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女子大生が自分のディープフェイクポルノを発見、犯人は罪に問われず 米

Rolling Stone Japan / 2023年3月29日 6時50分

DeepfakeポルノをテーマにしたSXSWドキュメンタリー『Another Body』のワンシーン(COURTESY OF ANOTHER BODY)

ディープフェイクで自分の顔をはめ込んだポルノ動画がネットに出回った経緯を突き止めた女子大生・テイラー・クラインさんを追った衝撃的なドキュメンタリー『Another Body』。ソフィ・コンプトンとルーベン・ハムリンが制作した同作品は、女性の同意なくディープフェイクポルノを作成する物騒な闇の世界を掘り下げている。

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テイラー・クラインさんは、知り合いにいそうなタイプの女性だ。エンジニア一家に生まれた数学が得意な工学部の学生。Facebookのフィードにはアイスクリームを食べる画像や勉強風景、大自然を楽しむ写真――他愛もない日常でいっぱいだ。母親の強い職業倫理をほめちぎり、学校のいいところを絶賛する動画からは彼女の人柄が伺える。「規則を破ったことは一度もないの。その後のことを考えるとものすごく怖くって」と彼女は説明する。「先生方も心配だったと思うわ、なにしろ中学生のころから大学のことを気にしてたんだから……12歳で、大学に入れるかどうか悩んでたのよ」。

大学4年生のある日、テイラーさんはFacebookで友人からメッセージを受け取った。「ごめんね、でもこれ見ておいた方がいいと思う」というメッセージの後に、Pornhubの動画のリンクが張ってあった。リンクをクリックすると、テイラーさんは驚愕した。自分と瓜二つの女性が、男性とセックスしている動画だった。ただし、実際にあった出来事ではない。テイラーさんの顔は、別の女性の身体に重ねられていた。ちょうどその頃、テイラーさんはInstagramで男性ユーザーからおかしなメッセージを受け取っていた。「最低女」呼ばわりされ、トーンもいつもより攻撃的だった。それで合点がいった。

「本当にもう……ポルノサイトで私を見つけた人たちがメッセージを送ってきてたんです。とにかく……最初は、自分の名前と顔が出ていたことがショックでした。学校や街の名前まで出ていたなんて、訳が分からない」と彼女は振り返る。「それによく見たら、動画は数千回も閲覧されていたんです」

テイラーさんは、SXSWでプレミア上映された警鐘を鳴らすドキュメンタリー『Another Body』の主人公だ。ソフィ・コンプトンとルーベン・ハムリンが制作したこの作品は、女性の同意なくディープフェイク・ポルノを作成する物騒な闇の世界を掘り下げている。専門家の推計によれば、インターネットに出回っているディープフェイクの90%がポルノ動画とみられている。

コンプトンとハムリンが制作したドキュメンタリーに出てくる「タイラー・クライン」は、被害者の実名ではない。動画に出てくる女性の顔も本物ではなく、俳優の顔をディープフェイクで重ねてある――わずかに残された被害者の匿名性を守るためだ。やがてタイラーさんはPornhubで自分のディープフェイク・ポルノ動画を「6~7本」と、xHamsterというアカウントに紐づいた動画を見つけた。動画はぞっとするコメントであふれかえり、タイラーさんは――すでに不安症と強迫性障害を患っていた――この中の誰かにつけ狙われるのではないかと考えた。

「いまだに自分の中で処理できずにいます。あまりにも混乱して、考えられない。まさにそういう状態です」 彼女は涙を浮かべながら語り、こう続けた。「ただもう感覚を麻痺させたかった」

「『なぜこんなことするの? 一体だれがこんなことするの?』と問い続けました」と本人。「誰かが私を罰しようとしているみたいな気分でした」

そこでタイラーさんは行動に出た。ドキュメンタリーには、彼女が地元警察に通報した時の録音音声が登場する。電話口の警察官は、具体的に何ができるか「確約はできない」が、折り返し電話すると告げた。数週間後、ようやく折り返しの電話があった。警察の話では、彼女の住む州には同意のないディープフェイクポルノを取り締まる法律がない以上、加害者にはああした行為をする権利があり、警察にはなすすべがないという。取り込まれているのが被害者の身体ではなく、顔だけなので、同意のないポルノを規制する法律にも該当しないというのだ。



別のディープフェイク動画が出てくると――今度の被害者は1学年の時にルーメイトだったジュリアさん(同じく仮名)――タイラーさんは彼女に連絡して警告し、こんな仕打ちをした張本人を一緒に突き止めることにした。だがあいにく、すんなりとはいかなかった。2人は男子100人に対して女子はたった4人という工学部の学生で、日ごろから男子学生からさんざん嫌がらせを受けていた。ちなみに男子のほとんどはインセル(非モテ童貞男子)だった。

