TAKUROが語る最新ソロアルバム「穏やかな眠りが提供できるものを作りたかった」
Rolling Stone Japan / 2023年3月6日 19時30分
日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2023年2月はGLAYのTAKUROを1カ月間に渡り特集していく。
田家:FM COCOLO J-POP LEGEND FORUM 案内人・田家秀樹です。今流れてるのは去年の12月14日に発売になりましたGLAYのTAKURO さんの3枚目のソロアルバム『The Sound Of Life』の1曲目「Sound of Rain」です。今月の前テーマはこの曲です。
関連記事:GLAY・TAKUROがスティーヴ・ルカサーと対面「音楽の世界で自分たちらしくあるために」
今月2023年2月の特集は、GLAYのTAKUROさん。GLAY のデビューは1994年、来年が30周年。平成の音楽シーンのど真ん中を駆け抜け、歴史に残る数々の記録を打ち立てたモンスターバンドのリーダー、そしてギタリスト。何よりも人々に愛される名曲の数々を産んだ希代のソングライターであります。1971年生まれ、昭和世代ですね。今51歳、今年52歳です。
新作の『The Sound Of Life』は3枚目のソロアルバムなんですが、これまでの2枚『Journey without a map』『Journey without a map Ⅱ』とはかなり違います。バンドのギタリストでもある彼が初めてピアノで作ったアルバムなんですね。コロナと戦争に翻弄された2022年の世界の祈りを代弁しているようにも聞こえました。今年は令和5年です。今月は新作アルバムを入口にして、令和になってから発売されたGLAYの作品を辿っていこうという特集です。僕らは今どんな時代を生きてるのか、そして50代になったTAKUROさんは何を思って、GLAYはどこに向かおうとしているのかという4週間です。今週は新作のソロアルバムについてじっくり伺います。こんばんは。
TAKURO:こんばんは。GLAY のギターのTAKUROです。よろしくお願いします。
田家:新年年明けはどんなふうに迎えられましたか?
TAKURO:日頃ベースがロサンゼルスなので、こっちに帰ってくるとそれぞれの家族の仲間たちが待ち構えていて毎晩人に会う。そんな年末年始でしたね。
田家:このアルバム 『The Sound Of Life』のプロモーションもいろいろおやりになっていて。
TAKURO:今回はやりましたね。濃いインタビューが多かったですね。もう仕上がってるので何でも聞いてください(笑)。
田家:はい(笑)。それぞれの曲がどんなイメージだったのかって細かい話はこの後に伺っていこうと思うんですが、今までの2枚と違うものにしようという意識はどの辺から始まったんですか。
TAKURO:いわゆる昨今の世界情勢によって心動かされたっていうのは確かにあるんですけど、その根底にあるのは自分の作曲スキルの見直しですかね。
田家:作曲スキル?
TAKURO:前作の2枚『Journey without a map』のプロジェクトに関しては、自分が一番やらなければいけない、いわゆるギタープレイヤーとしてのキャリアの見直し。B'zの松本さんと一緒に作ることで、改めてGLAYにおけるHISASHIとTAKUROのコントラストだったり、自分が70歳になって1ギタリストとして何をやりたいかを見直す旅ではあったんです。90年代はGLAYのメインソングライターとしてやってましたけども、今となっては他の3人がそれぞれソングライターとしてぐんぐん成長していく中、90年代の名残みたいなところでずっとやっていくのか、それとも新たな自分の作曲家としての可能性を開くのか、50歳を前に考えていて。どう磨けばいいかぼんやりとしかわからなかったんですけど、そこにロシアのウクライナへの軍事侵攻があって。心揺さぶられるニュースの中で改めて自分が音楽家としてその世界を描いてみたいと思って、1人ピアノに向かってピアノでほとんど作りました。
田家:インタビューの中で半分ユーモラスな形で使われたキャッチフレーズがあって。「絶対安眠保証」。あれはどこで思いついたんですか。
TAKURO:あれは冗談というよりちょっと真面目な話なんですけど、自分が音楽家として何を人々にもたらしたいかというと、圧倒的な心の安らぎとか安心とか、ほっと一息つけるようなもの。楽しいもの、心躍るもの。それがかつてはロックって呼ばれていたんだろうし、今の僕にはGLAYなんですけれども、その中でも安心して眠ることができる、そこにいざなえる音楽は、ある意味究極の形なんじゃないかと思って。
田家:戦火のもとでは安心して眠れませんからね。
TAKURO:そうですね。皆さんの心の中にもあるであろう故郷の風景とかの中に多分、いくつか音があると思うんです。ふるさとの川のせせらぎだったり、ふるさとの海の波の音、風の音、太陽の煌めき。そういったものに対して心を預けながら、そこに何を足したらTAKUROミュージックになるだろうか。今の自分ができる皆さんへ提供できる安らぎの音楽。この激動の時代の中で不安で眠れないとか、未来が心配だって人のために、せめて穏やかな眠りを提供できるもの。それを考えたときにこの『The Sound Of Life』っていう形になりましたね。
田家:とっても情景が浮かんでくる曲ですが、この曲はどんなイメージだったんですか?
