Summer Eye夏目知幸が語る人生の再出発、シャムキャッツ解散から『大吉』までの日々
Rolling Stone Japan / 2023年3月29日 18時0分
「くだらない。結構かっこいい。軽めだ」ーー本名を英語にした新名義をひらめいたとき、夏目知幸はそう思った。シャムキャッツ解散後、ビンテージ電子楽器やプログラミングを駆使した完全DIYでの制作をスタート。2021年12月のソロデビュー以来、独創的な楽曲を送り出してきた彼が、渾身の1stアルバム『大吉』を完成させた。ポジティブ&ダンサブルな新境地を開拓している夏目だが、ここまでの道のりは苦難の連続だったという。Summer Eye名義での初インタビューをお届けする。
くたびれた男のポジティブな歌
―どうですか、今の心境は。
夏目:ソロのアルバムが出るって話をするとみんな喜んでくれるから、明るい気持ちでいれてる。それとこの間、渋谷から新代田までなんとなく歩いたの。で、えるえふる(レコード店を併設した立ち飲み居酒屋)を通ったら、MUSIC FROM THE MARSの藤井(友信)さんやLOSTAGEの五味(岳久)さんとかがいて奢ってもらったんだけど、その時に年齢を聞かれてさ。「夏目ももう37歳になったか」って感じでくるかと思ったら、「まだ40歳じゃないの? チクショウ、何でもできるじゃん!」みたいに扱ってもらえて。
―やさしい先輩(笑)。
夏目:そこでそういう話ができたのも自分が色々とやってきた結果だろうし、これからもやっていくしかないなって。何はともあれアルバムが完成して世に出すわけで、きっと何かポジティブなものに繋がっていくんだろうなっていうマインドが今はセットされている。
―でも実際、仕切り直しのタイミングで年齢というのは意識した?
夏目:全く気にしていない自分もいるんだよね。勝手に数字が増えていってるだけで、考え方とかも根本的には変わってないと思うし。ただ、大学を出てから10年間バンドをやって、終わった時にはもう35歳だったわけ。だから、もう1回音楽をやるのかどうかっていうのはすごく考えた。
―そこまで?
夏目:うん。バンドが終わってとりあえず1年間はゆっくり考えようと思ってたんだけど、その時は音楽以外の仕事をする選択肢も普通にあった。ある程度は満足したというか、もちろん商業的な成功は得られなかった……と言ったらおかしいな。一応音楽だけで食ってはいたから。
―大成功でしょう、あんなに愛されたんだし。
夏目:バンドがやりたくてさ、始めるじゃん? で、バンドが持つプリミティブな輝きみたいなものは体験できた。それに、俺にとってライブで一番大事なのは、大きい会場に何人入れるかじゃなくて、「今後の人生が変わるかも」みたいな体験ってあったりするじゃん? 自分たちの演奏によって、そういう夜をいくつもギブすることができた。しかも、日本だけじゃなくて海外で、言葉が通じなくてもそういったことができる実感も得られた。そういう意味では、テッペンを見たような感覚はあったの。「次はどうしよう?」となった時に、やり足りないことはなかったと言えばなかったんだよね。でも、それだと困るじゃん? 長いんだよ、人生はまだ。
―本当にね。
夏目:「この先まだ結構あるな、じゃあ何する?」となって、ゆっくり考えたんだけど……考えれば考えるほど淘汰されていくんだよね。自分のやりたいこと、やれることが。そもそもバンドを選んだのも、自分が選んだというよりも、それしかなかったんだろうなってことに気づいて。じゃあもう一回、今度は自分だけでやってみようと。
Photo by Yoko Kusano
―ソロになってからホームページで日記をつけてるよね。遡ると一番初めは2021年3月24日で、「10年やったバンドが去年終わって、それからちょっと休んだ。音楽のことは一旦あまり考えられなかったから、他のことをやりながら生活した」と書いてあった。
夏目:日記を書き始めた時が精神的にはスタート、何かをやらなければと思ったスタートだった。それまではシンプルに疲れていた。自分がやってきたことにも疲れていたし、どういう音楽が好きだったかも忘れかけていた。だから休んだっていう感じかな。
―シャムキャッツの解散発表が2020年6月30日だったから、約8カ月後の再出発だったと。その頃にはすでに、Summer Eyeとしてのコンセプトもぼんやり見えていた?
