ジャクソン・ブラウン来日公演を目撃すべき8の理由
Rolling Stone Japan / 2023年3月11日 12時0分
現役で勢力的に活動を続けるシンガー・ソングライター、ジャクソン・ブラウン(Jackson Browne)が6年ぶりに来日、3月20日の大阪から広島、名古屋、東京を回る。昨年でソロ・デビュー50周年の節目を迎えた彼の足跡を改めて振り返りながら、開幕目前のジャパン・ツアーに備えたい。
1. ロック・メディア、同業者が認める赤心の詞世界
2015年、米ローリングストーン誌によって〈史上最も偉大なソングライター100人〉の一人に選出されたジャクソン・ブラウン。同誌は2012年に発表した〈歴代最高のアルバム500選〉リストにも、『フォー・エヴリマン』(1973年)、『レイト・フォー・ザ・スカイ』(1974年)、『プリテンダー』(1976年)と3枚も彼の作品を選んでいる。
2004年、ジャクソンがロックンロール・ホール・オブ・フェイムに殿堂入りした際、スピーチを披露したブルース・スプリングスティーンは、「ジャクソンは自分が言うこと、曲のテーマについて、よく考えることの大切さを教えてくれた最初のソングライターのひとり」と激賞し、「プリテンダー」「青春の日々」「フォー・エヴリマン」「アイム・アライヴ」「悲しみの泉」「孤独なランナー」「ダンサーに」「ビフォー・ザ・デリュージ」と次々に曲名を列挙。さらに、「最も美しい別れの音楽、傷心の音楽」として、「スカイ・ブルー・アンド・ブラック」「リンダ・パロマ」「シェイプ・オブ・ア・ハート」を挙げてもいる。
2. 誤解された「テイク・イット・イージー」
また、ブルース・スプリングスティーンは同スピーチで、イーグルスが最初にジャクソンの曲を大ヒットさせたことにも触れ、「きっとドン・ヘンリーも同意してくれると思うけど、ジャクソンが彼らに提供した曲は、彼らが書きたいと思う曲だったはずだ」と自論を述べた。
イーグルスの出世曲となった「テイク・イット・イージー」(1972年)は歌詞が楽天的過ぎると批判されることもあった。『フォー・エヴリマン』に収められた自演ヴァージョンを聴くと、陽気な人生賛歌とは異なる、拭いようのない陰影を読み取れるはず。イーグルス版「テイク・イット・イージー」の快活な印象に囚われてあの曲を批判した人の多くは、「気楽に行こう」という言葉の背景にある痛みを見落としていたのではないか。ヒッピー幻想の終焉、出口が見えないまま長期化していたベトナム戦争がもたらす疲弊感……そうした70年代前半のアメリカの世相抜きでは決して語れない曲だし、だからこそこの曲は大衆の心を掴んだはずだ。
3. 世代を越えて聴き継がれる『レイト・フォー・ザ・スカイ』
先述のスピーチで、ブルース・スプリングスティーンは『レイト・フォー・ザ・スカイ』について、「70年代、ベトナム戦争後のアメリカで、ジャクソンの傑作『レイト・フォー・ザ・スカイ』以上に、エデンからの転落、60年代の長くゆっくりとした余韻、心の傷、失望、使い果たした可能性を捉えたアルバムはなかっただろう」と語っている。タイトル曲に象徴されるように、私小説的な手法で綴られたこの痛みに満ちたアルバムは、今や同世代に限らず、広く聴き継がれる”生きた古典”となった。
近年ジャクソン・ブラウンと親交を深めているフィービー・ブリジャーズは、2018年にロンドンのオンラインメディアThe Line of Best Fitの企画でお気に入り曲を挙げた際、『レイト・フォー・ザ・スカイ』から「ダンサーに」を選んだ。母親の影響でジャクソンを聴き始めたというフィービーは、この曲について「とても悲しい曲で、死がテーマだけど軽々しく扱っていない」「12歳の私になんだか響き、大人になっても心に残っている曲」とコメントしている。
フィービーと同世代のあいみょんは、「影響を受けたアーティスト」のプレイリストに「レイト・フォー・ザ・スカイ」を選んでいる。父親の影響で聴き始めた浜田省吾の「初恋」の歌詞でジャクソン・ブラウンを知り、彼の作品を愛聴するようになったそうだ。
4. 政治的、社会的なテーマに取り組む姿勢
しかし『レイト・フォー・ザ・スカイ』に代表される内省的な表現のみにジャクソンは止まらなかった。反原発運動を支持して、ベネフィット・コンサート『ノー・ニュークス』に出演したのが1979年。そして80年代半ばからは、政治的、社会的テーマをより積極的に取り上げるようになっていく。1985年には南アフリカの人種隔離政策に抗議するオールスター・シングル「サン・シティ」にも参加した。
