ペイヴメントが語るバンドの軌跡とそれぞれの人生、ギャリー・ヤングの今、新作の可能性
Rolling Stone Japan / 2023年2月28日 17時30分
2度目の再結成を果たし、今年2月中旬に13年ぶりの単独来日ツアーを開催したペイヴメント(Pavement)にインタビューを実施。愛すべき5人にバンドの過去・現在・未来を語ってもらった。
【写真ギャラリー】1993年と2023年のペイヴメント(全10点)
東京公演の初日、終演後のTOKYO DOME CITY HALLは多幸感に満ち溢れていた。軽快なステップも交えつつギターを鳴らすスティーヴン・マルクマス。自由を体現するように叫び、暴れ回るボブ・ナスタノヴィッチ。「スパイラル・ステアーズ」ことスコット・カンバーグの見せ場もあったし、マーク・イボルドとスティーヴ・ウェストのリズム隊は相変わらず絶妙だ。ゆるくて笑えるのに泣ける、このフィーリングは誰にも真似できない。ペイヴメントとは生き様そのもの、人生そのものだと改めて思い知らせるステージだった。
それに何より、2010年の前回再結成よりもムードがいい。ペイヴメントはいつでも気軽に再結成するわけではないし(2015年の時点ではマルクマスが拒否)、今回も期間限定であることをみんな知っている。だからこそ、バンド側も束の間の「同窓会」を全力で楽しもうとしているのが伝わってきた。日によって大きく変わるセットリストからもそれは明らかで、「新作を出さない再結成」がここまでポジティブに感じられるのも珍しい。
会場には13年前もそうだったように、90年代オルタナを懐かしむ世代だけでなく、20代前後と思しき若いオーディエンスも大勢詰めかけていた。今日ではシングルB面曲だった「Harness Your Hopes」がTikTok経由で最大の人気曲となり、バンドの楽曲を基にしたミュージカル作品が上演され、ペイヴメントはZ世代からも熱烈な支持を集めている。マルクマスは昨年、英ガーディアン誌にこう語った。「もし戻ってくるなら、今が絶好のタイミングだという確信があった。もし君が内向的で、スケートボードを持っているのに得意でなくて、世の中を少しでも疑っているなら、僕らの音楽から何かを見つけられるかもしれない」
以下のインタビューは、東京公演2日目の午前中に行われたもの。饒舌なのはマルクマスとボブで、前者のニヒルな語り口、後者のひょうきんなユーモアは健在だ。還暦を迎えたマークの物腰は柔らかく、スコットは引き締まった表情を浮かべ、スティーヴは二日酔いだったのか途中で寝てしまった。取材部屋の外にいたメンバーの娘さんは、このあと東京観光に連れて行ってもらうのが待ちきれない様子。素敵な未来を満喫中の5人に、1993年の初来日から1999年の解散、2023年の今に至るまで大いに語ってもらった。
左からボブ、マーク、スコット、スティーヴ、マルクマス(Photo by Hirohisa Nakano)
―マルクマスさんは最近、テニスに打ち込んでいるそうですね。日本のレーベルスタッフにコートを手配してもらったと聞きました。
マルクマス:うん、テニスのスポーツセンターに行くんだ。日本にはニシオカっていう素晴らしい選手がいるよね?
―なんでまたテニスにハマったんですか?
マルクマス:10代の頃に好きになったんだ。パンデミック中で外出できなくなって退屈だったから、パートナーがやろうって言いだしたのがきっかけで。東京もニューヨークも、とにかくみんな家にいなきゃならなかっただろ。日本はもう少し規制が緩かったのかな?
スティーヴ:オリンピックも開催してたから。
マルクマス:ああ、そうか(笑)。
マルクマスとボブがテニスに興じている動画
―他のみなさんは、何か日本でやりましたか?
