日比谷野音に刻まれたヒップホップへの敬意と未来への創造、「FUYU NO YAON」総括
Rolling Stone Japan / 2023年3月3日 20時5分
2月18日、日比谷野外大音楽堂で開催されたヒップホップイベント「FUYU NO YAON」。まだまだ冬の寒さが残る野外にて、約5時間半にわたって20組以上のヒップホップアクトが登場するこのイベントは、25歳以下を対象とした割引チケットが早々とソールドアウトしたことが指し示す通り、10代から20代前半のオーディエンスが中心だった。
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野音とヒップホップといえば、1996年に開催されたイベント「さんぴんCAMP」が思い起こされる。キングギドラとして「さんぴんCAMP」に出演していたK DUB SHINEは「FUYU NO YAON」のライブ中に当時のことについて触れ、「さんぴんCAMP」主催のECD、続けてDEV LARGE(BUDDHA BRAND)、オオスミタケシ(SHAKKAZOMBIE)、MAKI THE MAGIC(キエるマキュウ)へ哀悼の意を表し、日本のヒップホップシーンの生き証人のような存在感を見せた。
K DUB SHINE(Photo by ハタサトシ)
K DUB SHINE with DJ OASISにバトンを渡されたのが、開催前日に出演が発表されたジャパニーズマゲニーズ。「俺は今K DUBさんからマイクをもらったことに感動してます」と孫GONGが喜びを露にし、直前のライブでK DUB SHINEがコール&レスポンスに発展させていた、2023年がヒップホップ誕生から50周年だということにも触れる。そう、日本のヒップホップ史に欠かせない場所で行われた「FUYU NO YAON」は、多様なアクトがヒップホップ愛に塗れたライフストーリーをエネルギーにしたような熱演を繰り広げることで、メモリアルイヤーを祝福し、未来に繋げるようなムードがあったのだ。
ジャパニーズマゲニーズ(Photo by ハタサトシ)
オーディエンスの大半は、1996年のさんぴんCAMPも、ましてやヒップホップの黎明期も体験していない。そのオーディエンスに向けて、点ではなく線でヒップホップの歴史をひも解くようなパフォーマンスが次々と展開されていったことがとても印象的だった。ヘッドライナーのひとりであるralphが、「27年前のさんぴんCAMPの時は俺はまだ生まれていないけど、7年前のさんぴんCAMPでは俺、その辺にいたんだよ」と言って客席前方を指差し、「そこから7年でここまで来ました。俺一回も媚びてないし、他人の力も借りてないし、武器は1個しか使ってないんですよ。実力だ!」と叫んで、スキルフルなラップで場を掌握する場面があった。そして、敬愛するDJ KRUSHからのラブコールによって生まれた「Hougou feat. Ralph」の地を這うような低音のビートとラップを轟かせ、「憧れのレジェンドたちと曲ができて嬉しい限りです」と言った後、「nakamura」のリミックスでSEEDAを呼び込む一幕があった。
SEEDA、ralph(Photo by ハタサトシ)
Jin Doggは「ここは日本のヒップホップの伝説的な場所。ここでやるからにはぶっ壊して帰るからな」と宣言。「次の曲は頭から最後までみんなと歌いたい」と言って「街風」で自らのライフスタイルを綴った。ラスト曲のBAD HOPの「Suicide」のリミックスでは大合唱が起き、この曲がユース世代のアンセムとなっていることを改めて感じた。
Jin Dogg(Photo by ハタサトシ)
SKY-HIはビースティ・ボーイズの「Ch-Check It Out」のトラックに「F-3」のラップを乗せ、「この曲が生まれた時から20年間ずっとヒップホップシーンにいたぜ!!」と、初っ端からヒップホップ愛と20年間サバイブしてきたことへの矜持を露にした。「ralph、Jin Dogg、SKY-HI、C.O.S.A.くん、ありがたいね~」とこの日のヘッドライナーの並びに対して喜びを滲ませる。アイドルグループ出身のラッパーとして色眼鏡で見られ、数々のアウェイを経験してきたSKY-HIだからこその達成感が溢れていた。「どの現場でもプライドを持ってやってきたことはめちゃくちゃラップするってこと」という説得力のある発言に続けて、「何様」「Name Tag」を披露し、気迫のラップを聴かせる。
SKY-HI、Aile The Shota(Photo by ハタサトシ)
