若者を殴打し銃を振り回したNBAスーパースター、さらなる揉め事を犯す前兆か? 米
Rolling Stone Japan / 2023年3月30日 6時50分
10代の若者を殴打する、Instagramのライブで銃を振り回すなど一連の騒動で、米NBAメンフィス・グリズリーズのスター選手ジャ・モラントの将来に赤信号が灯っている。
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2022年6月、Twitterで「悪ぶる」理由をと尋ねられたNBAスター選手のジャ・モラントは、そのユーザーにこう返した。「金持ちになっても俺は変わらねえんだよ。昔も、今も、この先も。ナメた口きくんじゃねえ」。中流階級で育ったモラントの生い立ちを知る人は、芝居がかっているというか、バスケットボール界の神童が過剰反応しているかのように感じた。彼は具体的に何を言わんとしているのか? 苦難の中で刷り込まれ、いまだ捨てきれずにいる「掟」への固執? それともイメージに対するこだわり? 何にせよ捨て去ってほしいものだ。なぜなら彼は今、暗黒面に一直線に進んでいるのだから。
3月4日、メンフィス・グリズリーズのスター選手はInstagramのライブで銃をちらつかせ、チームから当面外された。今回の一件は、世間を騒がせた出来事が相次いだ1年の最新事例でしかなく、飛ぶ鳥落とす勢いの23歳に対する世間の見方も変わりつつある。2022年7月6日、モラントは最大で2億3100万ドルにものぼる5年契約を更新し、グリズリーズのリーダーの座を確立した。それから3週間も経たないうちに問題が発生した。
今年1月にゴシップサイトTMZが報じたニュースによると、昨年7月26日にテネシー州のモラント宅で起きたとされる暴力沙汰をめぐり、17歳の少年が訴えを起こした。TMZが入手した裁判資料によると、草バスケの試合中に口論になり、少年が投げたボールが「偶然」モラントの顔に当たった。するとNBAスターは少年を何度も殴り、警察官によれば少年の頭に「大きなコブ」ができたという。
3月初めに掲載されたワシントンポスト紙の記事には、モラントが仲間たちと起こした暴力行為に関する2件の警察調について詳しく書かれている。1つめの調書には昨年7月にモラント宅で起きた騒動の詳細が綴られている。モラントは10代の少年(本人はモラントの元弟子だと主張)を「12~13回」殴り、家の中に入った後、「ズボンの腰に銃をのぞかせ、片手を銃にかけて現れた」とみられる。モラント本人は、少年が「家に火をつけてやる」と言ったため、自分や家族の身が「危ぶまれた」からだと供述している。
ワシントンポスト紙に掲載されたもうひとつの調書には、モラントと仲間たちがメンフィスのショッピングモールの警備主任と諍いになったとある。モラントは母親と口論になったと思しきFinish Lineの従業員と直接話をつけようとして、「9人ほどのグループ」とショッピングモールに押しかけた。モラント一行はショッピングモールの警備員を脅し、仲間の1人は警備員の頭を小突いたとみられる。いずれの件でも、逮捕者は出なかった。
インディアナ州インディアナポリスのゲインブリッジ・フィールドハウスで行われた対インディアナ・ペイサーズ戦で、ジェイレン・スミス選手の頭越しにダンクシュートを決めるジャ・モラント(DYLAN BUELL/GETTY)
この2件の後、1月29日にも騒動が起きた。インディアナ・ペイサーズの従業員がNBAに語った話では、モラントが載っていた車がペイサーズのチーム専用バスに赤いレーザー光線を照射し、「重大な危険」にさらしたという。バスに乗っていた2人の人物がジ・アトランティック紙の取材に応えている。「SUVからレーザーを照射したのが誰かは分からなかった。レーザーが銃に装着されたものかどうかも定かではなかったが、2人はおそらくそうだったと考えている。当時搬送エリアにいたペイサーズの警備員も、『あれは100%間違いなく銃だった』と発言している」
昨年5月、Twitterで「女々しい弱虫」呼ばわりされたモラントは、見ず知らずと思しきそのユーザーに「ホロー(殺傷能力の高いホローポイント弾か?)がどんなもんか思い知らせてやる」とコメントした(ユーザーはその後アカウントを削除した)。あまりの勢いに、グリズリーも介入してモラントを謹慎処分にせざるを得なかった。
モラントは3月4日に声明を発表。「昨夜の自分の行動について、全面的に非を認めます。家族やチームメイト、コーチ、ファン、協賛企業、メンフィス市、そしてグリズリー関係者の期待を裏切ってしまい、申し訳ございません。今後はしばらくチームを離れ、サポートを受けながら、ストレスや心身の健康に善処する方法を探っていきます」
モラントは仲間とつるんで危険な道を歩んでいる。彼の半生をつぶさに追いかけてきた人々は、理解に苦しんでいることだろう。モラントはサウスカロライナ州の小さな町ダルゼルで生まれ育った。ヨーロッパでバスケットボールの夢をあきらめた父親のティーは、専業主夫としてモラントの母親ジェイミーとともに息子の世話をした。父親は裏庭にバスケットコートをしつらえ、年中モラントをトレーニングして技の手ほどきをした。モラントは高校を出た後低賃金の仕事に従事し、最終的にマレー州立大学に入学。2年生の時には中流クラスの大学をNCAAトーナメント第2ラウンドに導いた。2019年にはNBAドラフト2位に選ばれ、たちまちリーグで一二を争う若手スターとして頭角を現すと、その年の新人賞を獲得。オールスター戦にも2度選ばれた。かのドライモンド・グリーン氏は超人的な運動能力を持つ彼を、コートの上で「チェスのような試合」を展開できる、もっとも頭が切れる選手の1人だと述べた。彼は悪い連中とつるむような人間ではなかった。