スコット:妻と娘も来てるんだ。1週間くらい滞在している。到着した翌日に雪景色を見れたのは良かったな。
マルクマス:K-POPのコンサートにみんなで行ってただろ。BTSほど有名じゃないけど……。
スコット:Stray Kidsだよね。今では有名なボーイズバンドだ。彼らにとって2回目のツアーだったみたいだけど、パーフェクトな環境だったと思う。
スティーヴ:ボブと僕はまだ日本に着いたばかりなんだ。今のところ、天気も良くないし。
ボブ:ああ、渋谷をちょっと散歩したくらい。
マーク:前に自転車で東京を散歩したことがあって、とても良かったよ。たしか渋谷、中目黒、代官山、恵比寿の辺りだったかな。
2023年2月15日、TOKYO DOME CITY HALLにて(Photo by Kobayashi Kazma)
―昨夜(2月15日)はペイヴメントにとって2023年の初ライブですよね。まずは感想を聞かせてください。
スコット:そうだな……僕らのライブはいつも最初から完璧なんだけど、昨夜を評価するとしたら……もう少しで完璧ってところだったかな。今夜のライブは100点になるはずだ。
マルクマス:曲はうまくいったけど、何曲かは最初のライブだったからテンポがちょっと不安定だったかもしれない。「Stereo」「Fight This Generation」「We Dance」「Grounded」あたりは「フゥー!」となったりもした。環境に対する緊張もあったね。
スコット:あと、技術的な面でも。
ボブ:ああ。去年も同じ規模感の大きなステージで演奏したけど、何曲かは今回の方がうまくいった。観客の人数に関係なく、みんなに届いたと思う。広さに関して言えば、ベルリンでのライブを思い出したな(昨年11月に出演した独・テンポドロームと思われる)。
マルクマス:昨夜はとても良い会場だったね。綺麗でサウンド面も素晴らしかったし、全てにおいてハイクオリティだった。
ボブ:1993年の日本でのライブと比べると、音は全体的に良くなってると思う。
Photo by Kobayashi Kazma
―昨夜の感想をリサーチしたら、特にペイヴメントを初めて観たファンは、ボブが自由に動き回る姿に感激していたみたいです。
ボブ:自由に動き回れる曲がたくさんあるんだ。
マルクマス:僕らをスポーツチーム、例えばバスケットボールのチームだと仮定しよう。ボブはチームのエネルギーを高めるような役割なんだ。スコアが同点の場面で、彼が点数を入れてみんなを盛り上げる。「ウオーッ!」てね。
ボブ:いや、もっと自由な感じだよ。
マルクマス:彼はどこからでも自由にシュートを打つ感じだ。
ボブ:興奮が湧き上がってくる様子を見たいんだ。パンデミックでここ2〜3年はライブが自粛されていた。だから、みんながライブで楽しんで笑顔になっているところや、一緒に歌っている様子を見たい。とても熱狂的で僕らの気持ちを高揚させてくれるファンもいれば、静かに曲に集中しているファンもいる。みんながそれぞれの形で、僕らの音楽を楽しんでくれている様子を見るのが好きなんだ。
マルクマス:全体的には僕らのバンドはエモ、ロマンスと認識されていると思うけど、中には滑稽で笑える部分を持ち合わせている曲もある。特にライブのパフォーマンスではね。彼がその立役者なんだ。他のバンドにはあまりない一面だと思うよ。
2度目の再結成とそれぞれの人生
―改めての質問ですが、2022年に2度目の再結成をすることにした理由は?