TAKURO:(アルバム)全体にも言えることなんですけど、頭の中に1枚の絵があるんです。1枚の記憶の欠片みたいなもの。それに対して素直にメロディをつけていけばよかったので結果アルバム10曲を4日間で書き上げたんです。「Sound of Rain」に関しては、窓を叩く雨の音だったり、地面を濡らす雨の音だったり、葉っぱに落ちる雨の音、それぞれ自分の生きてきた時代、年齢、場所によって変わってくる、何かしら人の人生に投影できるものがあって。ちょっと不思議なのは、いくつかの曲以外に関しては、いわゆる人間が持っている感情みたいなもので作ってないというか。もっと感情から切り離された、自分が何も考えないで、その絵から聞こえてくる音っていうのかな。悲しいからこういう曲を書きましたとか、嬉しいからこんな曲になりましたっていうのは、このアルバムの中では本当にいくつかしかない。この曲に関しては僕の心の中にある風景にいくつかの音を出したらこうなりました。
田家:アルバムタイトルが『The Sound Of Life』で、こちらは「Sound of Rain」。それぞれのタイトルは関係しているんですか?
TAKURO:最初、『Sound Of Rain』っていうタイトルでリリースしようと思ってたんですよ。この曲からスタートしたようなアルバムですし、取っ掛かりとしては皆さんにも安らぎを与えられるんじゃないかなってことで。だけどアルバム全曲が完成して、何度も聞いてるうちに、これはきっと自分の人生であり、誰かの人生の音なんじゃないかなって。みんなが持ってる心象風景、それに何かしら肩に手を添えるたり、背中をさすってあげたり、そういうようなものになればいいなって願いも込めました。
田家:なるほど。この曲があったからこのアルバムタイトルになった。
田家:2016年12月に発売になったTAKUROさんのソロの1枚目のアルバム『Journey without a map』のタイトル曲「Journey without a map」ですね。今回もこういう流れを想像した人が多かったと思うんですよ。
TAKURO:実際に「Journey without a mapⅢ」に関しては準備も進めていて。プロデューサーの松本さんにはデモテープを送ったりもしてたんですけど、コロナ前ぐらいかな、コロナ禍になってどのミュージシャンも1回活動を見直すことになり、ソロ云々よりもまずGLAYという本体をきっちりしなきゃいけなかったので、ソロのことは全然忘れていましたけどね。特に最初のコロナの2年間においては。それで、去年の2月の軍事侵攻があって今作に着手しましたけど、あくまでもこのギタリストとしての自分の夢を追いかけるという点で(Journey without a mapは)3枚目までは作りたいですね。
田家:ピアノにしようと思った一番大きな理由は何だったんでしょう。
TAKURO:「Journey」のプロジェクトのとき、ギタリストとして自分が今まで積み重ねてきた経験みたいのがあって。簡単に言うと手ぐせ、好きなコード進行、もうこれだっていう必殺の何か。その呪縛から逃れる必要が1作曲家としてはあった。
田家:呪縛。
TAKURO:そうですね。いくつか考え方があって。小田和正さんも言っていたけど、俺は風を歌ってばかりじゃないかとずっと悩んでたんだけど、50歳くらいのある時いいじゃないかと思ったと。その迷いってすごくわかるなって。常に新しいことに挑戦したいっていう自分もいて、確かに新しいんだけど自分が全然楽しくないってのもある。逆に、またこれ?って思うんだけど、自分がものすごく自信を持って味は保証して出せる定食みたいなものもある。この二つ中でソングライターはいつも揺れていると思うんです。どのバンドもアーティストも、僕も自分の絶対の必殺技には自信を持っていて、これを出せば皆さんを幸せにできる、楽しませられる、それはわかってはいるけど、とはいえまたこれ擦るのかっていう悩みはいつもあって。でもピアノになると、いわゆる手癖が使えないので。その代わり、さっき言った自分の心の中にあるに絵に対して、あと三つだけ音を足したら多分TAKUROミュージックになるだろうっていう仮説を立ててから逆に自分を見てみるっていうことをやりました。
田家:TAKUROさんの3枚目のソロアルバム『The Sound Of Life』の3曲目「Red Sky」。
TAKURO:この曲だけは他の曲たちと違って、風景というよりわりと人物のイメージが浮かんでましたね。世界のどこか片隅で健気に生きる人々みたいな、そういうイメージがあって、その人たちに贈るメロディっていう。作り始めのきっかけはそんな感じだったと思います。
田家:この曲にはEru Matsumotoさんが参加しております。
TAKURO:Eruちゃんはニューヨークからちょうどロサンゼルスに引っ越してきたこともあって。
田家:前からご存知だった?
TAKURO:いや、共通の友人がいて、こういう人がいるよっていう事で、実際に会ってみたら写真のイメージとは違ってチャキチャキの気分のいい姉さんって感じで。最初から気があって、今こういうソロアルバムを作ってるんだけど、もしよかったら参加してくれないかって。もちろん日本でもニュースになってましたけど、2022年におけるグラミー賞では彼女自身受賞されていて。グラミー賞を受賞した人はどういう人なのかなと思っていたんですけど、本当に気のいいミュージシャンって感じで、チェロ1個持ってスタジオに来てくれました。
田家:グラミー賞でいうと、もう1人Jon Gilutinさんが一緒にやっているんですよね。
TAKURO:Jon Gilutinってご存知でした?
田家:中島みゆきさんのロサンゼルスのレコーディングのときに一緒でしたよ。
TAKURO:そうなんですよ。今回こういったプロジェクトを進めるにあたって、作曲家に徹するつもりだったからギターを入れるつもりがなかったんですよ。ロスの知り合いを通じてJonを紹介してもらってピアニストとして、いわゆるパートナーとしてよろしくねなんて言って、どんどんできた曲を送って、Jonがより良いピアノの表現力で曲を完成させていったんですけど、TAKUROのギターを入れたほうが面白いってJonの提案を受け、僕もその気になって、その日のうちにサンセットのギターセンターにガットギターを買いに。
田家:ナイロン弦、やわらかくていいですね。
TAKURO:最初はアコギを買いに行ったのかな。だけどポツンとガットギターが売ってたんだ。そん中でナイロン弦(の音)があうかもって思い、20万円ぐらいの安い感じの名もないメーカーなしのガットギターを買って。そいつがまたいい働きをしましてね。いい声で鳴くというか。
田家:ヒーリングっていうのはその時には頭にあったんですか。
TAKURO:ありました。いわゆるポップミュージックじゃないもの。鳥のさえずりとか遠くから聞こえる動物の声と同じようなものを作りたいと思ったんです。それは音楽と身体との距離の話なんですけど、日本のポップミュージックいわゆるJ-POPっていうのはどういう距離なんでしょうね、人々の体と。
田家:面白いですね。
TAKURO:その話は、このアルバムができてからメンバーとかプロデューサーの亀田さんとかとすごくたくさんして。世界の音楽とK-POP、日本のJ-POPの行方みたいな話まで広がっていって。このアルバムきっかけで、自分と音楽、そしてその音楽と人々の距離みたいなものをすごく考えるようになりました。
田家:次の曲はそういう中で生まれた曲です。
田家:この曲はどんな?
TAKURO:戦争の善し悪しみたいなものを議論するつもりはないんですが、戦い終わった後の心の傷っていうものを指導者はどう考えているんだろうかってことばかり考えていたかな。自分がやってしまったことの罪深さを抱えて楽しく生きられるほど人間は強くはないのではないかと。今の時代、前回前々回の大戦とは違って、SNSもあるだろうから自分がしたことの情報みたいなものはどこからでも手に入ってくると思うんですよね。ロシアにしてもウクライナにしても、どこの国の何かしらの紛争にしても。その中で心壊れそうな人たちがたくさんいるだろうなって。今まさに戦場にいて、明日死ぬかもしれない、今晩かもしれないっていう極度の緊張感が何か伝わるというか。明日いないかもしれない自分がどうやって希望を持っていければいいかって人たちが何千万人いるんでしょうね、この地球上に。その人たちの気持ちみたいなものがガラスが透けて外が見えるみたいなに感じられて。それで共感できるというか。
田家:透けて見える間に泣けるアルバムです。
田家:TAKUROさんの3枚目のソロアルバム『The Sound Of Life』の6曲目「Ice on the Trees」。TERUさんがジャケットをお描きになっているんですよね。
TAKURO:そうですね、お願いしましたね。
田家:ジャケットのイメージと「Ice on the Trees」のイメージがとってもよく合っている感じがありましたけど。
TAKURO:びっくりしましたね。出来上がってラフミックスを送って、このアルバムに対して絵を描いてほしいって伝えて。最近すごく絵を書くのにはまっているみたいで、創作意欲が止まらないそうです。そんなこともあってお願いしてみたら、2日もかからないで出てきましたね。もう一発 OK。まさに「Ice on the Trees」を描くとき、この絵が自分の頭の中にあったんだっていうような。ちょっとしたシンクロニシティにちょっとびっくりというか。
田家:今回のTAKUROさんのインタビューをいろいろ拝見して、そうだったんだと思ったのが、ご自分の中の音楽の順番っていうのがあって、作詞が1番、作曲2番、3番ギターっていうのがあった。
TAKURO:作詞家としての自分が一番、世の中に何かしらご奉仕できるんじゃないかと。とはいえ、GLAYはバンドなので、その詞に対してメロディがないと歌にならないから歌を作ることになったんだけど、僕は元々作詞からスタートだったので。曲を作る人がいないから、やってみるわってやってみたらできちゃったみたいな感じなんですよ。一番好きなのはギターなのに、一番自分に才能がないって感じるのもギターなんですよね。
田家:ギターは今までちゃんと勉強したことがないんだと言われてましたもんね。
TAKURO:ないですし、表現者的なところは多分子供の頃からあったんだろうから、いわゆる嫌なことをやらなくてよかったんですね、プレイヤーとして。自分の好きなことを弾けば、それで成り立っちゃうのがオリジナルをやってるバンドの醍醐味なんでしょうから。本来なら本当にやるべき高校時代にいろんな曲をコピーするとか練習するとかっていうのをすっ飛ばしてGLAYをやっちゃったんで。
田家:そういう人が、言葉のない音楽を、しかも自分の普段の得意な楽器ではないピアノでやるっていうのは二重の話の縛りになるわけでしょ。
TAKURO:そうですね。最近いわゆる科学でいう量子にはまっていて。そういう本を去年ぐらいから読み漁ることが多い中で、いろいろ気付かされることも多くて。今回の自分の中の曲作りのある種限界とか達成感を感じるけども、もっともっと顕微鏡で見たときに違う自分のメロディがあるんじゃないかってたくさんの文献を読んでいるうちに思って。広大な宇宙ですら、わずか角砂糖1個からスタートするみたいな量子論が面白くて。そういうのにも影響されて、ギターがなくても言葉がなくても自分が20代の頃に培った誰かの心を癒せるような音楽家になれるんじゃないかって。それを仮説として立てて、またそこからスタートしていって、そんな事ばっかりですよ。
田家:メロディーメーカーだなって思った曲がいろいろ入っていて、8曲目の「Bercy」と9曲目の「Early Summer」はそういう曲でしたね。
TAKURO:そうですね。メロディアスであるということは、逆に言うと下世話ですからね。
田家:あははは。
TAKURO:ミュージシャンに「いいメロディ書くね」なんていうのは、あんた下世話だねって言ってるのと同じ意味ですから。ミクロの世界を旅してるつもりだったんですけど、「Bercy」に関してはどっか家の近所の喫茶店かなにかで見た1920年代のパリの公園の風景を見て音が生まれた。それもちょっと入り込んだりもしてて。そしたら、言うところのやっぱりポップですよね。恥ずかしいです。
田家:恥ずかしいと感じます?
