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M83が語るファンタジー、シューゲイザー、10代の輝きを求め続ける理由

Rolling Stone Japan / 2023年3月23日 18時45分

M83のアンソニー・ゴンザレス

「こんなアルバムを待っていた!」M83の最新アルバム『Fantasy』を聴いたとき、心のなかでガッツポーズを決めてしまった。フランスが世界に誇るロマンティスト、アンソニー・ゴンザレスにとっても久々の会心作となったのではないか。

既報の通り、アンソニーは制作時に2005年の名作『Before the Dawn Heals Us』を意識したそうで、初期の代名詞だったエレクトロ・シューゲイザーの轟音とアンビエンス、ダイナミズムが蘇っているのは大きなトピック。さらにそれだけではなく、2008年の『Saturdays = Youth』での美しいメロディと青春のきらめき、2011年の特大ヒット作『Hurry Up, We're Dreaming』における壮大かつドリーミーな世界観、2016年の問題作『Junk』で拡張させたソングライティング、映画スコアや2019年の前作『DSVII』で発揮してきた巧みな音響設計まで、20年のキャリアで培った経験がここには集約されている。

SF映画にも通じる未来的なサウンドスケープを届けてきたアンソニーだが、彼自身はどちらかといえば昔気質のクリエイターで、数字ばかり求められる現代では少なくなった正真正銘の夢追い人でもある。その印象は、2016年の来日時にインタビューしてから7年が経過した今も変わらない。Zoomで話を訊いた。



―『Fantasy』は素晴らしいカムバック作だと思います。「集大成」とも「原点回帰」とも形容できそうですが、自分にとってどんなアルバムになりましたか?

アンソニー:このアルバムは、僕にとっては新しい章となる作品。自分の人間としての進化を感じられるアルバムだからね。僕は20年のキャリアの中でたくさんの経験を積んできた。かなりの時間が経過しているわけだけど、そういう状態の中で、まだ10代の頃の自分とつながっているようなアルバムを作ったんだ。それは、新しい音楽を作るうえでとても良い方法だったんじゃないかなと思う。

―アンソニーさんはこれまでもずっと、「10代の頃の自分」と繋がり続けようとしてきましたよね。『Before The Dawn Heals Us』に収録された名曲「Teen Angst」が象徴的ですが、M83楽曲の大半がティーンの目線で作られていて、青春期特有のエモーションが込められているように思います。

アンソニー:僕にとっては、10代が人生の中で一番良い時期なんだよね。10代の頃は自由で、無邪気で、自分には何も起こらないから大丈夫っていう感じがした。無知だからこそ自分に自信が持てているし、将来への希望ももっていた。大人とは全く違う。だから、10代の時って、今とは違うことを体験できる時期だと思うんだ。10代の頃は、すべてが可能だと思える。だからこそ、あの時期は人生で一番マジカルな時期だと思えるんだよ。自分と自分の周りのすべてがベストに見える。夢ももっているし、すごく可能性に満ちた時期だよね。



―「夢」というのもそうですよね。M83のアルバムにはいつだってファンタジーの要素があったと思います。今回、このタイミングで「Fantasy」と名付けたのは、どういう意図があったのでしょう?

アンソニー:今回は、すごくシンプルで強いものを求めていたんだ。ファンタジーってすごく美しい世界でもあるしね。それに、この世界を作り出すことを可能にしてくれた全ての作品に敬意を表したい。僕は日本のアニメをたくさん見てきたんだ。80年代、フランスではテレビでたくさん日本の素晴らしいアニメの作品が放送されていたんだよ。それは、今の僕の音楽やアートに対するビジョンに大きな影響を与えている。例えば、松本零士の作品とかね。

―アニメといえば、リードシングル「Oceans Niagara」のMVで監督を務めたあなたの兄、ヤン・ゴンザレスさんはビデオの影響源の一つとして、日本のアニメにも言及していました。何か思い当たる作品はありますか?

アンソニー:『宇宙海賊キャプテンハーロック』と『銀河鉄道999』はたくさん観たね。あとは、寺沢武一の『コブラ』もだし、『エヴァンゲリオン』は10代の時には大きな存在だった。その時代のアニメって、現実的なことを語っていたと思うんだ。子供向けの内容でありながら、その中で死や暗いことについても語っている。そして、劇中の素晴らしい音楽の中でも、様々なことが語られていると思う。日本のアニメを幼い頃に体験することができたおかげで、視野を広げることができたんだ。



―「Oceans Niagara」はサウンドも歌詞も実にM83的ですね。どのようなテーマで作られたのでしょう?

アンソニー:歌詞で歌われているように、冒険をして、旅に出て、いろいろなことを経験し、時には想像力を働かせて夢を見続けよう、ということを歌っている。それから、「動くこと」というアイディアも背景にある。音楽を聴きながら走ったり、車を運転してどこかへいったり。動いている時、移動している時は、様々な風景をみることができるよね。この曲を聴いている時は、動くことによって感じられるエネルギーを感じることができるんだ。

過去との向き合い方、シューゲイザーとの出会い

―ニューアルバムを制作するにあたって、あなたは「バンドのフィーリング」を追求し、デモではなくジャムから曲作りを進めていったそうですね。具体的な制作プロセスについて教えてください。

