ウェット・レッグ歴史的快進撃の理由とは? 世界中を魅了した「驚きのデビュー」を総括
Rolling Stone Japan / 2023年3月2日 17時30分
全英チャート1位に輝いたデビュー・アルバム『Wet Leg』の発表からもうすぐ1年になるが、ウェット・レッグの勢いはむしろ加速する一方だ。2023年のグラミー賞とブリット・アワードでいずれも2部門を受賞する快挙を達成し、全公演ソールドアウトとなった2月の初来日ツアーを経て、今夏のサマーソニック出演も発表されたばかり。今からでも知っておきたいバンドの歩みを、ライターの新谷洋子に解説してもらった。
「これ、超ウケる! ありがとうございます。私たち、いったいここで何してるんだっけ? よく分からないけど、来ちゃいました。でもこの1年は本当に驚きの1年で、このバンドを始めたこともサプライズだったし、ツアーをしていることもそうだし。素晴らしいクルーの存在抜きには、成し遂げられなかったことです」。
これはさる2月6日に開催されたグラミー賞授賞式にて、シングル「Chaise Longue」で最優秀オルタナティブ・ミュージック・パフォーマンス賞に輝いた際、ウェット・レッグのリアン・ティーズデイルが口にした言葉だ。そこには思いがけない展開への率直な戸惑いが窺えると共に、彼女たちのここまでの歩みも凝縮されているように思う。
全てが始まったのは2019年――あるいは、10代のリアンとヘスター・チャンバース(共にボーカル/ギター)が出会った2010年頃まで遡るべきなのかもしれない。イングランド南岸に浮かぶワイト島のカレッジで一緒に音楽を学んでいた時からの友達だったふたりは、それぞれに音楽活動を行なっていたものの、20代半ばに差し掛かってやや行き詰まりを感じていた。そんな時にヘスターがリアンのソロ・プロジェクトのサポート・プレイヤーを務めたことを機に、2019年に軽い気持ちで新バンドをスタート。翌年のパンデミックに伴うロックダウンも好機と捉えてじっくり曲作りを行ない、早い段階で誕生した曲のひとつ「Chaise Longue」をマニック・ストリート・プリーチャーズの育ての親として知られる敏腕マーティン・ホールが耳にしてすっかり惚れ込み、マネージャーを買って出たのである。
それから間もなくしてDominoと契約し、パンデミックの規制が緩和されると共にライブ活動に本格化に取り組んだふたりは、インヘイラーからチャーチズにシェイム、アイドルズ、フローレンス・アンド・マシーン……となかなか魅力的な面々の前座を務める傍ら、自ら監督したMVを添えて「Chaise Longue」でデビューしたのが、2021年6月のこと。たちまち近年他に例がないバズを醸し、同年末には初の全米ツアーに出かけて、年が明けるとBBCサウンド・オブ2022の2位にランクイン(1位はピンクパンサレス)。4月に発表したアルバム『Wet Leg』は、同じ日に新作をリリースしたジャック・ホワイト(3位)やファーザー・ジョン・ミスティ(2位)をおさえて全英チャートでナンバーワンを獲得しただけでなく、この週の2~5位の作品のセールス合計を上回る枚数を売り上げたという。ワイト島と言えば大型フェスティバルの開催地として世界的に知られてはいるものの、出身アーティストがブレイクを果たすのは、レベル42以来ではないだろうか?