自らが設立したBMSGに所属するAile The Shotaを呼び込み、2022年寅年の年男だった4人による「Tiger Style feat. Aile The Shota, JUNON, LEO」の2人バージョンを披露。軽やかなグルーヴを描くAile The Shotaの柔軟な歌と、鋭角な切れ味を見せるSKY-HIのラップのコントラストが絶妙だ。そしてフリースタイルラップで、ただの少年Aだった14歳の時にラップを始め、いくつもの出会いとバトルを経て、この栄光を掴んだんだというライフストーリーを開陳した。
C.O.S.A.(Photo by ハタサトシ)
トリのC.O.S.A.は、名古屋ラップシーンの先輩であるAK-69の「Bussin feat.¥ellow Bucks」のリミックス、DJ RYOWの「Picture me rollin' feat. C.O.S.A. & Kalassy Nikoff」と続け、地元にリスペクトを表した後、「Cool Kids」へ。リリックに刻み込まれたNate Doggに加え、Nipsey Hussle、Pop Smoke、XXXTentacion、Mac Miller、TOKONA-X、Febb as Young Masonといったこの世からいなくなってしまったラッパーたちを追悼しつつ、「でも俺たちは生きてる! 人生は続いていく」と口にした。「すげえ人がいて最高だぜ! こうやってヒップホップのデカいパーティがやれるようになって最高だぜ!」と言って、コロナ禍の真っただ中で明るい未来を願った「Mikiura feat. KID FRESINO」を披露。「こうやってラッパーだらけって最高だと思ってて。特にMC漢さん、BESさん、SEEDAさん、俺らが子供の頃見てた先輩たちのライブがまた観れて最高でした。その中でもやっぱりK DUB SHINEさんはマジで最高でした! ヒップホップ最高だよね?」と問いかけると、大歓声が上がる。そして、「Ghost Town」のラップだけが野音に響く。「今も不夜の街、日比谷! ラップでアガれるヤツ、Hands up!」と言って去っていった。
残すはクロージングアクトのSTARKIDSのみ。先日行われた初の自主企画「STAR RAVE」でメジャーデビューを発表した勢いに乗る6人組ラップクルーだ。「この番組はSTARKIDSの提供でお送ります」というSEが流れ、「POP」で色とりどりのラップを繰り出す。オーディエンスは疲れを感じさせず、ジャンプして大盛り上がり。「HORIZON」「REDLINE」で狂騒を作り出し、最後はクラブアンセム「FLASH」。アグレッシヴなビートに英語と日本語のラップを乗せたパフォーマンスに場内のテンションは落ちることはなかった。これからまた、STARKIDSによる新しいページがヒップヒップ史にどんどん加わっていくのだろう。
STARKIDS(Photo by ハタサトシ)
それぞれのやり方で自らの人生を指し示してくれたヒップホップへ敬意を払い、それぞれのスタイルとスキルとプライドが摩擦を起こし続けた「FUYU NO YAON」。終演時にはOASISの「Don't Look Back in Anger」が流れ、この曲がリリースされた当時は生まれていなかったであろう世代のオーディエンスが合唱しながら満足そうな表情を浮かべ、帰路についていた。そのオープンな光景はとてもヘルシーで、今後さらにシーンが広がっていく未来を感じた。
<イベント情報>
FUYU NO YAON
2023年2月18日(土)日比谷野外大音楽堂
OPEN/START:14:45
■HEAD LINER
SKY-HI
C.O.S.A.
Jin Dogg
ralph
STARKIDS
JUBEE(CreativeDrugStore)
featuring GUEST
CYBER RUI
HIYADAM
in-d(CreativeDrugStore)
■サプライズアクト
ジャパニーズマゲニーズ
■GUEST
PETZ(YENTOWN)
BES featuring GUEST SEEDA
chelmico
Elle Teresa
Gottz & MUD(KANDYTOWN)
漢 a.k.a. GAMI
K DUB SHINE with DJ OASIS
LANA
SATOH
SUSHIBOYS
■SHOT LIVE
Campanella
homarelanka
JNKMN(YENTOWN)
釈迦坊主
Spada featuring GUEST Joseph Blackwell
山田ギャル神宮
18scott
原島"ど真ん中"宙芳
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