夏目:今のサウンドとか、概念としては思いついていたかも。Summer Eyeでやっているのは、改めて自分が好きなことや言いたいことを整理して、それらをシンプルにまとめた感じというか。逆説的に言うと、「やりたくないこと」をいかにやらないようにするか。例えば、普通の8ビートはもうやりたくないとか。フォークはもうやりたくない、でも歌いたいとか。あと、日本のライブは発表会みたいになっちゃってる気がして、「演者をお客さんが観てる」みたいな空気はもう作りたくないとか。そうやって点在していたものが、だんだん沈殿してきてまとまるのに1年近くかかった。
―そこの落とし所を見つけるのは時間がかかりそう。
夏目:かかったね。言葉ではイメージできてたの。リズムマシンを使ってドラムを鳴らして、メジャーでもマイナーでもないコード感で、くたびれた男がポジティブなことを歌うーーもう一度動き始めた時に、こういう感じだろうなっていうのは浮かんでた。でも具体的な形になるまで、そこからかなり時間がかかった。
―「くたびれた男」っていうのはいいね。実人生に基づく部分がもちろん大きいんだろうけど、今の世の中にそういう音楽は見当たらないから。
夏目:「とほほ……」みたいな感情というか。そういう歌があってもいいと思うし、なんか社会的なことって言いたくないんだよね。「もう俺には社会のことがわからん!」と思ったことが、Summer Eyeをやり始めたきっかけでもあって。
―というと?
夏目:バンドをやってた時は、なんとなく自分の中に「社会は今こういうふうに動いている」っていう想定があって、それに対して音楽で批評めいたものを出していくっていうスタイルで曲を作ったり、バンドを動かしていたと思う。でも、それは4人という集団だったからバランスが取れていたのであって、1人になったら世の中っていうものが全くわからなくなった。自分もただの参加者の1人でしかないっていうか。だったらもう、とにかく自分のことを歌えばいいじゃないかってテンションになって。
特に、ヘテロセクシュアルの男性が今言えることってあんまりないんだよ。これまでの社会はそれでずっとポップスとか作られてきたけど、もう残ってないわけ。だから、そのテンションで俺に歌えることはもうないんだよね。
―シャムキャッツ解散発表の直後にインタビューした時も、「とにかく男性は一度、何も言えなくなるまでコテンパンにやられた方がいい」と言ってたよね。
夏目:そうそう。だから俺にできることはただ一つ。そのコテンパンにやられて疲れた男が、それでも何かを信じている様を見せたいんだよね。その先も生きていかないといけないわけだから。
再出発は「うまくやろうとするな」
―DIYっていうのも、Summer Eyeにおいては重要なわけだよね。さっきの「とほほ」感やDIYは、「ショボいからこそかっこいい」みたいにロークオリティの言い訳になりがちだけど、そうはなってないのも流石だなと。
夏目:そこは超考えた。宅録によるDIYを選んだのは、予算がないとか、他者と絡みたくないとかじゃなくて、色が濃いものを作りたかったから。せっかく1人でやるなら、作家性の強いものじゃないと意味がないと思って。なおかつ、貧乏くさいものにはしたくなかった。俺が弾き語りをやめたのは、1人でギターを持って、自分が思いついたメロディを歌うのが、どこか貧乏くさく感じたからなんだよね。
あとはシンプルに、自分がここ5〜6年よく聴いていて、現場でも触れてきたクラブミュージックからの影響が大きくて。半年近く休んでいる間にMixmagとかBoiler Room、Resident Advisorといったチャンネルで作り方を学んでたの。10分間でトラックメイクする動画とか見ながら「なるほど、こうやるのか」って。さっきも話したように、自分の音楽を発表会みたいにしたくなくて、みんなの身体を動かすものを作りたかったんだよね。
―そもそもクラブミュージックにハマったきっかけは?
