれですね。ブラッド・メルドーを見て、俺も練習しなきゃと思ったんですよ。クルーズでは毎日演奏するんだから練習なんかしなくていいとみんな思ってたのに、ブラッド・メルドーほどの人が毎朝練習してるわけで。クルーズの後半にはエメット・コーエンやジェラルド・クレイトンも練習するようになってたし、みんなブラッドに影響されてましたよ。
BTSも支える、韓国の新世代ジャズシーン
―そういうブルーノート・クルーズみたいな場所に、日本人のミュージシャンが当たり前のように参加しているのはやっぱり衝撃的ですよ。
BIGYUKI:あそこにいた日本人は俺だけだから、自覚は出ますよね。もちろん、今のシーンにアジア人が増えてきてるのはありますけど。リンダ・メイ・ハン・オーとかね。ヴィジェイ・アイヤーのバンドで見たんですが、彼女のベースはすごくかっこよかった。
―ベーシストだと、ジョエル・ロスのバンドで弾いてるカノア・メイデンホールもいますしね。
BIGYUKI:彼女も最近、よく見かけますね。ドラムのJK Kim知ってます? 彼から誘われて、(NYの)Jazz Galleryで一緒にやったことがあるんですけど、最近は韓国のミュージシャンもすごくいいんですよ。
JK Kim、ジュリアス・ロドリゲスのバンドで演奏(2018年)
―JK Kimはジュリアス・ロドリゲス周辺の近年盛り上がってる若手のコミュニティで名前を見ます。そういった韓国のトップランナーからもお呼びがかかるんですね。
BIGYUKI:ありがたいことに。俺の世代だとドラムのSangmin Leeが若い頃からNYの表舞台で活動していたんですけど、彼が韓国に帰った今、NYでやりたかったことを引き継いだのがJKかもしれないですね。去年、ホセ・ジェイムズのバンドでソウル・ジャズ・フェスに出たときSangminと会って、久しぶりに遊んだんですよ。そのときに彼が人を集めてくれて、ジャムセッションをやったんです。その場にいた韓国の若手のミュージシャンがすごかったんですよ。
―へえ!
BIGYUKI:特にベースのJaeshin Parkが素晴らしくて。彼はBTSのRMが「Tiny Desk」に出たときも演奏しています。そのときのドラムはJK Kimで、キーボードは俺とバークリー時代から一緒だったDOCSKIMでした。
DOCSKIMはブラックミュージックが好きで、ゴスペルやヒップホップのフィールも体得しているしセンスもいい。今、DOCSKIMはBTS周りのアレンジを手がけたり、ツアーバンドに参加したりしてるんですけど、その周りに韓国のいい若手ミュージシャンが集まっている。JKやJaeshin Parkが正にそれですね。さっき話したジャムセッションはグルーヴ系だったんですけど、Jaeshinはそのときピノ・パラディーノみたいなベース弾いていました。その後、アルバムを渡されたので聴いてみたら、かなりエグいことをやっていて驚きましたね。彼やJKは芯のあるリズム感を持っている。韓国でも新しい世代が出てきているんだなと思いました。
―JK Kimはヴォーグ・コリアでも去年取り上げられてましたよね。韓国でも若手のジャズミュージシャンが注目され始めている。
BIGYUKI:韓国ではメインストリームのポップスと楽器奏者の距離が近くなってきていて、その一端を担っているのがDOCSKIM。彼らは演奏するのも好きだしうまいんですけど、メインストリームのプロダクションも好きだし、そこにもこだわりを持っている。DOCSKIMが若いミュージシャンを引っ張っていて、「Tiny Desk」もDOCSKIMがミュージシャンを集めている。JK Kimは普段、NYでコンテンポラリージャズをやってるんだけど、そういうミュージシャンも引っ張ってくる。韓国はそういう感じでハイブリッドなミュージシャンが増えてきているみたいですね。
―最後に、今回のジャパンツアーは久々にバンドセットでの登場となります。どんなパフォーマンスが期待できそうでしょうか?
BIGYUKI:2021年に出した『Neon Chapter』の曲をやります。あと、今は完ぺきにアレンジを決めて、完成されたものがやりたいというよりも、純粋に演奏したいという気持ちが高まっているので、自分が演奏して正しいと思えることがやりたいですね。その「熱」みたいなものが伝わるようなライブになるんじゃないかと思います。
だから、粗削りなライブになるかもしれないですね。これまではビートやトラックの制作をもっとやりたいと考えてたし、『Neon Chapter』はそういうアルバムだった。でも、音楽的に触発されてからは、とにかく演奏がしたくなっている。言いたいことがあるとすれば「演奏させてください!」ってことですね。
Photo by OGATA
BIGYUKI Japan Tour 2023 ”NEON CHAPTER”
【出演】
BIGYUKI (Keys, Synth Bass)
Randy Runyon (Gt)
Jharis Yokley (Drums)
チケット予約:https://bigyuki.lnk.to/JapanTour2023_NC
2023年3月15日(水)Billboard Live OSAKA
時間:[1st] OPEN 17:00 / START 18:00 [2nd] OPEN 20:00 / START 21:00
料金:サービスエリア ¥7,500 / カジュアルエリア ¥7,000
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/index.php?mode=top&shop=2
2023年3月17日(金)東京・OPRCT
時間:OPEN 18:30 / START 19:30
料金:[前売り] 6,000円 [当日券] 6,500円(ドリンク代別)
詳細:https://www.oprct.com/event-calendar/2023/03/17/bigyuki-neonchapter-oprct
2023年3月18日(土)Blue Note Tokyo
時間:[1st] OPEN 16:00 / START 17:00 [2nd] OPEN 19:00 / START 20:00
料金:¥8,000
詳細:https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/bigyuki/
ツアー詳細:https://sweetsoulrecords.com/news/2023/01/bigyukijapantour2023/
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