ボブ:本来は2020年のプリマヴェーラ・サウンドで再結成する予定だったんだけど……。
スティーヴ:そう、結成20周年のタイミングでね。
ボブ:でもパンデミックの影響で2022年に延期されて、追加公演をするにも機材運搬の予約をしなきゃいけなかったり、色々と大変だったよ。
マルクマス:再結成したことで、僕らはそれぞれのソロキャリアでやるよりも優れたベニュー、もっといい場所でパフォーマンスできるようになった。いろんな場所を旅したり、こうして思い出の地に帰ってこれたりするのは嬉しい限りだ。それに、ライブが再開されたことで気持ちにも変化があった。多くのミュージシャンにとっても、今まで当たり前だと思っていたことに改めて感謝する機会になったと思うよ。過去の曲を振り返り、現在において僕らの曲はどういう意味を持つのか、今の時代との繋がりを読み解いたりするのが楽しいんだ……Tシャツもたくさん売れてる。
―(笑)
ボブ:今でもペイヴメントを好きでいてくれるファンがいるし、一度も僕らのライブに来たことのないファンに会えるのは嬉しいね。40代以下の世代が、90年代のバンドのライブを観れるのは珍しいはずだ。2010年に僕らのライブに来れた人もいれば、来れなかった人もいる。往年のファンから、その子供たちも含む若い世代まで幅広いファンがいて、僕らは恵まれてると思う。
Photo by Kobayashi Kazma
―今回の再結成をする以前、マルクマス以外のメンバーはどんな生活をしていたのでしょう?
スティーヴ:僕は石積みの煙突を作る仕事をしていた。
マルクマス:彼の代わりに話すと、バージニアの仲間と音楽を作っていたんだ。バロネス(Baroness)っていうクレイジーなヘヴィメタルギターバンド。彼はずっと音楽と関わってるんだよ。ソロでも活動していて、もうすぐアルバムをリリースするんだよな。
スティーヴ:しっかり者だろ?
マルクマス:スコットもずっと音楽を続けていて、最近アルバムを発表したばかりだ(2022年にスパイラル・ステアーズ名義の最新作『Medley Attack!!!』を発表)。
スコット:再結成の前、僕はメキシコのユカタン半島に4年ほど住んでたんだ。古い家をリノベーションして……。
マルクマス:ゴルフをしてたのか?
ボブ:テキーラを飲みながら?
スコット:まあ時々(笑)。でも高級なコースは2カ月に1回だけだよ。
マルクマス:つまり長期休暇を取ってたんだな。
ボブ:家を売り払ってきたのか。
スティーヴ:転売屋だ!
ボブ:上手くいった?
スコット:ああ、パンデミックの影響もあったけど。年老いたカナダ人がいっぱいいたよ。あそこはマネーロンダリングでも有名なんだ。
ボブ:今度頼むよ(笑)。僕はとにかくいろんな仕事をやってきた。DJをやったり、ポッドキャストの司会をしたり。
マルクマス:彼はサウンドシステムを所有してるから。
ボブ:競馬関連の仕事もたくさんしてきた。(1996年から)競走馬を飼っていて、費用を稼がないといけない。育成にはお金がかかるからね。
Range Life, the filly: pic.twitter.com/TpyhJyjwYy — Bob Nastanovich (@BNastanovich) May 2, 2022
マーク:僕はニューヨークのライブハウスでバーテンダーをしてた。もうすぐ新しいレストランがオープンするんだ。
ボブ:知らなかった。なんていう名前?
マーク:SUPERIORITY BURGER。ヴィーガンバーガーのお店で、実は下北沢にも店舗があるんだ。
マルクマス:良いレストランだよ。
マーク:下北沢にある店は小さいと思うけどね。
Photo by Kobayashi Kazma
―それぞれの人生を歩んでいる皆さんが、同窓会のようなノリで集まり、青春時代のようなテンションで演奏していたのも素敵でした。年齢を重ねた今だからできるようになったことはありますか?