夏目:2016〜2017年、『Friends Again』(シャムキャッツの4thアルバム)を出す前くらいからもう疲れ始めていて。
―ちょうどバンドが独立して、自主レーベルを立ち上げた頃だ。
夏目:インディでバンドをやっていると、次から次へと曲を作ってライブをして、っていうのが休みなく続くんですよ。そうなると、楽しい場所だったはずのライブハウスが仕事場みたいに思えてきて。いざ遊びに行っても知ってる顔ばかりだし、いい話も悪い話もいっぱい聞こえてきて……そういう人間関係にも疲れちゃった。でも音楽は好きなわけ。それで、裸の気持ちで音楽に触れられる場所を探したら、クラブに行き着いたんだよね。海外の好きなDJが来たらチケットを買って、1人で暗闇のなか朝まで過ごして帰るみたいな(笑)。
だからクラブミュージックにハマったというよりは、クラブという現場とそこで体験できる喜び、精神的に肉体的にもポジティブになれる感覚に惹かれていった感じ。本を正せば、俺は中南米研究会っていう早稲田大学のジャマイカ音楽サークルにいたから、そういう踊る音楽も好きで。それにずっと救われてたんだよね。
Photo by Yoko Kusano
―そこから自分でもアナログシンセとか買い始めたわけだよね。どういうふうに機材を揃えていったの?
夏目:ネットで「how to make house kick」とか検索して(笑)。そこで紹介されてる機材を買って「たぶん、こういうことかな?」みたいな。いっぱいミスったよ。imaiさん(group_inou)が使ってるKORGのelectribeも試したけど、なんか違うなとか。自分に合うものと出会うまで、買っては売ってを何回か繰り返して。最初は安い機材で遊ぶところから始めたけど、やっぱり難しくて。
―いきなりはできないよね。
夏目:できない! それでも毎日DAWソフトに触るようにして、試しては間違えてを繰り返しているうちに少しずつ掴めてきた。それでも、曲を作り始めると全くうまくいかなくて。1stシングル「人生」を6月くらいから作り始めて、8月に「これだったらいける!」と思ったら、仕上げるまでにもう一山あって……最初の一曲を作るのに半年くらいかかった。
―どこが難しかった?
夏目:トラックはいくつも出来上がっていたんだけど、フロウというか、どういう言葉をどういうメロディに乗せるのかだけが、ずーっと何も思いつかなかった。歌いたいこと、歌うべきことが俺には本当にない。だから困ったなと。そこからは大喜利が続いたんだけど……本当に、自分が面白がれるかどうかなんだよね。それである日、居酒屋のトイレに入ったら、親父の格言みたいなのが貼ってあってさ。
―「義理は欠くな/大酒は呑むな」みたいなやつね(笑)。
夏目:それを見た時に、「歌詞ってこんなものでいいんじゃないか?」と思って。酔っ払いのおっちゃんがくだを巻く姿の真実味ってあるじゃん? 「また言ってるよ」と煙たがられるんだけど、その言葉に食らうこともあるよな、これなら俺にも言えるかもと思って。じゃあ、今の自分が一番食らう言葉はなんだろう……「うまくやろうとするな」だな、みたいな(笑)。これを歌詞の最初に持ってこようって。だから「人生」ってタイトルだけど、この曲はくたびれた酔っ払いの戯言だね。
―自分に言い聞かせるような歌詞でもあるわけだよね、”いつだってやり直せる”って。
夏目:元マネージャーの山口さんに聴かせたら、「夏目知幸の新しい章がこれから始まるよっていう曲だね」と言われたね。あとはちょうど『スパイダーマン スパイダーバース』を観たあとで、マーベル作品は「飛び込め!」ってメッセージがよく出てくるんだよね。考えてからやるんじゃなくて、やってから考えないと物事は進まないっていう。それを日本語に置き換えるなら「飲まれろ」かなと。で、TB-303(アシッドハウスの象徴となったベースシンセ)の音を入れたいし、酩酊感があるし、波がずっと押し寄せるし……そうやってパーツが揃った時に、やっとできるぞって思った。
―サウンドのほうも酔っ払い。
夏目:そう、完全に飲まれてる(笑)。
「失敗」のトラウマを浄化するために
―「人生」が最初に出た時は、まだ宅録ゆえのチープさも若干感じた。でも、そこから新曲が出るたびにプロダクションが向上していくんだよね。その成長過程もこのアルバムには詰まっている。
夏目:本当にそう。「人生」は完成までに半年かかったけど、次の曲は3カ月、次の曲は2カ月くらいで作れるようになって……だんだんスパンが短くなり、同時にクオリティも上がって、それでようやくアルバムが作れた。
―ハウスやテクノだけではなく、いろんな要素が聴こえてくるアルバムだけど、自己流のサウンドメイクを模索するなかで特に参考になったのは?