2人が最初に疑ったのはボビー(仮名)だった。1学年からのクラスメートで、ある日突然山のような変態動画や「カルト風動画」をメインのSNSに挙げ始めていた。自分は「世紀末の神がテーマ」の「ある種のTVゲームの世界にいる」と思い込み、「人類に上から目線で話しかけていた」という(なかなかの逸材だ)。2人はさらに4chanを調べると、1人のユーザーがクラスの女子の画像をいくつも投稿していた。しかも女子全員が「マイク(仮名)」――同じく1学年の時からの友人――と知り合いだった。タイラーさんとジュリアさんもマイクと友達で、親しくしていた時期もあった。タイラーさんは1年生と2年生の時に同じ寮で生活し、最初のころは「大学生活を心地よくしてくれた」と語っている――彼がむちゃぶりするまでは。

「すごくいい友達だったのに、突然そうじゃなくなりました。基本的に、彼にとって私は専属セラピストのような存在だった。それで付き合いきれなくなったんです」とタイラーさんは振り返る。2人とも同じような経験をし、結局距離をおいた。「彼は私の話には聞く耳を持たず、自分の問題ばっかり話したがりました」とジュリアさんも言う。

そしてついに尻尾を掴んだ。1年生の時にジュリアさんがマイクと撮った写真を、先の4chanユーザーが投稿したのだ。その頃タイラーさんも4chanで、マイクと疎遠になった時期に作成された自分のディープフェイクポルノを発見した。

「たぶん彼は、私たちから関心や支援を受ける権利があると感じていたのかもしれません。私たちが壁を作ったために、復讐心に火が付いたんでしょう」とタイラーさんは分析し、こう付け加えた。「彼の頭の中では、自分を”不当に扱った”私たちへの仕返しのつもりなんだと思います」

タイラーさんはマイクの4chanと同じハンドルネームを、ディープフェイクポルノで有名なMrDeepFake.comというサイトで見つけた。ちなみにサイトのロゴには、何を隠そうドナルド・トランプ氏の顔が使われている。このハンドルネームが作成した大量のディープフェイクポルノには、460万人の購読者をかかえるユーチューバーGibi ASMRのものもあった。マイクのディープフェイクポルノのアカウントは100万回以上も閲覧され、132本のディープフェイクポルノが投稿されていた。

「ごくごく身近なレベルの知人だったなんて――彼が私たちも知らない裏の顔を持っていたなんて、とても信じられません」とタイラーさん。

タイラーさんとジュリアさんはGibi ASMRに連絡し、状況を説明した。コンテンツクリエイターはただちに自身のSNSに動画を投稿し、胸糞悪いディープフェイクポルノの風潮を糾弾し、責任追及を求めた。投稿はたちまち拡散した。



一方その頃、女子大生2人は警察を説得してマイクの家に向かわせた。何度か軽くたしなめた後――ディープフェイクポルノについてマイクは否定も肯定もしなかったが、二度とこういうことはしないと謝罪した――それで事件は幕を閉じた。

もちろん、タイラーさんにとっては終わりではなかった。

「彼は今でも私の友達全員と仲良しです。辛いのは、みんなに何も言えないこと。友達の1人に打ち明けたら、彼が犯人だと信じてくれませんでした」とタイラーさんは言い、さらにこう続けた。「警察が何もしてくれないので、私が彼を悪く言っているみたいな感じがします……みんなに嫌われたり、みんなを敵に回すようなことになるんじゃないかとビクビクしています。本来なら彼が負うべき責任を、私が全部しょい込んでるみたいな気分です」。

タイラーさんは結局、友人グループと距離を置かなくてはならなくなった。彼女の物語はその他大勢の女性たちにも共通する。Twitchの人気者QTCinderellaもその1人だ。ニューヨークポスト紙の報道によると、彼女は2月、涙ながらの動画でディープフェイクポルノの攻撃を受けたと告発し、「他の女性Twitchユーザーを使った偽動画2本を購入して、ディープフェイクポルノのサイトでトラフィックを稼いだ」ストリーマー仲間のAtriocを非難した(Atriocはその後、謝罪動画を公開した)。

「標的にされた人はネットの世界にいられなくなる。人生の窓が閉じられてしまうんです」と、マイアミ大学法学部のマリーアン・フランクス教授は『Another Body』の中でこう説明する。「この手のディープフェイクには懲罰的効果があります。成功することもできない、ジャーナリストの世界にも、政界にも入れない。背筋も凍るようなおそろしい効果です」 。しかもこうした犯罪の加害者は、ほとんどお咎めを受けずに済んでいる。

「今回、実質的にまんまと逃げおおせたので」とタイラーさんは言う。「マイクはきっとこの先も、周りの女性たちに同じことを繰り返すと思います」。

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from Rolling Stone US

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