TAKURO:恥ずかしいと感じる。
田家:この2曲があるから、とても聞きやすいアルバムになってる感じもしましたけどね。
TAKURO:メロディがいいなと感じられたらちょっと負けっていうような中で、それでも地が出ちゃうというか、どこまでいっても職業作家の哀しい性といいますか。
田家:いやでもそれはいい面じゃないですか。
TAKURO:いい悪いではないんです。顕微鏡で見たそこにある自分の中の作曲家としての一面を取り上げるっていう。もちろんジャンルとして音楽で楽しんでもらってなんぼなので本当に嬉しいんですけれど、ちょっと恥ずかしいなっていう。
田家:アルバム『The Sound Of Life』の9曲目「Early Summer」。「Bercy」とこの2曲が、いわゆるヒーリングアルバムじゃないものを感じさせたんですよ。
TAKURO:奇跡の4日間って僕は呼んでいるんですけど、その中で自分の20何年間に出来たGLAYとしての自我が出てしまいまして。
田家:ある種のあの署名みたいなもんでしょうから。他は無記名な曲のようなところもあったんですよ。そのよさももちろんあって。
TAKURO:だからやっぱりこのアルバムの中に必要な登場人物ではあったんだろうなとは思います。
田家:登場人物っていうことでいうと「Letter from S」っていうのがあって、それともう一つ「A Man Has No Place」っていうのもあるんですね。この2曲のタイトルはどういうタイトルだったんだろうと。「from S」っていうのはSって人がいるのかなとか。
TAKURO:せりですね。妻の名前。今、それこそロスと日本の二重生活で。子供たちの学校でロサンゼルスに引っ越して、GLAYがあるときは日本に帰ってくるっていう。子供の頃から家族を作って、子供たちには寂しい思いをさせないお父さんでありたかったんですけど、運命のいたずらというか。1年のうち半分離れて暮らすってことになってしまい。もうちょっと大きくなったら子供たちでやってもらって、妻には帰ってほしいんですけど。そのやり取りなんかもちょっと頭の中にあったりして。
田家:なるほどね。「Pray for Ukraine」の前に「When I Comb Her Hair」、彼女の髪をすくとき。これは奥様?
TAKURO:いや、これは世の中の働く人たち、男女問わずね。自分のキャリアアップだったり、いわゆる自分の夢を叶える。そういうことも大事なんだけど、僕はまだ51年の短い人生の中で、本当に100万枚売ることと、娘の髪をとかすこと、これが同じぐらい大事だと思っています。本当にどっちがどうではなく、GLAYとして上ばっかり目指していきたいんだけれども、やっぱり家族を持ったときに、それ以外にも人生にはすごく醍醐味があって、意味がある。人としての大事さとか、音楽家としての成長とか、いろんなことを考えさせられるGLAYとしてのキャリアだったので、それもまた曲になりました。
田家:「A Man Has No Place」というのは誰のことなんだろう。
TAKURO:頭の中に浮かぶのは、何年か経った後の自分。少年から青年、青年から中年、そしておじいさん。多分田家さんも気づいているだろうし皆さんもそうでしょうけれども、別に結婚して幸せになろうが、ある種の孤独はついて回るし、どこにも自分の居場所がないっていうのは十代だけの特権じゃないなって。
田家:なるほどね。
TAKURO:この業界の成功者とかに会って話もするけれど、どんなに成功しようが失敗しようが、光が強ければ強いほど影が濃くなるようなもので、まあ孤独ですよね。だけど二つの種類があって、孤独の中でも孤立している人はやっぱ悲しい。見てても痛々しいよね。だけど孤独だけれども、一緒に並走してくれるような人たちがいる。そういった成功者に関しては、本当に奇跡のバランスをよく保ってるねっていうことで本当に素晴らしいと思います。
田家:このアルバムには並走者がいます。10曲目「In the Twilight of Life」。Donna De Loryさんが参加しております。
田家:アルバムの最後の曲「In the Twilight of Life」、人生の黄昏。彼女と一緒にやるっていうのはどの辺で決まったんですか?
TAKURO:このアルバムの制作にあたって、さっき言ったようにいわゆるウクライナへの軍事侵攻、もう一つはやっぱり長くに渡ってみんなを苦しめてるコロナで、いわゆる分断が進む中で、人間が今どんどん不寛容になったり、何か調和できるもの、一緒にできるものということで、僕が一番得意なのは言葉だなと。何語であるとか特に関係なくて、その思いをその都度曲に注入することで今までGLAYをやってきたんだけども、今回この曲を1曲入れることで、今後世界中、特にウクライナの人とかとセッションしたいなって。日本で理解してくれるシンガーがいたら、この曲を歌ってもらって、一緒にどっかのステージでやれればいいし、もしどこの国に行って何かを演奏しようって言われたときに、僕はこの曲をやらないかって提案したいなと思っていて。あるイベントで坂本美雨ちゃんとこの曲をやったんだけども、このアルバムの真の思いみたいなものは、この曲から入口として入ってもらってもいいのかなって。
田家:「Pray for Ukraine」と対になっている。
TAKURO:なっていて、どこの国の誰とでも一緒にできるように、「Pray for Ukraine」って思いを一つにできるようにってことで、アルバムの中に同じメロディを二つ入れている。だからこの曲だけ、いわゆる入門編としての歌入り。本当だったら必要ないといえばないんですけど、改めて対立している二つの勢力の平和だったり、友好だったり相互理解だったり、そういったものを思うとき、やっぱり一番強いのはなんだかんだ言って歌声だなと。人々を一つにまとめるのはね。プラハの春のときは「ヘイジュード」とか。そういうのあるじゃないすですか。シンガロングするものもこのアルバムに入れておきたいなと思って。今後、機会があればいろんな国のミュージシャンとこの曲一緒にやりたいなと思っています。
田家:来週からは令和に発売されたGLAYの作品を聞いていこうと思っているんですが、来週いろいろお聞きする『NO DEMOCRACY』は、TAKUROさんが言葉にこだわったアルバムって最初の情報が流れておりました。
TAKURO:そうですね。確かに近年のGLAYにはない日本語とか、いわゆるニューミュージックからJ-POPの流れの中での自分の受けてきた影響が色濃く反映されたアルバムですね。
田家:言葉を封印したアルバムの次、来週は言葉にこだわったアルバムということで。でもこのアルバムを作ったことはTAKUROさんの今後にとって大きいでしょうね。
TAKURO:大きいですし、スタッフから日々いろいろ連絡があるんですけど、オーストラリアでちょっといい感じだよとか、フィンランドのヘルシンキで聞かれてるみたいだよとか。今までのGLAYの中ではなかったことですし、例えばJourneyは完全にアメリカの音楽が土台になってるから、自分のキャリアの中でも意外なリアクションがちょっと面白くて、このシリーズもまたときが来たらやろうかなと思っています。
田家:50代のコンポーザーとして、また違う扉が開いたということで、来週は『NO DEMOCRACY』についていろいろお聞きします。ありがとうました。
TAKURO:ありがとうございました。
流れているのは、この番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。どんな職業でも、自分を的確に最大限表現する一番いい方法が、一番得意な分野、得意なやり方でというのが一般的な考え方ですよね。TAKUROさんのこれまでのソロアルバム2枚『Journey without a map』はギタリストとしての修行と言ってたんですね。つまり自分が一番得意な分野でありながら、それをもっと上達するためにもう1回勉強し直すというアルバムだったんですが、今回はそうじゃないですね。最初聞いたときは本当にびっくりしました。ソングライターが言葉を使わないでどんな表現をするのか。しかも自分がずっと日頃やっている楽器ではないピアノに向き合って何が表現できるのか。
彼が重きを今まで置いていたのが、作詞、作曲、ギターの順だったというの今回のアルバムの重要なキーといいますか。言葉が自分の一番重要だと思ってた人が、言葉を使わないで不慣れな楽器で作品を作った。これは50の手習いという言い方が当たってるのかもしれないですが、そういう意味で言うと、どっかで辿々しくも聞こえるんですけど、それがとってもリアルなんですね。気持ちが技術を超えていくということが音から伝わってくる。特に間から伝わってくるっていうのかな。やっぱり歌を書いていた人ならではの間だったりして、情景が見えてくる。4日間で情景を思い浮かべながら音にしたという話がなるほどなと思えるアルバムでもありました。一番得意な武器、得意なやり方を放棄して自分と向き合った。祈りのようなアルバムなんだろうと思います。来週からは彼の主戦場、GLAY、ポップミュージック、時代。その中で表現してきたことをお聞きしていこうと思います。
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp
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