夏目:本当に混ぜこぜなんだよね。曲のパーツごとにリファレンスがあって、特定の何かっぽくなるのを避けながら自分のサウンドを作っていったから。
例えばアルバム冒頭の「失敗」は、もっとテンポを抑えてキックを出したりベースをブリブリさせると典型的なテクノとかハウスっぽく作れると思うんだけど、あえてそこは低音薄めにして、バンドっぽくした方がSummer Eyeだろうな……みたいな判断をしていて。つまり、そういう判断に至る前段階には「何からしくなるための」リファレンスが膨大にあるんだけど、そこから先はリファレンスなしの世界に入っていって、後者の作業にすごく時間をかけているから、「一体どれを下地にしたと言うのが適切なのか?」っていうのが自分でもわからなくて。
―なるほど、面白い。
夏目:音のバランスやミックスという意味では、ファンキーなブラジリアンミュージックの影響がアルバムを通して大きい。「湾岸」って曲のベースラインは、80年代前後にジルベルト・ジルが出した有名な曲から拝借している。「甘橙」はうろ覚えだけど、たぶんレゲトンのビートが下地のはず。クラブに遊びに行っていい曲見つけた時は俺shazamするのね。それをプレイリストに入れておいて、溜まってきたら聴いて、そのなかで引っかかるビートなどがあったら自分でコピーしてみるの。そういう作業が元になってる。あとは、アーティストというよりはサウンドやフレーズそのものの故郷を求めていった感じかな。
―どういうこと?
夏目:「失敗」でいうと、曲の途中で入る(2:25〜)シンセのバッキングは90年代前後のUSガラージハウスから持ってきてるんだけど、それってちょっと小室哲哉っぽいフレーズだったりする。ノリとしてはアッパー。でもサウンドはJUNO-106でまるっこい優しい音にした。NewJeansのシンセの音いいなあと思って真似してみたんだけど、たぶん彼女らのリファレンスがそもそも俺のと近いんだと思う。
夏目:あと、間奏が終わったところで(2:55〜)ビートが抜けて、「ポロロン〜」ってピアノみたいな音が入るんだけど、そこはローリング・ストーンズの「Ruby Tuesday」みたいなイメージ。直接似ているわけではないけど、「あの匂いや切なさを出したい!」と思ってアレンジをしてるから、あの音の故郷はストーンズにある、みたいな。ちなみに、その前のギターソロ(2:40〜)は思いっきりアズテック・カメラだね。サビのパーカッションはサンバのリズムを崩して入れてる。”確かなことは何もない”っていう言葉が明るく響くといいなと思って。
―「失敗」はSummer Eyeにとってのブレイクスルーというか、文句なしのアンセム。
夏目:この曲は自分なりにストレートな形で、バンドが解散したことについて歌っていて。
―先行リリースした時のインスタライブでは「恋愛に失敗した男女をモチーフに作った曲」と説明したそうだけど。
夏目:最初から本当のことを言うのは、ちょっと恥ずかしかったんだよね(笑)。
―でも、絶対そうだと思った。”真っ赤な砂の渚”という歌詞も、シャムキャッツの代表曲「渚」から来てるんだろうし。
夏目:そうそう、親切ですよ(笑)。俺としてはバンドが失敗して、なんなら迷惑をかけたかもしれないって気持ちもあるわけ。20代の若いうちから30代の半ばまでみんなの人生をバンドに費やして。きっかけは俺だけが作ったわけじゃないし、みんなの責任で始めて、自分たちで終わらせたわけだけど、それでも言い出しっぺとしては、一度しかない貴重な人生を狂わせちゃったんじゃないかなって……。
―そこまで考えたんだ。
夏目:うん、去年の3月くらいに。それで鬱状態みたいになっちゃった。夜中に涙が止まらなくなったりしてさ。その時に生まれて初めて「俺って間違ったのかもしれない」と思ったんだよね。自分の人生に対してもそうだし……マジかよって話だけど、他人の年収とか一般的な稼ぎとかさ、それまで一度も気にしたことなかったのに調べたりとかさ。「同級生は役職に就いて、今はいくらぐらい貰ってんだろうな」って。そういうのを見始めたら、「本当にこれでよかったのかな?」って思っちゃったんだよ。震えるくらい怖くなって、もう取り返しつかないな……みたいな。その時は今一緒にやってる仲間たちが話を聞いて助けてくれたわけだけど、そんなふうに考えたことが引っかかってて。それを浄化するには「お前についてきて失敗だった」と言われる曲を作らないといけなかったんだよね。
―そんな背景をもつ曲が、断トツでアップリフティングなんだからね。フルートまで入ってる。
夏目:そうでもしなきゃやってらんないよ!(笑)
葛藤の果てに掴み取った「大吉」
―「求婚」はレゲトンのリズムを取り入れているのも、夏目知幸が結婚について歌っているのも新鮮な感じ。
夏目:ビートの下地は、一時期ハマってたDJパイソン。彼は自分の音楽をディープ・レゲトンと呼んでいて、(音の質感が)クールなんだよね。俺はそこにボサノヴァのコード進行を入れたからビートは温かくなったけど、大元の発想はそこからで。
―歌詞については?