ボブ:個人的なことをいうと、もっとうまく演奏できるようになった気がする。
マルクマス:ああ、スティーヴのドラムもよくなったし、みんな上手くなったと思う。今は新しいアルバムの制作に追われることもなく、レコードを聴けるくらいの時間的な余裕もあるしね。マークとスティーヴのリズム隊はかなり準備してきたみたいだ。僕とスコットは……。
スコット:エンジンがかかるまで時間がかかった(苦笑)。いざ始まったら、自信が湧いてきて楽しめたけどね。前日の夜は緊張してたんだ、最終的には満足してるよ。
マーク:あとはキーボード奏者のレベッカ(・コール)が参加したことで、今までの僕らになかった音が加わって、サウンド面が豊かになった。
ボブ:キーボードだけじゃなくてパーカッション、ボーカルの才能もあるから、彼女には引け目すら感じるよ。音楽的才能はもちろん、素晴らしいパーソナリティの持ち主だ。
マルクマス:彼女が参加したことで、グランジ全盛期のギターだけのサウンドに、僕らのレコードにも通じるバンドサウンドが加わった。うまくマッチしたんだ。全曲に参加しているわけじゃないけれど、サウンドにダイナミクスをもたらしてくれた。
1993年の初来日とギャリー・ヤングの今
―ペイヴメントのWikipediaには、1993年に初来日したときの写真がずっと使われていますよね。この写真を撮った方は私の先輩なんです。
マルクマス:いい写真だね。マークがキュートだ。
ボブ:ギャリー(・ヤング)が埋もれてる(笑)。
Wikipedia掲載の写真。左からボブ、ギャリー・ヤング、マルクマス、マーク、スコット(Photo by Masao Nakagami)
―この時のことは何か覚えていますか?
マルクマス:(日本での)最初のショウはまったくもって制御不能で、過去最低のライブの一つだった。でも、レコードレーベルの連中は「素晴らしかった」なんて言うんだ。当時の僕らはかなりいい加減だった。そこが魅力だったのかもしれないけど、自分としては恥ずかしかったんだ。
マーク:僕はオーディエンスのリアクションに驚いたな。とてもいいリアクションで、みんな全ての曲を知っていた。たしか、その時に『Westing』(同年リリースの初期音源集)のサイン会をしたんだけど、ポスターが壁一面に貼られていて、スピーカーからはアルバムの曲が流れていた。一般の買い物客は「何のイベントだ?」って不思議そうだったな。
ボブ:ライブ開始の5分前にセットリストを貼りに行ったんだ。サポートバンドはいなかったから会場は暗かったんだけど、僕が出た途端、3分の2以上のオーディエンスが叫びだした。まるで有名人が来たみたいに。とても圧倒されたよ。当時はギャリーもバンドにいて、僕らはかなりメチャクチャだった。かなりワイルドな時代だったんだ。あんな経験は初めてだったな。
1993年、ニュージーランドでのライブ映像
マルクマス:当時は多くのイギリスのバンドと交流があって、僕らの人気は彼らのおかげかもしれない。僕らのプロモーターがクリエイション・レコーズのバンドを呼んで、一緒にインドレストランまで連れて行ってくれたこともあった。当時のイギリス人は日本料理が苦手だったみたいだからね。あのときのカレーは美味しかった……それはさておき、たしかにイギリスの時代というのがあったんだ。
ボブ:パステルズがかなり人気だったよね。
マルクマス:あと、渋谷付近にはいいレコード店がたくさんあった。ジャズストアでは700〜800円くらいでレコードが買えたんだ。好きなレコードをたくさん買って帰るのが当時はとても楽しかった。
1993年初来日時のアザーカット(Photo by Masao Nakagami)
―当時の日本ではギャリー・ヤングが人気でしたが、最近も連絡を取り合っていたりするのでしょうか?
ボブ:彼のドキュメンタリー映画『Louder Than You Think』がもうすぐ公開される予定なんだ。僕らはロサンゼルスで観た。彼の妻のシェリーと連絡を取っていて、今はカリフォルニアのリンデンに住んでいる。スコットも頑張っているみたいだ(映画のエグゼクティブ・プロデューサーを担当)。
スコット:SXSWでスクリーニングがあるらしい。ギャリーもおそらく参加すると言ってたよ。
ボブ:そうなのか、驚いた。
スコット:でも、健康状態があまりよくないみたいだ。
ボブ:今度の誕生日(5月3日)で70歳だもんな。映画はかなり素晴らしいよ。胸に突き刺さるようなシーンもあって見応えのある内容だ。僕らのファンには絶対に楽しんでもらえると思う。
マルクマス:あれはペイヴメントの映画だ。
ボブ:ああ、90年代初頭のペイヴメントにまつわる映画だな。彼と一緒にバンドをやっていくことが、どれだけ難しかったかわかると思う。初期の僕らにとって彼の存在はとても重要だったけど、同時にストレスフルでもあった。
マルクマス:彼自身にとってもそうだったはずだ。なぜ彼があそこまで制御不能な人間だったのか、映画を観ることで感じ取ってもらえると思う。
5人が選ぶベストアルバム、1999年の解散を振り返る
―みなさんも参加して、ペイヴメントのアルバム・ランキングを語り合う動画を見かけました。その場では『Wowee Zowee』がベストに決まったみたいですが、それぞれ個人的に好きなアルバムはどれでしょう?