だが、今回の一件は単なる若気の至りではない。病んだ社会の現れだ。モラントはコートの上では見事だが、多くの若者が抱いている「タフガイ」のイメージを体現したい欲求に勝てなかったのではないだろうか。アメリカは組織的不平等の上に成り立っており、結果としてコミュニティには生き残りモードで暮らす人々があふれている。ネイサン・マッコールは自叙伝『Makes Me Wanna Holler: A Young Black Man in America(原題)』の中で1960年代にバーニジア州ポーツマスで育った青春時代のことを振り返り、近所の少年たちは聡明だとか、ユニークだとか、優しいとかよりも、相手を屈服させるためなら何でもする「クレイジーなニガー」と呼ばれたがっていた、と書いている。この呼び名について彼はこう定義している。「気性が荒く、老若男女問わず誰にも文句を言わせない人物。自分たちにとってクレイジーとは、白人が勇気を崇めるように、尊敬に値する美徳とみられていた。実際自分たちの考えでは、クレイジーと勇気は同じものだった」
カウボーイからマフィア、ギャングに至るまで、アメリカのポップカルチャーはアウトローな人物を美化する。大勢が思わず真似したくなる、根強いアメリカンストーリー。類まれな才能に恵まれ、家族のサポートやチャンス、そして富に囲まれたモラントのような人間でさえも抗うことはできない。その最たる例として思い浮かぶのが、元NBAプレイヤーのジャヴァリス・クリッテントンだ。高校時代は生徒会長も務めた優秀な生徒で、法律事務所で働き、学生団体Future Business Leaders of Americaにも所属していたクリッテントンは、ジョージア工科大学に入学。初年度でいきなり注目を浴びてNBA入りを果たしたが、悪い連中とつるむようになり、最終的にワシントン・ウィザーズ時代のチームメイトだったギルバート・アリーナスとロッカールームで発砲騒ぎを起こし、選手生活に幕を閉じた。2015年にはジュリアン・ジョーンズさん殺害の罪で懲役23年の刑をくらった。4児の母親だった22歳のジョーンズさんは、アトランタで強盗に遭ったクリッテントンが犯人めがけて発砲した弾に当たって死亡した。
ロッカールームの件で選手生命を棒に振ったアリーナスは、ワシントンポスト紙にこう書いている。「聞いた話では、奴はさらに荒んだそうだ……悪いことが起きて人生が変わると、心を入れ替え得る人間もいる。ジャヴァリスは違ったらしい――奴は”ワル”に磨きがかかり、ますますタブになった」
時に大金は歯止めにはならず、むしろ稼ぎ頭として権力をかきたてる。周囲に群がる太鼓もちや取り巻き連中が起こした面倒で、有名人がとばっちりを食う場合もある。元NBAスターのポール・ピアースは週末、モラントの肩を持つツィートを投稿した。「世間がジャをどう言おうが知ったこっちゃない。俺も一度刺された後、銃を持ち歩くようになった。世間は奴の状況を知りもしない。人生でどんな目に遭っているか知りもしないで、みんな好き勝手いいまくっている。要するに、金がある黒人は目の敵にされるって話さ」。
銃を所持していただけで犯罪者扱いする世論から、モラントを守ろうとする擁護派の気持ちも理解できる。だがモラントが他にも暴力沙汰を起こしてきたことをふまえると、「大騒ぎするほどのことじゃない」という理屈はまかり通らない。憲法修正第2条の問題では収まらない。モラントの動画が射撃場や狩猟中で撮影していたのであれば、何の問題もなかっただろう。だが10代の少年を殴り、Twitterでユーザーを脅し、「悪ぶっている」と言われれば「そうだ」と開き直り、ショッピングモールの警備員やペイサーズのチームと厄介事を起こし、クラブで上半身裸で銃を振りかざす動画を上げる。これらはさらなる揉め事の前兆とも受け止められる。ひょっとしたら今回の一件は彼にとって、人生を変えるような間違いを犯す前の警鐘として必要だったのかもしれない。
選手の暴力行為は、荒んだ人格形成期の副産物だと言えないこともない。だが、今回は当てはまりそうにない。ジャ・モラントはよるべのない「環境の産物」ではない。非は彼自身にある。ひとかどのNBS選手になったとか、名声に苦悩しているとかいうよりも根深い問題だ。彼と同じようにアイデンティティの危機を抱える全米の子どもたちは、ジャレン・ローズやシャノン・シャープからTVで励ましてもらえたりはしない。今回の一件は、この国が暴力を偏愛していることを如実に表している。とくに誰かを傷つける理由もない億万長者のスター選手ですら、公の場でギャングを気取るのだから。こうした人間を生む状況が一掃されれば、世の中ももっとましになるだろう。
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