夏目:この曲も先に進むきっかけとして結構大きかった。”結婚しようよ”っていう歌詞がストレートに言えたことで、結構スッキリしたんだよね。
結婚について歌うって今の時代難しいじゃん? もっと言うなら俺自身が「結婚なんていう制度アホじゃない?」って思ってるタイプなわけ。人間的なつながりがあるなら、ハンコとか押さなくても一緒にいればいいし、勝手にすりゃいいじゃんっていう。でも、お金や言葉って、本当はないけどみんなが信じているから「ある」ことになってるでしょ。それと同じで、もし結婚っていうものがあるんだとしたら、一旦それに賭けてみるっていう楽しみ方もあるじゃん。で、そういう楽しみ方は誰にも開かれてるべきだと思うよね。
―婚姻制度に疑問を持つのとは別に、”結婚しようよ”ってのはハッピーワードだからね。吉田拓郎の特許ではないし。
夏目:そう、俺だって歌うよ!(笑)
―「白鯨」のダブとヒップホップっぽいビートが交わった感じもよかった。この曲はWOWOWドラマ「ながたんと⻘と -いちかの料理帖-」主題歌とのことだけど。
夏目:監督の松本壮史くんからオファーをもらったとき、The 1975の「Sincerity Is Scary」がリファレンスとして挙がって。それで、%Cくん(TOSHIKI HAYASHI)というトラックメイカーに「このくらいのBPMでビートを組んでほしい」と依頼して、そこに肉付けしていったという。
―ダブの要素については……イントロのピアニカで確信したけど、これはプライマル・スクリームの「Star」だよね?
夏目:そうです(笑)。ビートが届いて曲を作っていくなかで、共同制作者の一人であるライターの田中亮太が「ここは『Vanishing Point』に寄せるべき!」とストレートに言ってきて。去年、ソニックマニアでプライマル・スクリームを観たり、ボビー・ギレスピーの自伝を読んだりしたのもあったし、俺たち2人ともチルな雰囲気は好きで「『Star』最高だよね!」っていう話も常々してたの。そんなところに「これは入れられるぞ!」ってタイミングが来たので、存分に入れてみようと。
―『Screamadelica』もいいけど、『Vanishing Point』がやっぱり最高だよね。
夏目:絶対にそう。それでやってみて、いい曲ができたね。
―あとはさっきジルベルト・ジルの名前が挙がったけど、クラブミュージックと同じくらい、ブラジル音楽のエッセンスを感じたんだよね。その辺はどう?