昨年はそのワイト島フェスティバルやグラストンベリーの大舞台にも立ち、イギー・ポップやデイヴ・グロールからオバマ元米大統領(恒例のお気に入り曲のプレイリストに「Angelica」をセレクト)まで著名なファンを獲得。『Wet Leg』がマーキュリー・プライズにノミネートされたりと話題に事欠かなかったが、ご存知の通り今年に入ってふたりの周辺はいっそう騒がしさを増している。
1月末にハリー・スタイルズのオープニング・アクトとしてロサンゼルスで3公演をこなしたのち、冒頭で触れたグラミー賞では、最優秀オルタナティヴ・ミュージック・パフォーマンス賞と最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞も受賞。翌週2月11日にはブリット・アワードが開催され、最優秀新人賞に加えて、The 1975やアークティック・モンキーズも候補に挙がっていたグループ・オブ・ジ・イヤー賞に輝き、英国のフォークダンスをフィーチャーしたシュールなパフォーマンス(クリエイティブ・ディレクター以下オール女性スタッフで作り上げた)も注目を集めたものだ。
初来日ツアーで見せた勢い、デビューアルバム大絶賛の理由
こうして数々の栄誉に浴したウェット・レッグは勢いをキープしたまま日本に上陸し、10カ月前にアナウンスされて瞬時にソールドアウトになっていた3公演――14日に大阪、15・17両日は東京――を敢行。このうち15日の公演を観たのだが、アルバムの収録曲をほぼ全曲プレイし、上昇気流に乗るアーティストならではの熱量と満場のオーディエンスの期待感が渦巻くバブルの中をハイなまま突っ走る、グラミー&ブリット両賞のウィニングランみたいな一夜となった。
2023年2月15日、東京・渋谷O-Eastにて(Photo by Kazumichi Kokei)
またどちらのアワードでも、同じくワイト島出身のバンド・メンバー――エリス・デュランド(ベース)、ヘンリー・ホルムズ(ドラムス)、ジョシュア・モバラキ(ギター/キーボード)――を含む5人でトロフィーを受け取っていたように(ヘンリーはグラミー賞で「感謝しなくちゃいけない人が大勢いるけど頭の中が真っ白で、ちびっちゃいそうだからもう無理」と、ジョシュアはブリット・アワードで「保守党くたばれ!」と言い放った、それぞれのスピーチも忘れがたい)、現時点のウェット・レッグはリアン&ヘスター+バッキング・バンドではなく、完全なる5ピースのユニットとして機能していることが、パフォーマンスから、佇まいから、ありありと伺えたことも指摘しておきたい。何しろこのラインナップでこなしたライブの数は、2022年だけで約150本。世界を舞台にしたアドベンチャーを心から楽しんでいる5人の連帯感も、バンドを前へ前へと駆り立てる原動力になっていることは想像に難くないし、すでにヘンリーはドラムで、ジョシュは共作やプロデュースで『Wet Leg』に参加しているが、今後の作品ではより彼らの貢献が増すんじゃないだろうか?
ブリット・アワード授賞式にて、左からエリス・デュランド、リアン・ティーズデイル、ジョシュア・モバラキ、ヘスター・チャンバース、ヘンリー・ホルムズ
少し先走ってしまったが、その『Wet Leg』のほうももう少し詳しく振り返っておこう。主にダン・キャリーがプロダクションを担当した同作の面白さは、ポストパンクにブリットポップ、グランジやガレージパンクが縦横に駆け巡るギター・ポップのシンプリシティ、そして、ライブでもコール&レスポンスでオーディエンスをぐいぐい巻き込んでいたキャッチネスにも、もちろんある。が、それらに勝るとも劣らない魅力を放っているのが、”もう28歳になるってのに相変わらずバカみたいに酔っぱらって”という「I Dont Wanna Go Out」のフレーズに集約されている、バンドの結成当時にリアンとヘスターが抱いていた焦燥感や憂鬱感を映した歌詞だ。
ほかにも、恋愛の不毛なリアリティを歌う「Being In Love」、退屈なパーティーに飽き飽きしている「Angelica」と「I Dont Wanna Go Out」、ケータイを眺めて過ごす時間の無駄を嘆く「Oh No」、未練がましい元カレに辛辣な言葉を浴びせる「Ur Mum」や「Wet Dream」で、思い通りにならない人生に溜息を吐き、怒りをぶつける彼女たち。「Too Late Now」でエンディングを迎える頃には、もう無邪気に好きなことをやっていられる歳じゃないのだとリアリティを受け入れてもいるのだが、重要なのは、ドライなユーモアでそんなビターな味を中和し、ラウドなギターで絶望を吹き飛ばすふたりの絶妙なバランス感であり、こうして遅ればせながら成功を手にした今、当分リアリティと向き合わずに済むモラトリアムを手に入れたようなもの。これもまさしく、「驚きの1年」の所以だ。
そう、ジャパン・ツアーを終えてからのウェット・レッグはオーストラリアでハリーと再び合流し、このあと夏にかけてヨーロッパに舞台を移して、夜な夜なのスタジアム公演が控えている。さらなるアドベンチャーを経てサマーソニックで日本に戻って来る時にはどう進化しているのか、楽しみに待ちたい。
ウェット:レッグ
『Wet Leg』 (新装盤)
発売中
国内盤特典:ボーナストラック2曲追加収録
解説・歌詞対訳封入、特典マグネット2種類付属
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13209
SUMMER SONIC 2023
2023年8月19日(土)、20日(日)
千葉 ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ / 大阪 舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
公式サイト:https://www.summersonic.com/
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