スティーヴ:『Brighten the Corners』かな。曲の繋がりやテンポが気に入っている。曲の長さがちょうどよくて、よくまとまったアルバムだと思う。録音もうまくいっているし、最後のアルバム(『Terror Twilight』)ほどきっちりしすぎていない。とても穏やかな気持ちで聴くことができるんだ。
ボブ:ミッチ・イースターは僕らのヒーローだった。
スティーヴ:ブライス・ゴギンもね。(同作の共同プロデューサーを務めた)素晴らしい2人と一緒に制作できた。
スコット:僕は『Terror Twilight』だな。
マーク:僕も『Terror Twilight』が好き。(筆者が持参した2022年のリイシュー版『Farewell Horizontal』を指差して)このパッケージが出たおかげで、全ての収録曲を聴き返すことができたし、リハーサル中に聴きながら参考にすることもあった。
マルクマス:おかしな曲ばかりだろ。
スコット:素晴らしいレコードだよ。
マーク:スティーヴンのデモ音源が気に入っている。このアルバムの収録曲を練習するときにもよく聴いていた。『Terror Twilight』の違う側面を見せてくれるんだ。そこからこのアルバムとの向き合い方も変わった。僕らにとってのベスト・リイシューだと思う。
マルクマス:『Slanted and Enchanted』だね。サウンドが異質なところが好きなんだ。取り止めがなく、自分が何をやっているのかはっきりしていない感じがあって、このアルバムをみんな気に入っていた。当時20代だった僕の人生の基盤にもなったし、これから先もそうだろう。このアルバムには感謝しかない。
ボブ:『Wowee Zowee』かな。素晴らしい曲がいくつも収録されている。
マルクマス:僕も好きだ。
ボブ:僕らにとって一番忙しい時期だった1994年の『Crooked Rain, Crooked Rain』のあと、今まで到達しなかったような場所に行けた。僕らにとってペイヴメントは、プロジェクトというより人生そのものなんだ。全ての曲をみんなで作り上げてきた。中には自己満足だっていう人もいるだろうけど、僕らはとにかく最高のレコードを作ろうとしてきたんだ。
マルクマス:なあ、あのアルバム(『Wowee Zowee』)のテープを誰か持ってないかな。まだリリースしていない別バージョンが入ってるんだ。2インチのテープで……。
スコット:マストなのか?
マルクマス:知らない? まだミックスされてないんだ、なあスティーヴ?
スティーヴ:ああ、2リールはある。でも5曲くらいしかないはず……。
マルクマス:「AT&T」の別バージョンもあって、出来はあまりよくないんだけど。(メロディを口ずさんで)”Im the true blue〜♪”みたいな歌詞の曲もあったはず。リイシュー版(2006年の『Sordid Sentinels Edition』)ではミックスされていないから、どのデモにも入ってないんだ。
スコット:あんな大量にミックスしたじゃないか、違うミックスのことを言ってるのか?
マルクマス:ミックスはやってない、2インチのデータだけだよ。
マーク:すぐにこうやって話が別の方向に……。
ボブ:いつものことさ(笑)。
マルクマス:やっぱりよくないな、ミックスするのはやめよう。それは今出したくない。
スコット:わかった、別々にしよう。
ボブ:これはビッグニュースだね!
―リリースが楽しみです(笑)。私もマークさんと同様、『Terror Twilight』リイシュー版のデモ音源に驚かされました。いつもギターで曲作りしていたのかと思いきや、モーグ・シンセや打ち込みを使ったデモがたくさん収録されていたので。当時はどのように作曲していたのでしょう?