夏目:バンドが終わって1年くらい経った時の自分……嬉しくも悲しくもない、楽しくはないけどつまらなくもない。このままでいい気もするし、もうちょっとやる気を出した方がいいような気もする。色んな感情がフラットに全部ある。これらの感情を歌詞にしようにも、凸凹がなさすぎると思って。じゃあ、この凸凹のなさを表現できる音楽ってなんだろうと考えた時、それはフォークじゃないんだよね。CやGみたいなコードのシンプルさに、俺の気持ちの抑揚を託すことはできない。
それで暇だったからギターの練習をしようと思って、生前のジョアン・ジルベルトが東京国際フォーラムで演奏した世界唯一の公式ライブ映像っていうDVDを買ったの。そしたらもう半端なくて。どうなってるか知りたいし練習するでしょ。「ムズっ!」みたいな。単純な繰り返しのようだけど、ルートが違ったりテンションがかかったり、そういうのが綿密に組み合わさりながら聴きやすいポップスになっていて。宇宙が出来上がってるわけ。
これを再現するのは無理だけど、この襞(ひだ)の多さみたいなのを参考にすることで、「くたびれた男がくだを巻いて何か真実めいたことを言っている」音楽ができるかもしれないと思ったんだよね。
―ブラジル音楽には「サウダージ」という情感が込められているというけど、Summer Eyeの方向性とも相性がよさそうだよね。
夏目:そう、まさしくそれも考えた! 日本語にすると「望郷」とか「哀愁」になるんだろうけど、そこまで乾いてないというか、湿り気や色気みたいなものもあると思う。だから俺は、いつまで経っても「いやー、あのコえっちだったなー」って思い返しちゃうことをサウダージって言うんじゃないかと思っていて。
―とほほ(笑)。
夏目:そこにはウキウキも、哀しみも、故郷の匂いみたいなものも含まれてるわけで。いかにもくたびれたおっさんが言いそうだし(笑)。だから、Summer Eyeのコンセプトの根底には「あのコえっちだったなー」という感覚がある(笑)。
―今言ったようなことが、アルバム最後のタイトル曲「大吉」でラッキースケベを振り返るくだりに集約されているわけね(笑)。『大吉』っていう名前の作品が、これだけハードな時代に発表されるのも素敵だなって。
夏目:トラックが一通りできて、あとは歌を入れるだけとなった時に、なんか景気のいい曲になりそうだし、これがタイトル曲になるだろうなっていう予感がしたのね。それで、とびきり縁起のいいタイトルを考えようと思って新宿の珈琲タイムスに入ったら、お行儀の悪い喫茶店になっちゃってて。どこぞの若者たちがたむろして、店に入ってくる姉ちゃんを見て「あいつTikTokで繋がったことあるわ」みたいな話をしてるわけ。本当に下品でさ、中学生の頃に感じるような心のイヤな部分、人が人をいじめる時のマインドみたいなのがわいてきたんだよね。
でも……それでも、やっぱりみんな幸せだといいなと思い直して。「俺もお前もグッドラック、この先が明るいといいね」っていうマインドに切り替わったわけ。それで「グッドラック」という言葉を日本語にしようと思って……「君に幸あれ」も違うし、じゃあ「大吉」かなって。
―Summer Eyeのコンセプト的に、締めの言葉で「グッドラック」は100点じゃない? くたびれたおっさんに言えるかっこいい台詞のNo.1だと思う。
夏目:そうだね。世の中にはいろんな人がいて、俺とは全然違う考えの人もいるし、わかんないことだらけで責任は取れないけど「大丈夫っしょ」みたいな。
―おみくじの「大吉」も、引いたからってそれだけで人生が劇的によくなるわけではない。そういう意味では無責任だけど、「いいことありそう」という気分はいいものだし、そこは音楽も一緒だよね。
夏目:本当にそう。やっぱり自分の曲を聴いて明るくなってほしいもん。
―”いいことばっかり起きたらどうしよう?/そしたら踊ろう いつでもどこでも”というのは一見シンプルだけど、音楽に救われたことがあるからこそ出てきた歌詞じゃないかな。
夏目:色んな音楽やカルチャーに救われてきたから恩返しがしたい……って言うと大げさなんだけど、自分が救われた感覚をシェアしたいんだよね。そういう意味でも、今までで一番自分のことを歌ったアルバムになったと思う。
Photo by Yoko Kusano
Summer Eye
『大吉』
再生・購入:https://virginmusic.lnk.to/Daikichi
Summer Eye 1st Album 「大吉」Release Party Ep1 "大安"
2023年4月6日(木)東日本橋 CITAN
open 18:00 close 23:00
Live;Summer Eye
DJ:Impossible Climbers【MINODA/川辺素(ミツメ)/Summer Eye】、Torei
詳細:https://summereye.peatix.com/
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