アンソニー:今回は、ライブで演奏することができて、人々が僕たちの演奏を見ていて興奮できるようなアルバムを作りたかったんだ。前回のアルバム(2019年作『DSVII』)では、全て自分一人で作り始めたんだけど、今回はそれとは違った。ミュージシャンたちと直接的に感情を共有し、同じ言葉とビジョンを共有することで、素晴らしいグループの友情から生まれたパワフルな作品を作りたかったんだよね。

プロセスでいうと、まずは同じ部屋に集まりジャムをして素材を作り、それを僕が家に持ち帰り、そのパズルのピースをあとから組み立てていったんだ。アルバムというものは、常にミスやエラーがつきものだと思う。人工知能の影響が非常に強い今の時代、こういった作り方で作れば、作品がより人間的なものになるんじゃないかと思ったんだよね。アルバムを人間的なものにする、というのも重要だった。




―今作のプレスリリースで、『Before The Dawn Heals Us』に言及されていたのも印象的です。あのアルバムは改めてどこが気に入っていますか?

アンソニー:今回のアルバムを作るにあたって、あの頃の音に戻りたいという気持ちがあった。古いアルバムのサウンドを再現したいとまでは言わないけど、過去にやったことを全て消化しながら、リスナーにとって新しくエキサイティングなものを作りたいと思ったんだよね。だからこのアルバムは、古い作品が好きな人にも、『Junk』が好きな人にも、両方にアピールするような作品になっていると思うよ。


『Before The Dawn Heals Us』収録曲「Don't Save Us From The Flames」

―2011年の『Hurry Up We're Dreaming』と、ちょうど話に出た2016年の『Junk』は、それぞれキャリアの転機となった作品だと思います。あなたが今、どのように評価しているのか聞かせてもらえませんか? 

アンソニー:それを言葉にするのはすごく難しいな。どちらとも僕の人生の一部だけど、あまりどう思うかについて考えたことがないから。あえて言うなら、親しみやすい幽霊みたいな存在かも(笑)。過去からの親しみやすい幽霊(笑)。もちろん、その両作品のスタイルは大好きだよ。でも、自分の作品に関しては、作り終えたものについてはあまり振り返らず、前を向いて次に何があるのかを考えるのが好きなんだよね。過去の何かについて考えるのはそこまで好きではない。


『Hurry Up, We're Dreaming』収録曲「Midnight City」



―今回の『Fantasy』はシューゲイザーの要素が蘇っているのも大きなトピックだと思います。そもそもアンソニーさんは、そういった音楽とどのように出会い、なぜ自分の表現に取り入れようと思ったのでしょう?

アンソニー:シューゲイザーが好きになったのは若い頃。12歳くらいの時に兄からマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのカセットを渡されて、その音に一瞬で惹かれたんだ。すごく新しくて、クリエイティブで、ドリーミーでありながら同時にパワフルでもあったから。プロダクションはすごく難しいのに、それを感じさせない美しさも素晴らしい。スロウダイヴもそうだよね。

そういったシューゲイザーの魅力を、もちろん自分の音楽にも取り入れたいと思っている。でも僕の音楽にはシューゲイザーだけでなく、80年代のポップの要素や、80年代のサウンドトラックからの影響も含まれていると思う。影響を受けた音楽がたくさんブレンドされているからね。

―『Fantasy』におけるハイライトの一つ「Earth To Sea」の歌詞は、"May all of me Be forgotten"(僕のすべてが忘れ去られますように)という一節で締め括られています。NMEによる最近のインタビューでも”I just want the world to forget about me”(僕はただ、この世界から忘れ去られた存在になりたい)という発言が載っていました。どちらも本心から出てきた言葉でしょうか?

アンソニー:僕はただ、自分の音楽だけが記憶されることを望んでいるんだ。僕自身のことは記憶されなくてもいい。最近はアーティストイメージのほうが大きく取り上げられたり、重要視されたりする傾向が強くなっているけど、アートにおいてより重要なのは、その人のプライバシーではなく、芸術と音楽そのものだと思っているからね。家族や友達にはもちろん僕のことを覚えていてほしい。でも、自分が知らない人々には、僕自身ではなくて僕の音楽のことを覚えていてほしいんだ。

―逆に音楽やアートにまつわることで、今では忘れ去られつつあるけど、みんなに思い出してほしいことは何かありますか?

アンソニー:今の社会では、毎日たくさんの新しい音楽がリリースされて、たくさんのコンテンツで溢れかえっている。その膨大なコンテンツの中で、僕たちは迷子になってしまっているよね。だから僕は、昔の音楽を聴いたり、古い映画を観たりするようになっている。現代のコンテンツも、僕の頭のなかに少しは入り込んでいるけれど、数が多すぎて、全てを把握するのがすごく難しいんだよね。昔の素晴らしい作品に注目してみるのもいいと思うよ。



―このあと『Fantasy』のツアーも始まりますよね。ライブセットはどのようなものになりそうですか? 

アンソニー:昔のアルバムの曲はもちろん、『Fantasy』からもたくさん演奏したいと思ってる。あとはユニークなショーにするべく、最高のバンドを迎えている。ギターとシンセをたくさん起用した、6人組のバンドになる予定なんだ。すごくクールなショーになると思うから、めちゃくちゃワクワクしてる。

―日本でのライブも期待しています。今日はありがとうございました。

アンソニー:ありがとう!



M83
『Fantasy』
発売中
再生・購入:https://virginmusic.lnk.to/M_Fantasy
日本公式ページ:https://www.virginmusic.jp/m83/

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