マルクマス:Rolandの8トラック・デジタル・レコーダーを持っていたんだ。当時にしては新しいやつだったかもしれない。友達がくれて、それでデモを作った。ジャジーなループなんかを作って、バンドに新しいフィーリングを持ち込もうとしたんだ。どうやって作ったかはっきりとは覚えてないけど、(昔と)大きな違いはなかったと思う。
そもそもバンドを始めた当初は、デモを作らないのが賢明だと思っていた。僕らは誰かの期待に応えるために音楽をやっていたわけじゃないし、特別なこだわりがあったわけでもないから「最初の音源」さえあればよかったんだ。『Slanted and Enchanted』と『Wowee Zowee』はそんな感じだった。スタジオに入る前に練習もリハーサルもしなかったんだ。レディオヘッドも同じ方法でやってたよ。『In Rainbows』の時、彼らはデモを作らずにレコーディングしていた。バンドというのはその方がうまくいく時もあるんだ。「Fight this Generation」には、まとまりがなく乱雑な感じがうまく滲み出てる。あれが1回しかやっていない良さだ。何度も演奏すると感覚が掴めてしまう。
―『Terror Twilight』から話を続けると、特にマルクマスさんは2000年代に入ってからも、実験精神を失うことなく安定したペースで制作を続けてきましたよね。例えばヨ・ラ・テンゴのように、ペイヴメントも一度も解散することなく活動を続けている未来はありえたと思いますか? それとも1999年の解散は必然だったのでしょうか?
ボブ:タフな質問だね。
マルクマス:必然だったということはない。でも僕らにとっては自然なことだった。バンドの歴史上には、たしかにずっと続けている人たちもいる。ヨ・ラ・テンゴ然り、U2然り(笑)。でも、充実した音楽活動を10年くらいやって解散するのはよくあることだと思うよ。しかも、ツアーでいろんな国を回ってインスピレーションを得ることも、長年続けていると精神的な面でも難しくなってくる。例えばレディオヘッドとかのマネージャーみたいに、根気強く励ましてくれたり、辛い時にマッサージしてくれるような人がいたら別かもしれないけど。
―(笑)
マルクマス:もしくは彼らのように、僕たちもそれぞれソロ活動を続けるという選択肢もあったかもしれない。他のバンドと比べるわけではなく一般論としてね……要するに、4、5枚のアルバムをリリースできたことで僕らは満たされたんだ。
ボブ:90年代のバンドは、99年までに解散してることが多い。
マルクマス:ああ、どのバンドもいずれは解散する。ビートルズさえもそうだ。ストーンズはいつまでも続くけど。
スコット:もし僕らが韓国で生まれていたら、30歳で兵役に行かなきゃいけなかった。
マルクマス:20歳じゃなくて30歳なのか?
スコット:そうじゃなかったかな(※)。妻と娘がK-POPファンで、彼女たちの好きなバンドのメンバーが兵役の影響で活動休止したんだ。
※通常は満20歳〜満28歳までに入隊、特定のポップスターらは満30歳まで延期できる
Z世代に愛される未来、新作の可能性
―先ほどボブさんが言ってたように、90年代の象徴として駆け抜け、90年代の終わりに解散したというのは、実にペイヴメントらしい物語という感じがします。
マルクマス:僕らはあの頃、ニルヴァーナやパール・ジャムが人気だった時代に、新しい世代が求めているのはグランジだけではないことを証明したと思う。それに僕らが生み出した楽曲やスタイル、プロダクションは数十年後の今にも結びついているような気がするんだ。例えば、70年代のコメディレコードを今聴いても全然面白くないよね。その頃のサイケデリック音楽にしても、フラワーやレインボーといったモチーフからして古臭く感じる。
ボブ:ユニコーン・リバーとかね。
マルクマス:ロバート・ダウニーの父親みたいな天才が作った映画でさえ、70年代特有のカウンターカルチャーが全開で、僕らの子供たちはそのユーモアを理解できないだろう。でも、彼らはペイヴメントの音楽を聴くことはできる。親子関係を抜きにしてもね。それは、僕らの曲が何かしらの形で今とつながり続けているからだと思うし、すごくクールだよね。
―お子さんからペイヴメントについて、何か言われたりすることもありますか?
マルクマス:娘は好きみたいだよ。
ボブ:昨夜もライブを観に来てたよね。
スコット:僕にも子供がいるけど、ペイヴメントのファンだって。
マルクマス:どうも誇りに思ってくれてるみたいだ。ただ、学校で親たちが「君のお父さんはペイヴメントなんだね」と言ってくることもあるけど、あれは大袈裟だよ。ショーン・レノンに「ジョン・レノンが父親なんだね」って言うならわかるけど……。
スコット:娘は今、バンドでピアノを弾いているんだけど、仲間に僕のことを言うと「えー、本当⁉️」って驚かれるらしい(笑)。
マルクマス:それはインターネットで過去の動画とかを見てるからだろ? 名前で検索したら写真が全部出てくるから。ただ残念なことに、僕らは金銭的に成功を収めたわけじゃない。不憫なバンドだな。
―(笑)でも実際、若いアーティストもみんなペイヴメントが大好きですよね。ビーバドゥービーは「I Wish I Was Stephen Malkmus」という曲まで発表していますし。
マルクマス:あれはいい曲だよね。
―スーパーオーガニズムのオロノも、ペイヴメントの音楽を聴いて育ったとか。
ボブ:彼女はカッコイイ。
―90年代にX世代の代弁者として支持されてきたペイヴメントが、今ではZ世代のアウトサイダーにとって心の支えとなっている。そのことについて思うことは?
マルクマス:90年代には音楽やファッションというジャンルを超越した、大きなカルチャーのトレンドがあったわけだよね。いいものは時間が経っても廃れないということじゃないかな。それに、当時は評価されていなかったものが、後になって評価されることもある。例えば、スリー・ドッグ・ナイトよりヴェルヴェット・アンダーグラウンドの方が断然素晴らしいとかね。かつては影響力があって、レコードもたくさん売れて、業界を動かしていたけど、今聴くと僕らの方がいい音楽を作ってた、みたいな。つまり、ZとかYみたいな世代は関係なくて、音楽そのものが重要だと思うんだ……質問の答えになってないかもしれないけど。
Photo by Hirohisa Nakano
―最後に聞かせてください。いつかペイヴメントとして、新曲やニューアルバムを発表する可能性はあると思いますか?
マルクマス:おそらくないね。
―即答(笑)。
マルクマス:当時作った音楽は魔法みたいなものだ。今の僕らにペイヴメントの音楽を作ることはできない。もちろん、自分たちの名声をより高めたい気持ちはあるけど……。
ボブ:バンド名を「ユニコーン・リバー」に変える? これまでほとんど曲を作ってこなかった僕が、今後はペイヴメントの曲を作るというのはどうかな?(笑)
マルクマス:合理的に考えてみれば、今まで作りあげてきたものを汚すことになりかねないし、本当にそうなる可能性が高いだろう。うまくいかなかった曲も含めて僕らの曲が好きだし、大事にしたいんだ。今さらアルバムなんか作ったら、年寄りがイーグルスみたいなことをやってると言われかねない。まあ、わからないけどね。
ボブ:今年の初め頃に録ったカバーソングの出来が素晴らしいんだ。うまくまとまっていて、僕たちらしい仕上がりになっている。もしかしたら、これが僕らにとっての「新しい道」になるかもしれないね。
【写真ギャラリー】1993年と2023年のペイヴメント(全10点)
ペイヴメント
来日記念カラー盤2タイトル
2023年3月10日リリース
『Live Europaturnén MCMXCVII (Limited Orange Vinyl Edition)』
※1997年8月15日ドイツ公演の模様を収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13277
『Live Europaturnén MCMXCVII (Limited Purple Vinyl Edition)』
※1997年4月11日ロンドン公演の模様を収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13276
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