1983年の『愛の使者』(Lawyers In Love)で米ソの第二次冷戦を風刺的に取り上げてはいたが、次の『ライヴズ・イン・ザ・バランス』(1986年)では、ニカラグアの反革命武装勢力、コントラを支援して内戦を悪化させたレーガン政権への怒りがはっきりと表明された。引き続き社会的テーマに取り組んだ『ワールド・イン・モーション』(1989年)でカバーしたリトル・スティーヴンの「アイ・アム・ア・ペイトリオット」は、ナショナリズムとは異なる立場から愛国心について語る曲で、今もライブで歌い続けられている。
5. 最新作『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』の精神
ジャクソン・ブラウンは2020年にコロナ・ウィルスに感染。療養期間を終えてから、ソーシャル・ディスタンスを保ちつつ最新作『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』を仕上げた。実際はコロナ禍以前から少しずつ制作が進められていた作品だが、人種間の問題、民主主義の後退など、コロナ禍を経てより顕在化してきた世界の状況を予見したような内容になっている。
タイトル曲は2020年に公開された、プラスティック廃棄物による深刻な海洋汚染をテーマにしたドキュメンタリー『The Story Of Plastic』の予告編に使用された曲。真正面からメッセージを突きつけるタイプの曲と異なり、廃棄物の問題のみならず、アメリカをはじめとする先進国の問題が浮き彫りになってくる、想像力を刺激する歌詞が印象に残る。
この曲と共に来日公演で歌われそうな曲が、「アンティル・ジャスティス・イズ・リアル」。タイトルから想像するほど押し付けがましさはない。「正義が実現するまで踏ん張り続ける」と明言しながらも、聴き手には自分自身に問いかけてみることを促す。思考することを放棄したら何も変わらないのをわかってもらうために、噛んで含めるように語りかける曲だ。
「スティル・ルッキング・フォー・サムシング」は、聴けばすぐにジャクソンとわかる、メロディのみずみずしさがうれしい。歌詞を見ると、「孤独なランナー」の続編という感じもある。「何かを探し求める」という精神は一貫しているが、そこに「わけのわからないまま終わってしまいたくないよね」と添えられ、70代になったジャクソンの心境が滲んで見える。もう残された時間はそう長くない、という覚悟が本作に独特な緊張感を与えているようにも思う。
6. コロナ禍を挟んでようやく実現した久々の来日
2020年は予定されていたフジロックフェスティバルへの出演が幻となり、落胆したファンは多いはず。幸い、健康状態が戻ってからは再び勢力的にコンサートを行なっており、昨年敢行された「An Evening With Jackson Browne 2022」ツアーのセットリストを見ると、まさにキャリア集大成と言うべきバランスのよい選曲になっている。
古くからのファンに求められているイメージもよく理解しているジャクソンは、過去の人気曲を大事にしながら、今伝えたい最新作からの曲もうまく取り混ぜてセットリストを組んでいる。去年までの演奏曲目を見る限り、どのジェネレーションのファンが観ても失望させられることはまずないだろう。2015年3月のスタンディング・イン・ザ・ブリーチ・ツアーを収録した『ザ・ロード・イースト -ライヴ・イン・ジャパン-』で予習しておくと、近年のバンドセットの雰囲気が把握しやすいと思う。
7. 同世代の仲間たちとの相次ぐ別れ
クロスビー・スティルス&ナッシュの東京公演にジャクソン・ブラウンが飛び入りするというミラクルが起きたのは、早いものでもう8年も前のこと。ソロ・デビュー以前からジャクソン・ブラウンの才能を認めて励ましたローレル・キャニオン時代からの仲間であるデヴィッド・クロスビーは、今年1月に急逝してしまった。
続いて2月には長年活動を共にしてきたキーボード奏者で、『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』にも参加したジェフ・ヤングが他界。そして3月に入ってから、今度はジャクソンの作品に多大な貢献を果たしたギタリスト/マルチプレイヤー、デヴィッド・リンドレーの訃報が伝えられた。ここまで仲間の訃報が続くとは……ジャクソンのファンにとっても、彼自身にとっても、あまりにも辛い年だ。
2016年にはイーグルスのグレン・フライも鬼籍に入った。わずか10年足らずの間に亡くしてきた多くの仲間たちについて、恐らく日本のステージでもジャクソンから何らかのコメントや、場合によってはトリビュート的な演目もあり得るのでは、と想像する。厳しい時期にも歌い続けるジャクソンの姿を、しかと見届けたい。
8. 若手たちとの積極的なコラボレーション
今年の10月で75歳になるジャクソン・ブラウンだが、齢が離れた若手ミュージシャンとの交流も積極的に行なっている。その筆頭は、先述のフィービー・ブリジャーズ。「マイ・クリーヴランド・ハート」のプロモーションビデオにも看護師役で出演した彼女は、ジャクソンが自分でお金を払ってアルバムを買うほどのお気に入り。2ndアルバム『パニッシャー』(2020年)に収録されていた「Kyoto」にジャクソンのボーカルをフィーチャーした新バージョンを2021年にシングルとして配信したことも記憶に新しい。
以前から交流を続けているブレイク・ミルズとは、つい最近もPrime Videoで配信が始まったドラマ『デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃』に提供したコラボ曲「Silver Nail」(ジャクソン、ブレイク、キャス・マックームス、マット・スウィーニーの共作)がお披露目されたばかり。このドラマはテイラー・ジェンキンス・リードの小説を映像化したもので、フリートウッド・マックを思わせる架空のバンドの活躍を描いた内容が話題を呼んでいる。堅物っぽいジャクソンのイメージからすると意外なコラボだが、こんな形でも注目を集める2020年代のベテラン、この先もまだまだ我々を驚かせてくれそうだ。
ジャクソン・ブラウン ジャパンツアー2023
2023年3月20日(月)大阪・フェスティバルホール *Sold Out
2023年3月22日(水)広島・JMSアステールプラザ 大ホール
2023年3月24日(金)名古屋市公会堂
2023年3月27日(月)東京・Bunkamura オーチャードホール *Sold Out
2023年3月28日(火)東京・Bunkamura オーチャードホール *Sold Out
2023年3月30日(木)東京・Bunkamura オーチャードホール
■チケット(税込)
S席:¥14,000 A席:¥13,000
公演ページ:https://udo.jp/concert/JacksonBrowne2023
ジャクソン・ブラウン
『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』
発売中
再生・購入:https://JacksonBrowne.lnk.to/DownhillFromEverywhere
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
大反響!ブルース・スプリングスティーン「ボーン・イン・ザ・USA」日本独自企画盤「40周年記念ジャパン・エディション」実現までの経緯を直撃
東スポWEB / 2024年11月17日 10時14分
-
「エゴは外に置いてきて」 クインシー・ジョーンズ、個性派スターをまとめあげた『We Are The World』の奇跡
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月6日 17時32分
-
ブルース・スプリングスティーン「死の問題が人生の一部に」新作ドキュメンタリーで語る死生観
シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年11月6日 7時12分
-
音楽界の巨匠クインシー・ジョーンズさん死去 「スリラー」など功績多数
映画.com / 2024年11月5日 20時0分
-
【若い才能を発掘・育成する継続的な取り組み Discover Future Stars】Bunkamura オフィシャルサプライヤースペシャル『未来の巨匠コンサート2024』開催レポート
PR TIMES / 2024年11月5日 17時15分
ランキング
-
1《スケジュールは空けてある》目玉候補に次々と断られる紅白歌合戦、隠し玉に近藤真彦が急浮上 中森明菜と“禁断”の共演はあるのか
NEWSポストセブン / 2024年11月28日 7時15分
-
2「私庶民よと悦に浸ってる」工藤静香スーパーのセルフレジ動画に批判と“撮影禁止”疑惑の指摘
週刊女性PRIME / 2024年11月26日 18時0分
-
3「THE TIME,」安住紳一郎アナ、鳥取「生中継」の調理で大ハプニング…SNS大反響「放送事故だよね」「料理が…えらいことになってる」
スポーツ報知 / 2024年11月28日 8時30分
-
4「ペトロールズ」の河村俊秀さん急死 45歳 自宅で倒れ…「深い悲しみの中におります」
スポニチアネックス / 2024年11月28日 1時35分
-
5「有働Times」好調で囁かれる「報ステ」禅譲説 日テレからの“一本釣り”はテレ朝・早河会長の肝いり
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月27日 9時26分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください